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3話

last update Date de publication: 2026-07-02 15:17:48

 ――(…………これからどしよ)

 東条は丸まりながら一人考える。

 数秒考えてから、別段纏まるはずもなくごそごそと携帯を取り出した。

 SNSやネットニュースは、どこも謎のドブ球と溢れ出てきた化け物の話題で持ちきりだ。

 あのドブ球は全国各地に現れていた。一部では既に自衛隊が派遣され、戦闘が行われているようだ。

 親から着信があったことを思い出し、生存のメールを送る。

 『隠れてる電話できないしてくるな』

 返信はすぐに来た。

 『あんた今どこにいるの』

 『池袋』

 『そっちはどう?安全?』

 『安全ではない』

『私たちの区域は何も起きなかったみたいだから大丈夫だけどニュース見たら大変なことになってるよ。連絡つかないからお父さんが車で飛び出していった

 (――っ)

 けど区ごとに厳戒態勢が引かれてるらしくて追い返されてきたところ。

 (――)

 余裕ができたら連絡しなさい、自衛隊も出てるみたいだから助けが来るまでなるべく動かないで、あと、

 絶対に死ぬなよ』

 親からの心配とエールに、万感の意を込めて返信をする。

『うぃ』

 一息ついて、携帯をポケットにしまう。

「…………死ぬかよ」

 彼は誰にも聞こえないように、されど決意を込めて、己に言い聞かせた。

 ――隠れてから三十分が経過した。

 未だ外から物音は聞こえてこない。そろそろ来てもおかしくないはずだが……、

 そう思うが、一つ考え得ることがあった。

この階の途中にある八階はレストラン街だ。化物どもがそこで食料を貪り食ってても不思議はない。

 東条は大した情報もない画面を、自堕落にスクロールする。確証のない推測も、無駄に使うスマホも、余計なエネルギーを浪費するだけだ。

 小さな住処にも慣れてきた。

彼は再びスマホの電源を落とし、真っ暗の中目を瞑った。

 ――――あれから何分経ったのか、ふ、と自分のものではない、微かな呼吸音で目が覚める。

「?……っ」

 理解するのに一拍を要したが、東条は自分の置かれた状況を思い出す。

そして、焦らず、耳を澄ます。

「はぁッはぁッはぁッ……っんぐっはあっ……はぁっはあっ――」

 押し殺すように浅い呼吸を繰り返している。

 (……人?……男か?)

 どうやら声の主は人間のようだ。

 東条か緊張に強張った身体を弛緩させようとした、

その時、奇声と激しい足音が緩んだ意識の隙間を殴りつけた。

「「――ッ!?――――――――」」

 二人同時に息を潜める。

「ギャッギャッゲッ、グゲッ!!」「グガギャ、ギャッ」「ガギャッ!!」

 近づいてくるそれは、明らかに人のものではない。そして最悪なことに、複数。

 ペタペタと素足で歩くような音をさせながら近づいてくる。

 (……)

 声の近さと反響からして、トイレの中に入って来たのが分かった。

 東条は無意識にいっそう息を潜める。

 ゲギャゲギャと何か争うような口調、

 ――直後、連続した強打音が辺りの空気を打った。

「ヒッ!!?」(――っ)

 名も知らないその人が漏らしてしまった些細な、しかし致命的な怯えの音は、その人ではない何かに確信と愉悦を与えてしまった。

「ギャアッ!!ギャアッ!!ギャアッ!!ゲァァァ!!」

「うああああぁぁぁぁ!!来るなッ来るなッ!!」

 いっそう激しくなる強打音。もはや隠す気もない悲鳴。

 そのバランスが崩れるのは、早かった。

 ガキャッ 「あっ」

 金属質の鍵が壊れる音と気の抜けた声が重なり、さっきとは違う、鈍い音が連続して響く。

「グガギャッ!!」

「あがッやめッ……やめてッ……やめてくだッぐぶッ――」

「ゲガッ!!」「ギッ!!ギッ!!ギッ!!」

 ひとしきり殴り、うめき声しか聞こえなくなった頃、奴らは何か重いものを引きずる音と共に遠ざかっていった。

「――っはあっはあっ――」

 全身の力を抜いた東条は、今更自分が息を止めていたことに気付く。

酸素を欲する肺に、しかし慎重に、音が出ないよう、慎重に、慎重に、空気を送り込む。

 冷や汗が止めどなく溢れ、動悸が収まらない。

 もしかしたら聞こえてしまうのでは、と怖くなり、必死に抑えようとする。

 目と鼻の先で、自分の目と鼻の先で、人が『狩られた』。

 無慈悲に、抵抗も許されず、一匹の獲物として、狩られていった。

 次は自分の番かもしれない、たまたま見つからなかっただけかもしれない。あてのない恐怖が纏わりつく。

 それからしばらく、一ミリも態勢を変えず、彼はずっと外で続く打音に耳を澄ましていた。

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  • Real   3話

      ――(…………これからどしよ) 東条は丸まりながら一人考える。 数秒考えてから、別段纏まるはずもなくごそごそと携帯を取り出した。 SNSやネットニュースは、どこも謎のドブ球と溢れ出てきた化け物の話題で持ちきりだ。 あのドブ球は全国各地に現れていた。一部では既に自衛隊が派遣され、戦闘が行われているようだ。 親から着信があったことを思い出し、生存のメールを送る。 『隠れてる電話できないしてくるな』 返信はすぐに来た。 『あんた今どこにいるの』 『池袋』 『そっちはどう?安全?』 『安全ではない』『私たちの区域は何も起きなかったみたいだから大丈夫だけどニュース見たら大変なことになってるよ。連絡つかないからお父さんが車で飛び出していった (――っ) けど区ごとに厳戒態勢が引かれてるらしくて追い返されてきたところ。 (――) 余裕ができたら連絡しなさい、自衛隊も出てるみたいだから助けが来るまでなるべく動かないで、あと、 絶対に死ぬなよ』 親からの心配とエールに、万感の意を込めて返信をする。『うぃ』 一息ついて、携帯をポケットにしまう。「…………死ぬかよ」 彼は誰にも聞こえないように、されど決意を込めて、己に言い聞かせた。 ――隠れてから三十分が経過した。 未だ外から物音は聞こえてこない。そろそろ来てもおかしくないはずだが……、 そう思うが、一つ考え得ることがあった。この階の途中にある八階はレストラン街だ。化物どもがそこで食料を貪り食ってても不思議はない。 東条は大した情報もない画面を、自堕落にスクロールする。確証のない推測も、無駄に使うスマホも、余計なエネルギーを浪費するだけだ。 小さな住処にも慣れてきた。彼は再びスマホの電源を落とし、真っ暗の中目を瞑った。 ――――あれから何分経ったのか、ふ、と自分のものではない、微かな呼吸音で目が覚める。「?……っ」 理解するのに一拍を要したが、東条は自分の置かれた状況を思い出す。そして、焦らず、耳を澄ます。「はぁッはぁッはぁッ……っんぐっはあっ……はぁっはあっ――」 押し殺すように浅い呼吸を繰り返している。 (……人?……男か?) どうやら声の主は人間のようだ。 東条か緊張に強張った身体を弛緩させようとした、その時、奇声と激しい足音が緩んだ意識の隙間を

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       「――ッ!?」 東条は流れてくる獣の臭いと血の臭いで、一瞬硬直した脚を無理やり叩き起こす。即座に反転し、未だビビろうとする筋肉に発破をかけ全力で前に突っ走った。 幸い信号は青のまま、走り出してすぐ車に跳ね飛ばされることはない。 横断歩道の対岸の人達はまだまともに動けていない。 異形が生まれ落ちている光景は現在進行形で見えているはずだが、悲鳴が聞こえずらかった人もいるのか、「なんだあれ?」と非現実的な光景を処理しきれていない人の方が多い。「おいっ」 対岸についた際人にぶつかり文句を言われるが、彼は構わず突っ込みまっすぐ進む。 ここで些細なことを気にしたら必ず死ぬ。それだけは分かっていた。 現に対岸についた直後から、「グルㇽㇽぁぁあアアッ」「どちゅぅ」「ゲッゲッゲッ」「オオオォォォォオオ」「きゃあああぁぁぁあ」「ギィイィィィィ」「バシュッ」「ガアァァァァン‼」「ズッ」「ドちゃあッ」「ヒュルルルルル」「たすkッ」「ダァンッッ‼」「あっ」 後ろから咆哮やら悲鳴やら爆発音やら、その他の聞きたくない音が迫ってきている。(止まったら、死ぬッ‼) 東条は駅の入口に入り、下り階段を十数段飛ばしで二回連続飛び降りる。そして半分転びながらも地下についた。 地下では、地上で何かが起こっているのは分かるが、確認をするのはおっかないから、と留まって様子を見てる人が多かった。「っつー」   彼は痺れる足首に顔を顰める。少々痛むが、問題はない。  すぐに起き上がり、踏み込んだ。 視界の端には、外から追いやられて階段を下ってくる大群が見える。その中に紛れて人を襲っている四足獣らしきモノも。 鬼気迫る勢いで逃げてくる人間の波を見て、地下にいた者達も一斉に動き出した。 数メートル進んだところで不意に、 タタンッ と軽い音が東条の耳を打った。 構わず進もうとした矢先、階段で見た四足獣が飛び出してくる。  ……狼。体長は一メートル前後、体毛は灰色、目は黄土色で血走っている、そして何人殺してきたのか、牙と爪は血に濡れていた。 狼は鼻をひくつかせ周りを見回してから、近くの女性に襲いかかる。が、隣にいた男性が殴り飛ばし、そのまま取っ組み合いになった。 狼が出てきた場所は立ち入り禁止の外に繋がる上り階段だ。それを証明するかのように、たった今同じ所から新しい

  • Real   ~Beginning of the unreal〜

     鼻孔を撫でるのは雨に濡れた土の香り。 耳を通り抜けるのは吹き抜ける風の音色。 舌に薫るのは深緑の若葉が紡ぐ優しさ。 肌を刺激するのは穏やかな朝の静けさ。 目に映るのは、眼下に満ちる破壊の痕跡と、建物から不規則に顔を出す木々の歪さ。  ここは東京都にある池袋駅周辺、つい先日までは人で溢れかえり、喧騒に満ちていた場所である。 §「は~、」 夜空に昇る白い息を見届けてから、周りを見渡し、「……は~」 もう一度吐く。本人とて、そこに落胆が混じっていることに気付いている。 彼の名前は東条 桐将。どこにでもいるオタクの大学3年生である。 今日は、得も言われぬ敗北感を白く染める作業が捗る。なぜかって、本日の日付は十二月二十四日、クリスマスイヴだ。 目に入るのは、カップルカップルカップル鳩たまにホームレス。池袋駅東口を出た前には、豪華とは言い難いがしょぼくはないイルミネーションが飾られている。 この中では一番力を入れられたのであろうクリスマスツリーを見上げる人達を横目に、彼は駅に向かって歩いてゆく。 赤信号を前に、ポケットに手を突っ込み、ジャケットに口元までうずめて待っていると、不意に後方から呟く声が聞こえた。「……なんだあれ?」 誰が発したのかも分からないその声は、喧騒の中で不思議とよく通った。 彼は首を回し、 ――原因の物を見つけるのに時間はかからなかった。  周りの人間の全てが、『それ』を注視していたから。 『それ』はクリスマスツリーのちょうど星の部分に現れていた。 紫がかったドブ色の球体で、絶えず波打っている。 数秒ほど見ていると、周りが段々と騒さわがしくなりシャッターを切る音も目立ってきた。(……キモイな) 本来無かった物が無理矢理そこに収まろうとしてるような、言い知れない違和感と悍ましさを感じる。 さっさと立ち去ろうと、東条が青になった信号を渡るために足を踏み出 そうとした時                     どさっ 何かが落ちた。 と同時に一人の女性がフラッシュをたく。 直後、女性の首から鮮血が舞い、辺りに飛び散った。  ……ほんの一瞬だけ、時が白くなる。 「「「きゃあああああああッッッ‼」」」「どけっ‼」 「――っ‼」  そこからの行動に大した違いはなかった。一人

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