INICIAR SESIÓN『おはよう』 それは当たり前の言葉のはずなのに、私にとっては特別な想いが込められた合図だった。 高校2年生の朝倉陽菜は、幼馴染の瑞樹翠に長年恋心を抱いている。しかし、翠が交通事故で記憶を失い、陽菜の存在すら忘れてしまう。 さらに「翠の彼女」を名乗る少女が現れ、陽菜の心は揺れ動く。 支えてくれたのは、翠の双子の弟・蓮。彼と「お試し」で付き合い始めるが――。 すれ違う想い、叶えたい願い。 「おはよう」と笑い合える日々を取り戻すための、切なくて甘い青春恋愛ストーリー。
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この言葉で今日も一日が始まったと実感する。 私にとって習慣でもあり、おまじないでもあるこの言葉は、私を明るく、前向きにさせてくれる。 いつからだろうか。かつて私を照らしてくれたその言葉も、今では胸の奥に重く沈み、ただ痛みだけを残していく。 高校二年生の四月。最後までご覧いただき、本当にありがとうございました。 当初は十万字ほどで終える予定だったこの物語ですが、気づけば想像以上に長い作品となっていました。ここまで読み進めてくださった皆さまには、感謝の気持ちでいっぱいです。 初めての執筆ということもあり、書き方に悩んだり、思うように筆が進まなくなったりした時期もありました。それでも、応援の言葉に何度も背中を押していただき、最後まで書き切ることができました。本当にありがとうございました。 少しだけ、この物語についてお話しさせてください。 私はこの作品を書き始めた時、結末を決めていませんでした。大まかな流れだけを考え、あとは登場人物たちの感情に寄り添いながら書き進めていこうと思っていたからです。 ですが、物語を書いていくうちに、私はどの登場人物のことも大好きになっていました。だからこそ、何度も結末に悩みました。考えるたびに違う答えに辿り着くこともありました。 今回の結末は、その中の一つです。 もしかすると、読んでくださった皆さまの中には「別の結末が見たかった」と感じた方もいるかもしれません。でも、それもまた一つの答えなのだと思っています。 もしこの物語の続きを、あるいは別の未来を、皆さまが心の中で思い描いてくださるなら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。 そして、この作品に登場したキャラクターたちを少しでも好きになっていただけていたら幸いです。私にとって彼らは、いつの間にか我が子のように愛おしい存在になっていました。 長くなってしまいましたが、改めて、ここまで読んでくださったすべての方へ心から感謝を申し上げます。 また別の物語でお会いできることを願っています。
「何で蓮もいるの?」 翠は不満そうに唇を尖らせた。 私たちは学校終わりに駅前のカフェに来ていた。二人ではなく、三人で。「二人で行かせるわけないだろ」「独占欲強いと嫌われるよ?」 翠は目を細めて蓮に視線を向ける。蓮は余裕そうな笑みを浮かべていた。「まぁまぁ」 私は笑って翠と蓮の間に入る。いつもは大人っぽい翠が、何だか子どもみたいで思わず笑ってしまった。「翠にも子どもっぽいところあるんだね」「もう、陽菜まで……」 揶揄うような笑みを浮かべて、翠の肩をつつく。翠は苦笑を浮かべてため息をついた。「もういいや。早く注文しよう」 翠は諦めたように肩を落とし、店員を呼んだ。「待って! まだ決まってない」 私は焦ってメニュー表に目を向ける。翠がその様子を微笑んで見守っていた。店員がこちらに近づいてくる。焦る気持ちでメニューが頭に入ってこなかった。「えっとー……」 店員が目の前に来て、翠が注文をする。そこで不思議なことに気づいた。「あれ?」「どうしたの?」 そう。翠がたくさん注文をしていたのだ。「全種類頼んでみんなでシェアすればいいよ。蓮もいることだし」「そっか!」 翠の優しさに心が温かくなる。そこで蓮がクスッと笑った。「なに、蓮」「いや、お前ら親子みたいだよな」「なっ!」 私は頬を膨らませて言う。「また子ども扱いしたでしょ!」「ちげーよ」 蓮は少し顔を逸らした。そして肩を揺らしながら笑っている。「もう!」「可愛いからつい、からかっちゃうんでしょ?」「え」 翠の言葉に私は目を見開く。蓮を見ると恥ずかしそうに頬をかいていた。「まぁな」 私は照れて顔が赤くなる。両手で頬を包んだ。「嫌だったらやめるよ」 そう言って蓮が申し訳なさそうにこちらを見る。そんな表情を見て胸がチクッとした。「大丈夫! 嫌じゃない」「ほんとか?」「ほんと!」 顔をぐいっと近づけて否定する。蓮は目を見開いたがす
「おはよう、陽菜」「おはよー」 私は、毎朝翠と登校することにした。初めは蓮も一緒に行くと言っていたのだが、いつまでも図書委員の仕事をサボるのは良くないため、頑張って説得した。「眠いね」「本当だ。目が眠そう」 目を擦っている私を見て、隣で翠がクスッと笑う。翠はというと、全然眠そうではなく、何なら元気だ。「運動部だから違うのかな……」「何が?」 ハッと翠の方を見る。全部口に出てしまっていた。「運動部だから体が丈夫なのかなって」「あぁ、そういうことね」 あはは、とさっきよりも大きな声で笑うと、翠は自分の体を見た。私は恥ずかしくて顔を逸らす。 すると、グイッと思いっきり体を引かれた。「わぁ!」 私の左横をものすごいスピードで車が通る。車の風で髪が靡いた。「危なかった……」 隣で翠が安心したように、息をつく。「ごめん。ありがとう」「いえいえ」 翠が守ってくれていなかったらと考えると身震いをしてしまう。「ほら、こっちおいで」 そう言って道路とは反対側に私を移動させる。さりげない配慮に心が温かくなった。「そうだ」 翠は思い出したように、手をパチンと鳴らす。私は首を傾げた。「駅前のカフェ行こうよ」 その言葉に私の心はざわついた。あの日、翠が事故にあった日に行こうとしてたところだからだ。考えていると、左から翠に覗き込まれる。「ダメ?」「ダメじゃない!」 翠の潤んだ瞳のせいで勢いよく答えてしまった。翠はクスッと笑って微笑む。「じゃあ放課後行こっか」 ざわついていたはずの心も翠の笑顔一つで落ち着いてしまう。私はいつまでもこの笑顔を大切にしたいと思った。
私は目をこすりながら走って蓮のところに向かっていた。蓮は先ほどと同じ花壇の前にいた。花の前に立っている蓮はいつもよりも大人びて見えた。「蓮!」「陽菜?」 私は肩を上下しながら膝に手をつく。蓮は目を見開いていた。「早くないか?」「蓮に言いたいことがあって……」 私は大きく深呼吸をして呼吸を整える。私が話そうとすると、先に蓮が口を開いた。「あ……」 蓮は頬をかきながら視線を逸らす。私は不思議に思い首を傾げた。「俺、邪魔だよな。悪い」「え?」 何に対して謝っているのか分からなくてさらに首を傾げる。蓮は下唇を噛んでいた。「帰った方がいいよな。待ってるとか言ってごめん」「……」 焦ったようにどんどん言葉にする蓮を見て、私は一つの可能性に辿り着いた。「あのさ……」「あーそうだった。俺用事があるから帰らないと」 話そうとすると私の言葉を遮って蓮がつぶやく。蓮は帰ろうと荷物を準備し始めた。 ――やっぱりそうだ。 私は確信に至ると蓮の肩を掴んで、言葉をこぼした。「蓮聞いて、あのね」「……」 蓮はついに下を向いてしまった。きっとこの先の言葉を聞きたくないのだろう。珍しく蓮が動揺している。安心させるように、優しい声音で言葉を紡いだ。「蓮……」 蓮の肩がビクッと震える。私は蓮の肩に触れている手に力を入れた。一度深呼吸をして告げる。「私、翠とは付き合わないよ」「……え?」 蓮は顔を上げる。目を丸くし、何度か瞬きを繰り返した。私は優しく微笑む。「私の話聞いてくれる?」「……分かった」 そして、私たちは花壇の近くにあるベンチに並んで座った。どうやって話を切り込もうか迷っていると、蓮が言葉をこぼす。「なんで、付き合わなかったんだ?」「まず、翠と話したこと話してもいい?」「……あぁ」♢♢♢ 私はひとしきり翠の病室で泣いた。ベッドの横でしゃがんで目を擦っていると、翠がハンカチを差し出してくれる。「ごめん、翠……」 私は涙
今日から体育祭に向けてリレーの練習が始まったようだ。遅くなるから先に帰って良いと言われて、帰ろうと一人で下駄箱に向かう。 靴箱を開けると、久しぶりに丸められた紙が出てきた。大きなため息をついて無造作にそれを開く。目に入った文字に私は思わず声を出してしまった。 「え……」 以前は暴言だけだった紙にはっきりと「男たらし」と書かれている。 ――どういうことだろう? 私が話す男の人といえば
翌朝、扉を開けるといつも通り、二人が笑顔で私を出迎えた。「陽菜おはよう」「おはよう、陽菜」 先に蓮が私に挨拶をして、蓮の肩から顔を覗かせている翠がその後に続いた。いつも通りの翠に期待で胸を膨らませる。――そんな期待もすぐに弾かれることとなる。「陽菜、体調大丈夫?」「うん。昨日たくさん寝たから大丈夫だよ」「何かあったらすぐ言えよ」「ありがとう」 昨日、翠には体調が悪くて帰ると電話で伝えていた。翠も帰ると言ってくれたけれど、入院のこともあるし授業は出た方がいいと伝えると、渋々頷いてくれた。 胸を撫で下
海沿いを車で走って三十分のところにある旅館が今回宿泊する場所だ。二階建ての和風建築で、木造の茶色い床が私たちを出迎えてくれる。木特有の香りと温泉の匂いが混じり合って、自然豊かな香りが入り口から感じられた。 二階に上がり、適当に荷物を置いて窓に駆け寄る。窓から広い海を眺めることができた。窓を開けると潮の香りが風に乗って入り込んでくる。自然豊かな環境に心の奥から安らぐ気持ちが広がった。「海、綺麗に見えるよ!」「相変わらず楽しそうだな」 そう言いながら蓮は私の隣に立つ。先ほど見ていた時とは違い、夕陽に照らされ、海が琥珀色に輝いていた。「この海
今日も蓮と二人、同じ道を歩いて学校に向かう。最近は学校に行くのが少しだけ憂鬱だった。しかし蓮に悟られないように、いつも通りを装う。 下駄箱は男女で分けられており、女子の下駄箱の裏側が男子になっている。私は自分の下駄箱を開けて思わずため息をついた。 ――まただ。 丸められたプリントの切れ端や、悪口の書かれた白い紙。ここ数日、ゴミが入れられていたり教科書が隠されたりと小さな嫌がらせが続いている。原因はきっと、蓮との距離が近くなったことだ。 元々蓮は顔も良くて勉強もできる。だから人一倍モテるけれど、彼は告白されても冷たく突き放す。そのせいで女子に恨まれることも少なくなかった。そしてそ