この度、元カレが義兄になりました

この度、元カレが義兄になりました

last updateDernière mise à jour : 2025-07-22
Par:  藤永ゆいかComplété
Langue: Japanese
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高校生の陽菜は、中学の頃に付き合っていた元カレ・伊月のことが今も忘れられないでいる。 ある日、陽菜の母が再婚することに。しかし、母の再婚相手との顔合わせの日に再婚相手と共にやって来たのはなんと、元カレの伊月だった! 親同士の再婚で、陽菜は伊月の家で暮らすことになるが、同居初日に陽菜は伊月から「親の前でだけ仲良くすれば良い」と言われてしまう。 それでも、陽菜がピンチのときには助けてくれたりと、何だかんだ優しい伊月に陽菜はますます惹かれていくけれど……。 「俺は陽菜のこと、妹だなんて思ったことない」 義兄になった元カレと、甘く切ないラブストーリー。

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Chapitre 1

第1話

『俺、菊池さんのことが好きなんだ』

中学2年生の1月。初雪が降った日の放課後。

誰もいない教室で私・菊池陽菜(きくちひな)は、ずっと好きだった同級生の佐野伊月(さのいつき)くんに告白された。

『菊池さんが良ければ、俺と付き合ってくれないか?』

『……っ、はい。よろしくお願いします』

私の返事は、もちろんOK。憧れの佐野くんと両想いだなんて、泣きそうなくらいに嬉しかった。

だけど……幸せは、長くは続かなかった。

『……俺たち、別れようか』

3月、校庭の桜の蕾が膨らみつつある頃。中学2年生が終わるのと同時に、私たちのお付き合いも終わりを迎えた。

あれから2年。高校1年生になった今でも私は、密かに佐野くんのことを想い続けている。

**

3月中旬の、ある日の朝。

「やばい。もう時間だ」

高校の制服姿の私はスクールバッグを肩にかけ、慌てて自宅の玄関へと向かう。

菊池陽菜、16歳。肩下までの黒髪ストレートヘア。身長150cmと小柄で童顔のせいか、実年齢よりも下に見られることが多い。

「それじゃあ、お母さん。いってきま……」

「あっ。ちょっと待って、陽菜」

言いかけた『いってきます』は、お母さんに途中で遮られてしまった。

「何?」

「あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?」

「……?うん、分かった。それじゃあ、行ってきます」

大事な話って何だろう?と首を傾げながら、私は走って家を出た。

私が通う高校は、家から徒歩20分ほどのところにある。

「はぁ、はぁ……っ」

どこまでも晴れ渡る空の下を、私は全速力で駆け抜ける。

時折ふわりと頬を掠める風は温かく、近くの土手に咲く濃いピンク色に染まる河津桜は、ちょうど見頃を迎えた。

冬が終わってやって来た春を、全身で堪能したいところだけど。学校に遅刻しそうな私は、ただひたすら通学路を走り続けた。

**

ふう……いつもよりも家を出るのが少し遅くなったけど、何とか予鈴までに間に合った。

「佐野くん、おはよぉ」

1年4組の教室に入ると、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。

そちらに目をやると、窓際の佐野くんの席が女の子たちで賑わっている。

佐野くん、ほんとよくモテるなぁ……。

「ねえねえ、伊月くん。昨日のドラマ見たー?」

「……見てない」

女の子に話しかけられるも、窓の外に顔を向けたままそっけなく答える彼。

佐野くんは、基本女の子に無愛想だけど。黒髪短髪のイケメンで、成績優秀。この学校のバスケ部エースでもある彼は、中学の頃に付き合っていた私の元カレだ。

私は、佐野くんをこっそり見つめる。

中学2年生のあの日。憧れの佐野くんから告白されて、本当に嬉しかった。

人気者の佐野くんの彼女になれて、学校のみんなから羨ましがられたし、それと同時に女の子から妬まれた。

──『なんであんな地味な子が、佐野くんの彼女なの?』

「っ……」

昔のことを思い返していたら、胸の辺りが苦しくなって、私は教室の床に視線を落とす。

あの頃の私は、自分に自信が持てなくて。かっこいい佐野くんの彼女が私でいいのかな?って、ずっと思っていた。

それに加えて私は、好きな人の前だといつも緊張して上手く話せなかったから。

いつしか私たちの間には、距離ができてしまって。佐野くんと話したり、一緒に帰ることも次第になくなっていったんだよね。

……って。過ぎたことに、いつまでも落ち込んでちゃダメだ。早く自分の席に行こう。

そう思い、私が顔を上げたそのとき。

「!」

ふいにこちらを向いた佐野くんと、目が合ってしまった。︎︎︎︎︎︎

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第1話
『俺、菊池さんのことが好きなんだ』中学2年生の1月。初雪が降った日の放課後。誰もいない教室で私・菊池陽菜(きくちひな)は、ずっと好きだった同級生の佐野伊月(さのいつき)くんに告白された。『菊池さんが良ければ、俺と付き合ってくれないか?』『……っ、はい。よろしくお願いします』私の返事は、もちろんOK。憧れの佐野くんと両想いだなんて、泣きそうなくらいに嬉しかった。だけど……幸せは、長くは続かなかった。『……俺たち、別れようか』3月、校庭の桜の蕾が膨らみつつある頃。中学2年生が終わるのと同時に、私たちのお付き合いも終わりを迎えた。あれから2年。高校1年生になった今でも私は、密かに佐野くんのことを想い続けている。**3月中旬の、ある日の朝。「やばい。もう時間だ」高校の制服姿の私はスクールバッグを肩にかけ、慌てて自宅の玄関へと向かう。菊池陽菜、16歳。肩下までの黒髪ストレートヘア。身長150cmと小柄で童顔のせいか、実年齢よりも下に見られることが多い。「それじゃあ、お母さん。いってきま……」「あっ。ちょっと待って、陽菜」言いかけた『いってきます』は、お母さんに途中で遮られてしまった。「何?」「あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?」「……?うん、分かった。それじゃあ、行ってきます」大事な話って何だろう?と首を傾げながら、私は走って家を出た。私が通う高校は、家から徒歩20分ほどのところにある。「はぁ、はぁ……っ」どこまでも晴れ渡る空の下を、私は全速力で駆け抜ける。時折ふわりと頬を掠める風は温かく、近くの土手に咲く濃いピンク色に染まる河津桜は、ちょうど見頃を迎えた。冬が終わってやって来た春を、全身で堪能したいところだけど。学校に遅刻しそうな私は、ただひたすら通学路を走り続けた。**ふう……いつもよりも家を出るのが少し遅くなったけど、何とか予鈴までに間に合った。「佐野くん、おはよぉ」1年4組の教室に入ると、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。そちらに目をやると、窓際の佐野くんの席が女の子たちで賑わっている。佐野くん、ほんとよくモテるなぁ……。「ねえねえ、伊月くん。昨日のドラマ見たー?」「……見てない」女の子に話しかけられるも、窓の外に顔を向けたままそっけな
last updateDernière mise à jour : 2025-04-15
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第2話
わわ、どうしよう。慌てふためく私だったけど、交わった視線はすぐに、佐野くんのほうから逸らされてしまった。だよね、逸らすよね。分かっていたことだけど……。胸の辺りが少し痛むのを感じながら、私は自分の席へと向かった。**「おい、菊池。ちょっと良いか?」数学の授業のあと、私は教科担当の先生から声をかけられた。「悪いけどこれ、職員室まで持って行ってくれないか?」先生が言った“これ”とは、先ほど授業で回収したクラス全員分の課題プリント。「先生このあと、用があるから。頼んだぞ」私が返事するよりも早く、先生は強引にプリントの束を私に渡してきた。こうなったら、持って行かない訳にはいかなくて。私は、3階の教室から1階の職員室まで急いで向かう。──ガラッ!ようやく職員室に到着し、私が扉を開けたとき。ちょうど扉の先に立っていた人と、思いきりぶつかってしまった。「きゃっ……!」その拍子に足元がふらつき、持っていたプリントが宙を舞う。「危ない!」転びかけた私の身体を、目の前のしっかりとした腕が支えてくれた。だっ、誰……?恐る恐る相手の顔を見上げて、息をのんだ。私がぶつかった人はなんと、佐野くんだったから。「ご、ごめんなさいっ!」慌てて彼から身体を離してどうにか謝るも、私は佐野くんの目を見られず、うつむいてしまう。別れて2年になる今でも私は、佐野くんと話すときは目を見れないし、緊張してしまうんだよね。「……はい」先ほどぶつかった拍子に床に散らばったプリントを、佐野くんが拾って渡してくれる。「あっ、ありがとう」私は視線を彼から逸らしたままプリントを受け取り、何とかお礼を告げた。「……気をつけろよ」無表情でそれだけ言うと、佐野くんはスタスタと歩いていく。佐野くん……そっけないけど、プリントを拾ってくれたりして、何だかんだ優しいな。私は、歩いていく佐野くんの背中を見つめる。中学の頃、クールな佐野くんが笑顔で楽しそうにバスケするところを見て一目惚れして以来、ずっと彼が好きだった。未練がましいかもしれないけど。別れた今でも、私は……佐野くんのことが好き。一度は佐野くんの近くまでいけたのに、今はすごく遠い。また前みたいに、ほんの少しでも彼に近づけたら良いのに……。私は持っている課題プリントの束を、胸の前でぎゅっと抱きしめる。でも、2年前
last updateDernière mise à jour : 2025-04-15
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第3話
放課後。「ただいま〜」「あっ。おかえり、陽菜」帰宅すると、玄関でお母さんが出迎えてくれた。「あれ?お母さん、今日はお仕事は休みだったの?」「ええ。だから、陽菜に大事な話があるって言ってたでしょう?」あっ。そういえば!──『あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?』今朝のお母さんとの会話が、私の頭に浮かんだ。制服から私服に着替えると、私はリビングでお母さんと向かい合って座る。「それで?大事な話ってなに?」テーブルを挟んで目の前に座るお母さんは、いつになく真剣な面持ちだ。「あのね。実はお母さん……再婚しようと思ってるの」「えっ、再婚!?」思いもよらぬ言葉に、私は目を丸くする。我が家は、私が6歳の頃にお父さんが病気で亡くなってから、母と子の二人暮らし。今まで10年間、お母さんが女手一つで私を育ててきてくれた。最近のお母さんは、前よりも楽しそうだから。なんとなく、交際している人がいるんだろうなとは思っていたけど……それでも、びっくりだよ。「相手は今の職場の上司なんだけど、とっても優しい人でね。陽菜さえ良かったら、一度光佑(こうすけ)さんに会ってみて欲しいんだけど……どうかな?」お母さんが付き合ってる人、光佑さんっていうんだ。お母さんが選んだ人なら、きっと良い人に違いない。「うん。私も、光佑さんに会ってみたい!」「それじゃあ、さっそく光佑さんにも伝えておくわね」お母さんの彼氏さんって、一体どんな人なんだろう……?**ドキドキしながら、迎えた週末。私は、お母さんの交際相手との顔合わせのため、自宅近くのホテル内にある、オシャレなレストランにやって来た。スタッフの人に案内された席で私がお母さんと座って待っていると、しばらくしてメガネにスーツ姿の、40代くらいの男性が駆けてきた。「翔子(しょうこ)さん!ごめん、待たせたね」「ううん。私たちも、今来たところだから」“翔子”とは、私のお母さんの名前。お母さんとともに席から立ち上がり、光佑さんの隣に立つ人を目にした瞬間、私は固まってしまう。だって、そこにいたのは……「……ええっ!?う、うそ。佐野くん!?」クラスメイトで元カレの、佐野くんだったから。
last updateDernière mise à jour : 2025-04-16
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第4話
「は?なんで、菊池さんがここに……」互いに指をさし、目を見開く私と佐野くん。「えっ。もしかしてあなたたち、知り合いなの?」「う、うん。同じ高校のクラスメイト……」私はお母さんに、正直に答える。まさか、佐野くんが来るなんて……どういう展開?それから再び、4人掛けのテーブル席にお母さんと並んで座るも、心臓のドキドキはなかなか治まらない。だって私の目の前には、仏頂面の佐野くんが座っているんだもの。「初めまして、陽菜ちゃん。僕は、佐野光佑といいます。そして、こっちは息子の伊月」「……」光佑さんに紹介されるも、佐野くんは黙って窓の外を見つめているだけ。「はっ、初めまして、陽菜です。いつも母がお世話になってます」私は立ち上がり、光佑さんと佐野くんに向かって軽く頭を下げた。「それにしても驚いたわ。まさか陽菜と伊月くんが、同じ高校のクラスメイトだったなんて。すごい偶然ね〜」「本当だね。誕生日は伊月のほうが先だから、お兄ちゃんかな?」そうか。お母さんたちが結婚するってことは、佐野くんが私のお兄ちゃんになるんだ。何日か前に、ほんの少しでも佐野くんに近づけたら良いのになとは思ったけど。まさか、元カレが義理の兄になるだなんて……そんなことあるの!?「翔子さん。もしかしたら、運命って本当にあるのかもしれないね」「やだわ、光佑さんったら。子どもたちの前で、恥ずかしい……」ふふ。お母さん、嬉しそうだなあ。光佑さんと笑顔で話すお母さんを見て、私は目を細める。それからコーヒーや紅茶を注文して、待っている間みんなで他愛もない話をした。お母さんと光佑さんの出会いから、私と佐野くんの学校の話など。といっても、佐野くんは終始無言だったから。ほとんど3人で話していたのだけど。光佑さんは、今日会うのが初めてだとは思えないくらいに、すごく話しやすくて。お母さんのことを、とても大切に思ってくれているんだってことが会話から伝わってきた。「陽菜ちゃん、伊月。僕は、翔子さんと一緒になりたいと思ってる。だけど、もし陽菜ちゃんや伊月が嫌っていうのなら……」真剣な面持ちの光佑さんの言葉に、私は向かいに座る佐野くんをちらっと見る。佐野くんは、二人の結婚をどう思っているのか分からないけど。お父さんが亡くなってからのこの10年間、お母さんは朝から晩まで働いて、ご飯も毎日作ってく
last updateDernière mise à jour : 2025-04-16
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第5話
「光佑さん、私は結婚に賛成です。これから母のことを、どうぞよろしくお願いします」私は光佑さんに向かって、深々と頭を下げた。今日光佑さんと話してみて、どことなくお父さんと似た雰囲気の優しい光佑さんなら、お母さんを任せられるって思ったから。「俺も……二人の結婚には賛成だよ。父さんには、幸せになって欲しいから」佐野くんも賛成なんだ。良かった……!「ありがとう、二人とも」「ありがとう、陽菜。伊月くんもありがとうね」「……いえ」ニコッと微笑んだ私のお母さんから、照れくさそうに視線を逸らす佐野くん。佐野くんは、ずっと無言だったから。もしかして、結婚には反対なのかと思ったりもしたけど。佐野くんも、二人の結婚に賛成してくれて本当に良かった。「それでね、陽菜。光佑さんと、前から二人で話していたことがあるんだけど……」ん?話していたことって、何だろう?**数週間後の3月下旬。高校1年の春休み、私はお母さんと一緒に佐野家にやって来た。先日、ホテルでの初めての顔合わせのとき、お母さんが言っていた『光佑さんと前から二人で話していたこと』それは、二人が入籍する前にお試しで一緒に住んでみようということだった。そして春休みのこの日、私はお母さんと佐野くんの家に引っ越してきたという訳だ。私は今、マンションから持ってきた荷物を家の中に運んでいるところ。初めて来た佐野くんの家は、大きな一軒家で。広いお庭には、色とりどりの花が咲いている。「菊池さん、貸して。重いものは、俺が運ぶから」佐野くんが、フラフラしながら運んでいた私の手からダンボールを取った。「あ、ありがとう」運んでくれるなんて、佐野くんはやっぱり優しいな。「いいよ。それより……」佐野くんの唇が、私の耳元に近づく。一体何を言われるのだろうと、身構えていると。「あのさ、分かってると思うけど……俺たちが中学の頃に付き合っていたことは、父さんたちには絶対に言うなよ」氷のように冷たい佐野くんの声に、私の背筋がヒヤリとする。「う、うん。もちろん!これまでもこれからも、親には言わないよ」「そう。なら良いけど」自分の言いたいことを言うだけ言うと、佐野くんはダンボールを持ってさっさと歩いていってしまう。ああ……まさか、親の再婚で元カレの佐野くんと一緒に住むことになるなんて。全く思ってもみなかった。これ
last updateDernière mise à jour : 2025-04-16
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第6話
佐野くんの家に、お母さんとともに引っ越してきた私。荷物の片づけが終わる頃には、夕方になっていた。「ねえ、陽菜。今夜は、手巻き寿司にしようと思うんだけど」「うん。いいね、手巻き寿司!」お母さんの提案に、私だけでなく光佑さんと佐野くんも賛成する。「それで悪いんだけど……陽菜、買い物に行ってきてくれない?」「えっ、私が!?」「ごめんね。お母さんは、このあと夕飯の準備があるから」買い物か……今日初めて来た町だけど、スーパーまでの道分かるかな?「そうだ。伊月、お前も陽菜ちゃんと一緒に、買い物についていってあげなさい」「「え?」」思いもよらぬ光佑さんの言葉に、私と佐野くんの声が重なった。多分、光佑さんは私に気をつかって言ってくれたのだろうけど……佐野くんと二人でおつかいだなんて、今の私にとっては少しありがた迷惑な話だよ。「なんで俺が?」佐野くんが眉をひそめる。「陽菜ちゃん、今日ここに引っ越してきたばかりで、道とか分からないだろう?」「でっ、でも……佐野くんに悪いですよ」佐野くんと二人きりとか、何を話せば良いのか分からないし。彼と二人になるのは、できるだけ避けたい……。佐野くんのほうに目をやると、あからさまに不機嫌な顔をしていた。この顔……きっと佐野くんも、私とおつかいに行くなんて嫌だよね。「あの、私は一人でも大丈夫ですよ?」「そうかい?僕としてはこの機会に、できれば兄妹の仲も深めて欲しいと思ってね」光佑さん……。「だから伊月、陽菜ちゃんに家の近所を案内がてら、一緒に行ってあげてくれないか?」「はぁ、仕方ないな……分かったよ。行けば良いんだろ?」え!?「菊池さん、行こう」「う、うん」まさか、佐野くんが了承するなんて……親の手前、やはり断ることはできず。成り行きで私は、佐野くんと二人でスーパーに行くことになってしまった。**そして今、私は家の近所を佐野くんと並んで歩いているのだけど。うう、気まずい……。家を出てから会話はゼロ。付き合っていた頃は、学校の帰り道に佐野くんが『菊池さんは、休みの日何してるの?』とか、色々と私に話しかけてくれていたけれど……別れた今は、さすがにね。期待しちゃダメだ。昔のことを思い返しながら私は、隣を歩く佐野くんの横顔を見上げる。佐野くんはクールだから、どちらかというとお喋りなほうではないだ
last updateDernière mise à jour : 2025-05-11
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第7話
「佐野くんっ!!」 佐野くんを引き止めたいと思ったら、今までにないくらい大きな声が出てしまった。 「菊池さん?」 佐野くんが立ち止まり、驚いた顔でこちらを振り返る。 「佐野くん待って。私は、佐野くんのことが嫌いなわけじゃないの」 「え?」 「私の話、聞いてくれる?」 ようやく佐野くんに追いついた私は、自分の本当の気持ちを彼にぶつけることにした。 道端に移動し、私は佐野くんと向かい合って立つ。 「あのね。私……中学のあの頃は、男の子と付き合うのが初めてだったから。どうして良いのか分からなくて。好きな人の前では緊張して、上手く話せなかったんだよね」 「……」 佐野くんは黙って、私の話に耳を傾けてくれている。 「中学生の頃に、佐野くんと別れた過去があるから。佐野くんと話すときは、気まずく感じてしまって。今でも緊張してしまうんだ。だから、別に嫌いとかじゃないの」 こんなことを話して、佐野くんに嫌われないか心配だけど……誤解されたままよりも、ずっといい。 ドキドキが治まらない私は、胸の辺りを手でギュッと掴む。 「突然、こんなことを言ってごめんね?」 「いや。俺は、菊池さんの本音が知られて嬉しいよ。そっか……緊張してただけなのか。俺も別れたあとは、何となく気まずくて。菊池さんを避けていたところがあったから。菊池さんも俺と一緒だったんだな」 話し終えた私が佐野くんを見ると、彼はホッとしたように微笑んでいた。 「交際していたとき、菊池さんがあまりにも喋らないものだから。もしかしたら、俺からの告白を断れずに、無理して付き合ってくれてるのかと思ってた」 「そっ、そんなことない。あのとき私は……佐野くんのこと、ちゃんと好きだったよ」 一瞬“今も”という言葉が、口から出かかったけど。私は必死に飲み込んだ。 「……ありがとう」 佐野くんの優しい笑顔を見て、私もホッと胸を撫で下ろす。 「俺たち、二ヶ月だけでも付き合っていたのに。お互いのこと、全然分かってなかったんだな。中学のあのとき、菊池さんともっとしっかり話せば良かった」 「そうだね。お母さんの再婚相手が、佐野くんのお父さんだって知ったときはびっくりしたけど……」 私は、佐野くんから目を逸らしそうになるのを必死に堪える。 「お母さんの幸せのためにも、新しいお父さんと佐野くんを大切にしたい
last updateDernière mise à jour : 2025-05-13
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第8話
「いっ、い、いつ……」何とか呼ぼうとしてみるも、緊張して言葉につまってしまう。「そうだよな。今までずっと、俺のことは苗字で呼んでたんだ。いきなり名前で呼べって言われても、無理だよな」「ご、ごめん。私、今まで男の子のことを名前で呼んだことがなくて」「そっか」うう。私ってば、どうしてこうなんだろう。佐野くんを、ただ下の名前で呼べばいいだけなのに……。「それじゃあ陽菜、俺が今から言うことに答えて?」「えっ?」「五月の和名は?」「五月?えっと、皐月」「最近話題の、女子高生演歌歌手の名前は?」「五木(いつき)ななせ」「それじゃあ、俺の名前は?」「ええっと、伊月くん……」「はい。よくできました」佐野くんが、私の頭を優しく撫でる。「ちゃんと呼べたな」「い、伊月くんのおかげだよ」伊月くんに笑いかけられ、私も微笑む。初めて自分の気持ちを伝えて誤解が解けた今、私たちの間には今までで一番じゃないかってくらい、穏やかな空気が漂っていた。**夜。夕食後、家族みんなでケーキを食べることに。お母さんが冷蔵庫から持ってきてくれたケーキ屋さんの箱の中には、イチゴや抹茶といった春らしい色合いのスイーツが4つ並ぶ。「うわあ、美味しそう」色とりどりのケーキを前に、私の心は躍る。「伊月くんと陽菜、好きなの選んでいいわよ」「陽菜は、どれがいい?」「えっと……」伊月くんに聞かれた私の視線は、大好きなチョコレートケーキに一直線。だけど、チョコレートケーキはひとつしかないし。もし伊月くんも、同じのを食べたかったら……。色々と考えてしまい、私は言葉につまる。「どうした?遠慮しなくて良いんだよ?」「わ、私はどれでも……」『どれでも良い』と言いかけた私は、口を閉ざす。せっかく伊月くんが、遠慮しなくて良いって言ってくれたし。やっぱりここは、ちゃんと自分の希望を伝えるべきかな?伊月くんとは、これから家族になるんだし。「えっと、私はチョコレートケーキが良い……です」「それじゃあ、はい。どうぞ」伊月くんが箱からチョコレートケーキを取り出し、私のお皿にのせてくれる。「ありがとう」さっそくフォークでチョコレートケーキに切り込みを入れながら、私はふと思う。そういえば、伊月くん。付き合っていた頃に、チョコレートが好きだって話していたような……。『俺、チョ
last updateDernière mise à jour : 2025-05-14
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第9話
『お風呂から出たら、俺の部屋に来てくれる?』入浴後。伊月くんに部屋に来るように言われた私は、パジャマ姿で二階にある彼の部屋へとやって来た。伊月くんに言われたとおり、部屋まで来たけど……。一体、何の用なんだろう?私が伊月くんの部屋に来るのは、もちろん初めてのことだから、緊張する……。部屋の扉を叩くのをしばし躊躇したあと、意を決して私はようやくノックした。──コンコン。ノックするとすぐに扉が開き、伊月くんが顔を出した。「陽菜!ありがとう、来てくれて。さあ、入って」 「お、お邪魔します……」胸の高鳴りを感じながら、伊月くんに続いて彼の部屋に足を踏み入れる。「座って?」「う、うん」伊月くんに促され、私はソファに腰をおろす。伊月くんの部屋……というよりも、同世代の男の子の部屋自体、今日初めて来たけど……きれいにしてるんだな。私は、部屋をぐるっと見回す。伊月くんの部屋は全体的に物が少なく、モノトーンのシンプルな家具が並ぶ。バスケットボールやテレビの横にはゲーム機が置かれていて、男の子の部屋って感じだなあ。そう思うと、何だか余計にソワソワしてしまう。「えっと……それで?伊月くん、私に何か用?」「ああ。用っていうか、その……良かったら今夜、俺と一緒に夜更かししない?」「へ?」よ、夜更かし!?予想外の言葉に、私は口を開けてポカンとしてしまう。「明日で春休みも終わりだろ?明日は、俺も部活が休みだし。堂々と夜更かしできるのは、今日だけだから」なるほど!「せっかくだし、俺とちょっとだけ悪いことしない?」ポップコーンとチョコレートのお菓子の袋を両手に掲げ、ニヤリと笑ってみせる伊月くん。「これ、二人で食べようよ」ふふ。こんなふうに笑う伊月くんは初めて見たかも。クールで真面目そうに見える伊月くんでも、こういうことを言うんだなぁ。意外!「うん、いいね。食べよう」私は、伊月くんにこうして誘ってもらえたことが何よりも嬉しい。だって少し前のギクシャクしていた私たちには、考えられないことだから。伊月くんと私は、コーラをグラスに注いで乾杯する。「ふふ。夜遅くにお菓子を食べるなんて、普段しないから。なんだかイケナイことをしてるみたい」ポップコーンを口に運びながら、私はくすりと笑う。「小学生の頃、夜寝れなくて部屋でこっそりお菓子を食べていたら『寝
last updateDernière mise à jour : 2025-05-16
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第10話
【伊月side】映画が始まってから、物語に集中する俺たち。高校のバスケ部の女子マネージャーと男子部員の恋愛模様を描いた映画は、前編と後編の二部作。映画は前編から後編へと突入し、物語が中盤に差し掛かかる頃……「!」突然、肩の辺りにズシッと重みを感じた。そちらに目をやると、俺の左肩に陽菜の頭がのっかっていた。そっと顔を覗き込むと、陽菜はまぶたを閉じている。陽菜のヤツ、まさか映画の途中で寝るなんて……でも、今は夜中の3時を過ぎてるし。無理もないか。俺は、陽菜の顔をもう一度覗き込む。陽菜の寝顔、まだあどけなさがあって可愛いな。無意識に口元をゆるませながら、俺は陽菜の頭をそっと撫でる。陽菜に面と向かって言うことはないけど……俺は、今でも陽菜のことが好きだ。陽菜は俺にとって、今もずっと変わらず特別な女の子だから。陽菜の可愛い寝顔を眺めながら、俺は過去へと思いを馳せた。**俺は、どちらかというと女子が苦手だ。そうなった原因はおそらく、幼い頃に父と離婚して家を出て行った実の母親にある。男癖が悪い母は、父が仕事でいない平日の昼間に、家によく浮気相手の男を連れ込んでいた。『ねえ、あっく〜ん。キスしてー?』リビングのソファに並んで座る男の腕を組み、猫みたいにすりすりと甘える母。その様子を、当時5歳だった俺は少し離れたところから見ていた。真面目な父といるときはいつもそっけない母が、他の男の前では随分とめかしこんで。可愛こぶって甘えたり、猫なで声で話しているのを見て、俺は子どもながらにショックだった。そんな母を見ていたからか、いつの間にか俺は女の人が苦手になっていた。**それから時が経ち、俺は中学2年生になった。『ねえねえ、伊月くーん』『うちらと話そうよーっ』学校の休み時間。自分の席で静かに読書をしていた俺に、ギャルっぽい見た目の女子が二人、猫なで声で近寄ってきた。はあ、またか……。読書の邪魔をされ、俺はため息をつきそうになるのを必死に堪える。中学に入学した頃から、俺はなぜか女子にモテるようになり、こうして学校で話しかけられることが増えたのだが……『ねえ、伊月くん。何読んでるのー?』『別に、何でも良いだろ』俺はどれだけ女子に話しかけられても、極力相手にしない。特に、幼い頃に見ていた実母のように男に対して媚びを売ったり、可愛
last updateDernière mise à jour : 2025-05-17
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