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さようなら、娘より愛人を選んだ元夫
さようなら、娘より愛人を選んだ元夫
Author: 十枝コハク

第1話

Author: 十枝コハク
復縁してから、私――四方田早苗(よもだ さなえ)は夫をレンタルするようになった。

夫の幼馴染が、彼を私のもとから呼び出すたびに、私はもう以前のように泣きわめいたりしない。ただ、時間単位で料金を請求することにした。

昼は一時間100万円、夜は一時間200万円、休日は三倍。

それを三か月続けただけで、私の口座には2億近い金が振り込まれていた。

パーティードレスを選びに付き合うと約束していた日も、あの女から夫に泣きつく電話がかかってきた。

「包丁で手を切っちゃったの……」

私は顔も上げず、無言で送金用のQRコードを差し出した。

ある夜、私が突然高熱を出し、夫が慌てて病院へ車を走らせていた時のこと。

また彼のスマホが鳴った。

画面に表示された女の名前を見て、彼は何度もためらった末に電話に出た。

スピーカーの向こうから、か細い泣き声が聞こえる。

「理人さん、雷が怖くて眠れないの。そばに来てくれない?」

私は慣れた手つきで傘を取り出し、次の交差点で降ろしてほしいと告げた。

何か言いたげな夫に、私はただ微笑んだ。

「お金、忘れずに送ってね」

娘の定期健診の日。

またあの女から電話がかかってきた。

「理人さん、陽太が遊園地に行きたいって。やっぱり絶叫系って男の人が一緒じゃないと……」

電話を切った理人は振り返り、しゃがんで娘に話しかけようとした。

すると娘――結城碧(ゆうき あおい)は、私の真似をして小さな手を差し出した。

「大丈夫だよ、パパ。お金を送ってくれればいいから。今日は三倍だよ」

その瞬間、結城理人(ゆうき まさと)の顔から申し訳なさがすっと消えた。

彼は立ち上がり、碧を指差して私を問い詰めた。

「早苗、お前は普段からこんなふうに子どもを教育してるのか」

私は静かに碧を背中へかばう。

「何も間違ってないわ。愛をもらえないなら、せめてお金くらいはもらわなきゃ。私みたいに、離婚してからようやくそのことに気づくより、ずっといいでしょう」

理人は言葉を失った。

重苦しい沈黙の中、再びスマホが鳴る。

川澄真穂(かわすみ まほ)の息子の声が漏れ聞こえた。

「理人さん、早く来てよ!メガコースター百回乗るって約束したじゃん!」

その言葉に、碧は私の服の裾をぎゅっと握り込んだ。

以前、碧が何度も「遊園地に連れて行って」と頼んでも、理人は「仕事が忙しい」の一言で断り続けていた。

その小さな仕草に気づいたのか、理人は珍しくすぐには返事をしなかった。

彼は手を伸ばし、娘の頭を撫でようとする。

「碧ちゃん、いい子だから、今日は先にママと病院へ行っておいで。病気が治ったら、パパが遊園地に連れて行ってあげるから、ね?」

碧はその手を避け、大きな目をぱちぱちさせながら繰り返した。

「大丈夫だよ、パパ。お金をくれればそれでいいから」

まさかそんな返事が返ってくるとは思っていなかったのだろう。

理人の表情はみるみる険しくなった。

立ち去る直前、彼は苛立ちを隠さず吐き捨てた。

「早苗、お前も娘も、好きなだけ意地を張っていればいい!

まったく、わけがわからない!」

玄関のドアが乱暴に閉まり、私の胸もびくりと震えた。

碧は私の腕を揺さぶり、背伸びしてスマートウォッチを見せる。

「ママ見て。パパ、いっぱいお金送ってくれたよ。このお金で私、手術できるかな?」

私はしゃがみ込み、込み上げる嗚咽を必死に飲み込みながら娘を抱きしめた。

「できるわよ。碧ちゃんの手術が終わったら、ママがここから連れ出してあげるからね」

気持ちをどうにか落ち着けてから、私は碧を連れて病院へ向かった。

検査を待つ間、スマホに通知が次々と表示される。

パパラッチが隠し撮りした、理人と真穂親子の遊園地写真だった。

見出しにはこうある。

【結城家の御曹司、新恋人と遊園地デート。同行の男児はすでに『パパ』と呼んでいる模様】

私は写真を拡大し、理人の屈託のない笑顔を見つめた。

彼が最後に私と娘の前でこんなふうに笑ったのは、いつだっただろう。

もう思い出せない。

震える指で戻るボタンを押し、SNSを更新すると、その投稿はすでに削除されていた。

直後、理人から電話がかかってくる。

「早苗、怒らないでくれ。あれは悪質なメディアが勝手に書いただけだ。金を使って記事は全部消させたから」

私は一瞬きょとんとしてから、ようやく気づいた。

彼は、川澄陽太(かわすみ ようた)に「パパ」と呼ばれていた件を弁解しているのだ。

「怒ってないわ。子どもが悪気なく言っただけでしょ。私はもうあなたを真穂さんにレンタルしたんだから、ちゃんと遊んであげて」

返事を待たず、私は電話を切った。

検査結果が出て、医師は病状がしっかりコントロールできていると言った。

来月には心臓のバイパス手術を受けられるらしい。

全身の力が抜け、私はその場に崩れ落ちそうになった。

以前、真穂親子が図々しく私たちの生活に入り込み、それが原因で理人と離婚した時。

彼は私に思い知らせるつもりで、大金を積んで一流の弁護士を雇い、私をほとんど無一文で追い出したのだ。

離婚の翌日、娘は学校で突然倒れた。

診断は心筋虚血。

いつ突然死してもおかしくない危険な状態だった。

請求書に並ぶ途方もない金額を見て、私は悲しむ暇もなく履歴書を送り続けた。

けれど理人の影響力のせいで、私を雇う会社は一社もなかった。

金を貸してくれる親戚も友人も、一人としていなかった。

日に日に悪化する娘を前に、私はとうとう理人に頭を下げて復縁を懇願するしかなかった。

そして今日。

娘はようやく危険な状態を脱した。

医師と手術日を決めた後、私はすぐ移住手続きの代行会社に連絡し、私と娘のビザ申請を済ませた。

その直後、理人からメッセージが届く。

【いつ帰ってくる?お前たちの好きな料理を作ったよ】

私は返信しなかった。

一時間後。

玄関のドアを開けると、そこには真穂親子におかずを取り分けている理人の姿があった。

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