LOGIN結婚式で、夫の秘書・西野若菜(にしの わかな)が新郎新婦の写真を間違えて映し出してしまった。 スクリーンに映し出されたのは、私・柴田蛍(しばた ほたる)とのウェディングフォトではなく、夫・柴田礼司(しばた れいじ)と若菜が伝統的な婚礼衣装で手を取り合い、見つめ合っている、とても幸せそうな姿だった。 会場が騒然となった。 ミスをした若菜が泣きじゃくりながら、式を延期してほしいと私に懇願する。 礼司は慌てる様子もなく、低く落ち着いた声でこう耳打ちした。 「みんなもう来てるんだから、今さら延期なんてしたら面目丸つぶれだし、縁起も悪い。それに、どうせ誰も花嫁の顔なんて詳しく知らないだろう。だったら、とりあえず若菜に代理で式に出てもらえばいい」 参列した友人たちは、礼司のそんな身勝手な発言を聞いて、私が怒り狂うのではないかと唖然としていた。 しかし私は淡々と頷き、その提案に乗ることにした。 私の冷静さに気を良くした礼司は、どうせ入籍も済ませているんだからと、いずれ日を改めてちゃんと挙式してやる、と言い残した。 だが、彼は決定的な勘違いをしている。 他の女を花嫁の代役に立てたあの瞬間、私の中ではすでに離婚の決意が固まっていたということに。
View More会社を離れて調査を受けるから大丈夫、自分一人で処理できる、と私は言いかけたその時。百香がそれを遮るように言った。「蛍はそんなことしません。私も一緒に調査を受けます。でも、はっきり言っておきます。もしこれが蛍に対する嫌がらせなら、どう責任をとるつもりでしょうか?うちの会社に対する損害賠償はどうするのですか?」百香の声には確固たる自信があった。若菜は、まさか百香がここまで私を庇うとは思わなかったのか、先ほどの威勢は影も形もなかった。それでも、私は無関係な人を巻き込みたくなくて、彼女に言った。「大丈夫。この件は私一人で何とかするから。百香には会社もあるし、こんな泥沼に足を踏み入れないで」すると百香は少し怒ったような表情で、間髪入れずに言い放った。「何言ってるの?蛍を誘ったのは私でしょ?ここでは、私が蛍にとって一番近い存在でしょ。他人がどう裏切ろうと勝手だけど、私まで蛍の前に立って味方をしなかったら、私は何のためにいるの?話は終わり。調査には二人で行くわ」警察もそれ以上留まることはなく、私と百香を連れていこうとした。しかし出口へ向かう直前、ずっと黙り込んでいた礼司が急に前に出て、大声で言った。「この件に蛍は関係ないです。この金を送ったのは、俺です」その場が凍りついた。若菜がいち早く反応し、慌てて礼司の腕を引いた。「礼司さん、何を言ってるの?」若菜は慌てて警察に笑いかけると、すぐに礼司を責めた。「蛍さんは元奥さんでしょ?まだ情が残ってるのはわかるけど、これは小さい話じゃないわよ」礼司は若菜を見下ろしたが、その目は私が見たこともないほど冷たかった。「証拠はあるんだ」礼司は一語一句はっきりと告げた。「お前が俺のスマホを盗み出し、この罠を仕組んだ証拠も。会社の金を横領して、他人に罪をなすりつけた証拠も。全部揃ってるから」事態は急展開し、その場が騒然となった。百香は訝しげに私を見た。状況が飲み込めていないようだ。私も一瞬呆気に取られ、目の前の礼司を見て戸惑っていた。遠い記憶がよみがえる。昔、まだ私たちが二人で寄り添っていた頃、スーパーで万引きの疑いをかけられた時、礼司が相手を捕まえて、私の潔白を証明しようとしてくれたことがあった。結末がどうなったかは忘れてしまった。あれからもう長い月日が流れている
私は呆れて笑うしかなく、そのお金を彼に送り返した。するとほどなくして、私たちはまた元の鞘に収まった。これで埋め合わせでもしているつもりなのだろうか?礼司は忘れている。こんな一方的な行為が、傷つけられた側の心に響くはずなどないことを。ただ彼自身が「償った」と思って安心したいだけなのだ。私は迷わず再度返金操作を行ったが、送信エラーが表示された。礼司の口座はすでに解約されていた。どう対処したものかと悩んでいたところに百香から連絡が入った。百香としばらく他愛ない話をしているうちに時間も遅くなり、その件はいつの間にか頭の隅に追いやられていた。数日後、会社も軌道に乗り順調だと思っていた矢先のことだった。出社して早々、私には会社の入り口で従業員たちが騒いでいるのが目に入った。「どうしたの?」私は戸惑いながら彼らの方へ歩み寄った。従業員たちが私に気づいて道を空ける。その先にいたのは、警察官が数人と、若菜、そして礼司だった。私と目が合うと、礼司はいたたまれない様子で視線をそらした。「宮城(柴田蛍の旧姓)さんですね?通報を受けました。業務上横領および機密情報持ち出しの疑いがあるため、捜査にご協力ください」警察が差し出してきた書類には、振込記録が記されていた。「こちらはあなたの口座で間違いありませんか?」資料に目を落とすと、その金額は少し前に礼司が私に振り込んできた額と全く同じだった。ようやく合点がいった。礼司の真の狙いはこれだったのだ。「蛍さん、あまりにもひどいんじゃありませんか?礼司さんは元上司でもあるし、あれほどあなたに良くしてくれたのに、どうしてこんなことができるんですか?だから辞める時にあんなに急いで逃げたんですね。会社のお金を盗んで、機密書類まで持ち出して、今はこんなにいい暮らしをしているなんて」若菜が横から冷ややかに責め立てた。私は反論はせず、礼司を静かに見つめた。彼は慌てたように視線をそらした。今日のこの茶番には、礼司も加担しているらしい。私は驚きよりも、どこか冷めた感情に心を占められていた。礼司なら、こう動くのも想定の範囲内だという諦めに近い納得感があった。「蛍さん、どうして黙っているんですか?」若菜は得意げに警察へ言った。「おまわりさん、見てください。黙っているということは認め
耳を疑い、私は立ち上がって階段の方へ向かった。そこには若菜と礼司がいて、険しい顔をしていた。二人はいま喧嘩をしたばかりのようだった。私は少し驚いた。私と礼司が離婚する前、二人は会えばいつも仲睦まじい姿を見せていたからだ。礼司が冷めた笑みを浮かべた。「今の会社の状況で、どうやって子供を育てるんだ?自分たちのことでさえ手一杯なのに、もし生まれても何を与えてやれるんだ、どう育てるつもりだ?」若菜は呆然とした。「会社の今の惨状は私のせいだって、私を責めているの?」場に冷ややかな沈黙が流れた。礼司は無言だったが、その目には何とも言えない複雑な感情が浮かんでいた。彼が何を考えているのかは分かった。若菜を前にしたときだけ、礼司は彼女を傷つけないように腐心するのだ。もし今日、同じ失敗をして礼司の前に立っているのが私だとしたら、一体どれほど怒鳴り散らされることか、想像するのも怖かった。だが若菜は引き下がらない。ふんと鼻で笑った。「何事もまず自分を見直したらどうなの?いつまでも責任を人に押し付けないで。会社を経営できなかったのはあなたの無能のせいよ。もっと早く私に権限を委ねていれば、こんなことにはならなかったわ」逆に詰め寄られ、礼司は怒りで顔色を変えた。彼は若菜を指さし、激昂した。「お前の過ちで、会社は十億単位の損害を出したんだぞ!皆が反対する中、俺がお前を退職させるだけで済ませて、損害賠償まで請求せずに済ませた。俺がどれだけの重圧に耐えていたか、分かっているのか?」若菜も興奮した様子で言い返した。「まだその話をするの?そもそも会社はあなたのものなんでしょ?騒いでいる古株の社員なんて全員クビにすればよかったじゃない?どうして彼らのせいで私が辞めなきゃいけなかったのよ!蛍さんを辞めさせたときみたいに、彼らも切れば済む話でしょ!?」パシッ!言葉が終わるや否や、礼司は腹に据えかねた様子で若菜の頬を叩いた。突然のことで、見ている私さえ驚き、どうして礼司が暴力まで振るったのか分からなかった。若菜は顔をそらしたまま、鼻で笑った。「やっぱり、まだ蛍さんのことが忘れられないのね。子供を諦めろと言うのは、本当に子供のため?それとも、蛍さんが忘れられなくて復縁したいから?私があなたの考えに気づいていないとでも思った?」
礼司は、若菜が実家に帰れないから一人だと寂しいだろう、だから付き添ってやりたいのだと言った。それに、私はずっと一人で寂しさにも慣れているだろうし、一人のほうが気楽でいいはずだと付け加えた。礼司は忘れているらしい。そもそも、私の周りがどうしてこんなに寂しくなったのかを。スマホをぼんやりとスクロールしていると、ある投稿が目に留まった。若菜のインスタで、あろうことか私にメンションまで飛んできていた。写真の中では、若菜が寒そうに笑いながら礼司の腕の中に身を寄せ、背後には新年を迎えた街のぼんやりした灯りが広がっていた。添えられた言葉はこうだ。【見捨てられても大丈夫。自分をもっと幸せにしてくれる人は、きっと見つかる。】あからさまな挑発だった。少し考えてから、私はその投稿に「いいね」を押した。【幸せそうで羨ましいわ。私は新しく買った自分の家のソファで、一人くつろぐことしかできないものだから】礼司の会社は最近、財務トラブルで訴訟騒ぎになっていて、返済のために彼の大切な自宅も差し押さえられたと聞いていた。以前の私は、若菜のあざといやり口が大嫌いだった。けれど、実際にこちらもあざとい言い方をしてみると、思いのほかスッキリした。投稿から2分も経たないうちに、若菜が自分の投稿を消したことに気がついた。私はすかさず、彼女にDMを送った。【消しちゃったの?こっちの新居の写真、送ろうと思ってたのに】送信後、画面を確認した。見事にブロックされたわけだ。私は呆れてものも言えなかった。百香にこの出来事をラインしようかと思っていると、玄関でノックの音がした。デリバリーかなと思い、私はスリッパを履いて駆け寄った。ドアを開けた途端、目の前に大きな花束が突き出され、何が起きたか理解する前に賑やかな声が響いた。「ここ、いいじゃない?間取りも雰囲気も最高。唯一の難点は、なんだか静かすぎるところね。だからこうして花を持ってきたの。見てよ、ばっちりでしょ?」「……」私は一瞬きょとんとしたが、そこにいたのが百香たちと、旅行に行くと言っていた会社の同僚たちだと分かり、やっと事態が飲み込めた。みんな両手いっぱいに買い物袋を持っていて、食材に菓子、果物に魚まで……私はあまりの状況に言葉を失った。「どうして来たの?旅行に
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