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第47羽:失われた命と転生

last update Fecha de publicación: 2026-06-01 23:59:12
【2019年10月】東京都・新宿区

事件から5日目の夕方、キヨミは四谷図書館にいた。

外はすでに薄暗くなり始め、図書館の窓から見える新宿御苑の木々が、街灯の光にぼんやりと浮かび上がっている。キヨミは閲覧室の奥の席に座り、目の前の机に積まれた本の山をじっと見つめていた。

タカナシカツヤの作品だ。

彼のデビュー作は貸し出し中だったが、2冊目、3冊目、そして4冊目を見つけることができた。どれも文庫化されており、手に取るのに抵抗はなかった。表紙のデザインはどれもシンプルで、文学賞を受賞した作家らしい品の良さがあった。

とりあえず借りるだけ借りればよいとは思っていたが、いざ手に取ると、その場ですぐに目を通したくなった。

キヨミは中学生の頃、図書室にある小説や詩、戯曲、歴史書、地理書、医学書、そして辞書など、あらゆる本を手当たり次第に読むほどの熱心な読書家だった。恐らく1時間もあれば、小説3冊、ざっくり概要を理解することくらいはできるだろう。

キヨミはまず2冊目、『うしなう』を開いた。

物語は、ある男性が年下の恋人と別れた後の後悔を描いたものだった。男性は売れっ子作家で、女性はまだ
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    事件から6日目となった。キヨミはまたアパートのベッドで横になり、ただ天井を見つめている。 時刻は――まだ夜中の10時か。それでも体は疲れて果てて睡眠を求めているような気がする。一方で思考は堂々巡りを繰り返し、どれだけ目を閉じても眠りは訪れなかった。 昨夜会って以来、テラダからはLINEも無い。無月経であることを打ち明けて関係にひびが入ったのは間違いなく、その関係をどうすれば修復できるのか。そもそも、その必要があるのか否か。 キヨミも恋していたのは間違いないが、テラダから連絡が来ない以上、こちらから送る言葉は何もなかった。「どうか捨てないで」と懇願しろとでも? 「浅ましい女」と思われるだけだ。 “私にプロポーズしたのはマコトでしょ。だから、マコトがリードして見せて。ちゃんと私に相応しい男だってこと、証明して” よくあんなセリフが言えたものだ。仕方ない、テラダといるときの自分は“アカリ”なのだ。笑顔が明るく、妖艶で、自信に満ち溢れた娼婦。 実際は寡黙で、表情の乏しい陰キャ。無月経であることを差し引いたとしても、そもそも一般男性が結婚相手に選ぶような人間ではなかった。 ただ、そんなことでキヨミは自己嫌悪に陥ったりはしない。自分の性格を嫌ったところで今さら生き方は変えられないし、合わない人間とは無理して付き合う必要もない。テラダに関しては正直なところ、「もうどうでもいい」と思い始めているような気がした。 あんなにピュアな男性と付き合ったことは今まで無かったから。ただの物珍しさを「妙な魅力」と履き違え、一時的にハマっていただけなのかもしれない。そう考えると、このまま自然消滅するのも別に悪くない気はしている。 と同時に、一日でそこまで“冷めて”しまえる自分にも驚いていた。 テラダが放出したものだって、まだ少し膣内に残っているような気がするのに。ぴゅっ、ぷぴゅっ、と、その日に用を足している最中でも漏れ出していくのを感じた。ただ、どうせ命が結実することはない。キヨミにとっては無意味な、ただの体液に過ぎない。 (やはり私は、感情の無いサイボーグなのだろうか) アズサの呪いは、まだ解けていないのかもしれない。 アズサ――昼間にまた、彼女の見舞いにも行った。相変わらず意識は戻らず、腫れた顔は前日よりさらに青白く見えた。キヨミはベッドの横で彼女の手を握

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第50羽:オムライスとエレベーター(下)

    【2019年10月】東京都・世田谷区 キヨミは自宅のアパートの風呂に浸かっていた。ほんの数時間前までテラダに抱かれていたことが、もう遠い昔の出来事のように思えた。湯船の中で膝を抱え、ぼんやりと白いタイルの壁を見つめる。体はまだ熱を持っていたが、心は妙に冷えていた。 “ご、ごめん……考えさせてくれないかな……?” テラダはホテルでそう言った。 “決して、子供ができない女性とは結婚できないって言ってるんじゃないんだ……ただ混乱してしまって” 必死に否定しようとする彼の言葉は、かえって本音を浮き彫りにしていた。彼のたどたどしい微笑みや視線の泳ぎ方からも、それが痛いほど伝わってきた。 つくづく嘘の下手な男だ。 キヨミは湯船の中で小さく息を吐く。テラダの言葉の後に、自分が紡いだ言葉を思い出した。 “ずっと黙っててごめんなさい。マコトに中出しを許したのも、自分がこういう体だってわかってたから。でも、誰でも受け入れてたわけではないことは信じて。マコトだけだから” テラダは、“アカリ……アカリさん”と掠れた声で彼女を抱きしめたが、それ以上の行為はなかった。シャワーを浴び、服を着て、互いにホテルを出た。 “また、会ってくれる?” そう訊ねたキヨミに、彼は、 “も、もちろんだよ……” と答えたものの、声は明らかにぎこちなかった。 子供が成せないという事実は、それほどまでに重いのだろうか。 無月経の体。これが風俗嬢としての最大の武器だった。生理の心配がなく、いつでも働ける。けれど普通の恋愛にとっては、やはり決定的な欠点でしかない。勘違いしていたのは自分だった。求婚されて、何を舞い上がっていたのだろう。 キヨミは湯船から上がって体を拭き、風呂場から出てバスタオルを体に巻くと、冷蔵庫を開けた。キンキンに冷えたデカビタCのペットボトルを取り出し、一気飲みする。強めの炭酸が喉をチクチクと刺激するが、鬱々とした気持ちは少しだけ浄化されるような気がした。 バスタオル姿のまま、気分転換に図書館から借りてきたタカナシカツヤの小説を読み始めた。 決してアズサのことを書いたという確証があるわけでもないが、少なくともそれがアズサとカツヤの関係性を知る上でのヒントになるのではと感じていた。 ※ 【2011年8月~2

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第49羽:オムライスとエレベーター(中)

    テラダマコトはキヨミの前に立ち、緊張で肩を強張らせていた。白い肌が、間接照明の下でわずかに汗ばんでいる。彼は震える指でキヨミのジャケットに手をかけ、ゆっくりと肩から滑り落とした。 「マコト、もっと大胆にしていいよ」 キヨミが囁くと、テラダはごくりと唾を飲み込んだ。次に彼はキヨミのブラウスに手をかけたが、ボタンを外す指先が何度ももつれる。ようやく全てのボタンを外し終えると、下に着ていた白いブラが露わになった。 ハァ、ハァ……テラダの息が上がる。キヨミも少しだけ自分の顔が紅潮していることに気づいた。キスしたい、舌を絡ませ合いたい。そう思うが、ぐっと堪える。今はテラダにリードさせると決めたのだ。 テラダは、しかしそこで固まった。次に何をすればいいのか、ブラを外すべきか、スカートを脱がすべきか、迷っている様子がはっきりとわかった。 キヨミは優しく微笑み、彼の手を取った。少しだけならフォローしてあげてもいいだろう。ほんの少しだけ。 「マコト、まず触ってよ。私のおっぱい」 テラダの瞳が大きく見開かれた。彼は唾を飲み込みながら、震える手でキヨミの胸に触れた。ブラ越しに、柔らかな膨らみをそっと包み込むように。 「あ……柔らかい……」 彼の声は掠れていた。キヨミは彼の手を自分の胸に押しつけ、さらに導く。 「もっと強くてもいいよ。感じて、私の体を」 テラダは勇気を出したように、ブラの上から親指で乳首の位置を探り、優しく円を描くように刺激した。キヨミの体がびくりと震える。 「ん……っ、そう、上手っ」 その言葉に励まされたのか、テラダは徐々に大胆になっていった。彼はキヨミの背中に回り、ブラのホックを外した。露わになった胸を両手で包み、優しく揉みしだく。時折、乳首を指で摘まみ、軽く引っ張る。 「あっ……マコト……」 キヨミの声も甘く掠れる。テラダは興奮を抑えきれず、キヨミの首筋に唇を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。 前戯はたどたどしかったが、キヨミの優しい導きによって徐々に熱を帯びていった。テラダはキヨミのスカートを下ろし、ショーツに指をかけ、ゆっくりと脱がせた。キヨミも彼のベルトを外し、ズボンと下着を一緒に下ろす。 やがてテラダが上半身に身に付けていたシャツを脱げば、ついに二人は裸になった。 テラダの白い体が照明の下で淡く輝いている。彼

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第34羽:ポスティングと炎上

    東京都・世田谷区 千歳烏山の安アパート。キヨミは買ったばかりの作業机でノートパソコンを開き、白い画面をぼんやりと見つめている。一体、何を書けばいいのか。皆目見当もつかない。 そして風俗を続けるべきか、辞めるべきか——それもまだ答えは出ない。テラダの指輪のことが頭から離れず、ユキの言葉も胸に残っていた。 部屋の端には、ポスティングのチラシが高く積まれている。"不動産売りませんか?"という言葉と、一軒家の写真。毎回デザインは変えられているが、訴える内容はほぼ一緒だ。週3回、いつも違うエリアをローテーションしながら配り歩く。同じ家には週1回だけ。 それでも、似たチラシが毎週届くわけで、果たし

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第33羽:潮吹きと小箱(下)

    テラダが差し出した指輪は、小さいながらもまばゆい輝きを放っていた。個室の照明に反射し、ダイヤモンドが冷たく光る。 キヨミはしばらく無言だった。胸の奥が妙な感覚だ。ドキドキはしているが、これは"歓び"とはまた別の感覚だろうか? さっきまで体を重ね、互いの体液を交換し合っていたのに、今は別の温度の現実が目の前に突きつけられている。 「……アカリ?」 テラダが不安げに呼びかける。ようやくキヨミは口を開いた。 「ごめんなさい……ちょっと考えさせて」 テラダの表情が一瞬で凍りついた。 「え……どうして? ど、どういうこと……!?」 彼の声が大きくなる。白い顔がみるみる赤く染ま

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第22羽:指名と疼き

    【2019年7月】東京都・新宿区歌舞伎町のソープランド『ディープ・ブルー』の待機室は、いつもより少し蒸し暑かった。エアコンの風が弱く、キヨミは着ている服の襟を軽く広げて休憩を取っていた。今日はゆったりとしたパジャマ姿だ。いつもはオフィス用のスーツなど、パリッとした恰好で接客することが多かったが、店のブログで客からリクエストがあり、それに応えた形だった。パジャマだと「仕事」という感じがせず、どこか落ち着かないが、先ほどまで応対していた客は「ギャップ萌え」と言って喜んでくれた。源氏名の「アカリ」として働くようになって数ヶ月。体は慣れてきたはずなのに、心のどこかがまだざわついている。仕事は仕

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第14羽:奴隷と衝動(下)

    【2010年11月】静岡県・三島市アズサとの関係が深まるにつれ、キヨミの世界は狭く、濃密になっていった。周囲からは「生徒会長に気に入られた後輩」として、羨望と好奇の視線を向けられるようになった。しかしキヨミ自身は、次第に孤独を感じ始めていた。トモヨとはもうほとんど言葉を交わさなくなっていた。 今では廊下ですれ違っても、 トモヨは寂しそうな笑顔を浮かべて軽く会釈するだけだ。ある夕方、二人きりの帰り道。アズサが突然、キヨミの手を強く握った。「ねえキヨミ。ちょっと寄り道していかない?」キヨミの胸が、どくんと大きく鳴った「ふふ、どうしたの? 顔が真っ赤だけど……」急にモジモジしだすキ

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