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第3話

Author: 莉里
透真の言葉が終わると同時に、動画の中で美夏が嗚咽を漏らした。

「そうだよ……全部、私の独りよがりだった。透真さんが結婚していて、愛してるのは千春さんしかいないって分かってた。それでも諦めきれなくて、毎日こうして都合よく扱われても、あなたに縋りついて……!透真さんが好きじゃなかったら、こんな惨めなこと、できるわけないじゃない!」

涙をぽろぽろと零す彼女を見た途端、透真の体がぴたりと固まった。口調こそ相変わらずぶっきらぼうだが、腰の動きは明らかに優しくなる。

「いちいち泣くなよ。俺を誘ったのはお前だろ?『体の関係だけでいい、好きじゃなくてもいい』って言ってたくせに」

美夏は答えず、涙がさらに溢れ出した。

透真は困ったようにため息をつくと、身をかがめ、頬を伝う涙を一つずつ唇で拭っていった。「分かったよ、俺が悪かった。もう泣くな。欲しいものがあるならなんでもやるから」

美夏はしゃくり上げながら、小さくねだった。「……じゃあ、千春さんに買ったネックレス。それと、さっき買ったクロワッサンも」

透真は眉をひそめた。「それ以外にしろ」

「なんで?私はそれが欲しいの!」

また涙を浮かべ始めた彼女を見て、透真はとうとう折れた。

「……分かった。全部やるからもう泣くな。ほら、おいで」

そう言って、甘やかすように再び口づけを落とした。

――透真が自分を裏切った。

その事実を、千春はとっくに知っていた。それでも、自分の目でその光景を見た瞬間、胸は引き裂かれるように痛んだ。

心臓がぎゅっと締めつけられ、息もできないほど苦しい。

千春は身体を折るようにうずくまり、額には脂汗が滲んでいく。

唇を強く噛み締めても、喉の奥から漏れる嗚咽だけはどうしても抑えられなかった。

――透真。

15歳の時。たどたどしく告白しながら、「千春しか好きになった人はいない」と言ってくれたのは、あなただった。

22歳の時。指輪を手に跪き、「生涯、君だけを愛する」と誓ったのも、あなただった。

――あなたの言う「生涯」は、たったの数年間だけだった。

握り締めた拳に爪が食い込む。皮膚が裂け、血が滲んでも、彼女は力を緩めなかった。

そうでもしなければ、胸を蝕む痛みに耐えられなかった。

千春は食卓の前で呆然と座り続けた。涙だけが、静かに頬を伝い落ちていく。

どれほど時間が過ぎたのだろう、映像の中から二人は消えた。

ほどなくして、玄関のドアが開く。身なりの整っている透真が現れた。

「千春、ただいま――」

優しい声は途中で止まった。

涙に濡れた千春の顔を見た瞬間、透真の表情が変わる。

「千春?どうした、なんで泣いてるんだ?」

彼は慌てて駆け寄ってきた。

千春は必死に感情を押し殺し、ティッシュを一枚引き抜く。

「何でもないわ。泣けるドラマを見てたら……つい涙が出ちゃって」

「ドラマ?いったいどんなドラマなんだ?君がこんなに泣くなんて」

透真もティッシュを手に取り、まるで壊れ物でも扱うように彼女の涙を優しく拭う。

「……透真も見る?」

一瞬きょとんとした透真は、すぐ柔らかく笑って彼女の髪を撫でた。「うん、見せてくれ。俺の大事な千春を泣かせるなんて、関係者にそのドラマを取り下げてもらわないと」

そう言って彼は、千春のスマホへ手を伸ばす。

動画を開こうとした、その瞬間。

「……クロワッサンは?」

千春の静かな一言に、透真の動きが止まった。次の瞬間には彼女を強く抱き締め、何度も謝る。

「ごめん、千春。本当にごめん。店に着いた時にはもう売り切れてたんだ。明日はもっと早く行って、必ず買ってくるから」

その言葉が終わるのを待っていたかのように、美夏が紙袋を提げてリビングへ入ってきた。

得意げに袋を掲げる。

「じゃじゃーん!最後の一つ、私が買えたんだよ。千春さん、欲しかったら譲ってあげてもいいけど?」

千春は答えず、ただ彼女の首元へ視線を向けた。

そこにはシルバーのネックレスがあった。母が遺してくれたものと、よく似たデザインだ。

きっと透真が、昨日のうちに同じものを探し、自分を喜ばせようと用意したのだろう。

けれど、美夏が少し甘えただけで、それは彼女のものになった。

千春の視線に気づいた美夏は、わざとネックレスを指先でつまみ上げ、嬉しそうに微笑む。

「可愛いでしょ?これもさっき買ったの。私に似合ってるかな?」

千春はそのネックレスをじっと見つめ続けた。しばらくして、彼女は小さく微笑むが、その目には涙が浮かんでいた。

「ええ……よく似合ってるわ」

それだけ言い残すと、二人の反応を見ることもなく、静かに二階へ上がっていった。

夕方。

千春は少しだけ夕食を口にすると、そのまま自室へ戻った。

ソファに腰を下ろした途端、下腹部に鋭い痛みが走る。鉛でも流し込まれたように身体は重く、力が入らない。

そのままソファへ倒れ込むと、冷や汗がじわじわと滲み出し、ニットを濡らしていった。

少し遅れて部屋へやって来た透真は、その苦しそうな姿を見るなり表情を変えた。

生理痛だと分かり、慌てて階下へ駆け下り、ホットミルクを持って戻ってくる。

少しずつ口元へ運んで飲ませると、今度は鎮痛薬を飲ませ、掌を温めてから彼女のお腹へそっと当てた。

苦しそうな千春を腕の中へ抱き寄せる透真は、まるで代わりにその痛みを引き受けたいと願っているかのようだった。その瞳には、隠しきれないほどの心配がにじんでいる。

「千春……俺たち、子どもは作らなくていい。生理痛だけでもこんなにつらそうなのに、出産なんて……俺には考えられない」

青白い顔のまま、千春は静かに透真を見つめた。弱々しい声で問いかける。

「でも、子どもを持たなかったら……ご両親は何ておっしゃるかしら」

「そんなの関係ない。誰が何と言おうと、俺にとって一番大事なのは千春だけだ。もし両親がどうしても跡継ぎを望むなら、俺は伊賀崎家を出る。相続だって放棄する」

そう言うと、透真は愛おしむように千春の首筋へ何度も口づけを落とした。

「前にも言っただろ。俺は一生かけて千春を愛したい。俺にとって守るべき存在は、君だけなんだ。だからこれから先もずっと……俺が思いきり甘やかして、一生大切にする」

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