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第2話

Author: 安田徹
杏奈を見た宗谷の顔から、一瞬にして血の気がなくなる。

宗谷は急いで赤子をベビーベッドに戻し、ドアのほうへと急ぎ足で向かった。

「杏奈、どうしてここにいるんだ?」

ほかの者たちも杏奈を見て、表情を一変させる。

「お……奥さん?」

「奥さん、勘違いしないでくださいね!俺たちは琴音さんに子供が生まれたと聞いて、お見舞いに来ただけですから。それに、結城室長とは、偶然道で会ったから一緒に来ただけなんです」

「そうなんです、奥さん。誤解しないであげてください」

こんな状況になっても、宗谷の同僚たちは彼をかばうために、嘘をつき続けている。

だが、彼らが自分を「奥さん」と呼ぶたびに、杏奈には吐き気を覚えるほどの嫌悪感がこみ上げた。

ゆっくりと顔を上げ、宗谷を見据えて静かに口を開く。「宗谷。あなたから説明してくれる?」

「杏奈、落ち着いてくれ……みんなの言う通りで、俺はたまたま来ただけなんだよ」

「こんな状況になってまで、まだそんな嘘をつくの?!」

心が凍ってしまったかのように冷たく、もう感覚は無かった。

しかし、自分の目の前で嘘をつく宗谷に打ちのめされた杏奈は、思わず平手打ちを食らわせた。

「山間部の機密施設で、特殊訓練を指揮するって言ったよね?あ、もしかして産婦人科での訓練もあったの?どこの山で訓練してたか知らないけど、産婦人科って偶然通りかかるもんなんだね!」

宗谷の顔からは血の気が失われている。「きゅ……急に予定が変わって。すまない。杏奈、とりあえず落ち着いてくれ。お腹の子にも――」

「私が悪いんです!杏奈さん、お願いします!もう宗谷さんを叩かないであげてください!」

琴音は子供を抱えたまま、杏奈の前に膝をついた。「宗谷さんは、私に同情して付き添ってくれていただけなんです。でも、私のように夫を早く亡くした女は、子供のために、男に縋って生きていかなければならないんです。あなたから、旦那さんを奪うつもりなんて、一切ありませんから!」

「黙って!宗谷と子供まで作っておいて、奪うつもりなんてないって?」

杏奈が手を上げると、宗谷が強く彼女の手首を掴んだ。

「杏奈、俺のことは叩いたっていい。でも琴音を傷つけるな。出産したばかりでまだ体が弱っているんだから」

宗谷が自分ではなく別の女を庇ったことで、杏奈は急に馬鹿馬鹿しく思えた。「出張で1ヶ月帰れないって言ったのは、ここでこの女と浮気するためだったのね。恥知らずにも程がある」

杏奈は宗谷の手を振り払い、また手を振り上げる。

すると琴音が子供を抱きかかえ、宗谷の背後に逃げ込もうとした。

琴音が子供を盾にするように宗谷の後ろに向かったため、杏奈の手はその子に当たってしまった。

「わあああ!」

子供が琴音の腕から滑り落ちた。

その場の全員がパニックになる。

「赤ちゃん!私の赤ちゃんが!」琴音は泣き叫んで床に落ちてしまった赤子を抱き寄せた。「杏奈さん、どうしてこんなことするんですか!まだ生まれて4日目なんですよ!あなただって母親になるんでしょう?なのに、どうしてこんなことができるんですか?」

まわりの者たちも、杏奈を激しく非難する。

「奥さん、やりすぎじゃないですか?どんなに腹が立ったとしても、赤ちゃんに手を出すなんて!」

「あんな落ち方をしたんだ、どこか怪我をしてるかも。結城室長、早く医者を呼んだほうがいいですよ!」

宗谷も怒りを露わにし、杏奈を睨みつけた。「杏奈、今日は明らかにお前が間違ってる!この子は俺の息子だ。俺の血を分けた息子なんだぞ!」

「そう?」杏奈は涙を流しながら宗谷を見つめる。「じゃあ、私のお腹の中にいるこの子は一体何なの?」

「ねえ、赤ちゃんが泣かない……なんで、泣かないの!宗谷さん、この子死んじゃう!」

琴音の絶叫を聞いて、宗谷も狼狽した。「医者を!誰か医者を呼んでくれ!」

ドアのところに立ったまま、杏奈は表情を変えずに言った。「医者なんか彼らに呼びにいかせればいい。宗谷、最後に一つだけ聞くよ。

私か、それともこの女か……私の子か、その男の子か、どっちか選んで!」

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