LOGINセット割、それは私に縁のない話のようだ。 彼氏の浅野駿(あさの しゅん)とデートをするたびに、なぜか最後にはいつも三人になってしまうのだ。 「商店街の店、セット割やってるから早くおいでよ」 駿はそう言って、私の親友・小林柚葉(こばやし ゆずは)に電話をかけ、当然のように注文した。 知らせを受けて、柚葉がすぐにやってきて、駿の手からストローが刺さったアイスコーヒーを受け取った。 それから、二人はオンラインゲームの話で盛り上がり、言い争いながらも楽しそうだ。 私・一ノ瀬瑠璃(いちのせ るり)はレシートを握りしめた。どうやら今回の「セット割」も私には無縁で、私だけはいつも定価のものを注文させられてしまうのだ。 私が注文したものを受け取った時には、二人はもう店から出ていた。 私は大急ぎで二人に合流しようと、向かいの映画館へと向かった。 中に入ると、柚葉が駿に対してむくれていた。 どうやら駿のカードのセット割は二人分までらしく、私の分まで買えなかったらしい。 私を見かけた柚葉が焦ったように言う。 「瑠璃、急いで。チケットあと1枚買ってきて。あと10分で始まるよ」 そう言いながら、彼女はポップコーンを無理やり私に押し付け、はにかんで笑った。 「セット割のやつ、1つあげるから食べていいよ。 私と駿くんで1つあれば十分だし」 私は言葉を飲み込み、二人を交互に見た。 隣同士の映画チケット、お揃いのアイスコーヒーにスマホケース、チャームペンダント。 その瞬間、私はすべてを悟った。 二人には「セット割」がお似合いだ。なら、私から身を引くのが一番ね。
View More卒業式で、私は成績優秀者の表彰状を受け取った。駿が観客席でカメラを構えていた。私は講堂を出て、先生たちと集合写真を撮った。駿は人混みの外で、切なそうに私を見つめていた。この2週間で、駿の目の下には隈が深く刻まれた。まるで信念を失ったかのように彼はすっかり落ち込んでいた。今も何度か目が合いそうになったが、私は自然と視線をそらした。そして、花束を抱えてアカデミックガウンを脱ぎ、私が大学の門外へ歩き出したときのことだ。駿が急いで追いかけてきた。だが、私はその触れてこようとした手を、振り払った。一方、駿は片手にアカデミックガウン、もう片方にジュースを二本と紙袋を提げていた。「瑠璃、待ってくれ」その瞬間、周囲からは好奇の視線が痛々しく向けられた。耐え切れず、私は木陰へ歩み寄り、野次馬と距離をとってから、冷徹に言い放った。「駿、言いたいことは手短に一度で言って」そう言われ、駿の目に喜びの光が宿った。彼はジュースを差し出して言った。「これからはコーヒーはやめるよ。ジュースしか飲まないし、お前だけにしか買わないよ」断る隙も与えず、駿は袋から二つの小箱を取り出し、慌てて蓋を開けた。すると、二つの指輪が、私の目の前に突き出された。「実家とも話がついた。卒業したらすぐ結婚しよう。結婚式も結納金もすべて準備する。ご両親をギャフンと言わせるほどの盛大な結婚式をあげよう。瑠璃、もう二度と辛い思いはさせないと誓う」そう言われ、私は開いた口が塞がらなかった。以前なら卒業後のプロポーズを夢見ていたかもしれないが、今はただただ反吐が出るほど不快だった。ようやく悟った。駿の私への愛情なんて、所詮は彼の独りよがりの芝居にすぎない。彼はいつも、自分勝手に「一途」という言葉をかざして振る舞いたいだけなんだ。そう振る舞うことで、周りに讃えられて称賛の声に包まれたいだけなんだ。「あなたと結婚するつもりはない。今日の午後の便で東都に向かうわ。『おまけ』でついてくる愛なんて願い下げよ。4年間貯めていた結婚のためのお金は、全額回収させてもらうから」そう言って、私は振込先と金額を送った。「明日までに送金を確認できなければ、警察へ相談する」それを聞いて、駿の唇が震えた。動揺して指輪を落とし、一つは草むらへと消えて
それから、雅美は大勢の前で、審査の裏話をすべて明かした。私が率いたチームは5人構成だったけれど、実際は3人だけで5人分の仕事をこなしていた。深夜まで本社と連絡を取り合い、スマートデバイスの触感データを調整した。週末も返上でユーザーデータを分析し直し、200ページにも及ぶ報告書をまとめた。昼夜を問わず、海外製品の市場動向やフィードバックを調べ上げた。さらに、私は雅美と製品をより深掘りするための開発プランまで立てていた。私たちが必死に働く間、駿は柚葉を連れて山へ遊びに行き、各地のグルメを楽しみ、さらには車まで買いに行っていたのだ。雅美の言葉は冷徹だった。彼女は柚葉を真っ向から責め立てた。「自分は何の仕事もせず足手まといになるだけなのに、瑠璃ちゃんに甘えて当然みたいな顔をするなんて。瑠璃ちゃんが最初から、チームメンバー全員を連れて本社へ行くつもりで動いていたことくらい、知っているでしょ?彼女は自分自身の好待遇を投げ打ってまで、あなたたち二人の席まで確保しようと頑張ったのよ。なのにあなたたちときたら、瑠璃ちゃんに隠れて何をしていたのかしら?誰が恩知らずなのか、一目瞭然よね」雅美は言い放った。「浅野くん、小林さん。あなた方は、これよりわが社の採用ブラックリスト入りとさせてもらいます」結局、この茶番劇は、柚葉が会場を泣きながら飛び出したことで幕を閉じた。私は会場をあとにすると、出口で駿が待ち構えていた。彼は背後に隠していた手を伸ばした。日差しの中、車のキーが銀色の光を放っている。「瑠璃、柚葉の車を決める前から、実は俺、自分で貯めた金でお前に車を予約していたんだ。信じてくれ。ずっと柚葉のことはただの妹だと思ってた。昔、小さい頃に妹を亡くしてな……」私は眉をひそめた。この話を駿から聞くのは初めてだった。以前の私なら、駿の過去の傷を知って心を痛め、柚葉との関係も無理やり納得しようとしたかもしれない。でも今の私の心は全く動じることなく、まるで他人事を聞いたように何も感じることはなかった。だが、駿は私が拒んでいないのを見て、許しを得たかのように、私の掌にその車のキーを押し付けた。「妹にしてあげられなかった分を、柚葉で埋めようとしてただけなんだ。だから、あの日、卒業したら他の人と結婚するっていう
私は少しずつ、駿の指をほどいた。「駿、私たちはもう別れたのよ。私のお金で他の女に車を買ったこと、まだ決着をつけていないわよね?」駿が眉をひそめ、整った顔立ちが怒りで少しずつ歪んでいく。「お前、そこまでひどい言い方をしなくてもいいだろ?いいさ、お前がそんなに冷徹で、俺たちの感情を最初から軽く見てたってことだな。別れる理由を作りたかっただけなんだろ?」でも私は怖気づかなかった。腕を組み、集まった人たちの醜い面々を見ながら嘲笑いを浮かべた。特に、今にも泣き出しそうなフリをして状況を操作する、柚葉の顔を見つめて私は言った。「なら、通報すれば?」そう言われ、柚葉の顔が真っ青になり、唇を噛んで立ち上がると、他のみんなを引っ張って彼女は言った。「もういいよ、行こう。一ノ瀬みたいなコネ持ちには勝てないんだから」「いや、待ってよ」今度は私が、彼らを足止めした。「後になってまたネットの掲示板や大学の公式SNSで、私の悪口を書かれるのはごめんだからね。コネ入社でトップになったとか、犯罪歴があるから成績優秀者にふさわしくないとか、寮でいじめてたとか、好き放題書くつもりでしょ」私はにやりと笑った。柚葉ならそれくらい平気でする女だ。柚葉は顔を赤くし、私を指さした。「4年間も親友だったのに、私のことをそんな風に思ってたの?」「防犯カメラの映像まで使って私を陥れようとしたのに、そう思うのがそんなに酷いこと?」ここまで来て、私は完全に柚葉と縁を切るつもりだった。「あなたが私のことをあざとい言い方で責めた時点で、もう友達じゃないわ」その時、用事を済ませた雅美がやってきて、周囲の学生たちが今回の結果に不満を持っていることを知った。雅美は即座に激怒した。「本社の内定は一ノ瀬さんが自分の努力と成績で勝ち取ったものですよ。皆様も、根拠のない噂に惑わされないでください!」しかし、私は引き下がらなかった。雅美の肩を軽く叩き、ゆっくりと演壇へ向かい、私はプロジェクターを点けた。「柚葉。どうやらあなたは自業自得って言葉、知らないみたいね。じゃ、容赦しないわよ」そう言って、私はまず、警察の捜査で「嫌疑なし」と証明された結果を皆に公開した。「よく見て。警察の調査で車の傷をつけたのは私じゃないって証明されたわ。だから犯罪歴が
車に乗り込んでも私がぼんやりしているのを見て、雅美がもう一度尋ねた。「正社員登用の発表会、まだ間に合うわよ。行かないの?」「行きます」私はきっぱりと答えた。雅美がアクセルを踏み、車は勢いよく走り出した。正社員登用の発表会で、私は毅然とした足取りで人の波をかき分けた。その間、周囲からひそひそ話が聞こえてきた。そこへ、駿が階段を大股で降りてきて、私の後ろに立った。彼は荒い息をつき、焦った様子で私の肩を掴んで尋ねた。「最初から、こうなるって分かってたのか?」私もちょうど合格者リストをチェックしていた。一番上に自分の名前はあったが、下までスクロールしても駿と柚葉の名前は見当たらなかった。この結果は驚くようなことじゃない。二人があれこれ「お揃い」で浮かれている間も、私は不眠と心の痛みに耐えながら、チームの皆とずっと本社のデータ調整を手伝っていたのだから。私は眉を少し上げて、駿に問い返した。「じゃあ、どんな結果を期待してたの?」駿は言葉に詰まり、顔からみるみる血の気が引いていった。隣の柚葉もすかさず私の腕を掴んだ。彼女の手入れしたての爪が食い込んだので、私はそれを振り払った。柚葉は一瞬体勢を崩したが、駿がすぐに彼女を抱え込んだ。二人が絡み合った腕を横目で見て、私は冷ややかに笑った。すると、駿はまるで火傷でもしたように慌てて柚葉を押し退け、両手を挙げて潔白をアピールした。その動作に傷ついた柚葉は、信じられないという目で駿を睨みつけた。続いて全ての憎悪を込めて、柚葉は私に向けて声を張り上げた。「瑠璃、不正したでしょ!」その言葉が会場に響くと、あちこちに潜んでいた疑念や不満が次々と湧きあがってきた。私を非難し、嘲笑う声が渦を巻く。「本当だ。ついこの前まで拘留されたのに、なんで正社員に登用できたんだ?」「コネ入社じゃなきゃ、本社異動で登用されるはずがないだろ」「あいつ、取り入るのが上手いからね。先生や先輩をいいように使って、俺たちが努力して戦ってる横で、ちゃっかり近道して成功したんだよ」「恋人と別れたのも、先に内定が決まってたからじゃないの?」その時、柚葉はいじらしいまん丸の瞳をすっと細めて、毒を含んだ笑みを浮かべた。「聞いた?みんな納得いってないのよ。実力不足だって言わ
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