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私の人生はセット割のおまけじゃない

私の人生はセット割のおまけじゃない

By:  愛夢Completed
Language: Japanese
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セット割、それは私に縁のない話のようだ。 彼氏の浅野駿(あさの しゅん)とデートをするたびに、なぜか最後にはいつも三人になってしまうのだ。 「商店街の店、セット割やってるから早くおいでよ」 駿はそう言って、私の親友・小林柚葉(こばやし ゆずは)に電話をかけ、当然のように注文した。 知らせを受けて、柚葉がすぐにやってきて、駿の手からストローが刺さったアイスコーヒーを受け取った。 それから、二人はオンラインゲームの話で盛り上がり、言い争いながらも楽しそうだ。 私・一ノ瀬瑠璃(いちのせ るり)はレシートを握りしめた。どうやら今回の「セット割」も私には無縁で、私だけはいつも定価のものを注文させられてしまうのだ。 私が注文したものを受け取った時には、二人はもう店から出ていた。 私は大急ぎで二人に合流しようと、向かいの映画館へと向かった。 中に入ると、柚葉が駿に対してむくれていた。 どうやら駿のカードのセット割は二人分までらしく、私の分まで買えなかったらしい。 私を見かけた柚葉が焦ったように言う。 「瑠璃、急いで。チケットあと1枚買ってきて。あと10分で始まるよ」 そう言いながら、彼女はポップコーンを無理やり私に押し付け、はにかんで笑った。 「セット割のやつ、1つあげるから食べていいよ。 私と駿くんで1つあれば十分だし」 私は言葉を飲み込み、二人を交互に見た。 隣同士の映画チケット、お揃いのアイスコーヒーにスマホケース、チャームペンダント。 その瞬間、私はすべてを悟った。 二人には「セット割」がお似合いだ。なら、私から身を引くのが一番ね。

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Chapter 1

第1話

セット割、それは私に縁のない話のようだ。

彼氏の浅野駿(あさの しゅん)とデートをするたびに、なぜか最後にはいつも三人になってしまうのだ。

「商店街の店、セット割やってるから早くおいでよ」

駿はそう言って、私の親友・小林柚葉(こばやし ゆずは)に電話をかけ、当然のように注文した。

知らせを受けて、柚葉がすぐにやってきて、駿の手からストローが刺さったアイスコーヒーを受け取った。

それから、二人はオンラインゲームの話で盛り上がり、言い争いながらも楽しそうだ。

私・一ノ瀬瑠璃(いちのせ るり)はレシートを握りしめた。どうやら今回の「セット割」も私には無縁で、私だけはいつも定価のものを注文させられてしまうのだ。

私が注文したものを受け取った時には、二人はもう店から出ていた。

私は大急ぎで二人に合流しようと、向かいの映画館へと向かった。

中に入ると、柚葉が駿に対してむくれていた。

どうやら駿のカードのセット割は二人分までらしく、私の分まで買えなかったらしい。

私を見かけた柚葉が焦ったように言う。

「瑠璃、急いで。チケットあと1枚買ってきて。あと10分で始まるよ」

そう言いながら、彼女はポップコーンを無理やり私に押し付け、はにかんで笑った。

「セット割のやつ、1つあげるから食べていいよ。

私と駿くんで1つあれば十分だし」

私は言葉を飲み込み、二人を交互に見た。

隣同士の映画チケット、お揃いのアイスコーヒーにスマホケース、チャームペンダント。

その瞬間、私はすべてを悟った。

二人には「セット割」がお似合いだ。なら、私から身を引くのが一番ね。

私が背を向けて歩き出すと、駿が追いかけてきて腕を掴んだ。

「たかが映画のチケットくらいで怒るなよ」

駿はスマホ画面を突きつけ、少し冷たい口調で言う。

「買ってやればいいんだろ?もうすぐ始まるんだ、柚葉を待たせるなよ」

突きつけられて、私は座席番号を見つめた。4列目の5番。

二人は8列目の6番と7番。

駿は、ずっと気が付いていない。チケットがどうこうじゃない。

セット割で買ったチケットのペア席には私じゃなく、柚葉が座るべきだと駿が黙認していることこそが問題なのだ。

そう思って、私は聞き返した。「駿。恋愛映画を3人で見なきゃいけないなんて、変だと思わないの?」

そう聞かれて、駿は呆れたように口走った。「お前が見たくないって言うだけで見ないのか?柚葉はどうなるんだ?」

「駿くん、瑠璃をそんなに怒らないであげてよ。彼女が見たくないっていうなら、無理しなくていいよ」

柚葉が私たちに割って入り、いつものようにいい子ぶって取りなした。

案の定、駿は柚葉の手を引き、私に向かって冷淡に言った。

「俺は怒ってない。瑠璃がいきなり不機嫌になっただけだ。もういいや、勝手にさせておけ。もう入るぞ」

柚葉は唇を噛み、数秒ためらってから私に手を振った。

「じゃあ、瑠璃、先に寮に戻ってて。終わったら連絡するね」

残された私は入口のランプが消えるまで5分間立ち尽くしたが、電話が掛かってくることはなかった。

仕方なく、私はタクシーを拾い、大学へ戻った。

大学4年生になって、他の寮生はみんな退去していて、寮には私と柚葉しか残っていなかった。

心を静め、私はインターン先の先輩、斉藤雅美(さいとう まさみ)に連絡を入れた。

【斉藤さん、浅野くんと小林さんを東都本社の開発部に推薦するのを、辞退させてください】

すると、相手は驚いた様子で返信してきた。

【前まであれほどあの二人が枠に入らないとあなたも行かないなんて言っていたじゃない?

あなたを逃さないよう、私は会社に内定枠を増やしてもらうよう頼んだんだよ】

私は目を閉じ、あのセット割の品々を思い出して覚悟を決めた。

【すみません。考えを改めました】

夜の10時。映画が終わって7時間ほどが経っていた。

駿と柚葉が、笑い合いながら寮に入ってきた。

そして、柚葉が私の首に抱きついて甘えてきた。

「瑠璃、今日はずっとほったらかしでごめんね。

二人でケーキ買ってきたの。許してくれる?」

駿がブルーベリームースを私の前に置いた。

「最後の一つだったけど、柚葉が頑張ってゲットしてあげたんだぞ」

私は笑った。「ムースケーキなんて大嫌いなんだけど」

それは柚葉の大好物だ。

そう言われ、駿は眉をひそめた。「瑠璃、今日はずいぶんと荒れてるな。せっかくのデートなのに、お前の態度のせいで、俺がうんざりだよ」

そんな彼を私は見つめた。うんざりしてる割には、映画を見て、ご馳走まで食べてくる余裕があったのね。

おまけに、私の口コミアカウントを使って食後のレビューまで投稿していたなんて。

しかも、辛い物が好きな駿はあろうことか、柚葉のためにあっさり系の料理ばかりを注文していたのだ。

そう思っていると、柚葉が駿を小さく突っついた。

「駿くん、瑠璃は機嫌が悪いんだから、優しくしなきゃだめだよ」

「分かってるよ。お前がずっとブツブツ言ってたからな」

駿はそう言って、柚葉の頭を撫でて、彼女のデスクへと歩み寄った。

「前に見えにくいって言ってたな。新しいデスクライトを買ってやったよ」

この時、私は初めて気が付いた。駿が手にしていた袋に入っているのは、かつてのように私を喜ばせようとして買って来たものではなかった。

代わりに、柚葉のために買ってきた新しいライトが入っていたのだ。

それから、駿は熱心にライトの角度や明るさを調節してあげた。

ほのかな光に照らされた柚葉の笑顔が、ひときわ輝いて見えた。

私は目を潤ませるのを必死にこらえながら、本棚に吊るしてあったガラスの蝶を見上げた。

それは、駿が私に告白した時にくれた宝物だ。

設計図から色付け、焼き付けまで1ヶ月以上かけて作ってくれたものだった。

私が見つめていたら、不意に駿が手を伸ばしてそれを掴んだ。

彼は躊躇なくそれを柚葉の新しいライトに引っ掛け、自慢げに笑った。

「こう飾ったほうが可愛いだろ」

柚葉が私をチラッと見て言った。「瑠璃、これ、もらっちゃっていい?」

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第1話
セット割、それは私に縁のない話のようだ。彼氏の浅野駿(あさの しゅん)とデートをするたびに、なぜか最後にはいつも三人になってしまうのだ。「商店街の店、セット割やってるから早くおいでよ」駿はそう言って、私の親友・小林柚葉(こばやし ゆずは)に電話をかけ、当然のように注文した。知らせを受けて、柚葉がすぐにやってきて、駿の手からストローが刺さったアイスコーヒーを受け取った。それから、二人はオンラインゲームの話で盛り上がり、言い争いながらも楽しそうだ。私・一ノ瀬瑠璃(いちのせ るり)はレシートを握りしめた。どうやら今回の「セット割」も私には無縁で、私だけはいつも定価のものを注文させられてしまうのだ。私が注文したものを受け取った時には、二人はもう店から出ていた。私は大急ぎで二人に合流しようと、向かいの映画館へと向かった。中に入ると、柚葉が駿に対してむくれていた。どうやら駿のカードのセット割は二人分までらしく、私の分まで買えなかったらしい。私を見かけた柚葉が焦ったように言う。「瑠璃、急いで。チケットあと1枚買ってきて。あと10分で始まるよ」そう言いながら、彼女はポップコーンを無理やり私に押し付け、はにかんで笑った。「セット割のやつ、1つあげるから食べていいよ。私と駿くんで1つあれば十分だし」私は言葉を飲み込み、二人を交互に見た。隣同士の映画チケット、お揃いのアイスコーヒーにスマホケース、チャームペンダント。その瞬間、私はすべてを悟った。二人には「セット割」がお似合いだ。なら、私から身を引くのが一番ね。私が背を向けて歩き出すと、駿が追いかけてきて腕を掴んだ。「たかが映画のチケットくらいで怒るなよ」駿はスマホ画面を突きつけ、少し冷たい口調で言う。「買ってやればいいんだろ?もうすぐ始まるんだ、柚葉を待たせるなよ」突きつけられて、私は座席番号を見つめた。4列目の5番。二人は8列目の6番と7番。駿は、ずっと気が付いていない。チケットがどうこうじゃない。セット割で買ったチケットのペア席には私じゃなく、柚葉が座るべきだと駿が黙認していることこそが問題なのだ。そう思って、私は聞き返した。「駿。恋愛映画を3人で見なきゃいけないなんて、変だと思わないの?」そう聞かれて、駿は呆れたよう
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第2話
そう聞かれ、私は柚葉を見つめた。彼女の瞳はいつも潤んでいて、思わず守ってあげたくなるのだ。思えば、入学当時の柚葉はのどかな地方出身で、おとなしく控えめで、可憐に見えた。あの頃の私は、実家からの仕送りを断って、学費を自分で工面するひもじい生活を送っていた。そんな時、柚葉はいつも「食べきれないから」といって、私に朝ごはんの差し入れをしてくれていた。私の誕生日には、柚葉がそれまで貯めていた全財産をはたいて、スマホを贈ってくれた。だから私も彼女のために何かしてあげたいと思った。柚葉が学食を苦手とするため、私は彼女のために色々と食事を用意してあげた。そんな日々が2学期間続くと、駿すら呆れて、「お前、あいつの身の回りの世話役かよ?」と言ったほどだ。私は言い返した。「ただ世話をしたいわけじゃない。彼女を守ってあげたいの」そして、柚葉も私を守ってくれていた。ある時、出先でトラブルに巻き込まれた際、彼女は私をかばって突き飛ばされ、骨折で3か月も入院した。だから、私は大学生活で駿と柚葉に出会えたことを、一生の幸運だと信じていた。その幸運が、今度はしっぺ返しになって返ってくるなどとは知らずに。「好きにして」冷たく言い放ち、私はスマホを掴んで寮を出ようとした。一方、駿と柚葉はそのまま寮でゲームを始めた。「駿、また彼女さんとお揃いだね」仲間の茶化す声がスマホ越しに聞こえてくる。「マジかよ、セット割でおそろいのアイテムなんてラブラブじゃない。もう羨ましすぎ」立ち去り際、私には駿の屈託のない笑い声が聞こえた。私がいない方が、あの二人は楽しそうだ。街をあてもなくさまよい、私は夜中の12時過ぎに戻った。寮へ戻ると、柚葉が電話をしているのが聞こえた。「駿くんは、大手企業の開発部に内定が決まりそうだって。誰かを推薦できるなら、絶対私を推薦するって言っていたわ。私って瑠璃と違って取り柄がないし、努力家じゃないし……」そこまで聞いて、私はドアを勢いよく開けた。驚いて、柚葉はスマホを隠し、怯えた顔でこちらを見た。「瑠璃……どこ行ってたの?駿くんと一緒にずっと探してたのよ」柚葉の横を通り過ぎる際、そのスマホの画面に駿からの未読メッセージが20件も並んでいるのが目に入った。一方で私には、何一つ音沙汰もな
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第3話
「斉藤さんの誕生会、一緒に行くから」駿はそう言って、早口で私を遮った。彼は私の耳元にキスをすると、少し迷いながらも柚葉のバッグを手に取って外へ飛び出した。その夜、私は寮で朝まで眠れなかった。柚葉は結局戻ってこなかった。翌日、私は一人でタクシーを拾い、雅美の誕生会へ向かった。だが、着いた直後、駿が柚葉を支えるようにして現れた。雅美は眉をひそめて、二人の贈り物を受け取った。そして、私のそばに来ると、こう耳打ちした。「あの二人がお揃いで登場なんて。あなたは一人で来たの?」私は唇を噛みしめて何も言わず、ただ黙り込んだ。それから、柚葉は「エターナル・ラブ」と刻まれたブレスレットを腕につけ、自慢げに口を開いた。「これもセット割がお得だったから、駿くんが私の分まで一緒に買ってくれたの」そう言って、柚葉はわざとらしくブレスレットを外そうとした。「いらない。あなたが付けておけば」私は冷ややかに返した。誕生会の途中、駿がゲームの席に呼ばれて席を外した。柚葉はゆっくりと酒を啜り、酔った様子で急に私の耳元に近づいてきて言った。「瑠璃、いつか駿くんと別れる気になったら、必ず教えてね」私は目を丸くして柚葉を凝視した。照明の光の中で、その瞳には隠しきれない強い欲望が渦巻いていた。私は思わず鼻で笑った。「柚葉、あなたって本当に節操がないのね」柚葉はうつむいたまま、長い睫毛を小さく震わせた。「節操がないんじゃないの。私はあなたよりも現実的なだけよ。瑠璃。私と駿くんが『ペア』なら、あなたは何なのかしら?」「はあ?」私は声を低くして言い返した。だが、柚葉は歪んだ嘲笑を浮かべた。「もちろん、余計な存在よ。つまり、あなたこそがこの関係で邪魔者だってことよ」それを聞いて、私は抑え込んでいた怒りが込み上げてきた。それと同時に、積み重なった切なさが理性を打ち砕いた。私はテーブルの上の氷のバケツを掴み、柚葉の顔に浴びせた。「柚葉、いつからそんな恥知らずな女になったの?」途端に、柚葉は金切り声を上げて泣き出した。「瑠璃、私と駿くんはそういう関係じゃないの」それを見た駿は、駆けつけてきて柚葉を抱きしめ、怒りに震えながら私を怒鳴りつけた。「瑠璃、もういい加減にしろよ!」「いい加減にするのはそ
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第4話
それから丸1週間、駿と柚葉は大学に姿を見せなかった。卒業記念の集合写真撮影の日、ようやく二人は遅れてやってきた。駿は花束を抱えており、人混みを縫うようにして、私の方へ歩み寄ってきた。それを見て、周囲の同級生たちが野次を飛ばした。「わー!瑠璃ちゃん、大学4年間、一番見せつけてきたカップルがついに結ばれるのね」「そういえば入学した頃、先生が出欠をとったときも、浅野くんが立ち上がってこう言ってたよな。『先生、こんにちは。瑠璃の彼氏です。付き添いで来ました』って!」それを聞いて、周囲がさらにどっと沸き立った。そんな中、駿は悠然とみんなとあいさつを交わした。だが、私が完全に無視を貫くのを見ると、彼はあっさりとその花束を柚葉の手に預けた。それを受けて、柚葉が驚いた声を上げた。「ありがとう、駿くん」一瞬にしてその場は静まり、気まずい空気が流れた。駿は私を見つめ、低い声で言った。「本社に、二人分の異動枠が確保できた。その内の一枠は柚葉にあげることにしたんだ。お前はここで今の仕事を続けてろ。俺が東都で基盤を整えたら、結婚のことをまた考えよう。これを俺からのお前への試練だと思え。合格できたら、東都で結婚してやるから」それを聞いて、私は一瞬呆然とした。駿はなぜ自信満々に、私が待っていると確信できたんだろう?一方、柚葉は口元を覆い、あどけない顔で信じられないといった風に目を丸くした。「瑠璃、そうだったのね。私が本社へ異動できるのを知ったから怒ってあんなことしたの?もしあなたがしたって分かっていたら、通報なんてしなかったのに……」私ははっとした。「何?通報って?」柚葉がスマホから動画を見せ、皆にさらけ出した。そこには、彼女の車が傷つけられ、「アバズレ」と刻まれる映像が流れていた。その監視カメラがとらえた映像には私が映っていた。私は気がめいるとよく図書館裏の林へ息抜きに行く習慣があった。駿たちの行方が分からなくなった数日間、私は確かにそこへいた。「私じゃない!」しかし、私がそう言い終える前に、パトカーがサイレンを鳴らしてやってきた。「柚葉、私がやってないことを知ってるでしょ」私は焦って、柚葉の手首を掴みかかった。卒業間近なのだ。ここで前科を作るわけにはいかない。でも、柚葉はまるで
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第5話
車に乗り込んでも私がぼんやりしているのを見て、雅美がもう一度尋ねた。「正社員登用の発表会、まだ間に合うわよ。行かないの?」「行きます」私はきっぱりと答えた。雅美がアクセルを踏み、車は勢いよく走り出した。正社員登用の発表会で、私は毅然とした足取りで人の波をかき分けた。その間、周囲からひそひそ話が聞こえてきた。そこへ、駿が階段を大股で降りてきて、私の後ろに立った。彼は荒い息をつき、焦った様子で私の肩を掴んで尋ねた。「最初から、こうなるって分かってたのか?」私もちょうど合格者リストをチェックしていた。一番上に自分の名前はあったが、下までスクロールしても駿と柚葉の名前は見当たらなかった。この結果は驚くようなことじゃない。二人があれこれ「お揃い」で浮かれている間も、私は不眠と心の痛みに耐えながら、チームの皆とずっと本社のデータ調整を手伝っていたのだから。私は眉を少し上げて、駿に問い返した。「じゃあ、どんな結果を期待してたの?」駿は言葉に詰まり、顔からみるみる血の気が引いていった。隣の柚葉もすかさず私の腕を掴んだ。彼女の手入れしたての爪が食い込んだので、私はそれを振り払った。柚葉は一瞬体勢を崩したが、駿がすぐに彼女を抱え込んだ。二人が絡み合った腕を横目で見て、私は冷ややかに笑った。すると、駿はまるで火傷でもしたように慌てて柚葉を押し退け、両手を挙げて潔白をアピールした。その動作に傷ついた柚葉は、信じられないという目で駿を睨みつけた。続いて全ての憎悪を込めて、柚葉は私に向けて声を張り上げた。「瑠璃、不正したでしょ!」その言葉が会場に響くと、あちこちに潜んでいた疑念や不満が次々と湧きあがってきた。私を非難し、嘲笑う声が渦を巻く。「本当だ。ついこの前まで拘留されたのに、なんで正社員に登用できたんだ?」「コネ入社じゃなきゃ、本社異動で登用されるはずがないだろ」「あいつ、取り入るのが上手いからね。先生や先輩をいいように使って、俺たちが努力して戦ってる横で、ちゃっかり近道して成功したんだよ」「恋人と別れたのも、先に内定が決まってたからじゃないの?」その時、柚葉はいじらしいまん丸の瞳をすっと細めて、毒を含んだ笑みを浮かべた。「聞いた?みんな納得いってないのよ。実力不足だって言わ
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第6話
私は少しずつ、駿の指をほどいた。「駿、私たちはもう別れたのよ。私のお金で他の女に車を買ったこと、まだ決着をつけていないわよね?」駿が眉をひそめ、整った顔立ちが怒りで少しずつ歪んでいく。「お前、そこまでひどい言い方をしなくてもいいだろ?いいさ、お前がそんなに冷徹で、俺たちの感情を最初から軽く見てたってことだな。別れる理由を作りたかっただけなんだろ?」でも私は怖気づかなかった。腕を組み、集まった人たちの醜い面々を見ながら嘲笑いを浮かべた。特に、今にも泣き出しそうなフリをして状況を操作する、柚葉の顔を見つめて私は言った。「なら、通報すれば?」そう言われ、柚葉の顔が真っ青になり、唇を噛んで立ち上がると、他のみんなを引っ張って彼女は言った。「もういいよ、行こう。一ノ瀬みたいなコネ持ちには勝てないんだから」「いや、待ってよ」今度は私が、彼らを足止めした。「後になってまたネットの掲示板や大学の公式SNSで、私の悪口を書かれるのはごめんだからね。コネ入社でトップになったとか、犯罪歴があるから成績優秀者にふさわしくないとか、寮でいじめてたとか、好き放題書くつもりでしょ」私はにやりと笑った。柚葉ならそれくらい平気でする女だ。柚葉は顔を赤くし、私を指さした。「4年間も親友だったのに、私のことをそんな風に思ってたの?」「防犯カメラの映像まで使って私を陥れようとしたのに、そう思うのがそんなに酷いこと?」ここまで来て、私は完全に柚葉と縁を切るつもりだった。「あなたが私のことをあざとい言い方で責めた時点で、もう友達じゃないわ」その時、用事を済ませた雅美がやってきて、周囲の学生たちが今回の結果に不満を持っていることを知った。雅美は即座に激怒した。「本社の内定は一ノ瀬さんが自分の努力と成績で勝ち取ったものですよ。皆様も、根拠のない噂に惑わされないでください!」しかし、私は引き下がらなかった。雅美の肩を軽く叩き、ゆっくりと演壇へ向かい、私はプロジェクターを点けた。「柚葉。どうやらあなたは自業自得って言葉、知らないみたいね。じゃ、容赦しないわよ」そう言って、私はまず、警察の捜査で「嫌疑なし」と証明された結果を皆に公開した。「よく見て。警察の調査で車の傷をつけたのは私じゃないって証明されたわ。だから犯罪歴が
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第7話
それから、雅美は大勢の前で、審査の裏話をすべて明かした。私が率いたチームは5人構成だったけれど、実際は3人だけで5人分の仕事をこなしていた。深夜まで本社と連絡を取り合い、スマートデバイスの触感データを調整した。週末も返上でユーザーデータを分析し直し、200ページにも及ぶ報告書をまとめた。昼夜を問わず、海外製品の市場動向やフィードバックを調べ上げた。さらに、私は雅美と製品をより深掘りするための開発プランまで立てていた。私たちが必死に働く間、駿は柚葉を連れて山へ遊びに行き、各地のグルメを楽しみ、さらには車まで買いに行っていたのだ。雅美の言葉は冷徹だった。彼女は柚葉を真っ向から責め立てた。「自分は何の仕事もせず足手まといになるだけなのに、瑠璃ちゃんに甘えて当然みたいな顔をするなんて。瑠璃ちゃんが最初から、チームメンバー全員を連れて本社へ行くつもりで動いていたことくらい、知っているでしょ?彼女は自分自身の好待遇を投げ打ってまで、あなたたち二人の席まで確保しようと頑張ったのよ。なのにあなたたちときたら、瑠璃ちゃんに隠れて何をしていたのかしら?誰が恩知らずなのか、一目瞭然よね」雅美は言い放った。「浅野くん、小林さん。あなた方は、これよりわが社の採用ブラックリスト入りとさせてもらいます」結局、この茶番劇は、柚葉が会場を泣きながら飛び出したことで幕を閉じた。私は会場をあとにすると、出口で駿が待ち構えていた。彼は背後に隠していた手を伸ばした。日差しの中、車のキーが銀色の光を放っている。「瑠璃、柚葉の車を決める前から、実は俺、自分で貯めた金でお前に車を予約していたんだ。信じてくれ。ずっと柚葉のことはただの妹だと思ってた。昔、小さい頃に妹を亡くしてな……」私は眉をひそめた。この話を駿から聞くのは初めてだった。以前の私なら、駿の過去の傷を知って心を痛め、柚葉との関係も無理やり納得しようとしたかもしれない。でも今の私の心は全く動じることなく、まるで他人事を聞いたように何も感じることはなかった。だが、駿は私が拒んでいないのを見て、許しを得たかのように、私の掌にその車のキーを押し付けた。「妹にしてあげられなかった分を、柚葉で埋めようとしてただけなんだ。だから、あの日、卒業したら他の人と結婚するっていう
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第8話
卒業式で、私は成績優秀者の表彰状を受け取った。駿が観客席でカメラを構えていた。私は講堂を出て、先生たちと集合写真を撮った。駿は人混みの外で、切なそうに私を見つめていた。この2週間で、駿の目の下には隈が深く刻まれた。まるで信念を失ったかのように彼はすっかり落ち込んでいた。今も何度か目が合いそうになったが、私は自然と視線をそらした。そして、花束を抱えてアカデミックガウンを脱ぎ、私が大学の門外へ歩き出したときのことだ。駿が急いで追いかけてきた。だが、私はその触れてこようとした手を、振り払った。一方、駿は片手にアカデミックガウン、もう片方にジュースを二本と紙袋を提げていた。「瑠璃、待ってくれ」その瞬間、周囲からは好奇の視線が痛々しく向けられた。耐え切れず、私は木陰へ歩み寄り、野次馬と距離をとってから、冷徹に言い放った。「駿、言いたいことは手短に一度で言って」そう言われ、駿の目に喜びの光が宿った。彼はジュースを差し出して言った。「これからはコーヒーはやめるよ。ジュースしか飲まないし、お前だけにしか買わないよ」断る隙も与えず、駿は袋から二つの小箱を取り出し、慌てて蓋を開けた。すると、二つの指輪が、私の目の前に突き出された。「実家とも話がついた。卒業したらすぐ結婚しよう。結婚式も結納金もすべて準備する。ご両親をギャフンと言わせるほどの盛大な結婚式をあげよう。瑠璃、もう二度と辛い思いはさせないと誓う」そう言われ、私は開いた口が塞がらなかった。以前なら卒業後のプロポーズを夢見ていたかもしれないが、今はただただ反吐が出るほど不快だった。ようやく悟った。駿の私への愛情なんて、所詮は彼の独りよがりの芝居にすぎない。彼はいつも、自分勝手に「一途」という言葉をかざして振る舞いたいだけなんだ。そう振る舞うことで、周りに讃えられて称賛の声に包まれたいだけなんだ。「あなたと結婚するつもりはない。今日の午後の便で東都に向かうわ。『おまけ』でついてくる愛なんて願い下げよ。4年間貯めていた結婚のためのお金は、全額回収させてもらうから」そう言って、私は振込先と金額を送った。「明日までに送金を確認できなければ、警察へ相談する」それを聞いて、駿の唇が震えた。動揺して指輪を落とし、一つは草むらへと消えて
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