Masuk国内では、遥貴の存在が発表されてからというもの、王制復活を推す世論が優勢になってきていた。しかし、様々な憶測が飛び交い、偽物説もささやかれ、議会の方も混迷を深めた。そこで、復権党では次の手を考えた。遥貴を露出させる事だ。遥貴の顔を見れば、尊人の血を引く者であることは誰にでも分かる事だ。これで世論は完全にこちら側に着くと踏んだ。 再び記者会見を開き、遥貴をそこへ登場させた。まだ12歳の身空で、ましてやこの国の地を踏んだのはついこの間が初めてだというのに、全国民の目に晒されたのだ。どれだけ心細い事か、と未来は心配したが、遥貴は毅然としていた。 遥貴がイギリスに住んでいた事は明かされたが、尊人は依然国内に幽閉されている事になっている。尊人に育てられたのだという事にならない。そこをどうしたらいいのか、未来も一緒になって党のメンバーと話し合ったが、まだ結論は出なかった。やはり遥貴の存在はベールに包まれたままだったのである。 ある日、館にお客様が来ると言われ、未来が玄関に迎えに出ると、なんとそのお客とは麗良だった。「未来さん!お久しぶりね!」「麗良さん!どうしたんですか?この国にどうやって入国したんです?」未来が驚いて聞くと、麗良は目を見開いて、「何言ってんの、未来さん。私はイタリア国籍を持った普通のイタリア人なんですからね、ビザなしでこの国には旅行に来られるのよ。」と言った。未来はあまりびっくりして気が動転してしまったが、確かにその通りであった。「でも、どうしてここに?」「決まってるじゃないの。尊人さんのお子さんに会いに来たのよ。」麗良はしれっと言う。 復権党のメンバーは、麗良はかつての王妃であるから、それはそれは特別待遇でもてなした。そして、遥貴が登場した。「まあ!ほんと、尊人さんにそっくりね!」麗良は驚いて声を上げた。「思わず私の子かと思ってしまうわね。なんて、冗談よ。」麗良は笑う。「あの、麗良さん……どこまでご存じなんですか?」未来はおずおずと聞いた。普通に考えたら、尊人とどこぞの女の子供か、と思うだろう。そして、良くは思わないだろう。元妻としては。そこに恋愛感情がなかったにしても。「まあ、半信半疑だったけどね。顔を見て確信したわ。全くのコピーだものね。」そう麗良は言って、遥貴に近づいた。「遥貴さん、私をお母さんだと思って、
未来は、遥貴にこっそり通信機器を渡そうかとも思ったが、やはり正面から面会を求めることにした。外務省職員としてというよりは、かつて尊人のボディーガードをしていた友人として、遥貴の力になりたいと申し出たのだ。そのためには、王制復権党に入党しなければならなかった。不本意ながら、仕方なく党員となり、あの邸宅(党首の実家)に出入りできるようになった。「遥貴様が国王になれば、お前を傍に置いてやってもいい。そうしたら外務省は辞める事になるが。」党首に言われたが、むろん、そのつもりだと答えた。そもそも、遥貴に危険が及ばないかどうか、探りを入れるために外務省に入ったのだ。遥貴がこっちにいる限り、外務省にいる必要はない。そして、教育係の1人として、遥貴には定期的に会えるようにしてもらった。 遥貴は学校には行かず、家庭教師による教育が施された。英語の授業はほとんど必要ないが、本国の歴史や国語は、一から学ぶ必要がある。特に国語は、会話は出来ても文字はあまり得意ではなかった。しかも、歌を詠むなど、国王には苦手といってはいられない物がある。また、帝王学には「人に平等に接し、好き嫌いを振り回さない」「物事にこだわり過ぎない、夢中になりすぎない」「感情をあまり外に表さない」などがあり、更に国王は「国民との接し方」「宮中行事」「テーブルマナー」「王族のしきたり」なども学んでおかなければならない。尊人は、そう言ったものを学んだ後にイギリスに留学したが、遥貴は順番が逆のようなものだった。だが、尊人にしつけられている。先にテーブルマナーが完璧だと記したが、実は自然と「平等に接する」とか「感情をあまり出さない」などは、常にそう育てられてきていた。 「そうか、尊人が感情的にならないのは、そういう性格なのではなく、そう育てられていたからだったんだな。それで、いつまでも健斗の事が好きだって事に、自分でも気づけなかったわけだ。」未来は今更ながら納得した。帝王学というものを知ることによって、今やっと尊人の事を本当に分かった気がした。あれだけ傍にいながら。「遥貴、お前は人に対して好き嫌いを言ってはならない。あの人は好きだから話すけれど、この人は嫌いだから話さないなど、差別をしてはいけない。分かったか?」未来は、帝王学を教えるという役を担った。それぞれ専門家が教育に当たったが、道徳のようなものに関しては
実は、遥貴はテーブルマナーを完璧に仕込まれていた。姿勢も良く、周りの大人たちを感心させた。「うーむ、尊人様がお育てになっただけの事はある。もしかしたら、帝王教育などはそれほど必要ないかもしれないぞ。」大人たちは囁き合った。そして、彼らは気が早く、翌日には早速記者会見を開いた。彼らはやはり王制復権党のメンバーだった。遥貴を出しては来なかったが、尊人の血を引く子供がいる、という事を発表したのだ。 未来は、一度遥貴が無事だと言う電話を健斗にしていたが、改めてこのニュースが出た後にも電話をした。そして、尊人に代わってもらった。「尊人、ごめん。遥貴を救い出す前に、発表されてしまった。だが、遥貴が、自分は国王になると言ったんだ。それで、無理に連れ帰るべきかどうか、迷ってしまって。」「遥貴が?国王になるって?……そうか。なるほど。」尊人は意外に落ち着いていた。「何が、なるほどなんだ?」未来が聞くと、「いや、何でもない。」と言って、ちょっと笑っている。息子を奪われたというのに、どうしちゃったのかと未来は訳が分からなかった。「遥貴は、俺の分身だから分かるんだ。」尊人が言う。「何が分かるの?」未来が聞くと、「遥貴は、未来と一緒にいたくて、こっちに帰りたくないんだろう。国王になるかどうかなんて、あまり考えていないと思うよ。」尊人が言う。「え?は?そんな、軽く言ってる場合か?お前は遥貴を国王にしたくないだろ?自分の元に帰ってきて欲しいだろ?」未来が言うと、「それはそうなんだけど。でも、遥貴が幸せなら、それが一番なんだ。もし、遥貴が国王になったら、俺は晴れて本国に帰れるんじゃないのか?そうしたら一緒に暮らせる。」尊人は予想外な事を連発する。「いやいや、あれだけ国王を嫌がっていたのにさ、それを自分の分身にはさせてもいいっていうのは、理解できないんだが。」未来が言うと、尊人は、「そこは、俺と遥貴の違う所なんだな。遥貴は、今までのまま、俺とイギリスで暮らしても、幸せにはなれない。本国にいかないと。未来と一緒にいないと。本国に行くなら、国王になるしかない。もし嫌なら、また辞めてしまえばいいんだ。」なんて事を言う。「お前、親になって変わったな。田舎暮らしをしておおらかになったのかな。」そんな感想しか未来には言えなかった。「尊人も健斗も、遥貴が俺
未来は、外務省の仕事のふりをして国土交通省を訪ねていき、首都近郊の空港に着陸する小型飛行機を調べた。どうか、地方の空港ではありませんように、と願いながら。地方だったらもうアウトだ。見つけられない。イギリスを発ったのが正確に何時なのかは分からない。まして、飛行機の大きさも分からない。自分たちがこっそり出国したのがイタリア籍の民間の飛行機だったので、そのようなものではないか、と当たりをつけて探した。そして、2つの飛行機を特定した。 誘拐ではあるが、尊人のクローンの存在はこの国に知られては困る。だから警察や政府に知らせるわけには行かない。何とか自分が見つけ出し、取り返して尊人の元へ返す。今はただ、そう心に誓って動くのみだ。 本職を少し早めに切り上げ、空港に出かけた。イギリスからは飛行機で約12時間かかる。どんなに早くても夕方の5時頃本国に到着するはずだ。空港では、外務省の権限で、夕方到着する飛行機を探し出した。まず、少し早いがこれかなと当たりをつけた一機は、外国の金持ちの自家用機だった。到着したその場で中を改めたが、外れだった。本国の人間はいないし、荷物もいたってシンプルだった。 次の飛行機は、本国の財閥の持ち物。金持ちはいるものだな、と未来は思った。これは、表立って点検して良いものか。外国籍の飛行機なら、外務省が点検してもよさそうだが、本国の、しかも財閥のものとなると、一職員が何かしようものなら、たちどころに上司の知るところとなり、警備員に引きずり出されるに違いない。未来は、今度の飛行機は慎重に、そう、外務省職員ではなく、忍者になって調べる事にした。懐かしい。もう何年も忍術なんて使っていない。体は多少鍛えているけれど。 陰に隠れ、飛行機から降りてくる面々を見ていたが、その中に遥貴はいなかった。という事は、荷物の中に閉じ込められているのかもしれない。荷物を追いかけ、空港の中を移動し、荷物がトラックに積み込まれた際、未来も一緒に乗り込んだ。 車は割とすぐにどこかに到着した。荷物が取り出される際、未来は荷物に身を隠しながら一緒にトラックの荷台を降り、車体の陰に隠れた。そして、辺りを素早く見渡す。閑静な住宅街の中の、豪勢な邸宅だった。その門の中に入っている。黒いぴったりとした服を着た未来は、そろそろ薄暗くなりかけた庭を素早く移動し、中が見える窓を探した。 窓から
何事もなく、2週間ほどの未来の滞在期間が過ぎ、未来は本国へ帰った。夏休みももうすぐ終わる。9月から、遥貴は小学生最後の学年になる。 8月下旬のある日、未来のスマートフォンに健斗から電話がかかってきた。電話が来るのは珍しい。明け方の5時だった。時差があるので、健斗のいるイギリスでは夜の8時だ。まだ寝ていた未来が何とか電話に出ると、切羽詰まった健斗の声が耳を貫いた。「未来、大変だ!遥貴がいなくなった!どうしよう、誘拐されたのだろうか?ああ、独りにしなけりゃよかった。家から近い友達の所に行くからと、自転車で出かけたんだよ。」「健斗、落ち着け。いなくなったって、どういうことだ?友達の家には確認したのか?」未来が問うと、健斗は泣きそうな声で説明した。「友達の家からは夕方5時過ぎに出たそうなんだ。6時になっても帰ってこないから連絡した。それから探しに出かけたが、道の途中に遥貴の自転車が止めてあったんだ。そこで連れ去られたとしか考えられない!」「それで、警察には連絡したのか?」「したよ。今も探してくれている。だが、もしかしたら、もうそっちに向かっているんじゃないかと思って。」未来は、やっと状況が飲み込めて来た。きっとそうだ。遥貴は我が国の誰かに連れ去られ、おそらく飛行機で我が国に向かっているに違いない。まだしばらくは到着しないだろうから、これから着陸する飛行機を当たれば、あるいは探し当てることができるかもしれない。「分かった。俺がこっちで探してみる。連絡を待っていろ!」そう言って、未来は電話を切った。こうしちゃいられない。未来はすぐに飛び起きて支度をし、家を飛び出した。
食事が終わり、未来は遥貴の部屋に行った。この3年の間に何をして、どこへ行って、どんな事を感じたのか。さっきははにかんでいたものの、やはりまだ小学生。遥貴は未来に写真を見せたり、作った工作を見せたりしながら、いろいろと語ってくれた。背は伸びても、やはり子供だと、未来はベッドに並んで腰かけ、時々遥貴の頭を撫でながら思っていた。「ああ、俺にも子供がいたらなあ。遥貴みたいな子供が。」最後にそう言って遥貴の頭をなでなですると、遥貴は真面目な顔で、「じゃあ、僕はこれから未来の子になろうか?」と言った。未来は、この顔で俺の子はないだろう、と内心で思いながら、遥貴の優しさに顔をほころばせた。 遥貴にお休みを言ってから、未来は健斗に尋ねた。「遥貴はさ、自分の出生の事情、どこまで知ってるんだ?」健斗は一瞬沈黙した後、「クローンだって事は、言ってないんだ。」と言った。「じゃあ、どこかに母親がいると思っているのか?」未来が言うと、健斗はただ頷いた。「そうか。まあ、クローンという話はしにくいか。だけど、そのうち母親に会いたいとか、考えたりするだろうよ。」未来が言うと、「未来さ、お前、上手く話してやってくれないかな?」健斗がそんな事を言い出した。「は?俺が?そんな大事な事、他人が話していいのかよ。」未来が驚いて言うと、「他人の方が話しやすいというか、遥貴が聞きやすいかなと思ってさ。いや、ただの他人じゃだめだけど、未来ならいいんじゃないか、と。」健斗が変な事を言う。「そうかぁ?たまにしか会わないような、俺がか?」未来は怪訝そうに言った。「だってさ、未来は頭がいいし、なにしろ、遥貴が大好きな相手だしさ。」そう言われて、未来は悪い気がしなかった。「分かったよ。滞在中に何とか話してみるよ。」と、つい請け合ってしまった。 未来と遥貴はいろいろなところへ出かけた。時にはロンドンまで行って買い物をしたり、映画を見たりした。ハリーポッターの映画に出てくる場所を巡ったり、2階建てバスにも乗った。ある時は近くに釣りに出かけた。その時、静かな場所で、親2人もいないところで、例の話を切り出した。「遥貴はさ、自分がどうやって生まれたのか、知りたいか?」未来がぽつりと言うと、遥貴は未来の横顔を凝視した。「未来は、知ってるの?僕が生まれた時の事を。」遥貴が問う