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第五話

作者: 百瀬 三月
last update publish date: 2026-06-10 10:48:01

学生寮に戻ったのは、午後4時を少し回った頃だった。

部屋に入るなりベッドに腰を下ろし、鞄を床へと放り投げる。

空き教室での会話が、まだ耳を占領している

共通夢。

夢の中で落ち合う。

にわかには信じがたい話だ。

普通だったら、興味も湧かなかっただろう。

しかし、夜になるまで何を考えても空回りするだろう。

一度深く息を吐き、スマホで夕食前の時間にアラームを設定した。

まだ時間はある。

余計な考えが脳を占領するよりも、一度寝てリセットした方が良いと考えた。

部屋の電気を消し、制服のままベッドの上で目を閉じる。

意識はすぐに沈んでいった。

また、妙な違和感を感じた。

目をゆっくりと開ける。

──青白い空間。

「あなたとは、何か縁があるようですね」

空間内に声が響いた。

目前へと視点を向けると、そこに朝と同じ少女が立っていた。

穏やかな表情の奥に、真剣な眼差しが宿っている。

「朝の質問……覚悟は、決まりましたか?」

迷わず頷いた。

「夢の探究者とやら、受けさせてもらうよ」

この町の『夢』の原因を、一緒に突き止める」

少女の唇が、ほんの少しだけ緩んだ。

安堵したような、それでいてどこか寂しげな微笑みだった。

「あなたなら、そう言うと思っていました」

「では、あなたを夢の世界に入れる手配をいたします」

「夜までには、入れるようになるはずです。またお越しください」

「待って。君は一体──」

質問を続ける間もなく、少女は小さく頭を下げた。

少女が頭を上げる動作を見送ることもなく、視界が揺らいでいく。

「……っ」

飛び起きるように体を起こした。

ベッドの横ではスマホのアラームが部屋に鳴り響いている。

時刻は午後六時半を過ぎていた。

ロビーへ降りていくと、キッチンで衣百合(いゆり)が夕食を準備しているところだった。

制服ではなく部屋着かつエプロン姿な彼女に、どこか新鮮味を感じる。

「……おはようございます」

「あっ、枝先くん! 」

「って、寝起き?」

彼女は振り返り、少し困惑気味でこちらを見ていた。

「……はい」

少し遠慮気味に答えた。

そのままキッチンに近づき、彼女の横に並んだ。

「何か手伝えること、あります?」

「えっ、いいの?」

「じゃあ……そこの鍋、見ててくれる? 吹きこぼれないように」

彼女はコンロの上にある鍋を指差した。

鍋の中は、濃厚そうなカレーがぐつぐつと煮えていた。

木べらでかき混ぜていると、彼女が大きくため息を吐き出した。

「枝先(えださき)くん、頼りになるよね」

「亮(りょう)にも見習ってほしいよ~」

愚痴のようなものを吐露していた。

もちろん、本気で思っているような口調ではない。

「そう言えば、亮はどこに?」

「さあね~」

彼女は嘲笑気味に笑った。

「女遊びがひどいって有名だし、どっかに遊びに行ってるんじゃないかな」

「まぁ、流石にもうすぐ帰ってくると思うけど」

その言葉が終わらないうちに、玄関のドアが開く音がした。

「ただいまー」

小柄な体で駆け込んできたのは亮(りょう)だった。

彼は制服のまま、荷物を放り投げてソファに深く座り込んだ。

衣百合(いゆり)はキッチンから怪訝そうに亮(りょう)を見ていた。

亮(りょう)に聞こえないぐらい小さな声で彼女に話しかける。

「……いつもあんな感じなんですか?」

「……そうだよ」

彼女も同じように小声で話す。

「枝先くん、あいつをどうにかしてよ……」

普段から頭を悩ませている存在らしい。

「いやいや、まだ他人ってレベルですよ?」

「いきなりとやかく言うのは流石に……」

そんな勇気はない。

できるだけ温厚な関係を築くためにも、最初は色々と見逃すべきだろう。

「だよねぇ…」

そう言っていると、料理ができたようだ。

とは言ったが、今日はこれといった一品料理はなく、代わりにカレーが煮えている。

彼女が手をメガホンのようにして口元に当てる。

「亮~!」

「今日はカレーだから、こっちきて自分で盛ってよ~!」

「はいはい~」

ロビーから適当な返事が返ってきた。

制服を汚さないためにも、着替えるために一度部屋へと戻ることにした。

「じゃあ、一回部屋に戻ります」

「うん。また後でね」

キッチンから離れる。

亮(りょう)とは入れ違いになった。

そのまま、そそくさとキッチンへ姿を消していった。

階段を上がっている最中、キッチンで二人が談笑しているのが見えた。

何を話しているのか聞こえなかったが、彼女の「うるさい!!!」という大声だけがこちらに聞こえてきた。

それを微笑ましく見届け、部屋へと戻った。

着替えてロビーに戻ると、二人が談笑しながら食べていた。

キッチンへと足早に行き、棚から皿を探して盛り付ける。

カレー特有のスパイスが鼻を刺激する。

そのままロビーへと配膳した。

どこに座るか一瞬迷ったが、年頃の女性の隣に座るというちょっとした気恥ずかしさもあり亮(りょう)の隣へと座る。

「あ」

座った直後、亮(りょう)が口をもごもごさせながらこちらに目線を向けてきた。

「朝別れた後、教室行けた?」

「もちろん」

自信満々に答える。

「お、ならよかった」

その後は、三人で談笑して食事の時間が終わった。

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