All Chapters of 夢幻の旅路と二つの世界 〜『夢』に喰われる街で、能力“ブラム”で世界を救う〜: Chapter 1 - Chapter 10

29 Chapters

第一話 春が始まる

四月七日 夕方。「ガタンガタン」電車の揺れが、窓ガラスに映る曇り空を震わせている。だが、その揺れがどうも心地いい。「次は、冨永山町~。お出口は左側です」車掌の声が響いた瞬間、妙な胸騒ぎに襲われる。『一体…』そう思考を巡らせるが、どうもその正体はわからない。東京とはまるで違う、のどかな山間の町。とある事情で越してくることになったこの場所に、淡い期待と言いようのない不安を抱いていた。東京に未練がないと言えば嘘になる。親しくしている友人も、数は少ないが確かに居た。慣れた街並み、雑多の中を歩く感覚。そのどれもが、今の現状とともに薄れゆく。それでもここに来ることを選んだのは、失うことに慣れているからかもしれない。ふと眠気が体を襲い、少しだけ目を閉じる。瞼をそっと落とす。そのとき――聞き覚えがあるようでない声が、脳裏に響いた。不快感はなく、むしろヒーリング音楽のような心地の良い女性の声。ふと瞼を開けると、そこは電車内の景色とは似ても似つかなかった。全体が青白い空間に、一人で立たされている。両手をパタパタと閉じては開いてを繰り返す。その感覚は、現実と瓜二つのように感じる。目前に視線を見やると、古びた椅子に腰掛けている一人の女性が静かに微笑んでいた。「また、お会いしましたね」蝶々の模様が付けられている白いワンピースを可憐に着こなしている。年は同じくらいだろうか。若々しい印象だ。いきなりの状況に言葉を失う。面食らっている間に、女性が話を続ける。「あなたがこの町に来るということは、それ相応の覚悟があるのでしょう」「ただ……」「引き返すなら今です。ここで決断なさい」なんのことだか見当がつかない。しかし、不思議と嫌な気持ちはしない。そんな驚嘆している状況を横目に、女性は淡々と続ける。「記憶を消してこの町から去るか」「それとも——」「ここで出会う仲間たちとの、かけがえのない記憶を取り戻すか」この女性が言っている言葉の意味がわからない。わからないはずなのに。『ここで出会う仲間たち』この言葉が胸の奥に引っかかる。どうしてかの理由は見当たらない。数秒考える。そして、ゆっくりと答えた。「……俺には——」「俺には、ここ以外に行けるところがない」女性はそっと胸を撫で下ろし、安堵したように微笑んだ。「あなた
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第二話

睡眠に入ってどれくらい経った頃だろうか。また、聞き覚えのある声が脳内に直接流れ込んできた。電車内で起きた出来事とは違い、言葉であるはずなのに意味だけが抽出されて流れこでくる。その声が聞こえた瞬間、飛び起きたような感覚に陥った。「はっ…!」咄嗟に目を開けると、そこはさっき見た青白い空間と似たような場所だった。ただ、少し違う点がある。さっきの女性の姿はなく、代わりに一人の少女が目の前に立っている。服装は女性とさほど変わらないが、背丈が小学生と同等くらいになっている。こちらは椅子に座り、少女は姿勢正しく立っている。少女は穏やかな表情で、しかしどこか真剣な眼差しをこちらに向けてくる。「今日はお疲れかもしれません」「ですが、この話だけ聞いていただけますか?」無言で頷くと、少女は静かに話し始めた。「この空間は、私とあなたしか認識できない特別な場所です」「現実との境目にある歪み、というのが妥当でしょうか」「本来、普通の人間には認識できない場所なのです」「外の世界と同じ時間が流れています」「今、私たちがここで話している時間も、現実ではそのまま過ぎています」少女は少し言葉を区切り、そのまま続けた。「あなたも、駅や寮で耳にした事だと思います」「この町の『夢』の話」「この町の夢は、ただの夢ではありません」にわかには信じがたい。だが、少女の表情は真剣だった。ふざけて言っている雰囲気ではない。「なぜ、禁忌として扱われているのか」「——それは」「夢が現実世界で具現化する現象」「いわゆる『正夢』が起こる」「すると、その夢を見た人が、数時間後には命を落とす」「そう言われています」背筋に冷たいものが走った。少女の言葉は、ナイフで背中をなぞられているような現実味を帯びていた。先までは、まだ懐疑心が燻っていた。しかし、そんな悠長なことを考えている場合ではないのかもしれない。「私は、その原因を探るために現れました」『夢の探究者』「そう呼ばれる人たちを、手助けするために」「あなたをここに呼んだのは他でもないです」「あなたには、その素質があります」「だから、ここへ来ていただきました」少女は少し申し訳なさそうに目を伏せ、それでもはっきりと言った。「誠に勝手なお願いだとは重々承知しています」「ですが……」「この町の『夢』の原
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第三話

「今日、隣のクラスのさっちゃん、休みらしいよ」「噂の『夢』のせいで……」「ちょっとやめなよ、転校生くんもいるんだし」「そんな気軽に夢の話題出さないでよね」その話題が聞こえた一瞬、教室の空気が乾いた気がした。その渇きはすぐに元通りになる。窓側の席に座りながら、窓の外を見る。しかし、目前の桜並木には興味が行かない。耳にだけ、意識が持っていかれている。盗み聞きのようであまり良くない気もするが。先の反応といい、どう考えてもただの都市伝説では片付けられない何かがある。ダメ元で、隣に座ってスマホをいじっている男子生徒に声をかけてみた。「なあ、突然悪いんだけど……この町の『夢』って、何かわかる?」男子生徒はスマホから顔を上げ、面倒くさそうな表情を浮かべた。「あんた、転校生だろ」「ごめん、その質問には答えられない。他を当たってくれ」「…って言っても、誰も答えてくれないと思うけど」予想通り、はぐらかされた。男子生徒はすぐに視線をスマホに戻し、それ以上話す気はないようだった。諦めて自分の席に戻って数秒後、担任らしき男性教師が教室に入ってきた。三十代半ばくらいの、穏やかそうな印象の男性だ。教壇の前まで歩くと、ファイルのようなものを置いた。「はい、週番の人、号令かけて」「起立」「礼」「着席」号令が終わると黒板の前に立ち、にこやかに自己紹介を始めた。「私がこのクラスを一年間担任する木俵(きだわら)です」「担当教科は数学ね。よろしくな」「今日の日程だけど、始業式が体育館で行われた後、即下校になります」「下校が早いからってハメを外しすぎないようにね」「あ、それと…」木俵(きだわら)がこちらに向けて手招きをしてきた。それに釣られるように、教壇の前へと出る。「この春から、転入生が来ました」「自己紹介、お願いね」少し挙動不審になりながらも、簡単な自己紹介を始めた。「東京から越してきました。枝先(えださき)黎慈(れいじ)です」「仲良くしてくれると、嬉しいなって思います」当たり障りのない自己紹介を済まし、自分の席へと戻る。拍手が教室内に響くが、本心でやっている者はいないだろう。田舎とは、そういうところだ。短いホームルームはあっという間に終わり、クラスメイトたちがざわつき始めた。まだこのクラスに自分の居場所を見つけられず、少し
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第四話

「そこまでして知りたいんだな。この町について」男子生徒の声は、静まり返った空き教室の中でやけに重く響いた。放課後の校舎は人気が少なく、窓の外から聞こえてくるのは、遠くのグラウンドで続く部活動の掛け声だけだ。古びた時計の秒針が、やけに大きな音を立てて時を刻んでいる。「当たり前だ」迷いなくそう答えた。「この街に一生住む可能性もあるんだ」「少しでも、自分の中の疑問は晴らしておきたい」できるだけ平静を装ってそう答えた。しかし、自分でも感じるほど強い興味に動かされている。無理もないのだろう。妙なことの連続で、「……そっか。分かった」彼は一度目を伏せ、小さく息を吐いた。その仕草は、何かを決意するような動作だった。瞳の奥には、覚悟の表れのような眼光が漏れているような気がした。しかしその根底には、何か気まずさも感じる。思わず机に身を乗り出す。ついに、この違和感の正体について聞ける――そう思った瞬間だった。「その前に、一つ頼みがある」「頼み?」教室内の空気がわずかに緊迫する。彼の声の調子が、先ほどまでとは明らかに違って聞こえた。声調に乗っていた軽さが消え、代わりに重たい何かが混じっている。彼は息を大きく吐いた。「夢について教える代わりに、少し協力してくれないか」思わず眉をひそめた。目線を下に落とし、数秒考える。見知らぬ誰かに協力するほど、お人好しでもない。しかし、疑問を晴らしたいのも確か。協力するのが知る条件ならば、ここは素直に——目線を上にあげ、彼に聞く。「協力って、何を――」「この街の“夢”が原因で死んだ、友人のために」その言葉が落ちた瞬間、教室の空気が凍りついた。教室を照らしていた日光が消え、代わりに影ができる。秒針の音だけが、やけに耳につく。一瞬、言葉を失った。おそらく、冗談ではないだろう。声色も、表情も、それを考えることすらも許さなかった。「……死んだ、ってのは?」ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど乾いていた。彼は答えようとしない。唇を強く噛み締め、何かを押さえつけているように見える。指先も白くなるほど強く握りしめていた。「俺の友達だったんだ」 雫のようにぽつりと、落ちるように言葉が続いた。「特別変わったところなんて何もないやつでさ……」「むしろ、こういうオカルトとか信じ
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第五話

学生寮に戻ったのは、午後4時を少し回った頃だった。部屋に入るなりベッドに腰を下ろし、鞄を床へと放り投げる。空き教室での会話が、まだ耳を占領している共通夢。夢の中で落ち合う。にわかには信じがたい話だ。普通だったら、興味も湧かなかっただろう。しかし、夜になるまで何を考えても空回りするだろう。一度深く息を吐き、スマホで夕食前の時間にアラームを設定した。まだ時間はある。余計な考えが脳を占領するよりも、一度寝てリセットした方が良いと考えた。部屋の電気を消し、制服のままベッドの上で目を閉じる。意識はすぐに沈んでいった。また、妙な違和感を感じた。目をゆっくりと開ける。──青白い空間。「あなたとは、何か縁があるようですね」空間内に声が響いた。目前へと視点を向けると、そこに朝と同じ少女が立っていた。穏やかな表情の奥に、真剣な眼差しが宿っている。「朝の質問……覚悟は、決まりましたか?」迷わず頷いた。「夢の探究者とやら、受けさせてもらうよ」この町の『夢』の原因を、一緒に突き止める」少女の唇が、ほんの少しだけ緩んだ。安堵したような、それでいてどこか寂しげな微笑みだった。「あなたなら、そう言うと思っていました」「では、あなたを夢の世界に入れる手配をいたします」「夜までには、入れるようになるはずです。またお越しください」「待って。君は一体──」質問を続ける間もなく、少女は小さく頭を下げた。少女が頭を上げる動作を見送ることもなく、視界が揺らいでいく。「……っ」飛び起きるように体を起こした。ベッドの横ではスマホのアラームが部屋に鳴り響いている。時刻は午後六時半を過ぎていた。ロビーへ降りていくと、キッチンで衣百合(いゆり)が夕食を準備しているところだった。制服ではなく部屋着かつエプロン姿な彼女に、どこか新鮮味を感じる。「……おはようございます」「あっ、枝先くん! 」「って、寝起き?」彼女は振り返り、少し困惑気味でこちらを見ていた。「……はい」少し遠慮気味に答えた。そのままキッチンに近づき、彼女の横に並んだ。「何か手伝えること、あります?」「えっ、いいの?」「じゃあ……そこの鍋、見ててくれる? 吹きこぼれないように」彼女はコンロの上にある鍋を指差した。鍋の中は、濃厚そうなカレーがぐつぐつと煮えていた。木
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第六話 もう一つの世界

時間は7時半を回っていた。夕食を食べた後、自室に戻ることはなくただロビーでぼーっとしていた。スマホを見ることもなく、天井のシミの数を数えて時間を潰す。すると、2階から衣百合(いゆり)が降りてきた。彼女はなにも言わずに正面に座った。「黎慈(れいじ)くん、今日の学校はどうだった?」彼女はにこやかにこちらを覗き込んできてた。「まあ、楽しそうな雰囲気でしたよ」「これから楽しみです」そう言うと、彼女の緊張が解けた気がした。「なら良かった~」「私、こう見えても生徒会の人間だからさ。そう思ってもらえて嬉しいよ」「そうそう」「黎慈くんは部活動とか入る予定はある?」考えたこともなかった。転入する前も部活はしていなかったし、頭の片隅にもない考えだった。「特にないですけど……」目線を左上に上げながら答えた。「じゃあさ、私と同じ陸上部に入らない?」彼女の声のトーンが一段階上がった。「体力作りにもなるし、いいと思うんだよね!」「……どう?」「うーん……」肘をついて考え込む。正直、運動とは縁のない人生を歩んできている。すでに構築されている人間関係に溶け込むのも苦手だ。ただ、特段運動神経が悪いという訳ではない。人並みに運動はできる方だし、彼女がいるなら多少は居心地がいいかもしれない。数秒の沈黙の後、顔を彼女の方に向けた。「前向きに考えておきます」「知り合いがいると心強いし」「じゃあ、明日顧問の先生に話しておくから、見学でもいいから見にきてよ!」そんな他愛のない話をしていると、脱衣所の方から扉が開く音がした。そこから出てきたのは亮(りょう)だった。気が付かないうちに入浴していたらしい。彼はこちらの話し声にいち早く気がつき、そそくさと二階へと上がっていった。幸い、話に夢中で彼女は物音に気づいていなかったらしい。 ————入浴、歯磨きなど一通りのことを終わらせると、時刻は23時が間近に迫っていた。明日のアラームをセット、ベッドメイキングも終わらせ、明日の準備も入念に行った。そして、最後の工程——夢の世界に入るために、アイマスクをつけて就寝した。意識が沈む瞬間、胸の奥でざわめきが広がった。これから何が起きるのか――不安と期待が入り混じりながら、静かに入眠した。「いらっしゃいましたね。お待ちしていました」聞き慣れた
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第七話

黎慈(れいじ)は夢の中で覚醒した力の余韻が、まだ体に残っている気がした。体が気怠い気がするが、無理やり頭と体を起こす。 昨日の出来事を共有するためにも、いつもより早く寮を出た。衣百合(いゆり)も亮(りょう)もまだ眠っている早朝だった。 学校に着くと、教室も廊下も無人だった。静まり返った朝の廊下を歩きながら、黎慈(れいじ)は昨夜の混沌とした夢の世界を思い出していた。体に流れ込んだ熱い奔流、あの声、そして化け物を殴り飛ばした時の衝撃。まだ現実感が薄く、夢だったのかさえ曖昧に感じる。 昨日景佑(けいすけ)に呼ばれた空き教室のドアを開けると、景佑(けいすけ)が窓際に座って難しい顔で外を眺めていた。黎慈(れいじ)が入っても気づかず、肩を軽く叩いて初めて顔を上げた。「景佑(けいすけ)…?」ビクッと肩を震わした。「っ……黎慈(れいじ)! 来てくれたか」景佑の声には、わずかな安堵が混じっていた。そっと胸を撫で下ろしていた。 二人はすぐに昨夜の出来事を整理し始めた。「ヘッドフォンをかけた瞬間、どうだった?」「何か得体の知れない熱いものが、体の中に一気に流れ込んでくる感覚があった」「心臓が爆発しそうなくらい鼓動が速くなって、頭の中に直接声が響いてきたんだ」 「『汝、夢の探究者……』って」 黎慈(れいじ)は頷いた。「俺も全く同じだったな」「あの声が聞こえた瞬間、体が勝手に動いて、化け物を殴り飛ばせた」「あの瞬間だけ、まるで自分じゃなかったみたいだった」「拳が熱くなって、力が溢れ出すような……まだうまく制御できないけど、確かに『何か』が目覚めた気がする」
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第八話 危機

四時限目のチャイムが鳴ると、景佑(けいすけ)と黎慈(れいじ)はそれぞれの昼食を持って例の空き教室へ向かった。教室に入ると、二人は向かい合って座り、弁当を広げながら衣百合の件について話し始めた。 「景佑(けいすけ)、俺は朝の意見から変わらない。他人を巻き込みたくない」景佑(けいすけ)は深く頷いている。「分かってる。ただ、俺も考えてみたんだ」「あの人を直接夢に入れないようにすれば、危険なのは俺たちだけになる」「…どう思う?」黎慈は箸を止めて考え込んだ。「つまり、衣百合(いゆり)には参謀みたいなポジションで手伝ってもらうってことか?」「ああ。俺だって他人をこんな危険な目に遭わせたくない気持ちは同じだ」「でも、仲間を増やさないと夢の中での活動に限界が来ると思うんだ」「俺たちだけじゃわからないことが多すぎる」黎慈(れいじ)はゆっくりと頷いた。 「確かに……リスクを抑えつつ、情報収集や現実側のサポートを任せられるなら、問題は少ないはず」「俺たちもあの世界のことがまだほとんどわかっていない」「心強い仲間がいるのは確実にプラスになる」「だろ?それなら衣百合(いゆり)を引き込む価値はあると思う」二人はしばらく無言で弁当を口に運びながら、それぞれの考えを整理した。 やがて黎慈(れいじ)が小さく息を吐いた。「わかった。俺も賛成だ。放課後に衣百合(いゆり)に伝えるよ」「了解。……って、俺ら話に夢中になりすぎて飯ほとんど食ってなかったな」「あ、そうだな。食べよう」二人は苦笑しながら談笑を交え、残りの昼食を急いで平らげた。ちょうど授業開始五分前のチャイムが鳴り、二人は教室へ戻った。 午後の授業を終え、放課後になると、黎慈(れいじ)は二年主任の元へ向かうため職員室へ足を運んだ。 
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第九話

寮に着いたのは午後四時半を少し過ぎた頃だった。ロビーにはすでに亮(りょう)がいて、三人はすぐに寮解体の話を始めた。彼もすでに担任から聞いていたらしく、難しい顔をしていた。 三人は机に肘を置き、一様に険しい表情を浮かべる。「正直、俺もいい案が出てこない……」「でも、救える可能性が少しでもあるなら、考えてみる価値はあるんじゃないか?」衣百合(いゆり)が頷き、黎慈(れいじ)も同意した。「ああ、まだ時間はある。少しでもその可能性を探ってみよう」「私たちの場所を守るためにも、みんなで考えてみよっか」三人は顔を見合わせ、静かに頷き合った。この寮がただの住処ではなく、これから作っていく思い出の場所だと、三人とも同じ思いを抱いていた。 夕食を終えた後、それぞれが自分の時間を過ごし始めた。黎慈(れいじ)が風呂から上がると、ジェラピケ姿の衣百合(いゆり)が庭のベンチに座って何かを考え込んでいる姿が見えた。 黎慈(れいじ)はさりげなく隣に腰を下ろした。衣百合(いゆり)が少し照れたように笑う。「黎慈(れいじ)くん、そういうことしてると女の子勘違いさせちゃうよ?」「そうですか?あんまり気にしたことなかったです」「俺、元いたところじゃちょっと芋っぽい学生でしたから」「雰囲気はあんまり変わってないと思います」 「そうだったんだ…」「そういえば、黎慈(れいじ)くんの昔の話ってまだ聞いたことなかったよね。聞いてみたいな」「いいですよ。つまらないかもしれないですけど」 黎慈(れいじ)はゆっくりと話し始めた。「俺、両親がいないんです」衣百合(いゆり)の表情が一瞬固まった。「両親は俺が生まれた直後に亡くなったらしくて…」
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第十話

扉をくぐると視界が一気に明るくなった。そこは昨日現実へ帰還したのと同じ場所だった。黎慈(れいじ)と景佑(けいすけ)は目配せを交わした。ふと空を見ると、少し遠くに明らかに異彩を放っている空気がある。そこまで離れてはいないはずだ。おそらく、あれが夢の核とやらなのだろう。二人はそれを目指して歩き始めた。 黎慈(れいじ)が後衛で周りを見渡す。景佑(けいすけ)が前衛で前方の安全を確認する。 少し歩いた頃だろうか。突然、先に進んでいる景佑(けいすけ)が何かに気づいた様子で黎慈(れいじ)を呼んだ。指差す先には、この世界の風景とは明らかに異なる巨大な建造物があった。遠くからでもその威容がわかるほど大きく、まるでRPGに登場する魔王城のような禍々しいシルエットをしている。「あれが……夢の核か」二人は直感的にそう感じ、建造物を目指して道を進んだ。 道中、何度も化け物が襲ってきたが、ブラムを起動させて難なく撃退しながら前へ進む。やがて、果てしなく続く城壁のような建物が姿を現した。その圧倒的な存在感に息を呑みながら、二人は門や入り口を探し始めた。 しばらく探索していると、黎慈(れいじ)が人型の巨大な影を発見した。景佑(けいすけ)を呼び、二人は慎重に近づいていく。厚い鎧を身に纏い、右手には槍が握られている。 数十メートルまで近づいたところで、その巨体が低い声で語りかけた。「我はこの夢の主人を守るもの。ドリームキーパーである」「夢の主人に会いたくば、この私を倒すか…」「この夢の中に隠された、夢の主人がどうして夢の主人になったのか。その理由を探すか」「どちらかを選びたまえ。自ら破滅に赴く愚者たちよ」 
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