四月七日 夕方。「ガタンガタン」電車の揺れが、窓ガラスに映る曇り空を震わせている。だが、その揺れがどうも心地いい。「次は、冨永山町~。お出口は左側です」車掌の声が響いた瞬間、妙な胸騒ぎに襲われる。『一体…』そう思考を巡らせるが、どうもその正体はわからない。東京とはまるで違う、のどかな山間の町。とある事情で越してくることになったこの場所に、淡い期待と言いようのない不安を抱いていた。東京に未練がないと言えば嘘になる。親しくしている友人も、数は少ないが確かに居た。慣れた街並み、雑多の中を歩く感覚。そのどれもが、今の現状とともに薄れゆく。それでもここに来ることを選んだのは、失うことに慣れているからかもしれない。ふと眠気が体を襲い、少しだけ目を閉じる。瞼をそっと落とす。そのとき――聞き覚えがあるようでない声が、脳裏に響いた。不快感はなく、むしろヒーリング音楽のような心地の良い女性の声。ふと瞼を開けると、そこは電車内の景色とは似ても似つかなかった。全体が青白い空間に、一人で立たされている。両手をパタパタと閉じては開いてを繰り返す。その感覚は、現実と瓜二つのように感じる。目前に視線を見やると、古びた椅子に腰掛けている一人の女性が静かに微笑んでいた。「また、お会いしましたね」蝶々の模様が付けられている白いワンピースを可憐に着こなしている。年は同じくらいだろうか。若々しい印象だ。いきなりの状況に言葉を失う。面食らっている間に、女性が話を続ける。「あなたがこの町に来るということは、それ相応の覚悟があるのでしょう」「ただ……」「引き返すなら今です。ここで決断なさい」なんのことだか見当がつかない。しかし、不思議と嫌な気持ちはしない。そんな驚嘆している状況を横目に、女性は淡々と続ける。「記憶を消してこの町から去るか」「それとも——」「ここで出会う仲間たちとの、かけがえのない記憶を取り戻すか」この女性が言っている言葉の意味がわからない。わからないはずなのに。『ここで出会う仲間たち』この言葉が胸の奥に引っかかる。どうしてかの理由は見当たらない。数秒考える。そして、ゆっくりと答えた。「……俺には——」「俺には、ここ以外に行けるところがない」女性はそっと胸を撫で下ろし、安堵したように微笑んだ。「あなた
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