影の女帝

影の女帝

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——————リヒテンシュタイン帝国。 帝国始まって以来の賢帝であられると評判の現皇帝陛下の元、今年も社交シーズンが始まった。 俺————セドリック・フォン・ドラッケンベルクも、とある伯爵邸で開かれた夜会に駆り出された。 そこで出会った闇に紛れたように現れ、温度を感じさせない深いロイヤルブルーの瞳の『彼女』……。 『彼女』の存在が、まさか自分の全てを変えるとは————。 ■ 世界観は中世ヨーロッパをイメージしております。 ■ 異世界設定なので、作者の都合主義です。 ■ 一部、暴力的表現がございます。 ■ 表紙はAI作成です。

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Chapter 1

Ep.1 月夜の出会い

————リヒテンシュタイン帝国。

帝国始まって以来の賢帝であられると評判の現皇帝陛下の元、今年も社交期間《シーズン》が始まった。

社交期間に入った貴族たちの夜は長い。

普段は領地にいる者たちも帝都にある帝都邸《タウンハウス》へと移動し、男たちは紳士倶楽部や会談、女たちもお茶会や刺繍の集まりなど皆一様に社交に精を出す。

それは家門の為だったり、自らの見栄や他者への牽制の為だったりと、この数ヵ月の間に人間関係がガラリと変わることも珍しくないのだ。

そして今夜、俺————セドリック・フォン・ドラッケンベルクも、とある伯爵邸で開かれた夜会に駆り出された。

綺羅びやかなホール内には、自らを飾り立てた紳士淑女が至るところで輪を作っている。

俺はシャンパンを一口呷り、誰にも気付かれないようにそっと息を吐く。

————ドラッケンベルク侯爵家の嫡男。

父は帝国————ひいては皇帝陛下に忠誠を捧げる騎士たちを率いる騎士団総長だ。

俺自身も騎士を目指して研鑽を積んでいるが、十七歳となった今も婚約者の席は空席のまま。

そんな俺は未婚の貴族令嬢たちにとっては、格好の獲物らしい。

だからこそ、こういった夜会に顔を出す度に次期侯爵夫人の座を狙う令嬢や、その親たちが群がってくるのがいつものパターンとなっている。

父親譲りのシルバーブロンドの髪とダークグレーの瞳、高位貴族らしい顔立ちのせいで、幼い頃から令嬢たちに付き纏われていた。

成長するにつれて体つきも騎士らしくなってからは、未亡人や既婚の夫人までこっそりとお誘いを掛けて来ることが増えた。

どんなに冷たくあしらっても、まるで地面に落としたキャンディーに群がる蟻のごとく懲りずに寄って来る。

正直……いや、かなりうんざりしている。

最近ではその氷のように冷徹な対応ぶりと、その髪色から連想したのか『銀氷の騎士』などと呼ばれているらしい。

(……何だ、その恥ずかしい二つ名は)

扇子の影で頬を染めながら囁く令嬢たちを視界の端に捉えた瞬間、急激な疲労感が押し寄せてきた。

気分転換にと、フラッと会場を抜け出して庭園へ向かう。

夜風に頬を撫でられ、喧騒から離れただけで少しだけ息がしやすくなった気がした。

特に当てもなくフラフラと歩いていると、酔い覚ましの為か逢引の為か……ポツポツと人の気配がする。

それを避けるように更に歩みを進めると、明らかにプライベート区域に踏み込んでしまったようだった。

他人の屋敷で無許可の場へ侵入するのはマナー違反だ。

戻ろうと踵を返そうとしかけた時————視界の端を何かが横切った気がした。

すぐにそちらへ視線を向けるが、特段異変はない……。

そう思いながらも、足が勝手に動いていた。

木々の影をくぐり抜けた先に、古びた別邸が一つひっそりと姿を現した。

蔦が絡みつく外壁、朽ちかけた窓枠————明かりの一つもなく、まるで息を潜めているかのように静かだった。

中に人の気配もなく、長い間放置されているのは外観を見ただけで分かった。

(……気のせい、だったか……)

今度こそ戻ろうとした瞬間、ふと違和感を覚えて素早く振り返った。

別邸を仰ぎ見ると————二階の窓がほんの少し開いているのが見える。

足音を立てないように忍び寄ると、ポルティコの柱の塗装は剥げ、床もところどころ汚れていた。

長い間、人の手が入っていないのは明らかだ。

(……普段使われている形跡がないのに、窓が開いているのはおかしい……)

いくら古く放置されていたとしても、貴族の別邸ならば厳重に管理されているはずだ。

玄関扉に目をやれば、本来施錠されているはずの南京錠《ダンジョンロック》の掛け金が外れており、鎖が頼りなくぶら下がっていた。

良くないこととは思いつつ、慎重にハンドルを握ってゆっくりと扉を押し開き、キィーーと古びた音が夜の闇に響く。

一歩足を踏み入れると中はかなり埃っぽく、カビの臭いが鼻をついた。

目的の部屋を目指し、時折ギシギシと軋む階段を一段一段慎重に登る。

足を踏み出す度に響く音が妙に大きく聞こえ、思わず足を止めそうになった。

それでも何とか目当ての部屋の前まで辿り着くと、扉が僅かに開いていた。

息を潜めて中の様子を窺うと、微かな物音が聞こえた————確かにそこには誰かがいる————。

確かめるより先に体が動いていた。

扉を押し開け、真っ暗闇の室内へ踏み込むと、窓の前に誰かが立っている気配を肌で感じた。

「……貴様、何者だ?」

伯爵家の人間であれば、逆に「お前こそ誰だ!?」と問い返される立場だが、恐らく目の前の人物はこの屋敷の者ではないという確信に近いものがあった。

いきなり見知らぬ人間が室内に飛び込んで来たにも拘わらず、驚きも焦りも————感情の揺らぎが何一つ伝わってこない。

『只者ではない』————そう、直感した。

雲の切れ間から月がゆっくりと姿を現し、月光の中にこちらに背を向けた女が浮かび上がった。

黒髪をしっかりとまとめ上げ、上下共に黒のパンツとノースリーブ、首元には黒いマフラーのような物が巻かれている。

惜しげなく晒された細長い腕は白く、俺が思いっきり握れば折れてしまいそうだ。

月に照らされたことで諦めたのか、『彼女』はゆっくりと首だけを捻り————こちらに視線を向けた。

その瞬間、思わず息を呑んだ。

目から下は黒い布で覆われており、見えるのはその瞳だけだった。

温度を感じさせない深いロイヤルブルーの瞳が俺を真っ直ぐ射抜いたと思った瞬間、『彼女』は窓枠に足を掛けて窓の外へ消えた。

気付いた時には、空虚に手を伸ばしていた。

すぐに意識を引き戻して窓へ駆け寄り、身を乗り出して下を確認する。

————だがそこには人影一つなかった。

これが『彼女』との、最初の出会いだった。

まさか、この出来事によって自分のすべてが変わるなんて

————この時の俺は、知る由もなかった。

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Ep.1 月夜の出会い
————リヒテンシュタイン帝国。 帝国始まって以来の賢帝であられると評判の現皇帝陛下の元、今年も社交期間《シーズン》が始まった。 社交期間に入った貴族たちの夜は長い。 普段は領地にいる者たちも帝都にある帝都邸《タウンハウス》へと移動し、男たちは紳士倶楽部や会談、女たちもお茶会や刺繍の集まりなど皆一様に社交に精を出す。 それは家門の為だったり、自らの見栄や他者への牽制の為だったりと、この数ヵ月の間に人間関係がガラリと変わることも珍しくないのだ。 そして今夜、俺————セドリック・フォン・ドラッケンベルクも、とある伯爵邸で開かれた夜会に駆り出された。 綺羅びやかなホール内には、自らを飾り立てた紳士淑女が至るところで輪を作っている。 俺はシャンパンを一口呷り、誰にも気付かれないようにそっと息を吐く。 ————ドラッケンベルク侯爵家の嫡男。 父は帝国————ひいては皇帝陛下に忠誠を捧げる騎士たちを率いる騎士団総長だ。 俺自身も騎士を目指して研鑽を積んでいるが、十七歳となった今も婚約者の席は空席のまま。 そんな俺は未婚の貴族令嬢たちにとっては、格好の獲物らしい。 だからこそ、こういった夜会に顔を出す度に次期侯爵夫人の座を狙う令嬢や、その親たちが群がってくるのがいつものパターンとなっている。 父親譲りのシルバーブロンドの髪とダークグレーの瞳、高位貴族らしい顔立ちのせいで、幼い頃から令嬢たちに付き纏われていた。 成長するにつれて体つきも騎士らしくなってからは、未亡人や既婚の夫人までこっそりとお誘いを掛けて来ることが増えた。 どんなに冷たくあしらっても、まるで地面に落としたキャンディーに群がる蟻のごとく懲りずに寄って来る。 正直……いや、かなりうんざりしている。 最近ではその氷のように冷徹な対応ぶりと、その髪色から連想したのか『銀氷の騎士』などと呼ばれているらしい。 (……何だ、その恥ずかしい二つ名は) 扇子の影で頬を染めながら囁く令嬢たちを視界の端に捉えた瞬間、急激な疲労感が押し寄せてきた。 気分転換にと、フラッと会場を抜け出して庭園へ向かう。 夜風に頬を撫でられ、喧騒から離れただけで少しだけ息がしやすくなった気がした。 特に当てもなくフラフラと歩いていると、酔い覚ましの為か逢引の為か……ポツポツと
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Ep.10 騎士団見習い
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