復讐のために彼をレンタルしたら、まさかのCEOに溺愛契約で雇われました

復讐のために彼をレンタルしたら、まさかのCEOに溺愛契約で雇われました

last update最終更新日 : 2026-07-27
作家:  花柳響たった今更新されました
言語: Japanese
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概要

現代

強いヒロイン

溺愛

CEO・社長・御曹司

ヒーロー

ツンデレ

復讐

一夜限り

「今の彼氏は、あんたなんかより百倍素敵な人よ!」 結婚直前に裏切られた朱里は、プライドを守るためレンタル彼氏での復讐を決意。だが当日、業者は現れず、絶体絶命の朱里がとっさに捕まえたのは息を呑むほど美しい男だった。 彼をホストと勘違いし復讐を成功させ、勢いで一夜を共にするが……翌朝、衝撃の真実が待っていた。 彼は業界の頂点に君臨するホテル王・九龍湊。 「君を婚約者役として雇いたい。月額300万。住む場所は僕の家だ。ただし、あの夜のことは『業務外』だ」 レンタルしたはずが、まさかの逆雇用!? 冷徹な契約と身体の熱が交錯する、嘘つきな二人の溺愛契約ラブストーリー!

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レビュー

hana
hana
元彼との別れまでがサクッと早くてありがたいです。 カッコよくも可愛げが沢山ある朱里と、冷徹と孤独を抱えてる湊…2人のバランスがとても好きで、いつも続きを楽しみにしてます!
2026-01-29 19:14:49
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571 チャプター
第1話 恋人と親友に裏切られた夜
「……拓也?」  金曜の夜、ホテルラウンジの奥で、私の声だけがひどく小さく響いた。  丸いテーブルには、まだ氷の溶けきっていないグラスが二つ。低く流れるジャズと、カトラリーの触れ合う音。大人ぶった静けさの中で、三年付き合った恋人は、私の親友の腰を当たり前のように抱いていた。  相手は、美咲だった。  大学の頃からの親友。私の部屋で深夜まで恋バナをして、同じコンビニのプリンを半分こして、泣きながら「朱里がいてくれてよかった」と言った、あの美咲。  二人は、キスをしていた。  偶然、唇が触れた。そんな言い訳はできない。肩の寄せ方も、指の絡め方も、私と目が合った瞬間にほどけた距離も、全部があまりに慣れていた。  私だけが知らない時間の匂いがした。 「朱里……?」  拓也の顔から、さっと血の気が引いた。  美咲は一瞬だけ目を見開き、それから、泣きそうな顔を作った。昔なら、私が一番弱かった顔だ。美咲がそういう顔をすると、いつも先に折れるのは私だった。 「違うの、朱里。これは……」 「何が違うの?」  指先は震えていた。けれど涙は出なかった。悲しいよりも先に、胸の底が冷たくなっていく。怒りは、熱いものだと思っていた。違った。本当に傷ついた時、人は何も感じられなくなる。 「……私の誕生日に、仕事だって言った夜も、美咲の部屋にいたわけ?」  拓也が答えない。  美咲の唇が、ほんの少しだけ引きつった。  謝罪ではない。ばれた、という顔だった。  ああ、そう。  私が馬鹿だっただけなんだ。  恋人の嘘も、親友の優しさも、都合よく本物だと信じていた。 「私が相談していた時、楽しかった?」 「朱里、やめて。ここ、人が見てるから……」 「人前だから困るの?」  私の声は、自分のものではないみたいに低かった。 「私の前では、困らなかったくせに」  拓也が立ち上がった。 「朱里、俺が悪かった。でも、美咲を責めるのは――」  その一言で、もう十分だった。  私ではなく、美咲を庇うのだ。  三年間の最後に、拓也が選んだのは、やっぱり彼女だった。 「もういい」  喉の奥が詰まった。これ以上ここにいたら、二人の前で泣いてしまう。 「別れて。二度と、私に連絡しないで」 「
last update最終更新日 : 2025-12-29
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第2話 親友の結婚式を担当しろと言われました
 出勤して、まだ二時間も経っていなかった。  私は職場で、もう一度地獄を見ることになった。  柔らかなダウンライトが落ちる打ち合わせスペース。磨き上げられた大理石の床。壁一面に並ぶドレスの白。未来への希望で満ちているはずの場所に、その二人は並んで現れた。 「朱里。仕事中に悪いな」  そこにいたのは、拓也だった。  隣には、美咲がいる。  しかも二人の左手薬指には、揃いのプラチナリングが嵌められていた。サロンの照明を反射して、やけに鋭く光る。  別れてから、まだ二日しか経っていない。二人は、私に知られる前から結婚を決めていたのだ。  胃の底が、いやなふうに縮んだ。 「本日は、どのようなご用件でしょうか」  私は笑顔を作った。  ブライダルコーディネーターとしての笑顔。鏡の前で何度も確認してきた、上品で、少しだけ親しみのある角度。  崩れない。ここでは、崩せない。  美咲が、拓也の腕を抱いた。 「私たち、結婚することにしたの」 「……そうですか。おめでとうございます」  言えた。  舌の上で、鉄みたいな味がしたけれど。 「それでね、朱里にお願いがあって」  美咲が小首を傾げる。  昔、私が可愛いと思っていた仕草。今はただ、腹の底がすうっと冷えるだけだった。 「私たちの結婚式、朱里に担当してほしいの」  音が遠のいた。  担当?  この私が?  私の目を盗んで、裏で抱き合っていた二人を?  心を込めて祝福しろというの? 「朱里のセンスが一番だって、美咲とも話してたんだ」  拓也が笑う。 「俺たちのこと、一番わかってくれてるだろ?」  どの口が。  テーブルの下で、爪が掌に食い込んだ。  けれど二人は、すでに上層部へ話を通していた。  拓也の勤務先は、うちが提携するホテルグループの大口顧客。美咲の実家も、紹介客を多く持つ家だった。私が私情で突っぱねれば、担当変更だけでは済まない。店にも、後輩にも迷惑がかかる。  そこまで計算して、二人はここへ来たのだ。 「……承知しました」  私は、ゆっくり顔を上げた。  笑え。  ここで負けるな。 「喜んで、お手伝いいたします」  美咲の顔に、ほっとした笑みが広がる。  その顔が、一番憎かった。私が許した形にして、自分たちの罪悪感を洗い流したいのだ。綺麗なド
last update最終更新日 : 2025-12-29
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第3話 レンタル彼氏は来ない
「……来ない」  元恋人と元親友の披露宴開始まで、あと十五分。  私は式場のエントランスで、スマートフォンを握りしめていた。画面は真っ暗。充電は切れている。予約したはずのレンタル彼氏からの連絡は、もう確認できない。  今日の私は、外見だけなら隙がなかった。  シャンパンゴールドのドレス。早朝に整えた髪。崩れないメイク。足元のヒールは少し痛いけれど、それも気合の一部だと思っていた。  なのに、隣にいるはずの男だけがいない。  受付へ向かうゲストたちの笑い声が、遠くから波のように聞こえてくる。あの重い扉の向こうには、拓也と美咲がいる。  私が一人で入れば、笑われる。  彼氏はどうしたの、と。  やっぱり嘘だったのか、と。  やっぱり朱里は俺を引きずっていたんだな、と。 「最悪……」  声が喉に落ちた。  逃げる? 仮病を使う? いや、逃げたら終わりだ。あの二人の前で啖呵を切った私まで、全部笑い話にされる。  喉が狭くなり、視界が滲みかけた。その時だった。  ホテルの柱のそばに、一人の男が立っているのが見えた。  背が高い。  艶を抑えたダークネイビーのスーツは、身体の線にぴたりと沿っているのに、少しも軽薄ではない。無造作にかき上げた黒髪。切れ長の目。白いシャツの袖口から覗く時計は、きっと私の年収より高い。  ただ立っているだけで、周囲の空気が薄くなる。そう思わせる男だった。  彼が顔を上げる。  目が合う。  彼の口元に、面白がるような笑みが浮かんだ。 (この人だ)  普通のゲストじゃない。こんな男が、偶然この場にいるわけがない。  時給五万円の、完璧な偽恋人。  そう思い込むには、十分すぎるほど現実離れしていた。  私は床を蹴るように歩き出した。  ヒールの音が、エントランスに高く響く。 「遅い!」  男の腕を掴む。  硬い。スーツ越しなのに、鍛えられた体温がはっきり伝わってくる。  男は驚かなかった。ただ片眉を上げ、私を見下ろす。怒鳴り込んできた女を相手にしているというより、予定外の面白い余興を見つけたような顔だった。 「すまない」  思ったより、ずっと低い声だった。  耳ではなく、胸のあたりに落ちる声。 「待たせたね」 「待たせたね、じゃないわよ。私の人生がかかってるの。延長料金なら払うから、
last update最終更新日 : 2025-12-30
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第4話 偽りの恋人と逆転の披露宴
 拓也の声には、探るような棘があった。  私は答えようとした。その前に、湊が一歩出る。 「初めまして」  彼が立つだけで、拓也が小さく見えた。  身長だけの話ではない。場の取り方、視線の置き方、沈黙の使い方。男としての格の違いを、拓也自身が一番わかってしまった顔をしていた。 「朱里の婚約者、湊です。本日はご結婚、誠におめでとうございます」  丁寧な言葉。完璧な笑顔。  けれど声には、少しの温度もなかった。 「ずいぶん急だな。朱里とは、いつから?」  拓也が笑う。笑っているつもりなのだろう。 「彼女が一番つらかった時期からです」  会場の空気が変わった。  直接責めていない。浮気とも裏切りとも言っていない。それなのに、その一言で、私が傷つけられた側だと伝わる。  拓也の顔が赤くなる。  美咲が唇を噛む。 「朱里は、お人好しですから」  湊は、私の椅子の背に手を置いた。直接触れてはいない。なのに、背後から守られているのがわかる。 「お二人の門出を、最後まで祝うと言って聞かなくて」  静かな声だった。  でも、逃げ場を塞ぐ声だった。 「僕としては、無理をさせたくなかったのですが」  周囲が息を呑む。  拓也は何も言えない。美咲の笑顔は、もうほとんど形だけだった。  私は、テーブルの下で拳を握った。  泣きそうだった。  悔しくてではない。  初めて、誰かが私の側に立ってくれた気がしたから。 ◇ 披露宴は、長い悪夢のように進んだ。  美咲がキャンドルサービスで近づいてくるたび、湊は自然に私の肩へ手を添えた。拓也がこちらを見るたび、彼はグラスを掲げて微笑んだ。それだけで、二人は何も言えなくなる。  私は笑っていた。  プロの笑顔ではない。勝者の笑顔でもない。ただ、崩れずに座っていられる自分に、少しだけ驚いていた。 「大丈夫かい」  湊が小声で聞く。 「大丈夫。たぶん」 「たぶん、は大丈夫とは言わない」 「うるさい。仕事中でしょ」 「うるさい。ちゃんと仕事してるんでしょ」 「しているよ。だから君まで、仕事の顔をする必要はない」  胸の奥を、不意に指で触れられたような気がした。  今日の私は、担当者ではない。ゲストだ。  裏切られた側で、それでもここに来た女だ。何でも飲み込んで笑う必要なんて、本当は
last update最終更新日 : 2025-12-31
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第5話 スイートルームの罠と熱帯夜①
「……は?」  契約延長?  私は、その言葉の意味が瞬時に理解できず、間抜けな声を上げた。  エントランスの冷たい夜風が、急に生々しく感じられる。 「けいやく、えんちょう……って、何よ。もう、あの二人はいない。私の復讐は終わったわ。あんたの仕事も、ここまでよ」 「そうかな?」  湊は、ポケットに片手を突っ込んだまま、あの人を食ったような笑みを崩さない。都会のネオンを反射して、彼の瞳が底知れなく光る。 「君は、あのまま帰るつもりだったのかい? あの二人……拓也、と言ったかな。彼らが、君たちが本当に付き合っているか、まだ疑っているとしたら?」 「……!」  心臓を冷たい手で掴まれたような感覚。  確かに、そうだ。今日のところは完璧に撃退できたと思った。でも、後で「あの男、誰だったの?」「本当に付き合ってるの?」と共通の友人に探りを入れられるかもしれない。あの二人の性格なら、あり得ることだ。もし嘘だとバレれば、今日の勝利は一転、惨めな道化の戯言と化す。 「中途半端な復讐は、かえって自分の首を絞めることになる。……違うかい?」  ぐうの音も出ない。この男は、私の浅はかなプライドと、その裏にある脆い弱さを、最初から完全に見透かしている。  悔しいけれど、彼の言う通りだ。 「……で。延長っていくらなのよ。言っとくけど、私、そんなにお金持ってないんだから!」  私がなけなしのプライドで財布を握りしめて睨みつけると、湊は心底おかしそうに、ふっと息を漏らした。 「料金の話は、場所を変えてしよう。ついてきて」  そう言うと、彼は有無を言わさず私の手首を掴んだ。  骨張った、けれど力強い指先。その体温の高さに、びくりと肩が跳ねる。 「ちょっ、どこ行くのよ!」 「僕の職場さ」  抵抗する間もなく、彼が向かった先は、なんと、今しがた式を挙げたホテルの、その上層階へと続く専用エレベーターだった。  重厚な扉が音もなく開き、私たちを呑み込む。ボタンには「Executive Floor」の文字。  そして、私たちが辿り着いたのは。 「……嘘でしょ」  息を呑む、という表現では足りなかった。  エレベーターを降りると、そこにはただ一つの扉しかなかった。重厚な扉が開いた先は、最上階のスイートルーム。それも、Imperial Dragon Hotel(
last update最終更新日 : 2026-01-01
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第6話 スイートルームの罠と熱帯夜②
「―――は?」  一瞬、思考が停止する。  きみで、いい?  意味を理解した瞬間、カッと全身の血が頭に上った。 「……っ、ふざけないで! あんた、自分が何言ってるかわかってんの!?」  バッグを盾に一歩後ずさる。 「金は払うって言ってるでしょ! 時給五万、三時間で十五万! それ以上払えって言うなら……!」 「落ち着きなよ」  湊は私の剣幕を意にも介さず、片方のワイングラスを優雅に差し出した。揺れる深紅の液体が妖艶な光を放つ。 「まずは乾杯でもどうかな。君の『戦勝祝い』だ」 「いらない!」 「そう言うなよ。……それとも、僕が注いだお酒は飲めない?」  まただ。人をからかうような、余裕たっぷりの半笑い。  獲物が罠にかかるのを待つかのように、瞳が楽しげに細められている。 (……馬鹿にして)  拓也たちへの怒り、目の前の男に翻弄される悔しさ、張り詰めていた緊張。それらがごちゃ混ぜになって爆発した。 「……っ、飲むわよ! 飲めばいいんでしょ!」  彼の手からグラスをひったくり、赤い液体を煽った。  芳醇なベリーのような甘い香り。だが味わう余裕などない。喉を焼くアルコールの刺激だけが、かろうじて現実を感じさせていた。 「……っ」  空になったグラスを突き出すと、彼が面白そうに眉を上げ、もう一度注ぐ。それも一気に飲み干す。 「どうよ! これで文句な……」  数杯、立て続けに空にした時だった。  急に、視界がぐにゃりと歪んだ。 (……あれ?)  実はお酒に強くない。それを極度の怒りで忘れていた。  空腹の胃に流し込まれたアルコールが一気に全身を駆け巡る。心臓が早鐘を打ち、指先から熱が奪われていくような浮遊感。  立っているのが辛い。 「……っ、ぁ」  よろめき、足がもつれる。天井のシャンデリアがぐるりと回った。  硬い床に叩きつけられる――そう覚悟した瞬間。  ふわりと鼻孔をくすぐる、甘くスパイシーなムスクの香り。  鋼のような腕が腰を引き寄せ、とっさに私を受け止めた。ぶつかったのは壁ではなく、岩のように硬い胸板だった。 「……!」  上質なシルクシャツの薄い生地越しに、体温がじかに伝わってくる。耳元で響くのは、私とは対照的に深く落ち着き払った彼
last update最終更新日 : 2026-01-02
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第7話 スイートルームの罠と熱帯夜③
 耳朶に、熱い吐息が直接吹きかかる。低く、鼓膜を震わせる声。 「報酬が高くつく」  その言葉が、アルコールで痺れた頭に警鐘を鳴らす。 (まずい。この男、本気だ)  私は彼の胸板を必死に押そうとした。滑らかなスーツの生地越しに、岩盤のような硬さが伝わってくる。だが、熱を持った指先はその上を虚しく滑るだけだ。 「……っ、はな、して……」  抗議の声は、自分でも情けないほどか細い。  湊は私を面白そうに見下ろしていたが、やがてふっと息を吐いた。 「……これでは、話にならないな」  瞬間、私の膝裏と背中に強靭な腕が差し込まれた。 「え……?」  ふわりと視界が高くなる。驚くほど安定した抱擁。高価なスーツの感触と、微かなムスクの香りに全身が包み込まれた。 (嘘でしょ!?)  あまりの展開に、酔いも何もかもが吹き飛びそうになる。 「ちょっと! 降ろしなさいよ! 自分で歩ける!」 「ふらついている人間が、何を言う」  湊は私の抵抗など意に介さず、奥の部屋へと歩き出した。スレンダーな見た目を裏切る、鋼のような腕力。スーツの下に隠された鍛え上げられた筋肉の熱が、私の身体に伝わってくる。  時給五万のホストに、復讐の道具として雇った男に、スイートルームで?  プライドが、そんな屈辱的な結末を許さない。 「降ろして! これは契約違反よ! 追加料金、払わないから!」 「……騒ぐと、唇で塞ぐぞ」  ドクン、と心臓が喉まで跳ね上がった。  冗談とも本気ともつかない低い響きに、私は息を呑んで固まった。本当にやりかねない。この男なら。  屈辱に唇を噛み締め、暴れるのをやめると、湊は満足そうに目を細め、さらに奥へと足を踏み入れた。  壁一面の窓の外には、宝石箱をひっくり返したような東京の夜景が煌めいている。その光景を独り占めするかのように、キングサイズを遥かに超える巨大なベッドが鎮座していた。  最上級ホテル「Imperial Dragon Hotel」の最上階。  湊はベッドサイドまで行くと、私を乱暴にではなく、しかし有無を言わせぬ力でシーツの上へと降ろした。  ふか、と上質なスプリングが身体を受け止め、絹のように冷たい感触が火照った背中を撫でる。 「……っ」  まだ回らない頭で身を
last update最終更新日 : 2026-01-03
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第8話 スイートルームの罠と熱帯夜④
 どれくらい時間が経ったのか、わからない。  耳元で響くのは、獣が獲物を貪るような、彼の粘つく呼気。それに応えるように、私の喉からは、制御できずに甲高い、濡れた声がひきつれて漏れ出ていく。 「……朱里、こっちを見ろ」  快楽に溺れ、逃げるようにシーツに顔を埋めた私を、湊は許さなかった。  汗ばんだ顎を強い力で掴まれ、無理やり上を向かされる。  視界いっぱいに広がる彼の瞳。そこに、いつもの余裕ぶった「半笑い」はなく、あるのは暗く燃え上がる、剥き出しの独占欲だけだった。 「目は逸らさせない。……僕をここまで煽った責任は、取ってもらう」  低く腹に響く声と共に、身体の奥深くまで貫かれる。 「あ……っ、んんッ!」  痛いほどの充溢感。元彼との淡白な行為とは違う、私という存在を芯まで喰らい尽くそうとする捕食者の本能。  汗で滑る肌が擦れ合い、硬い胸板に押し潰されるたび、彼から熱がじわりと移ってくる。 「……っ、み、湊……もう、むり……」  意識が飛びそうで、私は彼の名前を呼んでいた。すると彼は満足げに喉を鳴らし、私の唇を塞ぐ。 「……いい子だ。もっと呼べ」  裏切られた瞬間の、あの心臓が凍りつくような寒さが、湊の暴力的なまでの熱量で溶かされていく。  たとえこれが、金で買った一夜限りの「報酬」だとしても。  今、この瞬間だけは孤独じゃなかった。 「……っ、は、ぁ……ッ!」  絶頂の瞬間、視界が真っ白に弾けた。  全身の力が抜け、私はガクガクと痙攣する身体を彼に預けた。  荒い息遣いだけが、静寂を取り戻したスイートルームに響いている。  身体を離そうと身じろぎすると、腰に回された腕がぐっと強く私を引き寄せた。 「……どこへ行くつもりだ」  耳元で、気怠げな甘い声がした。さっきまでの獣のような激しさはなりを潜め、今は満ち足りた猫のような無防備さだ。 「……シャワー、浴びたいです」 「後でいい」  湊は子供のように私の肩に額を押し付けると、そのまま深い息を吐いた。  心地よい枷となって私をベッドに縛り付ける彼の重み。 「……今日は、疲れた」  ぽつりと漏れた言葉は、CEOでもホストでもない、一人の男の素顔に聞こえた。  あんなに強引で冷徹なのに、こんな風に甘えられ
last update最終更新日 : 2026-01-04
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第9話 スイートルームの罠と熱帯夜⑤
 呆然と見渡した広いスイートルームは、しんと静まり返っていた。  微かに、昨夜の残り香が空気に溶けている気がして、息が詰まる。  シーツには、私以外の誰かの体温は、とっくに残っていなかった。  まるで、昨夜の出来事すべてが、アルコールが見せた悪い夢だったかのようだ。  だが、ベッドサイドのテーブルには、その夢が現実だったことを証明するように、一枚のカードキーが冷たく光っていた。 (今夜はここに泊まっていくといい) (今日の『報酬』は、これで十分だ)  昨夜の冷え切った声が、耳の奥で蘇る。 (……報酬)  その言葉の意味を反芻し、全身の血が、今度は屈辱で凍りつくのを感じた。  私、なんて馬鹿なの。  あの男は、私を「時給五万」の復讐道具としてだけでなく、一夜限りの「報酬」として、私の身体を……モノのように扱った。  私は、あの男の剥き出しの欲望に、流されて、応えてしまった。  その事実が、恥ずしくて、情けなくて、たまらない。  私は、逃げるようにベッドから転がり出ると、床に脱ぎ捨てられていた昨夜のドレスを乱暴に掴んだ。くしゃくしゃになったシルクの感触が、今の私自身のようにみすぼらしく感じた。  その時、ベッドの足元に、昨夜はなかった真新しいショッピングバッグが置かれているのに気づく。  中には、私でも知っているハイブランドのワンピースが入っていた。  そして、簡素なメモ。 『急用で先に出る。これは君へのギフトだ』  ――ギフト。  まるで、働きに対する「手当」のように。  破られたドレスの代わり? それとも、口止め料?  こんなもの、いらない。  でも、破れたドレスで帰るわけにはいかない。  私は唇を噛み締め、屈辱に震える手でそのワンピースを身に纏った。サイズは、驚くほどぴったりだった。  それがまた、彼の手慣れた様子を連想させ、私の惨めさを加速させる。  もう二度と、あの男に会うものか。  混乱したまま一夜を明かした私は、朝日が眩しい Imperial Dragon Hotel を、まるで罪人かのようにコソコソと抜け出した。 ◇ 逃げるように帰宅し、バスルームへと駆け込んだ。  蛇口を最大まで捻り、頭から熱いシャワーを浴びる。  ゴシゴシと、肌が赤くなるほど強く、ボディタオルで身体をこすった。爪が皮膚に食
last update最終更新日 : 2026-01-05
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第10話 スイートルームの罠と熱帯夜⑥
 ――昨夜、一夜を共にした男。 (なんで、あんたが、ここに……!?)  心臓が、喉から飛び出しそうだった。全身の血が逆流するような感覚に襲われ、頭が真っ白になる。  私の尋常ではない動揺を、後輩のスタッフが不思議そうに見ているのが視界の端に入った。 「チーフ? どうかされました?」 「……っ、いえ、なんでもないわ」  私は、必死に平静を装い、一歩前に出た。  足が震えているのを悟られないよう、床に踵を強く押し付ける。  湊は、私を見ても、眉一つ動かさない。  その瞳は、昨日、私をベッドルームで激しく求めた熱っぽいものでも、電話口で見せた冷徹なものでもない。  まるで、初めて会う店の店員に向けるような、無関心で、品定めするような、冷たい視線だった。 (……なに、その目)  昨夜のことなど、何もかも無かったかのように。  いや、それどころか、私のことなど知らないとでも言うように。  私だけが、あのスイートルームでの出来事を、あの肌の熱を、屈辱を、引きずっている。まるで私一人が馬鹿みたいじゃないか。  カッと、顔に血が上るのを感じた。 「……いらっしゃいませ。本日は、どのようなご用件で」  声が震えそうになるのを、奥歯を噛み締めて必死にこらえる。  私の、チーフコーディネーターとしてのプライド。プロとしての崩れない笑顔。  それが、今、私を支える唯一のものだった。  私のその、必死の笑顔を見て、湊は、初めて、あの笑みを口元に微かに浮かべた。  そして、残酷な言葉を、はっきりと口にした。 「ああ。婚約者のために、ドレスを選びに来たんだ」 (……こんやく、しゃ?)  息が、詰まった。  婚約者。  その言葉が、鋭いナイフのように私の胸に突き刺さる。  ああ、そう。そうか。  この男には、本物の「婚約者」がいたんだ。  昨夜のあれは、からかわれただけ。  いや、それどころか、本物の婚約者がいるのに、私は、あの男の……「火遊び」の相手にされたんだ。  私、なんて馬鹿なの。  気持ちをかき乱されたどころじゃない。身体も、プライドも、全部、あの男のペースに持っていかれた。  怒りと絶望で、目の前が赤黒く染まっていくようだった。  昨日、私をあんな風に翻弄し、一夜を共にしたこの男が、今日は客として、私に妻のドレスを選べ
last update最終更新日 : 2026-01-06
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