로그인「姉の死の真相を……調べてください」 桐ヶ丘学園・推理部 学園内で持ち上がるさまざまな謎や依頼を解決するその部室の扉を一人の女子生徒が叩く。 彼女が持ち込んだのは、先月自殺した姉の死の真相を探ってほしいという依頼だった――。 ——『知恵を絡め取る蒼き影。その牙の奥に、扉を開く手がかりは眠る。』——。 残された謎のメッセージを手がかりに、主人公朝倉悠真は真相に迫る。
더 보기五月九日、火曜日、夜の校舎。
静まり返った廊下を、少女の影がひとつ、ふらつくように歩いていた。 その手には、屋上の鍵。制服の袖は乱れ、足取りは重い。 まるで誰かに追い詰められたかのように、彼女はただ前へ進むしかなかった。 扉の前で立ち止まり、震える手で鍵を差し込む。 カチリ——と乾いた音が響いた。 *** 佐倉美月の瞳には、既に生気はなかった。屋上の冷たい風が、無言で彼女を迎える。 美月はゆっくりと縁へ向かうが、その背中には、まるで見えない誰かの影が重なっているようだった。 美月は足を止めた。 そして、わずかに振り返る――誰もいないはずの暗闇を、恐れるように見つめる。 その視線は、確かに誰かを意識していた。 次の瞬間、風に押されるように、一歩、前へ。 静寂の中、制服の裾がふわりと舞い上がり、少女の姿は闇に消えた。 *** 屋上の静寂を破ることなく、夜はそのまま更けていく。 だが、校舎の離れた場所では、一つのスマホの画面がぼんやりと光っていた。 そこに表示されていたのは、短いメッセージ。 ——『終わらせます』——。 画面の送り主の名前は表示されていない。 ただ、メッセージを見つめる人物は、ゆっくりと満足げに頷く。 その指先が、もう一つのメッセージを開いた。 ——『これで問題ありませんよね?』——。 その言葉に、誰ともなく小さく笑う声が漏れる。 まるで、すべてが計画通りに進んだことを確認するかのように。 やがて、スマホの画面は消え、闇に溶けていった。 誰が、誰に報告していたのか。 その答えは、まだ誰にも分からない。 ただ一つ確かなのは——。 この夜、佐倉美月が命を落としたという事実だけだった——。 この夜、桐ヶ丘学園は、ひどく静かだった。 わずかに吹き込む風の音と、遠くで軋む窓枠の音だけが響いていた。 そんな静寂の中——。 二つの影が、ゆっくりと校舎を後にする。 一つは、規則正しい足音を響かせながら、迷いのない歩みで進む。 その背中からは、既に終わったことへの満足すら漂っていた。 まるで、全てが予定通りに運んだと言わんばかりに。 もう一つは、足音を殺すように、息を潜めながら進む。 顔を上げたその瞳には、消しきれない痕跡が宿っている。 恐怖か、後悔か――それとも、ほんの僅かな安堵なのか。 その表情からは、ついさっきまで何をしていたのか、誰にも読み取れなかった。 二つの影は、交わることなく、しかし確かに隣り合っていた。 言葉を交わすこともなく、視線すら交差しない。 けれど、その場に漂う空気は、まるで二人の呼吸が重なっているようだった。 ――同じ場所で、同じ夜を共有していたのか。 それとも、ただすれ違っただけの存在だったのか。 誰にも、その境界は分からない。 ただ確かなのは、二つの影が同じ闇の中で動き出したという事実だけだった。 校舎は、二つの影をただ無言で送り出した。 夜風が最後に、微かにページの捲れる音を運ぶ。 それは、一つの命が消えたことを告げる音だったのかもしれない。 こうして、誰にも知られぬまま、二つの影は闇へと溶けていった――。──こうして、俺たち推理部が受けた初めての本格的な依頼は、幕を下ろした。 すべてが明らかになったわけじゃない。 事件の裏には、まだ解けていない謎がいくつも残されている。 あの日、なぜ屋上の鍵が職員室から盗まれていたのか。 事件当日、校舎内の防犯カメラには、なぜ誰の姿も映っていなかったのか。 朝早く、誰が職員室の鍵を開けていたのか。 ──佐倉美月先輩が、どうしてあの時、職員室に入れたのか。 点と点は繋がったようで、まだ線にはなっていない。 そして綾野奏斗。 彼は、真相が明るみに出た後も、何ひとつ語ろうとはしなかった。 まるで終わった役割を果たした人形のように、口を閉ざしたままだ。 けれど、その後の報せはあまりにも突然だった。 事件から数日後。 綾野は、両親と共に乗っていた車で、交通事故に遭い──死亡した。 雨の日の夜、ブレーキ痕すら残らない奇妙な事故だったという。 原因は不明。詳細な報道もないまま、ただ一行の訃報だけが新聞の隅に載った。 偶然なのか、それとも……。 真実は、まだ深い闇の中に沈んだままだ。 それでも。 あの日、あの屋上で見届けたものは、確かな救いのひとつだった。 佐倉──いや、優衣は事件のあと、推理部に入った。 最初は戸惑いもあっただろう。けれど今では、俺たちと一緒に、校内のあちこちを駆け回っている。 ときには真剣に、ときには口喧嘩しながら。 それでも確かに、彼女は前を向こうとしている。 佐倉美月先輩のことは、まだ乗り越えたとは言えない。 けれど、家族に支えられ、友人に守られ、 そして、自らの居場所を取り戻しながら、少しずつ――歩き始めている。 そうだ。 この物語に、はっきりとした勝者なんていない。 でも……少なくとも、光を見つけた者は、いたのだと思う。 そして俺たちは、この事件がまだ始まりに過ぎないことをまだ知らなかった。事件を解決するたびに、何者かの影が潜んでおり、その影は俺たち家族の死にかかわっていた……。 長きにわたる謎、因縁解決へ今歩み始めた。
それから数分後、屋上には、なお沈黙の余韻が漂っていた。 綾野はその場に座り込み、もはや立ち上がる気力さえ残っていなかった。俯いたまま微動だにせず、顔の影に感情は読み取れない。そのそばで、片桐先生と仁科校長がそっと寄り添っていた。 「ここは任せろ」 短く、それでいて深い信頼を込めた片桐の声に、悠真たちはうなずいた。 推理部の三人――悠真、陸、澪。そして如月、小池、佐倉。六人は無言のまま屋上の扉へと向かい、ゆっくりとその重い扉を押し開ける。その瞬間――。 「優衣!」 甲高くも震えた声が響き、次の瞬間、ふたりの女子生徒が駆け寄ってきた。 一人はそのまま優衣に飛びつくように抱きつき、もう一人は彼女を庇うようにその前に立った。 「大丈夫!? ……ほんとに大丈夫なの!?」 「ずっとここで見てたの、あんたが屋上に行くのを……でも、何もできなくて……」 その声は涙で詰まっていた。彼女たちの表情には、ただただ心配と後悔が滲んでいた。 「……あんたが辛いのに、気づいてやれなくてごめん。でも、でもね、これからは私たちが――あんたを守るから」 「そうよ。さっきの話……全部聞こえてたけど、悪いのは綾野先輩じゃない! 優衣は……優衣は何も悪くない!」 「中学の時は両親を亡くして、今度はお姉さんが亡くなっても、毎日学校に来て、誰にも当たらないで、私たちにだってずっと気丈に接してくれて……」 「そんな優しい優衣を、責めるなんて……絶対に許さない!」 言葉が、涙とともに次々と溢れていく。優衣は、その場に立ち尽くしたまま、目を見開いていた。その視線は驚きに揺れ、そして、何かが溶けていくようだった。 そのとき、陸が一歩前に出て、口を開いた。 「……俺も、兄貴を亡くしてる。だから、わかるよ。大切な人を失ったときの気持ち、簡単には癒えないし……周りに何を言われても納得なんてできるもんじゃない。でもな、優衣ちゃん。君は――二度も、大切な人を失ったかもしれない。けど……失われていない絆も、確かに残ってるんだ」 陸は、泣きながら優衣の肩を支えるふたりの女子生徒を見た。 その視線は真っ直ぐで、どこまでも真剣だった。 「どうか、それを大事にしてほしい。俺が、こいつらを大事にしてるみたいに――」 その瞬間だった。佐倉の目から、大粒の涙がひとしずく、頬を
「勝手に死んで、勝手に人を責めて……少し言葉をかけただけで、人を殺しただなんて。バカげてる」 「……は?」 陸が呟いた。目を見開き、信じられないというように一歩前へ出る。 「お前、今……なつった?」 仁科校長は沈黙のまま綾野を見据えていた。その瞳には、鋭い光が宿っていた。 小池は口元に手を当て、震える指先を抑えるように立ち尽くしている。 「……何言ってんの、あんた……?」 如月先輩は、はっきりと声に出した。 「だってそうだろ? あれくらいで死ぬような奴なら、最初から死にたがってたんだよ!むしろ感謝されたいくらいだ。僕のおかげで、あいつは死ねたんだからな!それで僕を恨むなんて、筋違いもいいところだ!そもそも――」 綾野はゆっくりと歩を進め、佐倉の真正面に立った。 「僕が犯罪者だというなら、この女だって同じだ。証拠を捏造して、僕を殺人犯に仕立て上げた。とんでもない嘘つき女だよ。それに、殺人罪偽造の、証拠だってあるんだからな!」 佐倉は綾野を睨み返した。沈黙のなか、怒りと恐怖、そしてもう一つ、名づけがたい感情が彼女の瞳に交錯していた。 「犯罪者は、お前だけだ。綾野」 俺はそう言いながら、佐倉を庇うように綾野との間に立った。少し遅れて、陸と澪も前に出て、俺の隣に並ぶ。 「人をもてあそび、心を壊したお前と、たとえ過ちがあったとしても誰かを想って動いた優衣ちゃんを、同じ土俵に並べるな!」 「あなたは、間接的に人を殺した……その事実から、目を背けないで。……証拠もある。罪は、償うべき」 陸と澪がそう言葉を投げかけたあと、二人の言葉を引き継ぎ俺も続いた。 「確かに、お前が殺人犯だという構図は、作られた嘘——虚構だった。だが――お前は佐倉先輩を追い詰め、壊し、自らの手を汚すことなく死へと導いた。その現実は、佐倉が作り出した虚構よりも、ずっと冷たい」 言葉を区切り、口調をさらに冷たくして続けた。 「本当に恐ろしいのは、虚構が現実を超えることじゃない。現実が、それすら飲み込んでしまうほどに、邪悪だったという事実だ。お前の行いで、周囲の人間は絶望に突き落とされた、それを自覚しろ」 そして、俺はわざと不敵に笑って、軽い調子で言った。 「それに証拠?──そんなもの、どこにあるんだ?」 「……は?」 その直後、乾いた音が場を裂
「ええ、そうよ。途中までの——殺人罪を立証させる推理は、私が思った通りに推理してくれて、計画どおりになると思ったのに……」 その答えには悔しさが滲んでいた。だが、なぜかその答えを何度も繰り返し胸の内で練習してきたかのように、迷いは一切なかった。 「こんなの……直接手を下してないだけで、殺人と何が違うの?」 声がわずかに揺れた。 「支配して、追い詰めて、逃げ場を奪って……それでも自殺だからって軽く済まされるなんて、私はどうしても許せなかった」 その言葉には怒りだけでなく、長い葛藤の末に形になった痛みがにじんでいた。 如月先輩と陸が顔を見合わせる。だが、そこに浮かぶのは怒りでも非難でもなく、ただ困惑だった。 「……どういうことなんだ?」 陸が小さくつぶやき、それに応えるために俺は息を整える。 「今、説明する」 今この場を預かる者としての責任を果たそう。 「綾野は十八歳、つまり特定少年に該当します。殺人罪が適用された場合は、成人と同等の刑罰――極刑こそないが、重い罪を科される可能性がある。実際には慎重な判断が求められますが、少なくとも佐倉の思惑どおりなら、重い罪に問われていたでしょう」 澪が補足するように言葉を重ねる。 「自殺幇助も刑法上は処罰対象だけど、特定少年が対象となると、実際には大幅な減刑がなされることが多い。執行猶予付きの判決が出ることもある……つまり、殺人と比べて罪の重さがまるで違う」 「だからこそ、佐倉は殺人罪として裁かせようとした……そういうことだ」 澪から引き継いだ、俺の言葉が響いたそのとき、口を開いたのは小池だった。 彼はうつむきがちに口を開く。声は小さかったが、はっきりと響いていた。 「……僕は、佐倉先輩に……恋をしていました。ずっと伝えられなかったけど……それでも、ずっと、ずっと想ってたんです」 一瞬、彼の視線が綾野へと向く。 「でも、綾野と佐倉先輩が親しげに話しているのを見て……僕は勝手に、二人は付き合っているんだって思い込んでしまって……悔しくて、嫉妬して、どうしようもなくて……それで、生徒会室に隠しカメラを仕掛けたんです。スキャンダルでも撮れたら、って……最低な動機でした」 その顔には自己嫌悪の色が濃く滲んでいた。 「でも……そこに映っていたのは――あの動画だった」 声がわ
俺はノートの暗号から解読した言葉を思い浮かべながら口を開いた。 澪がすぐに頷く。 「蛇が、実際に存在するものだとしたら、まずは校内にそれがありそうな場所を絞るべき」 「……蛇なんて、普通は飼っていなくね?ペットじゃあるまいし、どこにそんなもんがあるんだ?」 陸が首を傾げる。 「生きてる蛇じゃない可能性もある」 俺は考えながら言葉を続ける。 「模型や、図柄……理科の教材にありそうだな」 「それなら、理科室周りだね」 澪は淡々とタブレットを操作し始めた。 「念のため、昨日のうちに校内の備品リストを確認しておいた。蛇って単語が引っかかってたから」 「……
佐倉が部室を訪れた翌日の水曜日、昼休み。昨日と同じように、俺たちは部室に集まっていた。 机の上には、彼女が置いていった姉のノート。 そこに刻まれた蒼き影の言葉だけが、じっとこちらを見つめているようだった。 静寂を破ったのは、副部長の陸だ。 「……どうする、悠真。これ、本気でやるつもりか?」 「当たり前だ、依頼は依頼だ」 俺はノートを見つめたまま答える。 「それに……俺は正しくありたい、見過ごすことはそれに反する」 「おまえらしいな」 俺の言葉に対し、陸が歯を見せ、笑いながら呟く。 俺たちのやり取りに、澪がタブレットを操作しながら口を挟む。 「とはいえ、もし
隣では澪が画面をスクロールしながら、冷静に状況を整理していく。 「確かにリスクはある。だけど、放っておけば真相は闇に消えるだろうね」 澪が淡々と言葉を重ねる。 「少なくとも、佐倉は本気で助けを求めてる」 俺は視線を佐倉に向けた。彼女は必死に不安を押し殺しながら、俺たちの判断を待っている。この依頼を断れば、彼女は独りで動こうとするかもしれない――その未来が一番危うい。俺は息を吸い、二人に向き直る。 「……どうするかは、もう決まってる」 陸が苦笑しながら肩をすくめた。 「だと思ったよ。お前がそう言うなら、最後まで付き合うさ」 澪も小さく頷く。 「推理部として動くなら、
「……君のお姉さんは、佐倉美月先輩だったかな? 三年の……先月、自殺したって……」 俺の声は、少しだけ固くなっていた。佐倉は首を振る。 「違います。姉は自殺なんかしてません。誰かに殺されたんです」 その瞳には、確信に満ちた光が宿っていた。 沈黙が落ちる中、陸が慎重に口を開く。 「警察は、事件性なしって判断したんだろ? 屋上からの飛び降り……状況証拠も揃ってたって」 「……そうです。でも、おかしいんです。姉は最後の一週間、別人みたいに無口で……スマホの中身は全部消されていました。それに……屋上に行けるはずがないんです。鍵が必要なのに……」 澪が冷静に問いかける。 「お姉