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妹のような存在

Author: rinsan
last update Petsa ng paglalathala: 2026-04-19 08:09:10

「東九条の近くに在日に顔が利くおっさんが住んでるさかいそいつに聞いてみよう思てます」

重厚な革の香りに包まれた車内で、男は指先の白むほどに

ステアリングを握りしめていた。喉の奥で震える声をどうにか絞り出し、

後部座席に鎮座する「彼」へと投げかける。

彼は一言の返辞も与えない。ただ、深い沈黙のなかで、隣に座る彼女の顔色をさぐるよう、

薄氷を踏むような視線をわずかに流した。

彼女もまた、言葉を重ねることを選ばなかった。

視線の先にあるはずの京の街並みも、今の彼女にとっては、ただ通り過ぎるだけの

無機質な背景に過ぎないのかもしれない。

「あんたが探してる娘…君とはどないな関係や?

それぐらいは教えてくれてもええやろ?」

唇がわずかな空白を刻む。拒絶の意志は、その硬い沈黙の中には見出せなかった。

ただ静かに視線を落とすと、淡々と静かな空気を纏い語り始めた。

「彼女…サランは六穣会が香港のブローカーを経由して日本に密入国させた

朝鮮人です。日本に来たばかりの頃、大阪で私が彼女の面倒を見ていました」

「面倒…言うてもそないに幼い子供っちゅうわけでもあらへんのやろ?その娘は」

「そうですね…。私より四つ下なだけですので…妹みたいなものです」

彼女を語るその声色に、彼は見知らぬ温度を感じていた。

自分を射抜く峻厳な眼差しは鳴りを潜め、今の彼女の瞳には、

大切な存在を慈しむ柔らかな情愛が灯っていた。

「…まあ私が勝手に妹のように思っているだけですが」

言葉の終わりに、鈴華は自嘲を混ぜて微笑んだ。

砂漠を思わせる乾いた笑みだったが、残酷なほどに綺麗だった。

彼は応えず、ただ煙草を深く吸い込む。

肺に溜まる煙の重さだけが、彼女の笑みに抱いた名付けようのない感情を紛らわせてくれた。

二人の歳月を知らぬ自分が紡ぐ言葉は、あまりに軽薄で、滑稽ですらある。

余所者である自分の言葉がいかに空虚に響くか、彼は嫌というほど理解していた。

―やがて車は、誘われるように細い路地の深奥へとその身を沈めていった。

左手に立ち並ぶ家々は、まるで歳月の重みに耐えかねた巨獣の背のようだ。

波打つトタンの壁は、幾度となく繰り返された雨風によって、鮮やかな赤錆の花を咲かせ、

狭い路地の奥へと視線をやれば、電柱が傾きながら立ち並び、無数の電線が空を切り刻んでいる。

見上げる空は、雲ひとつない。しかし、その抜けるような蒼穹の下で、

路地は重く、深い沈黙を湛えていた。

波打つトタンの薄壁。その心許ない合間に、辛うじて形を留めた木扉がうずくまっている。

その家の前で、車は静かに動きを止めた。

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