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第3話

Author: 招き猫にゃん
「それと、麻衣は新入りだ。怒りをぶつけるな。あいつは何も知らないんだから」

彼は私が二人の関係を知らないと思って、麻衣を守られるべき無垢な被害者に仕立て上げようとしている。

そして私は、分別もなく喚き散らす嫉妬深い女に。

その言葉を聞いていたら、胃がむかついた。

胸の奥に詰まったものが、今にも爆発しそうだった。

「隊長」私は一言一言区切るように呼んだ。「勘違いしてる。両親に連絡したのは私じゃない。病院から家族に連絡が入っただけ。

それに、その新入りのことは……これから先、私には関係ない」

大介の顔色が一瞬で変わった。

母が水のコップをベッド脇の台に力任せに置いた。

「麻衣って誰よ。まず夏希に謝りなさい!仕事でも何でも、娘をひとりで置いて行くなんてありえない!コンロが古くなってて、ガスが漏れるって前から分かってたのに!交換するって約束したじゃないの!」

大介が固まった。戸惑ったように私を見る。

両親の目に、大介はずっと誠実で頼れる青年として映っていた。麻衣のことを言わずにいたのは、私に残った最後の矜持だった。

彼が約束を破った理由は、両親には当然「仕事」としか映らない。

「市民を守るヒーロー」が、出会って三ヶ月も経たない新入りのために判断を狂わせるとは、誰も思うまい。

大介の顔が青ざめ、白くなった。唇が動く。

「ごめん、夏希。俺……っ」

そのとき、麻衣が保温ポットを手に病室の入り口に現れた。

「すみません、おばさま。全部私のせいです。隊長を引き留めたのは私で、帰れなくさせてしまって……本当に申し訳なかったです、うう」

ピンクのパジャマ姿に、大介の上着を羽織っている。潤んだ瞳で、いかにも守ってやりたくなるような顔をしていた。

「あなたが麻衣さん?」母の声に怒気が滲んだ。

大介が即座に麻衣をかばうように自分の背中へ隠した。

「おばさん、そんな、彼女は悪くないです。いい子なんです、本当に」

反射的に庇うその仕草が、刃のように私の胸に刺さった。

麻衣が大介の陰からそっと顔を覗かせ、涙目で私を見た。その声には、微かな優越感が混じっていた。

「夏希さん、隊長を責めないで。私のことも。自分は若いし、まだ未熟だから、どうしても隊長に頼ってしまうの。あなたみたいに強くて自立してたら、何でもひとりでできるのに」

一拍置いて、唇を噛んでから、まるで覚悟を決めたように続けた。

「つらい気持ちは分かるよ。でも男の人って外で大変なんだから、もっと気持ちを汲んであげて。こんなふうに大ごとにして彼を困らせるんじゃなくて、少しは彼を思いやることも覚えてください」

母の手が震えていた。

「じゃあうちの夏希はどうなるの!もう結婚するって話だったのに!」

私は静かに視線を落とし、ギプスの巻かれた脚を見つめた。

「結婚の話、やめるわ」

大介が眉をひそめた。

「夏希、感情的に言うな。麻衣が正式採用になったら、俺は別の署に異動申請する。離れるから、それじゃ駄目か?」

脚の傷がまたうずいた。

骨の奥まで沁みるような痛みだった。

「……どこに異動するの?」私は聞いた。

「西区分署」

「……何が変わるの」私は目を上げて彼を見た。もう失望さえなかった。

「一番近い分署だぞ。まさか辞めろって言うのか?あいつは卒業したばかりの新人だぞ!」

かつて私を背中に庇って、ずっと守ると言っていた男が、今は向こう側に立って、仕事を盾にし、将来という言葉で私を縛ろうとしている。

六年間。それだけの時間が、こんなにも脆かった。

ふと、ひどく疲れた。何もかもが馬鹿らしかった。

もう、たくさんだ。

彼が麻衣を傷つけたくないなら、それでいい。私が消えればいい。

翌日、両親が転院の手続きをしてくれた。

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