Share

355話

Author: 籘裏美馬
last update publish date: 2026-07-30 18:35:27

パタン、と音を立てて扉が閉まった。

しん、と静まる部屋の中、社長室に1人残ったもみじはじわじわと実感が強まってくる。

さっき、髙野辺と自分は何をしようとしていたのか──。

真剣な表情を浮かべた、髙野辺の顔が近付いてきた。

顔を傾けて、あと少しでお互いの唇が触れ合いそうになって──。

そこまで思い出したもみじは、ぶわっ、と顔が熱くなり、ドコドコと心臓の鼓動が速くなる。

もみじは小さく声にならない声を発し、自分の熱く火照った顔を両手で覆った。

「う、ううぅ〜……」

まさか。

まさか、髙野辺から告白されるなんて。

「ど、どうしよう……この後、どんな顔して会えばいいの……」

先程、徳居に首を絞められた時の恐怖は、既にどこかに行ってしまった。

それほど、髙野辺の告白が強烈過ぎたのだ。

もみじはソファから立ったり座ったり、そして意味もなく室内をぐるぐると歩き回ってしまった。

一方、髙野辺は社長室を出た後。

先程、もみじに向けていた甘やかな表情を一切消し、真っ直ぐ警備室に向かって歩いていた。

警備室に着いた髙野辺は、数回ノックをした後扉を開ける。

「──社
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した   357話

    「──あっ、ちょっと誠司!」 胡桃の咎める声など気にもとめず、誠司はスマホの画面を食い入るように見つめた。 動画サイトにアップされた、人が襲われる光景。 それは、沢山の人の興味をひき、どんどん拡散されていく。 襲っている女の顔は良く見えないが、女が馬乗りになり、首を絞めているのは誠司にも見覚えのある女性──元妻のもみじだ。 「なん、だ……これは……。どうしてもみじがこんな目に……?」 唖然と呟く誠司の横顔を見て、胡桃は不愉快そうに眉を寄せ、口を歪めた。 (──はあ!?どうして誠司がもみじなんかを心配しているのよ!?もう別れたんだから、ただの他人じゃない!) どう見ても、誠司はもみじを案じているような態度だ。 それが面白くなくて、胡桃は誠司に声をかけるとスマホをひったくって取り返した。 唖然としていた誠司だったが、ぐっと拳を握りしめたあとぱっと顔を上げた。 「──仕事が残ってるから、会社に戻る。今日は遅くなるから、俺を待たなくていい。人が必要なら、使用人を雇え」 誠司は口早にそれだけを言うと、1枚のカードを取り出して胡桃のベッドに置いた。 「好きに使え。……行ってくる」 「──あっ、ちょっと誠司……!」 誠司は胡桃の静止の声に足を止める事なく、そのまま部屋を出て行ってしまった。 胡桃の部屋を出るなり、外から誠司の駆ける足音が聞こえ、慌ただしく外に出て行った。 ぽつん、と1人部屋に残された胡桃は青筋を浮かべながらスマホを握りしめる。 奥歯を噛み締め過ぎて、口内からバキリ、と変な音が聞こえた。 「──はぁ!?誠司……絶対もみじのところに行ったわ、信じられない……!まさか、私がいるって言うのに、もみじと離婚したっていうのに、未練があるの!?今更、もみじが惜しくなったの!?」 信じられない!と胡桃はスマホを壁に投げつけようと腕を振りかぶった。 だが、そこでハッとしてぴたりと腕を止める。 「──そうだ、連絡しておかないと……!」 胡桃は光すっと消した瞳で呟くと、スマホの連絡先一覧を画面に表示する。 その中から目当ての連絡先を見つけ出した胡桃は、にんまりと口端を持ち上げた。 「……もみじなんて、一生泥水を啜るような人生がお似合いよ。もっともっと苦しめてやるんだから」 胡桃のスマホに表示されている、連絡先一覧。 その中に「F

  • 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した   356話

    「──告訴します」 キッパリと言い切った髙野辺に、それまで話しをしていた警察官は驚いたようにあんぐりと口を開けた。 「……え?告訴……、恋愛ごといざこざ、で?」 そんな馬鹿な事を、と失笑する警察官に、髙野辺ははっきりと告げた。 「一方の言い訳を鵜呑みにしているようですが、私はそちらの女性と仕事以外での面識はありません。それに、私は不倫の事実など一つもない。確かにお付き合いをしている女性はいますが、その方は独身です。……むしろ、私の名誉を傷付けている彼女を告訴します。……そして、今回私の恋人に危害を加えた元社員を傷害罪で告訴します」 「──え?ちょ、ちょっと待ってください……、え?社長さんは、この女性と──」 「以前から妄言を口にされていて、迷惑していました。元社員の徳居 朱音は、会社に損失を与えたため、懲戒解雇したんです。その翌日、私の恋人を逆恨みし、このような暴挙に出た」 髙野辺の説明に、先程まで警備室に漂っていた空気が一変した。 「……だから俺と蒔田秘書があれほど説明したじゃないか」 田島の呆れた呟きが、静かな警備室に大きく響いた。 ◇ 髙野辺がやって来た事で、事態は一変し、警察は慌てて処理を行った。 それまで手錠をかけられていなかった徳居は、手錠を嵌められ現行犯逮捕され、連行された。 「……あの年配の警察官、ろくでもないですね!」 「……聞こえるぞ」 「聞こえていいですよ!一方的にあの女の言うことを信じて……!」 全く、ろくでもない! と、髙野辺の隣で田島が怒り狂っている。 髙野辺が怒らなくとも、すぐ側で自分事のように怒ってくれている田島のお陰で、髙野辺はそこまで怒りを覚えなかった。 最初は確かにあの警察官の態度に苛立ったが、田島のお陰で自分は冷静になれる。 「──ふっ、そこまで怒らなくていい。どこの組織にも、あんな人間はいるものだ」 「警察のくせに、目が曇りまくってますね!」 「そうだな」 くつくつと低く笑い声を発しながら、髙野辺は連行されていく様をじっと見送った。 警察車両に徳居が乗せられ、ようやく本当に会社から去った。 それにほっとしたあと。 髙野辺は蒔田に顔を向ける。 「蒔田秘書。法務課に連絡を。迅速に告訴の手続き、それと徳居 朱音の接近禁止令も」 「かしこまりました。すぐに手配いたします」

  • 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した   355話

    パタン、と音を立てて扉が閉まった。 しん、と静まる部屋の中、社長室に1人残ったもみじはじわじわと実感が強まってくる。 さっき、髙野辺と自分は何をしようとしていたのか──。 真剣な表情を浮かべた、髙野辺の顔が近付いてきた。 顔を傾けて、あと少しでお互いの唇が触れ合いそうになって──。 そこまで思い出したもみじは、ぶわっ、と顔が熱くなり、ドコドコと心臓の鼓動が速くなる。 もみじは小さく声にならない声を発し、自分の熱く火照った顔を両手で覆った。 「う、ううぅ〜……」 まさか。 まさか、髙野辺から告白されるなんて。 「ど、どうしよう……この後、どんな顔して会えばいいの……」 先程、徳居に首を絞められた時の恐怖は、既にどこかに行ってしまった。 それほど、髙野辺の告白が強烈過ぎたのだ。 もみじはソファから立ったり座ったり、そして意味もなく室内をぐるぐると歩き回ってしまった。 ◇ 一方、髙野辺は社長室を出た後。 先程、もみじに向けていた甘やかな表情を一切消し、真っ直ぐ警備室に向かって歩いていた。 警備室に着いた髙野辺は、数回ノックをした後扉を開ける。 「──社長」 「遅くなってすまない」 「いえ、大丈夫です。警察が防犯カメラの映像を確認し終えました」 「そうか」 蒔田から報告を受けた髙野辺は、ちらりと徳居や警察官がいる方向へ顔を向ける。 会社の経営者──責任者である髙野辺がやってきて、警察官から今後についてどうするかと話される。 もちろん、髙野辺は最初から答えは決まっている。 「──現行犯逮捕できますよね?」 髙野辺の冷静で、冷たい声。 その声を聞いた徳居は、弾かれるように顔を上げた。 「ひ、聖さん!?酷いわ……っ!」 真っ青な顔で、はらはらと涙を零す徳居に、女性警察官が傍に行き、落ち着かせるように声をかける。 だが、徳居は更に声を張り上げた。 「私を捨てて、あんな女と不倫するなんて……!どうして……!?私にかけてくれた言葉も、笑いかけてくれた日々も、全部嘘だったの!?」 徳居が泣き叫ぶ。 警察官はほこほこ困り果てた、と言うような態度で髙野辺に胡乱気な視線を向けた。 「……先程から、彼女……この一点張りでしてね……。その……、社長さんは……えーと、自社にお勤めの……既婚者と不倫を……?そして、こちらの女性にも

  • 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した   354話

    (ああ、可愛い……愛しい……好きだ……) 髙野辺は自分の腕の中にすっぽりと収まるもみじを見下ろし、頭の中でずっと同じことを叫んでいた。 (まさか、告白を受け入れてもらえるなんて……こんなに幸せな事があっていいのか) ぎゅう、と髙野辺が抱きしめる腕に力を込めれば、もみじも応えるようにぎゅっと抱きしめ返してくれる。 (信じられない……夢……?いや、夢じゃない……これは現実だ。夢だったら目が覚めた時に死んでしまいそうだ) 恥ずかしいだろうに、真っ赤になりながら抱きしめ返してくれている、いじらしいもみじ。 そんなもみじを見ていたら、髙野辺はたまらなくなってきた。 「──もみじさん」 「……?」 髙野辺がもみじの名前を呼ぶと、もぞりと顔を上げる。 見上げてくるもみじの頬は、まだ恥ずかしさで紅潮していた。 髙野辺はすり、ともみじの頬を自分の指の甲で撫でる。 擽ったそうに小さく声を漏らすもみじがたまらなく色っぽい。 髙野辺は、そっと瞼を伏せると吸い込まれるようにもみじの顔に自分の顔を近づけた。 「──ぁっ」 もみじが小さく声を上げ、恥ずかしそうに瞼を伏せる。 もみじの長い睫毛が頬に影を落とした。 瞬きをするのも酷くゆっくりと感じられて。 もみじが目を閉じるのを見た髙野辺は、そっと顔の角度を変え、もみじの唇に自分の唇を重ね合わせようとして──。 ──ブーッ、ブーッ! その瞬間、髙野辺の胸ポケットに入れていたスマホが着信を知らせる。 静かな室内に、電話のバイブ音が流れて2人はぴたりと、固まった。 「──〜っ、すみませんもみじさん、電話に出ますね」 「は、はいっ」 2人は慌てて体を離す。 もみじはそそくさと自分の髪の毛を手櫛で直し、髙野辺はもみじを片手で抱いたまま電話に出た。 「──もしもし」 髙野辺が電話に出ると、スピーカーからは不思議そうに尋ねる蒔田の声が聞こえた。 〈社長?まだこちらに来られないですか?〉 「……すまない、今から向かう」 しまった。 忘れてた──。 もみじと髙野辺、2人の顔にははっきりとそんな言葉が現れていた。 そうだ。 髙野辺は警備室に向かう途中だった。 そして、もみじは警備室に向かう髙野辺を見送った後、ここで待っている予定だったのだ。 髙野辺は小さくため息を零すと、抱きしめていたもみじ

  • 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した   353話

    真っ赤な顔で頷いたもみじを見た瞬間、髙野辺の胸に温かいものが込み上げる。 恥ずかしそうに頬を染め、いじらしく目を逸らすもみじが可愛くて、愛おしくて仕方ない。 髙野辺はとろり、と蕩けたような目でもみじを見つめた。 「──夢、みたいだ。信じられないくらい、嬉しいですもみじさん」 嬉しそうにはにかむ髙野辺の表情を見て、もみじの胸にもじわじわと実感が込み上げてくる。 もう、二度と誰かを愛する事は無いと思っていた。 再び誰かを愛して、また手酷く裏切られたら。 そう考えると、もみじは一歩踏み出す事が怖かったのだ。 髙野辺に、惹かれていた。 いつも自分の傍にいてくれて、嫌な顔1つせずに助けてくれて。励ましてくれて。 好きになるのに、時間はかからなかったのだと思う。 だが、もみじは自分の気持ちを見て見ぬふりをした。 感情に、蓋をしたのだ。 髙野辺は、誠司じゃない。 それは頭では分かっていたが、どうしても裏切られた時の辛さがもみじは忘れられなかった。 髙野辺は、誠司のような不誠実な人間じゃないと分かっていても。 惹かれていても。どこかでブレーキを入れていた。 これ以上、髙野辺を好きにならないように。 髙野辺は素晴らしい人だ。 皆に親切で、優しい人なんだ。 だから、自分だけが特別なんかじゃない、ともみじは無意識に言い聞かせていたように思う。 無意識に「好き」が溢れてしまっても。 それを無かった事のように、見なかった事にして、過ごしてきた。 だが。 面と向かって。 髙野辺に想いを告げられて。 応えない訳にはいかなかった。 もみじだって、髙野辺の事がどうしようもなく好きなのだから。 とろり、と蜂蜜のように甘い笑みを浮かべた髙野辺が、そっともみじの頬に手を伸ばす。 「もみじさん……抱きしめてもいいですか?」 頬に触れる寸前。 髙野辺は自分の手をぴたりと止めた。 もし、少しでももみじが嫌がったら。そうしたらすぐに離れられるように。 そんな髙野辺の気遣いがもみじにははっきりと伝わってきた。 だからもみじは、自ら髙野辺の手に頬を寄せた。 触れても大丈夫なのだと。 これからは許可など取らず、髙野辺に自由に触れて欲しい、と言う気持ちを込めて。 ぴとり、と遠慮がちに髙野辺の手のひらに頬を寄せたもみじは、気恥しさから目を泳がせつ

  • 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した   352話

    湿布を貼り、包帯を巻き終えた髙野辺はそそくさとソファを離れ、救急箱を棚に戻す。 「──もみじさん、俺は警備室に行ってきます。俺が戻ってくるまで、ここで休んでいてください」 「あっ、ありがとうございます髙野辺さん」 「どういたしまして。俺が戻ったら家に送ります。今日は休んでください」 「えっ、でもデザインが……!少しでも進めないと、間に合わなくなってしまいます……!」 こんな状況でも、もみじは発売日が迫っている商品のデザインの仕事をしようとしてくれている。 怖かっただろうに、それでも会社の仕事を優先しようとするもみじに、髙野辺はソファに近づいた。 そして、もみじの足元に跪くと、もみじの手を優しく握る。 「──今日は、仕事の事は考えず、ゆっくり休んでください。もみじさんの真面目な所はとても良いと思いますが、こんな事があった後です。無理をしないでください」 「髙野辺さん……」 もみじの手を握る髙野辺の手に、力がこもる。 「田島秘書から報告を受けた時、心臓が止まるかと思った……。もみじさんに何かあったら、俺は耐えられない……」 「た、髙野辺さん……っ」 まるで告白のような言葉だ。 もみじは真っ赤になりつつ、髙野辺の言葉を真に受けないようにしようと、髙野辺から視線を逸らして言葉を返す。 「あ、ありがとうございます……。髙野辺さんは、社員想い、ですね……」 自分で言った言葉。 それなのに、もみじは自分の心臓がズキリ、と痛んだ。 自分で「社員想い」だと言ったくせに。 髙野辺は、ただ自分の会社の社員──契約をしたデザイナーを大切にしているだけ。 (髙野辺さんはきっと……私以外の社員が同じ目に遭ったとしても──) 同じように心配するだろう。 もみじは、自分自身に言い聞かせるように心の中で呟いた。 髙野辺は、とても優しい人だ。 だからこれは特別心配してくれている訳じゃない。 自分じゃなくても、きっと同じように心配をするはず──。 何故か、もみじは自分自身にそう言い聞かせていた。 目を逸らしたもみじを、髙野辺はじっと見つめていた。 そして、もみじの視線を自分に戻すように口を開く。 「……もみじさんだから、です」 「──え」 髙野辺がぽつりと落とした低い声。 その言葉に、もみじは驚き、逸らしていた視線を戻した。 その瞬間

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status