تسجيل الدخول「んっ……」 夜も更けた頃、寝室にあるキングサイズのベッドは乱れ、部屋には甘く濃密な余韻が漂っていた。 結婚して3年、橘遠時(たちばな えんじ)は毎晩のように橘夏美(たちばな なつみ)を抱き、執拗なまでに求め続けた。 夏美は何も身にまとわぬまま、細い腰を男の大きな手に強く抱き寄せられ、熱い吐息を肌に感じていた。 情事を終え二人が落ち着くと、遠時は何事もなかったかのようにバスローブを羽織り、振り返ることなく浴室へと消えていく。 夏美が服を着終えた直後、部屋の外で待機していたボディーガードたちが無言で入ってきて、そのまま彼女を地下室へ連れて行った。 そこには、すでに執事がいて、採血器具を用意して待っていた。「奥様、篠原様の体調が優れず、輸血が必要との電話が病院からありました」 冷たい針が夏美の血管を貫き、真っ赤な血が少しずつ体から抜き取られていく。 そして、これが遠時と夏美が結婚できた理由だった。遠時の愛する篠原晴香(しのはら はるか)は重い血液の病を患っており、夏美だけが彼女と同じ希少なRhマイナスAB型なのだ。
عرض المزيد遠時は固まり、関節が白くなるほど両手でシーツを強く握りしめる。数秒後、はっとしたように我に返ると、すがるような口調で聞いた。「夏美は?夏美はどうなったんだ?」「あまりいい状態とは言えません……」遠時は心臓が張り裂けそうな思いに駆られ、無理やりにでも起き上がろうとした。「夏美はどうしたんだ?会いに行かなきゃ!」「社長!社長は医者から絶対安静だと言われてるんですよ!」冬馬が慌てて遠時を止める。「元奥様は、神崎社長が海外へ連れて行きました」遠時は信じられないといった顔で、冬馬を見つめた。「海外?どうして海外なんかに?今すぐ連れ戻してやる!」「社長!彼女は治療のために海外へと行ったんです。あのままでは、命が助かりませんでしたから」冬馬は大声で言った。遠時のぼう然とした様子を見て、言葉を強める。「元奥様は子供の頃から虐待を受けていた上に、社長と結婚してからも篠原さんに血液を提供し続け、体はもう限界を迎えていました。それに加え、崖から落ちた時、内臓に致命的な損傷を負ってしまい、本来なら目覚めるはずもなかったんですが……復讐心という執念だけで命を繋いでいたのでしょう。神崎社長が社長たちを救い出した後、元奥様はすぐに病院に運ばれましたが、医師から多臓器不全の診断が下されて……」遠時は糸が切れた操り人形のように、再びベッドへと倒れ込んだ。病院の天井を見つめる彼の瞳には、絶望の色だけが浮かんでいる。すべては、自分が招いたことだ。冬馬は声を震わせながら続ける。「神崎社長は以前から繋がりのあった海外のラボで最新の特効薬を開発していました。元奥様はその治験を受けるために向かったんです。生き残れるかどうかは、運次第です……」遠時はかすれた声で言った。「一人にしてくれるか?」病室のドアが閉まると、遠時は震える拳で自分の脚を激しく叩いた。だが、もうそこに痛みは感じられない。……3年後、ステンドグラスから差し込む陽光が、色とりどりの輝きを放っている海外の古びた教会では、純白のウェディングドレスを纏った夏美が、バージンロードに立っていた。その顔立ちは以前と変わらぬ美しさを保ち、瞳には数多の苦難を越えてきた深みと強さが宿っている。この3年間、夏美は何度も生と死の狭間をさまよってきた。壮絶な苦痛に耐えながら、数え切れないほどの新薬
心臓が止まりそうになった。遠時は慌てて夏美を抱き上げる。彼女の体はとても熱く、まるで燃えているかのようだった。「夏美!しっかりしろ!」遠時は夏美の頬を叩いたが、反応はない。呼吸も消え入りそうに弱かった。「絶対にお前を死なせないからな。病院へ連れて行ってやるから、それまで耐えてくれ!」遠時は声を震わせながら、夏美を横抱きにして駆け出した。これまで気づかなかったが、夏美の体は異常なほど軽かった。遠時が車に夏美を乗せようとした瞬間、突然、加速してきたワゴン車が遠時に向かって突っ込んできた。運転席に乗っていたのは、行方不明になっていた宏明だった。遠時の部下に追いつめられ、憎しみを募らせていた宏明は、遠時が夏美を連れてこの邸宅に来たことを知り、復讐心を燃やしていた。そこで、宏明は邸宅の外で一晩中張り込み、遠時が夏美を抱えて出てくるのを見た瞬間、行動に出たのだ。バンッという音とともに、ロールス・ロイスの側面がへこみ、血が車内から流れ出した。ワゴン車がバックし、再び勢いよくロールス・ロイスへ突っ込んでいく。耳を劈く衝突音と共に、ワゴン車が弾き飛ばされ、ロールス・ロイスの車体が歪み果てた。夏美を助け出そうと遠時の邸宅にきていた朔夜の目の前で、その惨劇は起きていた。だから、ワゴン車がバックをした瞬間に朔夜はとっさにアクセルを踏み、自分の車をワゴン車にぶつけ、ロールス・ロイスへの追撃を阻止したのだった。朔夜の部下がすぐに動き、ボディーガードたちは運転席で顔を歪めている宏明をねじ伏せる。「お前みたいなくずは、法で裁いてもらえ」朔夜が宏明を力任せに蹴りつけた。ロールス・ロイスのドアを開けた瞬間、あまりの光景に息を呑んだ朔夜。運転手は致命傷を負い、その場で絶命していた。衝突の際、遠時はとっさに夏美をかばったらしく、彼の足はドアに挟まれ、押し潰されていた。意識を失っていても、夏美を抱きしめ続けている。朔夜が何度もその手を離させようとするが、遠時の腕はビクともしない。「手を放せ!夏美が危ないんだ!」朔夜がそう言った瞬間、遠時の目元がわずかに動き、力が抜けていった。朔夜は夏美を後部座席へ運び、これ以上傷つかないようそっと座らせた。そして、すぐさまボディーガードに指示を出す。「警察を呼んで、橘の秘書にも連絡を
朔夜の部下が到着する直前、遠時は夏美を連れて外で待たせていた車に飛び乗り、現場を離れた。車窓にしがみつく夏美の目に映ったのは、病院へと搬送されていく朔夜の姿だった。遠時は夏美の体を窓から引き剥がし、感情を爆発させる。「夏美、そんなにあの男がいいのか!」「昔はあなたを愛してたから、あなたの為なら何だってできた。でも、あなたは私に何をしてくれた?篠原さんのために3年間も身を削って献血したのに、あなたはそれを『覚えてない』なんて適当に片付けたよね?お母さんの目の前で私に屈辱を与え、追い詰め、お母さんを死に追いやった。それに、篠原さんが手を下したと知っていながら、なんで私に『許せ』なんて言えたの?ましてや、篠原さんの他愛もない一言で、お母さんの骨を犬の餌に混ぜたんでしょ?今までのこと、ひとつひとつ挙げればキリがない……遠時、今更『愛してる』なんて笑わせないでくれる?あなたにお母さんを生き返らせることができるって言うの?」遠時は夏美を新しい邸宅へ連れ込んだが、彼女の氷のように冷たい視線に耐えきれず、その場から逃げ出した。リビングで独り、夏美は掃き出し窓から闇に溶ける夜景を見つめていた。朔夜がどうなったのか、心配でたまらない。復讐のために歩んできた道のりは、ひどく長く、胸に言い知れぬ疲労が溜まっていた。あの崖から飛び降りたとき、死ぬことしか考えていなかった。母を失い、世界に頼れる人はもういなかったから。心にぽっかりと穴があき、生きる気力など微塵も残っていなかった。それでも、理由は分からないが意識のどこかで、医師の残酷な宣告が聞こえていた。「このまま目覚めなければ、植物人間になります」朔夜は諦めずに、ずっと自分の耳元で話しかけてくれていた。それも、たまに手を上げて耳を塞ぎたいと思うほどに。だが悲しいことに、指一本動かすことすら、自分にはできなかった。「本当に馬鹿だな。俺が何とかするって言ったのに、なんで少し待ってくれなかったんだよ?あいつらの悪事の証拠は、もう山ほど集めてあるんだ。君さえ証言してくれれば、篠原一族を法廷へ引きずり出せるのに。あのとき電話をくれたよな。でも俺は丁度任務中で、携帯は機密管理室に預けていたんだ。まさか、連中と同じで、俺も当てにならないと思ったのか?俺があと少し早く戻っていれば、君はあ
すぐに、ボディーガードたちが駆け寄ってきて、晴香を外へ引きずり出した。彼女は発狂したように暴れ、抵抗する。「嫌!遠時、こんなことしないで!離してよ!」晴香はボディーガードに蹴りかかり、叫び声を上げた。「放して!私は遠時の妻なのよ!あんたたち、殺してやるんだから!」遠時は、あがく晴香をまるで死体でも見るような冷徹な瞳で見下ろした。「籍すら入れていないお前が、妻だと?俺の妻は最初から、そしてこれからも夏美ただ一人だけだから」連れ去られる寸前、晴香は狂ったように笑った。「そうやって私を追い出せば、夏美さんが戻ってくるとでも?彼女はもうあなたなんて見限ってるのよ!あなたが私を甘やかさなければ、私だって彼女を挑発なんてしなかった。責めるんだったら、自分自身を責めたら?」地下室には採血道具が用意されていて、晴香はそこに縛り付けられた。遠時は、冷めた目で針が晴香の血管に突き刺さるのを見つめる。「この3年で夏美から奪った血液、その倍の量をこいつから抜き取れ」遠時は地下室の扉を閉ざし、晴香の喚き声と哀願をすべて中に閉じ込めた。遠時は屋敷の前に立ち、勝利を確信したような笑みを浮かべた。「夏美、絶対に逃がさないからな」夏美が愛してくれなくても、許してくれなくても、自分は一生離さない。どんな代償を払ってでも、連れ戻す。……夏美は、朔夜との結婚準備としてウェディングドレスを試着していた。着替えのために奥へ入ると、背後に誰かが入り込んできた気配がした。顔を上げると、耳元で嫉妬と苦痛に満ちた声が聞こえた。「夏美……」夏美はすかさず数歩後ろに下がり、突然現れた遠時を警戒する。「どうしてここに?」遠時は充血した目で、取り憑かれたように夏美を見つめた。「夏美、よくも他の男のためにウェディングドレスなんか着られたな!俺がどれほどあいつを殺したいか、分かってるのか?」これ以上関わりたくなかった夏美は、無表情のままウェディングドレスの裾を持ち上げると、そのまま走り出した。しかし、手首を力任せに掴まれる。必死に振りほどこうとして遠時の手に目を向けると、その手は血に塗れていた。夏美は激しく動揺する。「朔夜さんに何したの?!」遠時は力いっぱい夏美を抱きしめた。「お前の目には、あいつしか映っていないのか?俺のもとへ戻ってこい!」「馬鹿なこと言わ