LOGINフェリシアの前世は筋金入りの腐女子。 今生では不遇な貴族令嬢として生まれ変わったが、その妄想力は全く衰えていなかった。 家族に陥れられて帝都を追放され、行き先の要塞町で兵士相手にBL妄想を爆発させる。 英雄叙事詩を二次創作してBL布教し、毎日楽しく暮らしつつ、取り繕った外面と本物だった聖女の力で要塞の人々を惹きつけていく。 果ては突如現れた魔王までもがフェリシアを娶ると言い出して……? 真の聖女であり真性の腐女子であるフェリシアが、勘違い聖人ムーブと本気のBL布教で紡ぐ物語。 ※BL要素はあくまでフェリシアの妄想の中だけです。実際のキャラにBLはありません。
View More帝都の瘴気はすっかり消えてなくなったが、月イチの聖女の祭壇でのお祈りは欠かさずに行っている。 というのも、気兼ねなくのんびりと建国の聖女様とおしゃべりができるからだ。 いや、お祈りの時じゃなくてもちょいちょい祭壇まで行っておしゃべりしているけれども。現代の聖女(私)のお勤めとして、堂々とBL談義をするのって楽しいじゃない。 というわけで、本日も聖女様とガールズトークタイムだ。「ご希望のクッキー、持ってきましたよ。でもいいんですか? 聖女様は食べられないのに」 私が手土産の包みを見せると、聖女様は嬉しそうに笑った。『いいの、いいの。たとえ幽霊の体じゃ食べられなくても、甘味の気分だけは味わえるから。それにしても昔と比べて、色んなお菓子があるのねえ』 聖女様はもう何百年も前の人。当時と今では食文化も違う。 それに最近は私の現代知識で、ふわふわ生地のスポンジケーキとか開発中である。この国は豊かで物資が豊富なので、レシピさえ覚えていればけっこう再現できる。 ベネディクトと皇帝陛下、軍団長が後ろ盾になってくれているので、もうやりたい放題だ。 祭壇の前にクッキーを置いて、私と聖女様は話し始めた。「それで、前回の続きですけど。聖女様の旦那さんの建国王と、部下の腹黒宰相くんの話を!」『うふふ、彼らね。いいわよ。うちの夫は明るい朗らかな人で、笑顔にカリスマがあったわ。反対に腹黒くんは、普段はどうにも陰気なんだけど、忠誠心は厚くてね。くどくど細かいことに嫌味を言う割に、うちの人が「ありがとう、心配してくれているのだな!」と笑いかけると真っ赤になっちゃうのよ』「わぁお! 主従BL! 主従BLじゃないですか聖女様!」『放浪の旅をしていた頃、魔物に襲われたの。腹黒くんはあまり剣の腕がないくせに、うちの夫のピンチに飛び出して。「陛下! 貴方にもしものことがあったら、僕は……っ!」とか普通に言ってたわ。萌えるでしょ?』「サイコーですっ! やっぱり主従はいい……」『わたしも当時、彼らを
この庭園はデートスポットだけあって、気分が盛り上がったカップルがそういう行為に及んでしまうらしい。 いや単にちょっと盛り上がったキスくらいかもしれんが、目の前の植え込みから聞こえてくるのは、まあ、そういう系のだ。「ずいぶんと苦しそうだ。救助した方がいいな、失礼!」「あ、ちょっと待って!」 私の制止もむなしく、ベネディクトはガサガサと植え込みに踏み込んだ。 そしてかき分けられた緑の向こうにいたのは――「わあっ!? 何!?」 予想通り、あられもない姿のカップルであった。 しかし声を上げたのは意外にも少年と呼べるくらい年若い男性で、彼を腕に閉じ込めて口づけているのも男性であった。 リアルBL!! リアルBLが目の前に!! 私は大興奮して頭に血が上るのを感じる。 やだ、もっと見たい。 失礼なのは承知で観察したい! 間近で! 私はカッと目を見開いて、興奮してくらくらしながら足を一歩踏み出し。「……失礼した」 押し分けられていた植え込みが元に戻り、彼らの姿を隠してしまった。「ベネディクトさんっ!」 湧き上がる不満と怒りのままにベネディクトを見上げれば、非常に気まずい顔をしていた。「すまない、フェリシア。私の先走りで不愉快なものを見せた」 先走り!? 先走りってあの、我慢汁とかそういうやつ!? いやそうじゃない、不愉快ってなによ。 そりゃあ覗き見したのは失礼だったけど、不愉快なわけないじゃない。むしろ眼福でしたけど?「不愉快とはどういうことでしょうか」「男同士のまぐわいなど、淑女であるきみには目の毒だろう」「そんなことはありません。覗き見してしまったのがいけないだけで、愛のありようは人それぞれではありませんか」 むしろBL万歳なんだけど!「不愉快呼ばわりしたのを謝罪しなければなりません。さあ行きますよ」「えっ」 再度植え込み
魔族の国から戻ってきた私は、ベネディクトに誘われてマーニュス庭園にやって来ていた。 ここは百数十年ほど前に海賊一掃作戦で活躍した武将が建造した庭園で、市民の憩いの場になっている。 というかデートスポットとして有名な場所で、周囲を見れば八割がカップル。 私は気恥ずかしくなったが、ベネディクトは気にした様子もなく散策を続けていた。「この前、浄化で魔族の国に行った時、グランと話し合いました。今後の魔族の国をどうするかです。彼らは魔道具をユピテルに輸出したいと言っていましたが、何の規制もなく行えば魔族が不利な取引が増えてしまうのではないでしょうか。魔族たちは純粋すぎて、商売が不得手です」「そうだな……。彼らは我が国の恩人だが、貪欲な商人たちはそんなことを気にしないだろう。搾取にならないよう法案で規制すべきだ」「魔族たちは農業と狩猟を生計にすると言っていました。ただ農業は広い土地を耕す経験がなくて、技術上の不安があるようです。ユピテルの技術を教えるのは可能でしょうか?」「無論可能だとも。ただし技術派遣がそのまま土地の占拠などに繋がらないよう、監視する必要はある。魔族は土地の分配政策を考えているだろうか?」「ユピテルの政策を参考にしたいとのことでした。ただユピテルも、共和国時代に農地法を失敗していますからね……。貧富の差が拡大しないよう初期政策はよく練らないと。せっかくの新しい国の門出ですから、できるだけいいものにしたいです」「うむ。ユピテルの過去の失敗と成功を鑑みて、よりよいものを考えよう」 デートの話題としては色気がないけど、私たちの会話は割といつもこんな感じだ。 何せベネディクトは皇太子。次期皇帝。 私は聖女。建国の聖女様以来続く護国を司る存在なのである。 聖女は皇帝もしくは皇太子に嫁ぐ慣例だが、いろいろあってそれはいったんナシになった。 ベネディクトの前の皇太子はそれはまぁひどいクソ野郎で、勝手な理由で私との婚約を破棄したわけで。ついでにクソすぎて廃嫡になったわけで。 父親の皇帝はその手前、私の結婚
以前であれば北の黒い森に魔物が出るせいで通行不可能であり、天然の要塞の役割を果たしていた。 けれど今はそれもない。深い森ではあるが、踏破はそんなに難しくない。 私はため息をついた。「やっぱり、早急に魔族の国を独立国、友好国として承認させるのが先決だと思う」「そうですな。我々は他国との外交というものにまったく慣れておりません。瘴気で土地が分断されていたせいで千年以上、他種族との接触がほとんどなかったのです。フェリシア殿やベネディクト殿が教えていただけると大変助かるのですが」 ゴードンの言葉に私はうなずいた。「ベネディクトさんは魔族の事情をよく分かっています。ユピテルの首都を救えたのも、魔族の魔道具があってこそ。彼は不義理をするような人じゃありません。皇帝陛下とも相談して、元老院や商人たちの暴発を抑えるよう交渉してみます」「頼むよ。頼むことしかできなくて、情けないけど。僕もできることは頑張るから」「うん。じゃあ今度、ベネディクトさんにこちらに来てもらって話し合いましょうか。私だけでは今の政治がどうなっているのか、わからない点も多いし」「了解。……それにしても」 首を傾げたグランに私は目を向ける。「何かしら?」「ねえフェリシア。やっぱり魔族の国で暮らさない? 瘴気はもちろんだけど、あなたみたいに博識でユピテルとの窓口になれるだけの人、魔族にはいないんだ。僕と一緒に暮らして、魔族の国をもり立てて行こうよ。そしたら皆も喜ぶよ」「それは……」 私は苦笑した。 聖女である私をユピテルは手放そうとしないだろう。 皇太子となったベネディクトが求婚してきたのも、政治的な打算がないとは言えないはずだ。 瘴気の発生メカニズムは不明な点が多く、一度は浄化した土地でも再発生の可能性がゼロではないからだ。 建国の聖女様は未だ祭壇に残っているけれど、彼女だって光の魔力の全てを知っているわけではない。「僕のお嫁さんになってよ。諦めていないんだからね」