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血液パックの妻は卒業、結婚式当日に死んであげる

血液パックの妻は卒業、結婚式当日に死んであげる

作者:  ヘタレの御曹司已完成
語言: Japanese
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26章節
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故事簡介

切ない恋

ひいき/自己中

妻を取り戻す修羅場

不倫

「澪、本当に離れるつもりなの?結婚式まで、もうあと2週間しかないのよ。あなた……」 「うん。もう決めたの」 村上澪(むらかみ みお)の眉間のしわは少しずつ解け、その瞳はまるで凪いだ湖のように静まり返っていた。 「由理恵、その時の私の『死体』と死亡診断書、あなたに頼めるかしら」 澪は19歳の時、小山陸(こやま りく)と付き合い始めた。 25歳で大学院を卒業する際、彼のプロポーズを受け入れた。 だが、結婚式の当日、彼女は彼の前から姿を消した。 後になって、陸は自暴自棄になり、何度も命を絶とうとしたと聞いた。 しかし、澪はただ冷淡に言い放った。「私に、何の関係があるというの?」

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第 1 章

第1話

「澪、本当に離れるつもりなの?」

親友の石川由理恵(いしかわ ゆりえ)が心配そうな顔で言った。「結婚式まで、もうあと2週間しかないのよ。あなた……」

「うん。もう決めたの」

村上澪(むらかみ みお)は彼女の言葉を遮った。

澪の眉間のしわは少しずつ解け、その瞳はまるで凪いだ湖のように静まり返っていた。

「由理恵、その時の私の『死体』と死亡診断書、あなたに頼めるかしら。

私の体質は誰よりあなたが知っているでしょう。どんな怪我もすぐ治る。死なないわ。医者であり親友であるあなただけが、彼を欺けるの。

ごめんね、こんな面倒なことばかり頼んで。いつか必ず、相応しい形でお礼をさせてね」

由理恵は澪の手をしっかりと握り、覚悟を決めたように力強く頷いた。

由理恵の働く病院から出たとき、澪の心は不思議と軽くなっていた。

これでやっと、何もかもに終止符が打たれるのだ。

スマホの着信音が何度も鳴り、澪は唇を噛み締めながら、何食わぬ顔で電話に出た。

「澪、何してたんだ。何度も鳴らしたのに」

「私……」

「いいか!夜8時だ。セントラル・タワーで待ってるからな」

電話の向こうからは焦ったような声がする。「澪に最高のサプライズがあるんだ」

澪の返事を待たずに、向こうは通話を切った。

最後に耳に残ったのは、女の甘い笑い声と艶めかしい喘ぎ声。

画面に表示された見慣れた名前に目を落とし、澪は鼻で笑った。

#小山陸(こやま りく)、カウントダウンのサプライズという文字が、SNSのトレンド1位にあった。

【今夜8時、セントラル・タワーで僕たちの愛の証を刻みます。新しい年、愛は更なる高みへ】

リプ欄は大きな盛り上がりを見せている。

【陸さん、澪さんのこと本当に愛しすぎてる……無理、泣ける】

【セントラル・タワー?毎年毎年、ロマンチックすぎて独身が辛いよ】

【羨ましい!こんな一途なハイスペック男、見たことない】

【一途すぎる男の人って本当に最高。これこそ最強のスパイスだよね】

澪の指先が少し震えた。

SNSを閉じ、スマホの電源を切ろうとしたところで通知が目に留まった。

内容は容易に想像できたが、ついタップしてしまった。

一枚目の写真には肌の白い女性が、澪の婚約者の陸を見つめている。

超ミニスカートから伸びる脚は、きわどいアングルだった。

二枚目は、陸が彼女を抱き寄せ、その手は太ももをねっとりと撫でる。

三枚目は、陸が彼女をベッドに押し倒して激しく絡み合っている姿だった。

その下には、いくつかの動画ファイルが並んでいた。

「陸、教えてよ。私とあなたの婚約者、どっちが可愛い?」

動画の中から、陸の声がした。

「お前の方が、そそる」

澪は顔を赤らめ、それ以上は直視できなかった。

すぐに動画を消しスマホをポケットにしまったが、目の中は真っ暗で、吐き気で胃がよじれそうだった。

よろめきながら壁に寄りかかり、蹲って大きく息を吸い込んだ。

誰もが、澪は最高の男性を見つけたと、世界一幸せな女性だと言った。

けれど、陸が女子大生を囲っていることを知っているのは、澪ただ一人だった。

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暫無評論。
26 章節
第1話
「澪、本当に離れるつもりなの?」親友の石川由理恵(いしかわ ゆりえ)が心配そうな顔で言った。「結婚式まで、もうあと2週間しかないのよ。あなた……」「うん。もう決めたの」村上澪(むらかみ みお)は彼女の言葉を遮った。澪の眉間のしわは少しずつ解け、その瞳はまるで凪いだ湖のように静まり返っていた。「由理恵、その時の私の『死体』と死亡診断書、あなたに頼めるかしら。私の体質は誰よりあなたが知っているでしょう。どんな怪我もすぐ治る。死なないわ。医者であり親友であるあなただけが、彼を欺けるの。ごめんね、こんな面倒なことばかり頼んで。いつか必ず、相応しい形でお礼をさせてね」由理恵は澪の手をしっかりと握り、覚悟を決めたように力強く頷いた。由理恵の働く病院から出たとき、澪の心は不思議と軽くなっていた。これでやっと、何もかもに終止符が打たれるのだ。スマホの着信音が何度も鳴り、澪は唇を噛み締めながら、何食わぬ顔で電話に出た。「澪、何してたんだ。何度も鳴らしたのに」「私……」「いいか!夜8時だ。セントラル・タワーで待ってるからな」電話の向こうからは焦ったような声がする。「澪に最高のサプライズがあるんだ」澪の返事を待たずに、向こうは通話を切った。最後に耳に残ったのは、女の甘い笑い声と艶めかしい喘ぎ声。画面に表示された見慣れた名前に目を落とし、澪は鼻で笑った。#小山陸(こやま りく)、カウントダウンのサプライズという文字が、SNSのトレンド1位にあった。【今夜8時、セントラル・タワーで僕たちの愛の証を刻みます。新しい年、愛は更なる高みへ】リプ欄は大きな盛り上がりを見せている。【陸さん、澪さんのこと本当に愛しすぎてる……無理、泣ける】【セントラル・タワー?毎年毎年、ロマンチックすぎて独身が辛いよ】【羨ましい!こんな一途なハイスペック男、見たことない】【一途すぎる男の人って本当に最高。これこそ最強のスパイスだよね】澪の指先が少し震えた。SNSを閉じ、スマホの電源を切ろうとしたところで通知が目に留まった。内容は容易に想像できたが、ついタップしてしまった。一枚目の写真には肌の白い女性が、澪の婚約者の陸を見つめている。超ミニスカートから伸びる脚は、きわどいアングルだった。二枚目は、陸
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第2話
その女子大生は、陸が以前から経済的に支援していた学生だ。澪は19歳の時、陸と付き合い始めた。25歳で大学院を卒業する際、彼のプロポーズを受け入れた。丸6年、2人はお互いに支え合いながら、長い道のりを歩んできた。澪が頼りにしていた祖父が亡くなった時、ずっとそばにいてくれたのは陸だった。辛い時に強く抱きしめ、一生かけて守ると誓ってくれた。2人で旅行中に土砂崩れに遭った時も、陸は自分の身を挺して澪をかばった。そのせいで彼は骨折する大怪我を負った。澪が記念日を大切にすることを知っていて、毎年、年越しには最高のサプライズをしてくれた。彼のSNSや銀行口座の暗証番号は、すべて澪が把握していた。彼のスマホの待ち受け画面や、パソコンの壁紙も、目に入る全ての場所が、彼女の姿で占められていた。最高の形で盛大な婚約式も挙げてくれた。指輪をはめてくれた時、彼はこう言った。「澪、愛してる。一生かけて、2人で幸せになろう。ずっと一緒にいよう」婚約式を終えるなり別の女に会いに行った彼の不実を、彼女は1年経ってようやく思い知ることになる。彼は焦れったそうにその女をベッドへ放り出すと、澪がプレゼントした大切な婚約式のスーツとネクタイを乱暴に床へ脱ぎ捨てた。この件があって初めて、澪は遅まきながら内密に調査を始めた。2人は、とうの昔にそういう関係だったのだ。この数年、彼の言葉を信じて差し出してきたその鮮血さえも、皮肉なことに、彼らが愛を育むためのかてとして消費されていたのだ。かつて陸の会社が、競合他社から悪意ある嫌がらせで「偽物販売」の濡れ衣を着せられ、評判が地に落ちたことがあった。その時、陸は澪に「会社のために慈善活動として献血してくれないか」と持ちかけた。会社の危機を前に、澪は何も疑わず献血し、十数回も協力した。その結果、彼女は「市民栄誉賞」まで受賞し、会社の信用は回復した。あまりの感動に目頭を熱くさせた陸は、彼女を力いっぱい抱き寄せると、震える声でこう言った。「澪、君は僕の運命の人であり、救世主だ。誓うよ。残りの人生すべてをかけて、君を一生大切にする。君を、この世界で一番幸せな女にしてやる」澪はこう答えた。「陸、あなたのため、会社のためになれるなら、この程度のことなんて何でもないわ。それに、血を少し抜くくらいで
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第3話
年越しまで、あと4時間。陸は秘書である金田勲(かねだ いさお)に連絡し、澪を車で迎えに行かせた。澪は必死に平静を装い、窓の外へ目をそらした。「金田さん、冷えるから暖房を強めにしてくれない?」澪がそう言った。さすがに冬なのだ。一年中暖かいこの港町でも、大晦日の夜は芯まで凍みるような湿気が肌を刺す。ふと視線を落とすと、床にコンドームと破れたストッキングが落ちていた。息をのんで眉をひそめる。胸の奥から強烈な吐き気が込み上げた。澪の異変に気づいたのか、勲が慌てて取り繕った。「すみません!僕が彼女と使った後のやつで……」「……そう」吐き気を押し殺しながら、澪は彼の言葉を遮った。「分かったわ」勲はそんなだらしないことをする男じゃない。何より、そもそも彼女すらいないことを澪は知っていた。暖房の熱風が車内に流れてくる。それなのに、澪が温もりを感じることは微塵もなかった手足は冷え切り、全身が小刻みに震えていた。体が冷えているのではない。心の方が、冷え切っていたのだ。年越しの3時間前、セントラル・タワーの上空で無数のドローンが光り出した。ドローンたちが夜空をキャンバスにして、次々と光のアートを描き出していく。まずは、若きカップルが手をつなぐ影。続いて、男が女にダイヤモンドの指輪を贈るシーン。最後には、夜空いっぱいにこんな文字が浮かび上がった。【marry me】大勢の野次馬が足を止め、波打つような歓声を上げている。パフォーマンスはまだ終わらない。【君が望むすべてが叶う一年になりますように】【澪、良いお年を!これからもずっと君を愛してる】澪は顔を上げ、眩いばかりの光を見つめた。満天の星々の下、ドローン群は空中で、まるで宝石を散りばめたような美しい図形を次々と描き出していった。どうしてだろう。なぜか涙が溢れてくる。周りの野次馬からは、耳をつんざくような歓声が沸き起こっていた。「小山社長の愛の告白、次元が違いすぎる」「信じられない……感動で泣いちゃう」「いいなー!私が澪さんだったら、もう今この場で死んでもいいくらい幸せ!」新年を告げる鐘の音と同時に、陸が現れた。人波を割って近づいてきた彼は、いきなり澪を抱きかかえた。歓声の中、彼は大勢の前で唇を重ねた。
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第4話
澪は、ショックを受けた。彼女が不意に青ざめたのに気づいた陸は、眉間にしわを寄せた。「澪、どうした?顔色がひどく悪いが……」澪は首を振った。「何でもない。ただ……少し冷えただけ」陸は彼女の手を自分の手のひらに包み込み、温かい息を吹きかけた。「それなら、早めに帰ろう。風邪を引いたら大変だ」澪は彼を呆然と見つめた。彼の心配そうな表情も、眉を寄せた仕草も、演技にはとても見えない。だが、彼から漂うほのかなジャスミンの香りが、一瞬にしてそのすべてを裏切った。澪は、今まで一度もジャスミンの香水なんて使ったことはないのだから。パフォーマンスが終わったのは、午前3時のことだった。澪は車に乗るとすぐに眠りについた。まどろみの中で、陸が秘書に話しかけるのが聞こえた。「この車、もう少し換気しておけよ。香水の匂いが強すぎる。澪はこれが苦手なんだ。明日僕がこの車に乗るから、それまでにしっかり片付けておけ。澪に怪しまれないようにしろよ」勲は頷き、小声で答えた。「承知いたしました、社長」しばらくして、また勲が尋ねた。「社長、それほどまでに青木さんがお好きなら、なぜ村上さんと結婚されるのですか?」陸は一瞬言葉に詰まり、声を落とした。「黙れ。君には分からんだろうよ。結婚相手には『おしとやか』な女性を選ぶべきだ。結婚前は遊んでおいても、結婚後の澪への愛には何ら影響しない」彼はうとうとしている澪を見下ろし、思わずその額に唇を落とした。澪のまつ毛が小さく震えた。彼女は顔を隠すようにぐっと身を縮め、まつ毛に溜まった涙を彼に見られまいと耐えた。到着すると、陸は注意を払って澪を車から抱きかかえた。眠っている彼女を起こさぬよう、音を立てずに寝室へ運んだ。ベッドに寝かせ、布団を丁寧に掛け直すと、陸はもどかしさを抑えきれない様子でスマホを手に取り、着信を確認した。スマホには、着信履歴と未読のメッセージが溜まっていた。寝たふりを続ける澪は、陸が忍び足で寝室を出て、電話をかけ直す様子を聞いていた。「どういうつもりだ?こんな時間に何度も鳴らしやがって。言っただろ、今夜は澪と2人だけの時間なんだ。邪魔をするな」陸の声は低く、その口調には隠しきれない苛立ちが滲んでいた。しばらくして、また彼の声が聞こえた。「何だ
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第5話
澪はほとんど一睡もできなかった。生理が予定通りに始まり、耐え難い腹痛に襲われた。昨夜少し冷えたせいか、ひどい頭痛もする。意地で体を起こし、暖かい飲み物を入れて一気に飲むと、ようやく少し落ち着いた。昔は、陸が自分の生理周期を、誰よりも正確に覚えていてくれた。生理の2日前には、カイロを準備してくれていたものだ。生理痛がひどい時は、陸がカイロを貼って、暖かい飲み物を作ってくれた。「陸、あなたがこんなに優しかったら、いつかあなたのそばにいられなくなったら、私どうしたらいいの?」と聞いたことがある。陸は笑いながら澪の頭を撫でてくれた。「何を言ってるんだ?君がそばにいられないなんてあるはずないだろ。澪、僕たちは一生、いや何回生まれ変わってもずっと一緒だよ。おじいちゃん、おばあちゃんになって歩くのがやっとなっても、ずっと手を繋いで散歩をして、朝日や夕日を見に行こうな」澪は彼に飛び込み、幸せで胸がいっぱいになった。なのに今は、その記憶さえ全て忘れてしまったようだ。その一方で、青木綾(あおき あや)は澪を追い詰めることを忘れてはいなかった。次から次へとメッセージが届く。【どうして来ないの?怖いの?それとも現実と向き合うのが嫌?】【あなたの婚約者は一晩中私と一緒だったわよ。私たちが何をしてたか、見たくない?】【妊娠しても彼は我慢できなかったみたい。産婦人科で検診を受ける前も、二回もしたんだから。動画まで見せてあげよう?】澪の頭の中で何かが鳴り響いた。スマホを放り投げ、目を閉じて必死に心を落ち着かせようとした。それでも結局、導かれるようにして綾が指定した病院へ向かった。VIP病棟は静かだった。澪は廊下を伝って、教えられた部屋にそっと近づく。ドアのガラス越しに見えたのは、あまりに賑やかな光景だった。中には人が溢れ、ベッドサイドには栄養たっぷりのサプリメントが山積みになっている。「お医者さんも言っていた通り、初産だから慎重にいかないとね」小山絢香(こやま あやか)が目を細めて言ったかと思うと、息子をポンと叩いた。「このバカね!今、綾ちゃんが妊娠してるんだから、手加減しなさいって言ったでしょ?聞いてるの?」周りの親戚たちが一斉に笑った。「母さん、やめてよ。妊娠したことは澪にどう説明すれば
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第6話
澪はドアの前に立ち尽くした。鉛のような重みで、一歩も足が動かない。もしもこれがすべて夢だったなら、どれほど救われただろうか。綾の甘えた声が、耳にこびりついて離れなかった。「陸さん、もう少し一緒にいて。澪さんのことはわかってるけど……私には、陸さんしかいないの……」陸の心が、少し揺れたように見えた。彼は溜息をつくと、彼女のベッドの脇に腰を下ろした。綾の喜びようは、隠しようもなかった。彼女は勢いよく陸の胸に飛び込むと、甘い声を出した。「陸さん、優しいのね。ねえ……もし、私が赤ちゃんを産む時にもしものことがあったら。澪さんから心臓をもらうのはダメ?」陸は眉をひそめた。「そんなもしもの話なんて、考えるな」綾はさらに甘えた。「仮にね。私の死ぬ姿を黙って見ているつもり?澪さんは死なないし、心臓を一つもらったってどうってことないじゃない。何を惜しむことがあるの?」陸は暗い表情のまま、俯いて何やら思いを巡らせている様子だった。彼は綾の背中を叩き、慰めた。「言っただろう。そんなことにはならない。もしもの時でも、君を死なせたりはしないから安心しろ」「それじゃあ、澪さんに心臓をくれるよう説得してくれるのね?やった」綾は興奮して、陸の頬に軽いキスをした。絢香や他の親戚たちも顔を見合わせると、立ち去る準備を始めた。澪は、心臓が口から飛び出しそうなほど胸を痛めた。彼女はすぐにその場を離れ、目立たない隅に身を隠した。頭の中で、陸と綾の会話が何度も響く。澪は幼い頃から体質が人とは違っていた。どんな大怪我をしても決して死ぬことはない。けれど、澪にはこの心臓だけが不可欠だった。彼女のその特殊さは、すべてこの心臓から来ているからだ。陸はすべてを知っていながら、もしもの時は自分の心臓を摘出すればいいと綾に約束した。1人しか生き残れないなら、自分が犠牲になることは間違いなかった。澪は息を潜めて、その場にうずくまった。そうしてでも、この胸の痛みから逃れたかったのだ。この心臓を捧げてしまえたら、どんなに楽だろうと思った。そうすれば、もうこんなに苦しまなくて済む。絢香たちが去った後、澪はやっと落ち着いた。立ち去ろうと病室の前を通ると、中から2人のじゃれ合う声が聞こえてきた。「ちょっと、そんな
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第7話
陸は呆然とし、唇を何度も震わせながら言った。「澪、なぜそんなことを言うんだ?僕……僕の君に対する気持ちは本物だ。僕は……」「いいから、もうやめて」澪はこれ以上聞くのが耐えられなかった。あまりの嫌悪感に陸の言葉を遮る。「少し疲れたわ。休ませて」陸は小さく頷き、黙り込んだ。澪は目を閉じた。陸の顔を見ることさえ、耐えられなかったのだ。雪の中で意識を失った時、澪は考えた。なぜそのまま、雪の中で息絶えることができなかったのだろう、と。手術台に横たわると、医者は全身麻酔をかけた。意識が途切れる最後の瞬間、澪は思った。もし可能であれば、永遠に目覚めないまま眠り続けたかったと。目を覚ました澪は真っ白な天井を見上げ、初めて陸の実家に挨拶に行った時のことをふと思い出した。当時の絢香は、親しげに澪の手を握りしめて言ったものだ。「これからはね、あなたを本当の娘だと思っているわ。陸みたいな手のかかる息子しかいないから、女の子が欲しくてずっと夢に見ていたのよ。澪ちゃん、自分の家だと思って、何も遠慮しないでちょうだいね。もし陸があなたを泣かせるようなことがあったら、私がしっかり言い聞かせてやるから安心して」陸は呆れたように肩をすくめた。「母さん、まだ籍も入れていないのに、2人で示し合わせて僕を小山家から追い出す気か?」澪は思わず「ふふっ」と笑ってしまった。初めて挨拶に行く時は、あれほど緊張していたというのに。絢香があまりに親切で、噂に聞くような気難しい人ではなかったことに、ほっとしていた。それから、澪は本当に彼女のことを母親のように慕っていた。美味しいものがあれば、必ず彼女の分も持ち帰るようにした。絢香の誕生日には、腕によりをかけてケーキを手作りしたこともある。血糖値が高いと聞いてからは、わざわざお菓子作りの教室まで通い、砂糖不使用の特製ケーキを焼いてあげた。あの時、絢香はケーキを食べながら、こう褒めてくれた。「本当に美味しいわね。こんなお嫁さんを迎えられるなんて、小山家にとってこれ以上ない幸せだよ」それなのに今、実の娘のように可愛がると言ったその人は、手の平を返して別の女の「後ろ盾」になっている。澪は、自分の世界が崩れ落ちるような感覚に襲われた。これまでずっと、自分だけが滑稽なピエロのように生き
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第8話
けれど、そんなことはもう、澪にとってどうでもいいことだった。澪は絶望の中で、ゆっくりと目を閉じた。唇が震えた。零れそうになる涙を、必死に押し戻した。相変わらず、澪の身体は驚くほどの速さで回復していく。本来なら時間がかかるはずの骨折の怪我も、たった3日もあれば普通に歩けるようになる。澪は医師の制止を振り切り、毅然とした態度で退院の手続きを済ませた。その頃、陸は綾に一日中付きっきりで、夜遅くなってようやく澪の病室へと駆けつけた。そこにはもう、誰の姿もなかった。陸は呆然とその場に立ち尽くした。「すみません、ここにいた患者は?澪という女の子のことです」「彼女なら、朝一番に退院されましたよ」看護師は言った。「私たちが止める間もありませんでした。順調に回復されていたようですし、本人の意思を尊重して手続きしました。あれ、ご存じありませんでしたか?」陸は短く返事をして、足早に病院を去った。その頃の澪は、ちょうどチャリティー団体に連絡を入れていたところだった。陸からもらったエンゲージリングや、その他の高級な宝石類をすべて寄付する手配を済ませるためだ。電話を切った瞬間、陸の焦った足音が廊下に響いてきた。陸は澪の姿を見つけると、すぐに走り寄り、強く彼女を抱きしめた。「澪!ここにいたんだ……」彼の荒い息遣いから、全身を震わせているのが分かった。その声には、うっすらと涙の色が混じっている。「病院に行ってもいないし、スマホに電話してもつながらなくて……僕を捨てる気じゃないかと怖くて……澪、お願いだからどこへも行かないでくれ。退院するなら教えてくれれば迎えに来たのに!1人でどうするつもりだったんだ?」陸は、澪の身体が折れんばかりの勢いで強く抱きしめ続けた。澪は息苦しさを感じていた。おかしいな、と心の中で冷静に思った。前までは陸にこうして必死に執着されると、彼が優しく言葉をかけてくれるだけで胸が熱くなり、何もかもが陸一色になっていたものだ。けれど今は、胸に何一つトキメキを感じなかった。悲しみさえ麻痺してしまうほど深く傷つけば、もう何も感じなくなるのだと実感する。澪は静かな声で言った。「ごめんね。忙しいだろうと思って……それに、もう歩けるし、大丈夫よ。何の問題もないわ」陸は安堵したように肩の力
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第9話
翌日。ウェディングドレスショップで、澪は陸が一番気に入っているというドレスに無言で着替えた。試着室から現れた澪の美しさに、陸は呆然と立ち尽くした。しばらくしてようやく我に返ると、彼は歩み寄り、彼女の額にそっと口づけを落とした。「澪、すごくきれいだ」澪は冷ややかな声で返した。「これにする。他は試着しない」そう言って、澪は鏡の中の自分を見つめた。真っ白で長い裾を引くウェディングドレス。頭にはお揃いの冠。そこに埋め込まれた高価な宝石がキラキラと輝いていた。本当に、とてもきれいだ。昔の澪なら、もし陸のためにウエディングドレスを着られたら、一生分幸せだと思っていたはずだった。だが今では、そんな自分がひどく馬鹿らしく思える。このドレスさえ、まるで自分を捕らえて離さない「網」のように身体を締めつけ、息が詰まりそうだった。澪は振り返り、陸に言った。「着替えてくる」試着室に向かう途中、外でスタッフの声が聞こえた。「小山さん、村上さん、すごくお似合いですよ。最高にきれいな花嫁さんになるでしょうね」澪は自嘲気味に笑った。ドレスを脱いで試着室から出てくると、もうそこに陸の姿はなかった。澪はドレスをカウンターに預け、1人で帰ろうとした。その時、すぐ近くの試着室から耳を塞ぎたくなるような声が聞こえてきた。「どうして脱がせるのよ?澪さんができるなら、私だって陸さんの前で花嫁姿になれるわよね?ねえ、今の私の姿、澪さんよりきれいじゃない?」澪は思わず足を止め、一歩も動けなくなった。中からは聞き慣れた、陸の声がした。「馬鹿なこと言うな!澪は僕の婚約者なんだ、着て当然だろ。君はどうなんだ。さっさと脱げ」澪は嘲笑し、ぼんやりと試着室の方を見つめた。「やだ、脱ぐなら、陸さんの手で脱がせてよ」続いて、ジッパーを下ろすような音が聞こえた。澪の頭の中でキンキンと耳鳴りが鳴り響いた。「私、お腹の中にあなたの子がいるんだから。優しくしてよね」「誘うなよ……狂わせるつもりか」陸の声は傲慢で、低く掠れていた。「いいの?婚約者が外にいるのに、火遊びだなんて」「うるさい、足を上げろ」それから、キスをする音と、衣擦れが響き始めた。澪は必死に自分の口を押さえ、逃げようとした。だが体はすっかり凍りつき
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第10話
綾は叩かれて、あっけにとられていた。澪は全力で、綾の頬を真っ赤になるまで平手打ちした。綾は頬を押さえて、金切り声をあげた。「よくも私を叩いたわね!」澪は冷たく返した。「私の婚約者の前で尻軽な真似をしておいて、叩かれて当然じゃない?あなたがいくら私を馬鹿にしても、黙っていたわ。でも勘違いしないで。もう一度そんな真似をしてみなさい。あなたのいかがわしい写真を全部ばらまくから。そうなったとき、陸がそれでもあなたと一緒にいるっていうなら、何だってしてあげるわよ」綾は歯を食いしばり、何か言いたげに震えていた。彼女はしばらく澪を睨みつけたあと、渋々言葉を飲み込んだ。長く陸のそばにいた綾は、彼が何よりも世間体と評判を気にする人間だと分かっていた。自分たちが関係を持った証拠が出回れば、陸は彼女と縁を切るどころか、殺したいほど憎むに違いない。澪は鼻で笑うように彼女をひと睨みし、その場を後にした。背後で綾が叫ぶ。「負けないわ。陸は、いつか必ず私のものになるんだから」背後で喚き散らす声を余所に、澪はウェットティッシュで丁寧に指先を拭った。あんな女に言葉を返す暇さえ惜しかった。陸があなたのものか、どうかなんて関係ない。クズ男と悪女なら、お似合いだもの。澪が戻ると、陸はすぐに駆け寄ってきた。「大丈夫か?ピアスは見つかった?」澪は声を落として言った。「いいの。もう探さない。私のものじゃないなら、追いかけることはないから」そう言って、澪は陸の方を一瞥した。陸の表情が一瞬こわばった。彼は愛想笑いを浮かべ、澪の後頭部を撫でた。「なくしたのなら仕方ない。新しいのを買ってやるよ」しかし、その笑みや声からは、隠しきれない焦りがにじみ出ていた。結婚式を控えているせいか、陸も少しは自分を律しなければと思ったのか、それ以来綾とは連絡を控え、式の準備に追われていた。時折、数日あけると、陸は綾に会いに行っていたようだが。澪はもう、陸と意地を張るような真似はやめた。その代わり、国内一のウェディング撮影班を雇い、式場中のあらゆるところにカメラを設置させた。2人の最後で最高の思い出を、すべて記録に残すために。結婚式の前日、彼らについてのニュースがSNSで大きな話題となっていた。ネットユーザーでも大騒ぎだった。【まさ
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