ログイン「気づいたら異世界転生していた——が、詰んでいる」 スキルなし。魔法なし。ステータスはオール1。 雑魚魔物にすらボコられる最弱っぷりで、何なら村人のほうが強い。 おまけに理不尽イベントが次々と襲いかかってくる。 それでもユウは諦めない。 「死にたくない! 生き抜いてやる!」 這い上がるために知恵を絞り工夫を重ね、少しずつ強くなっていく。 レベルを上げ、仲間を増やし、店を経営し、鍛冶に手を出し……気づけば国と交渉して開拓村まで作っていた!? これは最弱からの成り上がりサバイバル。 理不尽だらけの世界でも、生き延びた者が勝つ! ※じっくり成長。序盤は理不尽ですが徐々に道が開けていきます。
もっと見る【プロローグ】
初恋は実らないものだ、と人はよく口にする。 私はそれを信じず、初恋の人と結婚した。 結婚三周年記念日。 私は妊娠をした身で、ミシュランに引けを取らないほどのご馳走を並べ、彼の帰りを待っていた。 すると彼から一本のメッセージが届き、ある高級レストランの住所だけが記されていた。貸し切りだと。 ついに彼も気が回るようになったか、サプライズを用意してくれたのかと思った。 ドアを開けた先にあったのは、私の妹・綾乃の誕生日会だった。 その瞬間、私はすべてを悟った。 自分だけが幸せだと思い込んでいたこの結婚は、最初から最後まで私ひとりだけの独り舞台だった。 私はあの子の影に過ぎなかったのだ。 *** 三月二十日。 それは、私と桐生一弥(きりゅう いちや)が結婚して三周年になる記念日だった。 私は丸一日かけて、私たちの家をまるで夢の中のように飾りつけた。 テーブルには、ミシュランにも劣らないと自負できるほど、心を込めて作った料理を並べ、その中央には、予約しておいた白いバラの花束を置いた。 ――彼は、これまで一度も私に花を贈ってくれたことはないけれど、それでも今日は、特別な日なのだから、せめて形だけでも大切にしたかった。 なぜなら―― まだ平らなままの下腹部にそっと手を当てる。 そこには、彼に伝えたい、いちばん大きなサプライズがあった。 私は、妊娠している。 午後七時になっても、彼は帰ってこなかった。 胸がざわつき始めた頃、ようやく届いたのは、感情のこもらない短いメッセージだった。 【今すぐ、フィーストレストランに来い。】 住所の後に、余計な言葉は何ひとつない。 心臓が、ひとつ拍動を飛ばした。 もしかして……あの仕事一筋の夫が、本当に結婚記念日のサプライズを用意してくれたのだろうか。 わずかな高揚感と、それ以上の期待を胸に、私は急いで家を出た。 エプロンを脱ぐことさえ忘れていたけれど、白いバラの花束だけは、しっかりと抱えて。 「すみません……桐生の予約はありますか?」 「はい、桐生様ですね。本日は貸し切りでございます。どうぞこちらへ」 ――貸し切り? こんな高級レストランを、記念日のためだけに貸し切るなんて……。 感情を表に出すことが苦手な彼が、こんなことをするなんて予想外で、だからこそ胸が熱くなり、心臓がまた強く跳ねた。 スタッフの後について店内を進み、彼がいるはずの場所へと向かう。 鼓動は、自然と速くなっていた。 けれど―― 個室の扉を開けた、その瞬間。 目に飛び込んできたのは、無数の風船、色とりどりのリボン、そして壁いっぱいに飾られた 「Happy Birthday」の文字。 足が、ぴたりと止まった。 頭の中で、「ガン」と鈍い音が鳴り響く。 人々に囲まれて立っているのは、私の夫・一弥。 そしてその隣で、華やかなワンピースに身を包み、丁寧に整えられたメイクで微笑んでいるのは―― 三年間、ずっと海外にいるはずだった、私の妹。 本城 綾乃(ほんじょう あやの)。 ……どうして? 彼女は、海外にいるはずじゃなかったの? なぜ、誰も私に、彼女が帰国したことを教えてくれなかったの? 呆然と立ち尽くす私より先に、綾乃がこちらに気づいた。 「お、お姉ちゃん……?」 私を見つけた瞬間、彼女はぱっと顔を輝かせ、心から嬉しそうに笑う。 「本当に来てくれたんだ! 一弥お兄ちゃんが“来る”って言ってたけど、私、信じてなかったの!」 その声に、一弥さんが振り向いた。 私の姿を認めた途端、彼の眉は不機嫌そうに寄り、聞き慣れた冷たく苛立った声が落ちてくる。 「杏華(きょうか)、遅すぎる。今日は綾乃の誕生日だろう。知らなかったのか?」真っ二つに折れた俺の剣は、滑るようにヨミの刀身を下り。 そのまま、柄の宝玉に突き刺さった。まるで何かに導かれるかのような動きだった。「何!? バカなッ」 ヨミの剣を持つ王が、驚愕と焦りの表情を浮かべる。 折れた剣が突き入れられた宝玉は、急速に光と色とを失っていく。「ヨミ! お前まで俺を裏切るのか。お前まで、俺の望みを奪うというのか!」『ちげーよ』 答えたのは、弱々しいながらもいつも通りのヨミの声。『久々にお前の顔を見て、ちょいと忘れそうになったが。オレはお前に与えたかったんだ』「与えるだと? ふざけるな。いよいよ俺の願いが叶うというときに!」『いいや、これでいいんだ。……聞くけどよ。お前、この三百年。生き長らえて幸せだったか?』「何……」 俺は折れた剣から手を離して一歩下がった。 宝玉を割った剣は床に落ちて、カランと乾いた音を立てる。『延命の願いは叶えてやった。そして、たった一人でここにいて、奪われることはなかったはずだ。それで幸せだったか? お前の願いを叶えれば、永遠にこれが続く』「…………」 王の視線がわずかに揺れた。至近距離でなければ分からないほど、ほんのわずか。『だから――』 割れた宝玉がもう一度光を灯した。力を振り絞るように。『だから、これで終わりにしようぜ』 ヨミの剣が王の手を抜け出す。 宙に浮いた剣は切っ先を主に向けて、そのまま玉座へと串刺しにした。「がはっ……、ヨミ、貴様……」『お前の命を奪った代価は、オレの命で支払おう。あの世の旅路、付き合ってやるよ』 そうして彼らは息絶えた。 後には静寂だけが残った。 部屋の主と造物主
「させるかっ!」 俺は床を蹴った。剣を抜いて王とヨミへと斬りかかる。 王の皺深い顔がいびつな笑みに歪んだ。 この部屋はのぞみの部屋。 彼の望みを叶えるための場所。 かつてヨミの剣はこの土地の守護神を殺して力を奪ったと言っていた。 神の力とは、大きく分けて二つある。 一つは単純な力の強さ。神を名乗る存在は、そこらの魔物と比べ物にならないほど強い。 二つ目は特殊な権能。 例えば北の氷の女王は気候や気温を操ることができる。 単なる力や魔力の強さを超えて、この世界に干渉する力が神にはある。 たぶん、ヨミが殺した神は『願いを叶える』権能を持っていたのだと思う。 だからこそヨミはのぞみの部屋などというものを作った。 そして大規模な願いを叶えるには、他の神の秘宝を組み込む必要があった。 それまでの繋ぎとして、王の『永遠に存在する』という願いだけを叶えた。 この部屋の中において、ヨミと王とは絶対の存在。 永久氷河の勾玉を手放した俺が太刀打ちできるはずもなかった。 でも。 ヨミは迷っている。 王は言っていた。 血縁者から生贄を要求したのに、すぐに途絶えてしまったと。 子孫らは彼を忘れ去ったと。 そんなはずはないのだ。 だってパルティア王国には常にヨミの剣が在った。 神殺しの剣として王家と密に関わっていた彼がいれば、生贄を無理にでも出すことはできただろう。 ましてや忘れるはずがない。 ヨミは今でも、王を『我が主』と呼んでいるのだから。「ヨミの剣!」 俺は叫んだ。 王ではなく、剣の宝玉を見据えながら。「神としてのお前、王の剣としてのお前に問う! その願いは、叶えるに値するのか!?」 ヨミの記憶で見た場面が蘇る。 彼はこう言っていた。『我が主。どうすればお前の心は満たされる? かつてオレの飢えを満たしてくれたように、オレもお前に与えたい
目を開けると、目の前の扉は消え失せていた。 扉があった場所はくろぐろとした穴が開いて、石造りの通路が続いている。「――行きましょう」 ニアが言った。 通路に足を踏み入れる。 俺たちは誰もが無言で歩き続けた。 そうしてどのくらい進んだことだろう。 通路はまた扉に行き当たった。 けれど扉は封印も施錠もされておらず、手で押せばあっさりと開いた。 ズズ……と重たげな音とともに扉が開いていく。 その先は広間になっていた。 ひどく広い、真っ暗でがらんどうの空間。 俺たちが中に入れば、恐らく魔法の仕掛けだろう、部屋のそこかしこに明かりが灯った。「ここが『のぞみの部屋』?」 ニアがきょろきょろと辺りを見回している。 と。「ああ、そのとおりだ。森の民よ」 低くしわがれた声が響いた。 声の方向を見れば、部屋の中央に誰かがいる。 そこだけ豪華に作られた玉座に座って、フードを目深にかぶっている。「よくぞ秘宝を揃え、ここまでたどり着いた。お前たちには望みを叶える権利がある。さあ、願いを言うがいい」 ニアが一歩前に出た。 不安そうなルードにうなずいて、口を開く。「わたしの願いは、森の民の復活。エーテルライトに留まる魂たちに、新しい肉体を」「……承知した」 フードの人物が言うと、彼の頭上に光が現れた。 緑の光を放つ宝珠、エーテルライトだ。 扉に嵌め込んだ秘宝をここに呼び寄せたのだろうか。 エーテルライトから小さな光がいくつも飛び出した。 光は蛍のように飛び交って、宝珠のまわりをくるくると回っている。 光は徐々に大きくなって、だんだんに人の輪郭を取り始める。「みんな……これで、また会える……」
「愚かな! お前も操ってやる!」 メイデスが叫んで黒い霧がこちらに向かってくる。 重圧がかかる。ぐらぐらと視界が揺らいで意識を失いそうになる。 だが。 前に進み続ける俺のすぐ横を何かが追い抜いた。『オラァッ! 串刺しにしてやるぜ!!』 それはヴァリスによって投擲されたヨミの剣だった。 ヨミはまっすぐにメイデスへと向かって飛んでいく。「な、バカな!」 メイデスが悲鳴を上げる。 黒い霧がヨミを包むが濃度が薄い。 元からニアを操っているのに加えて、力を俺とヨミに振り分けたのだ。 明らかに力不足に陥っている! ヨミは投げ放たれた速度そのままにメイデスの胸を貫いた。 黒い霧が消えて俺の体も動くようになる。「…………ッ!」 俺はメイデスの首をはねた。 胴体から離れた首が床を転がっていく。 ――人殺しはしたくなかった。 でも今はそんなことは言っていられない。 ニアとルードを、俺の恩人たちを助けるのが第一。 秘宝を持つメイデスは確実に殺さなければ、何をしてくるか分からなかったから。 動揺しながらも襲ってくる兵士たちを叩き伏せる。 こいつらは気絶に留めたが、ヨミを手にしたヴァリスがきっちりと殺していた。 結局、俺が殺したのと同じことだろう。「ニア、しっかりしろ。ルードも」 床に倒れた二人を助け起こす。 ルードは気を失っているだけで、大きな怪我はない。 ニアも名を呼ぶとゆっくりと目を開いた。「ユウ……? どうしてここに」「助けに来たんだよ。命と魂の恩人だから」 俺が言えば、彼女は悲しげに微笑んだ。『あらよっと』 背後でヨミの声がする。 首を失ったメイデスの死体から、赤黒い水晶のようなものがこぼれ落ち
秘宝の洞窟の前には帝国軍の兵士たちが整列していた。 かなりの人数だ。百人程度はいるだろう。 彼らは武器を構えていつでも戦える体勢でいる。 兵士たちの様子を森の茂みから見ていた俺は、軽く枝を揺らして合図した。 周辺に散ったヴァリスとバルト、盗賊ギルド員たちからも合図が返ってくる。「――投擲ッ!」 レナ特製の混乱のポーションを各人が投げた。 パリン! がしゃん! 瓶の割れる音がして兵士たちがたちまち混乱に陥る。 ほとんど全員が同士討ちを始めた。
それからも青年は――神殺しの王は貪欲に働き続けた。 国の国土を最大まで伸ばす。 戦争で虐殺を少し手加減して大量の奴隷を手に入れた。 奴隷でない人々も、恐怖と圧政で支配した。 土地の守護神の血を啜った剣は、生ける武器として最高峰の強さを手に入れた。 切れ味や使い手の能力を引き出す力だけでなく、守護神の知識をも入手した。 剣は守護神の名にちなんで『ヨミの剣』と名付けられた。「ヨミよ。俺はまだまだ足りないんだ。国を建て、神の力を手にいれた。それでも心は飢えるばかり」『我が主。
ふと気がつけば、俺は見知らぬ場所に立っていた。 どこかのダンジョンの中だろうか。 薄暗くて誰もいない寂しい場所だった。 床に一振りの剣が落ちている。 ボロボロの刃で鞘はなし。柄に宝玉が嵌っているものの、薄汚れてひび割れている。 剣はかぼそい声で呻いた。生きているのだ。(あれはヨミの剣だ) 俺は思う。(ひどくオンボロだが間違いない。あれはヨミの剣の過去の姿か? それならここは、あいつの記憶の中) 生きた剣はしかし、死にかけていた。 長い間をダンジョン
「そうさな。多少の理由付けは必要じゃ。だがお前はすでに十分、雪の民との縁があるだろう」「エミルのことですか」「うむ。奴隷だったことは伏せて、雪の民の長の身内を助けたおかげで、彼らと縁ができた。その縁によって新天地を求めた……という程度でよかろう」 割とふわっとしているな。そんなのでいいのか。 ……いや、雪の民の長であるイーヴァルの孫を探し出して、家族のもとに届けたのだ。長年行方不明になっていた娘――エミルの母――のその後の事情といっしょに届けたのだ。「そんなの」というこ