All Chapters of ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~: Chapter 91 - Chapter 100

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第九十二話 名字

第九十二話    名字  「おはようございます……」 梅乃が早くに岡田の部屋に顔を出すと、「あれ?」 岡田は出掛けていたようで、ポカンと部屋を見つめている。  「う 梅乃ちゃん、今日も勉強なの?」 古峰が話しかける。 ここ最近、梅乃は勉強ばかりで禿としての関わりが少なくなっていた。 「ごめんね、古峰…… 仕事を押しつけちゃって」  「大丈夫。 一花たちも頑張っているからさ。 う 梅乃お姉ちゃんが医者になれば、私も花魁になれるから……」 古峰は梅乃に心配かけまいと笑って振る舞うようにしていた。  この日、岡田は朝から外出をして吉原から出ていっていた。 三原屋には往診の依頼が来ていたが、梅乃の悪い噂もあり断っている。  (死神か…… 確かに多くの人が死んでいった。 赤岩先生や絢も…… 本当に私が医者になって良いのだろうか……) 梅乃は筆を止めることなく医術書と向かい合っていた。 「お婆、失礼します」 采の所に片山が来ると、「なんだい? どうしたんだい?」  「実は……」 片山が采に耳打ちをすると「本当かい? よくやった!」 采の声が響く。 “ビクッ―”その瞬間、梅乃の背筋が伸びる。 やはり采の大声には無条件で反応してしまうようだ。 「どうしました?」 梅乃が采の
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第九十三話 衝撃

第九十三話    衝撃  梅乃は学校に通うようになった。 岡田が稼いで学費を払ってくれている。梅乃は支度を済ませると 「梅乃、待って!」 小夜が引き留める。  「どうしたの?」 梅乃がキョトンとすると「これ、学校で食べて」 小夜はお弁当を渡す。 「どうして……」 梅乃は感動のあまり、身体が小刻みに震えている。  「ずっと勉強でしょ? みんなが持っていっているのに、梅乃だけが持っていないんじゃ恥ずかしいよ~」 「小夜……」 「ほら、遅れちゃうよ。 これ持っていってらっしゃい」小夜が笑顔で見送ると、梅乃は元気に吉原を出ていった。  「さ 小夜お姉ちゃん、大丈夫?」 古峰が聞くと、「大丈夫よ。 古峰だって同じじゃない」 二人の朝食の白米を梅乃に分けていたのだ。 少しの白米にして、残したものを おにぎりにして梅乃のお弁当として持たせていた。  “ぐうぅぅ……”当然ながら昼見世の前にはお腹が空いて鳴り始める。 「あはは…… 鳴っちゃった」 小夜が笑って誤魔化していると「わ 私も……」 二人は笑いながら励まし合っていく。  学校についた梅乃は、教室を探している。「ここかな?」 梅乃が教室に入ると、クラスの生徒は大人ばかりだった。 
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第九十四話 白衣

第九十四話    白衣   土曜日、梅乃は学校で授業を受けていた。 そして講師が最後に 「来週から解剖学をするから白衣を持参するように」  梅乃は紙に書き、来週からの授業を予定していく。   「梅乃ちゃん、帰ろう……」 仲良くなった東郷は梅乃と帰っていく。  「なんだよ、随分と手が早いじゃないか」 茶化す生徒も出てきたが、梅乃は初めての学友となる存在を知ることになった。   吉原に戻ると土曜日は夜見世が忙しくなる。 古峰と三人の禿は走り回って妓女の世話をしていた。  「ただいま戻りました」 梅乃が玄関に入ると、 「梅乃、おかえり」 小夜が出迎えに来ていた。  小夜は新造となったが、引っ込み新造の為に客を取ることが出来ない。 身を隠すのも仕事な為、時間を持て余していた。   そこに岡田がやってきて「梅乃、学校はどうだ?」 と訊くと、梅乃は頭を下げ  「本当に楽しいです。 毎日が医術の勉強で、知らないことも沢山…… 教わっていて楽しいんです」   そして、梅乃が書いたノートを見せると  「随分と書き込んでいるな…… 紙が足らないだろ?」 そう言うと、岡田が部屋から大量の紙を持ってくる。   「岡田先生……」  岡田は吉原の外に出ると、必ず梅乃の勉強に必要な物を買いそろえていた。   「それで、今度の必要な物はなんだ?」
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第九十五話 定め斬り

第九十五話    定め斬り   「姐さん、おはようございます……」 梅乃は、朝から瀬門の看病の為に鳳仙楼に来ていた。   (身体が熱い。 まだ熱が高いな……) 梅乃が冷たい手ぬぐいで身体を拭いていると  「梅乃…… ごめんね」 瀬門の細い声が聞こえてくる。   「ここ、痛みますか?」 瀬門の身体には発疹があり、その部分を優しく撫でると 「うっ― 痛いような痒いような……」  梅乃が発疹をマジマジと見ていく。  (これって、少し汁が出るんだ…… これが感染なのかな?)  発疹が出ると、つい掻きたくなってしまう。 すると汁が付き、それで媒介してしまうことがある。 つまり、飛び火というヤツだ。   梅乃は瀬門の指先を見る。 (爪にも皮が入っている…… この手で、何かに触り他の人が後に触ったら……)   梅乃は襖を開け、 「すみません…… 誰かいらっしゃいますか?」 大きな声で叫ぶと、同じ二階にいる花緒がやってくる。   「どうしたんだい?」 花緒が足を前に進めてくると、 「そこまで! これ以上は来ないでください」 梅乃の目が厳しくなる。   「感染しますから、これ以上は……」 梅乃が軽く頭を
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第九十六話 刀狩り

第九十六話    刀狩り   明治九年、時代が大きく転換していく。  「聞いたか? 武士の階級が無くなるんだとよ……」 吉原でも噂になっていた。 まだ幕府があった頃、武家など多くの大名に仕えている家は特例処置が施されていた。 その後、士族と呼ばれるようになり、家禄支給と呼ばれるものだ。  政府から恩給という形で財を得ていた武家や華族などに渡さないこととなった。 秩禄処分という形で公債となっていく。  そして士族を含む、一般国民の帯刀が禁止され武家の象徴であった刀の時代が終わりを迎えた。   「それって、何かが変わるってこと?」 小夜がキョトンとして聞いてくると、 「そうだな…… 少し寂しいが、これも時代なのだろう……」  こう話すのが勝来である。 勝来は武家に生まれ、父親の失脚により吉原に売られた経緯を持つ。   「元、大名の方が来てくれていたから三原屋《ウチ》は大丈夫だったが…… これからどなるやら……」  妓楼主はため息をつくしかなかった。 特権こそが売り上げを左右していたからだ。    「まだ、諦めるのは早いわよ。 しっかり前を向いていきましょう」  勝来が妓女たちの心を引き締める。 ここで弱気になっては衰退してしまう危うさを感じていたからだ。 勝来が花魁を襲名するまで、あと少し。 立派に資質が備わってきていた。   政府は本格的に時代への舵を切っていく。 これにより士族からの反発
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第九十七話 ラシャメン

第九十七話    ラシャメン  「いってきます……」 梅乃が学校へ向かう時「いってらっしゃ~い」 一番年下の三枝が大きく手を振って見送る。  (かわいいな~) 梅乃は三枝の頭を撫で、元気に登校していく。  学校へ着くと、教室が騒がしい。 その中で東郷だけがソワソワしていた。なぜなら学校で梅乃が吉原から来ているという話しが駆け巡っていたからである。  実際、梅乃は遊女ではない。 それを東郷は知っている為に噂を否定したいのだが、逆に『遊女にハマった男』と言われるのを恐れてしまったのだ。 学校に通っている者は医師の子供や士族など、金持ちが多い。 そうした者は吉原の、遊郭の娘である梅乃を卑下して見るようになっていたのである。  (梅乃ちゃんは、そんな娘ではない……)一緒に麻疹と戦った者として否定したいのだが、先日に言われた事を気にしていたようだ。  『これは真《まこと》の事ですから…… それに、実家が遊郭だからって恥じることもございません。 噂や他人の目が気になるようでしたら、私と一緒に居ない方がいいと思います』 梅乃が言った言葉が東郷の脳裏をよぎっていた。  (でも……)東郷がチラッと梅乃を見ると、梅乃は黙って教科書を読んでいた。  そして昼になり、梅乃は一人で弁当を口にする。東郷も梅乃の様子を見ながら
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第九十八話 試験

第九十八話    試験   夏になり梅乃の前期の試験が近づいてくる 。 「どう? 梅乃、進んでる?」 小夜が心配そうに顔を出すと  「それなりに…… 見世の方はどう? 新造も大変でしょ?」 「ううん…… 引っ込み新造だから、暇なくらいだよ~ 古峰が頑張っているしね」  小夜は笑いながら話している。 夏になってくると自然と客は増えてくる。 気温が高いと開放的になり、散財する客も増えてくるものだ。   また、梅乃の試験と合わせたように玉菊灯籠も近くなる。 吉原を代表するイベントであり、見世や妓女たちの今後を左右する試練でもあるのだ。   梅乃も勉強に力を入れていく。 隣では岡田が付いて教えるようになっていった。   「梅乃、薬草の効果を知りなさい。 薬を知れば病気が分かる」 「わかりました」  薬学は後期の試験、前期の為の勉強をしたいのだが病気を知るには薬学も必要になってくる。 梅乃は知識として頭に叩き込んでいく。   朝、学校に向かうと 「おはようございます……」 梅乃が挨拶をするも、生徒たちは梅乃を畏敬の目で見るようになっていた。  (ラシャメンとでも言いたいんだろうな…… それでもいい。 まずは試験だ) 梅乃は頭を切り替え、勉強に集中していく。   解剖学になると梅乃は楽しそうにしている。 教科書では文字の知識ばかりなので、身体の秘密を知るのが楽しかった。
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第九十九話 危うき情勢

第九十九話    危うき情勢   「おはようございます……」 朝早くに目覚めたのが二葉である。 二葉は大人しめではあるが、しっかりした子である。 一番年上である一花は真面目で働き者。 菖蒲に似たタイプだ。   そして、なかなか起きないでスヤスヤと眠っているのが三枝。 好奇心旺盛で、梅乃に懐いている。   後朝の別れの時間になると、廊下が騒がしくなり禿たちが目を覚ます。 “スッ―” 襖を開け、客が通ると全員が頭を下げて見送る。  「ありがとうございました……」 他の客もいるため、静かに声を出すと 「なんだ、ここは嬢ちゃんたちの部屋だったか。 起こして済まないね」  客が笑顔で言ったりもする。 ここは大見世であり、客層が良い。 禿たちにも優しく接してくれる者も多いのだ。   「あれ? 梅乃は?」 小夜が訊くと、全員が首を振る。  その頃、梅乃は岡田の部屋で眠っていた。 遅くまで勉強をしていて、そのまま眠ってしまったらしい。   「うわっ――?」 岡田が寝起きに大声を出す。 「んっん……」 梅乃がスヤスヤと寝息を立てていると、  「お前、なんでここで眠っているんだ?」 岡田は焦っていた。   「先生、おはようございます」 目が半分しか開いていない梅乃が起き出す。 それから数分の無言の時間が流れ、ようやく目が覚めた梅乃が 「それで、先生は何を怒っているの
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第百話 潜む悪意

第百話    潜む悪意   梅乃が前期の試験を終えると三原屋の手伝いに追われることがある。 「梅乃~ ちょっといいかい?」  采は足を怪我してから部屋にいる事が多くなっていた。  「はい、どうしました?」 梅乃は采の前で正座をしている。  「しばらくは千に遣り手を任せてみようと思うのだが……」 「千姐さんですか? それはちょっと……」 梅乃が頭を掻きながら浮かない表情をすると、   「真面目でいいと思うんだが……」 采は梅乃の表情を確かめていた。  「そういう部分では良いと思うのですが、千姐さんは顔の認識が出来ないです。 馴染みの客も覚えられないとなると……」  梅乃の言葉で采も黙ってしまう。 客によっては勘定が微妙に違う場合もあるからだ。 「誰ならいい?」  この言葉に梅乃も悩んでしまう。 迂闊に遣り手を指名すると、妓女として失格の烙印を押してしまうことになるからだ。   「せめて、昼間だけでも出来るなら…… 夕方には私も帰ってきますので、昼見世だけでも」  二人の密会は一時間にも及んだ。 そして、テスト的に頼んだのが……   「なんだい? 私に用事って……」 やってきたのは玉芳である。   「すまないね…&
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