「すぐ側で、あんたの護衛が張っているのに、のこのこと連れ立って歩けるはずがないだろう。長嶺組からは、第二遊撃隊は蛇蝎のごとく嫌われているからな」 さりげなく出た〈蛇蝎〉という言葉に、ピクリと肩が揺れた。「今晩は、俺一人だ」「雨も降っている中、わざわざ一人で、ここに来られたんですか?」 なんのために――。ようやくわずかに平静を取り戻した和彦は、南郷に対する露骨な警戒と敵意を隠そうとはしなかった。もっとも南郷にしてみれば、捕えることもたやすい小動物のささやかな反抗だとしか感じていないだろう。余裕たっぷりの表情と口調を保ったまま、和彦の腕を掴む力は強い。「昨日、長嶺の本宅からマンションに戻ったことは報告を受けている。本宅にいられると、あんたに話があるといくら訴えたところで、体よく追い払われるからな。さっそく出向いてきたというわけだ」「話って……」「あんたが、自分の父親と会ったとき、本当に鷹津の話題が出なかったのか、確かめたかった」「……出なかったと答えたはずです」「いや。さあ、と一言答えただけだ」 足元から寒気が這い上がってくる。威圧的に見下ろしてくる南郷の視線から逃れたいが、壁に押し付けられたうえに腕まで掴まれていると、身じろぎすらできない。「だったら言い直します。鷹津さんの話題なんて出ませんでした。父は……、彼の存在すら知りませんから」 南郷は、ひどく鷹津の存在を気にかけている。正確には、警戒している。総和会の護衛を欺いて和彦を連れ去ったのだから、南郷の立場からすれば無理からぬことだろうが、鷹津が姿を消したことで、警戒心がより強まったようだ。 和彦の言葉を信じたのか、端から聞く気などないのか、南郷はふいに視線を非常階段に通じるドアへと向けた。「――ここの非常階段はいい具合に、通りからも駐車場からも死角になっている。あんたが、監視の目を気にせず男を連れ込むには最適というわけだ」「そんなこと……」「してるだろ? ドアを開けたときのあんたの顔を見たらわかる。待ちかねてい
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