All Chapters of Your'e My Only Shinin' Star〜あなたに逢いたい〜: Chapter 141 - Chapter 150

150 Chapters

141

怜士の邸宅に来て数週間、この間芽衣の心情は行ったり来たりしていた。始めは准が来ないことを悲しんでいた。彼が他の女性と仲良さそうにしている映像を見て、咄嗟に逃げ出したことを後悔した。次に、少し腹が立った。なんで?なんで来てくれないの?芽衣がここにいるって知ってるのに、なんで?いっつも芽衣のこと、探しに来てくれるのにっ…。もう…嫌いになっちゃったのかな…。そうしてあれこれ考えていたら、どんどんご飯が食べられなくなって。皆が心配するからわざと笑ってたら「無理しなくていいよ」て言われて、悲しくなって…。お部屋に閉じこもっていたらハナと、リオンと、ミアちゃんが遊びに来てくれて。美月ちゃんが皆にお泊りしてもいいよって言ってくれて。それから皆といっぱいおしゃべりしたり、外に遊びに行ったりしたら…いつの間にか、悲しくなくなった。どうしてかな?准ちゃん来ないなら、もういいや…てまた腹が立ってきちゃった…。でも…。芽衣は、部屋の窓から見える庭のブランコに、ふぅ…とため息をついた。今日はとてもいい天気で、さっきママとパパにお買い物に誘われたけど…。全然行く気にならなかった。「芽衣」呼ばれて振り返ると、怜士伯父ちゃんが立っていた。「芽衣、どうした?具合でも悪いのか?」そう言われて首を振ると、仕方ないな…て感じに笑われた。怜士伯父ちゃんは意地悪だ。芽衣がなんで元気がないか分かってるのに、知らないふりしてる。「准ちゃ、来ないの…?」「……」勇気を出して訊いたけど、伯父ちゃんは何も言わなかった。なんで?芽衣には分からなかった。*見覚えのある庭の、大きくて太い樹の、横に伸びた太い枝に吊り下げたブランコに、懐かしいあの娘の姿があった。程よい枝ぶりと生い茂る葉っぱが日差しをちょうど良く遮って、彼女はまだ短い髪の毛を風に揺らしていた。そのブランコは、准がまだこの邸宅にいた頃、いつか芽衣がここに来た時を想像して作ったものだった。今、映像の中でその姿を見ることで、准の心がじんわりと温かくなった。彼女はブランコに揺られ、短い髪の毛を踊らせて楽しげに笑っていた。一緒にいた友達らしき小さな女の子が何か言ったのか、芽衣は「うん」と頷き、彼女に場所を代わってやった。そして、その子の背中を押してやり、一緒になって笑っていた。とても楽しそうだった。准はこれが送
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『准』怜士の呼びかけに「はい?」と応えると、また唐突に言われた。『お前のL国で鍛えた護衛を、何人か貸してくれないか?』「…何かありましたか?」急な話に、准も瞬時にして険しい顔をした。怜士も護衛なら多く育てている。それなのに、わざわざL国で育てた者を貸してほしいということは、通常よりも危険が迫っている、もしくは、そういうことがあり得る状況にいるということを指していた。だがー。准の眉間にしわを寄せる顔を見て、怜士はフッ…と笑った。『ああ、大したことじゃない。ちょっと人手不足なだけだ』「人手不足……」疑わしげに呟くが、怜士の顔には全く変化はなかった。准には彼が何かを隠しているのか分からず、僅かに苛立った。「父さん、何かあるなら言ってください。通常の者ではダメなんですか?彼らを何に使うんですか?あなたに?それとも…芽衣に?」最後は准自身可能性として低いだろうとは思っているが、それでも一応確認せずにはいられなかったので、問うただけだった。だが予想は外れ、怜士は言った。『芽衣に、だ』「は!?」ガタンッと音を立てて立ち上がり、画面の中の父親を睨みつけた。「どういうことです!?芽衣になぜ彼らが必要なんですか!」問い詰めるが、怜士は至って冷静だった。『落ち着け。例の…宗方陸が施設を脱走しただけだ』「!?」陸の名前を聞いて、准の目が見開かれた。「そんなバカな…」『バカ?』だが息子の呟きに、今までなんでもなさそうな顔をしていた怜士の眉がピクッと跳ねた。『バカとはどういう意味だ?もしかして、抜かりなく万全の態勢を敷いていた…とでも言うのか?本気で?』「……」その言葉に、准の視線が揺らいだ。そのはずだ。戸部には絶対にあの男を施設から出さないよう言ってあったし、研究員にもその旨は伝えてある。その為に特別な報酬も約束しているし、警備も完璧に整えていたはずだ…。なのに…脱走しただと?「なぜ…」無意識の内に呟く声に、怜士の皮肉げな笑い声が被さった。『准、お前は他人を信用しすぎだ。前に言ったろう?何かをするなら、必ず現場に自分の指示にしか従わない人間を配置しろ、と』「……つまり、内部に裏切り者がいる…と?」尋ねると、怜士は少し考えるように口を噤んだ。「父さん?」准の催促する声に、怜士がため息をついた。『今回のことに、戸部は関与して
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時々頭がぼーっとして、何も考えられなくなる。意識が混濁して、気がつくと何時間も経っていたりする。周りが見えている時のことはなんとなく覚えているが、だからといって何をしようとは思えなかった。でも…今いる場所が地獄なんだということは、朧気ながら理解することができた。あそこは本当に最悪だった。朝、朝食後に注射を打たれると、だんだんと頭の中に霞がかかったような、ぼんやりとした感じになって、ただずっとベッドの上に座り込んでいたり、いつの間にか部屋の隅に蹲ってひたすら何かブツブツと言っていたり…。とにかく記憶にない行動をとっている。それからしばらくはただ無気力に過ごして、ゆっくりゆっくり、意識が靄の中から出てくるように次第に物事を考えられるようになる。その証拠に、それまでは飲み食いですら人から言われないとしなかったのに、その後は自分から水を汲みに行ったりしてるのだから。陸は、研究施設の中にも自分の境遇に同情しているのか、何かと世話をしてくれる人がいることに気がついた。自分のこの〝斑〟の状況を見て憤慨し、彼女は陸が一日どんな風に過ごしているのか、監視映像の録画をこっそりと見せてくれた。ショックだった。自分が、一時は「王子」とまで呼ばれこの世の春を謳歌していた自分が、無表情によだれを垂らし、そして一部の者からバカにされている映像を見るのは…。彼女は言った。「ひどいわ。これは精神疾患のある患者に施す為の薬なのにっ。あなたみたいに、どこも悪くない人に与えたらどうなるか実験するなんて…!」「……」だが陸には分かっていた。これは、真田准が自分に与えた制裁なのだ、と。でもだからといって、このままここで死ぬまで惨めな姿を晒すなんて、冗談じゃないっ。陸は決意した。ここから出てやる。そして、あの男に報復してやるっ…。少なくとも、幸せにはしない!それから彼は、自分が〝まとも〟だと思われる時に、周りに悟られないよう注意しながら、彼らの行動を把握していった。時には何もわからないふりをして、堂々と彼らについて回ったりして、この施設の中を見て出口を探ったりした。自分に同情的な彼女に逃げ出す計画は言わなかったが、薬を打つのを止めてもらった。打ったふりをして薬を廃棄してもらったのだ。始めは躊躇っていた彼女も、「死にたくない」と涙を見せて頼むと戸惑いながらも頷いてくれた。今ま
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誰も、彼を疑わなかった。もうずいぶん前から、陸は薬の効果がある時間帯には部屋の外に出ても誰からも警戒されなくなっていた。ずっとバカを演じてきて、彼の前で何を話しても、彼がどこに行っても、誰一人として注意を向けることはなくなっていたのだ。ふん…奴らはほんとに傲慢だな。陸は鼻を鳴らした。彼らは自分たちの開発した薬に絶対の自信を持っているようで、それを長い間身体に入れている陸を、既に脅威とは見做していなかった。いつでもコントロールできる存在。そんな風に見下しているのが、ありありとその目や態度に表れていたのだ。陸は相変わらずなふらつく足取りで出口のある方向に向かい、そして機をうかがう為、そこに座り込んでぼーっとしているふりをした。行き交う研究員は時々そんな彼にからかう様な声をかけ、そして行き過ぎていった。陸は心の中でそんな彼らをバカにした。だがー。「そこで何をしている?」いきなりそう問いかけられた。「!?」一瞬、反射的に振り向こうとした自分を、彼は辛うじて理性で押し止めた。「おい、お前だよ。宗方陸」そう言われて、仕方なくゆっくりと振り向いた。ただし、目の焦点はよそに向けて。男は、そんな陸を疑わしげにじっと見つめていた。「……」陸は焦ったが、身体の横に置いた拳をギュッと握りしめることで、その圧に耐えた。やがてー。「ふん…思い違いか…」そう言って、男は去って行った。陸ははぁ……と長くため息を吐き出して、滲んだ汗をそっと拭った。ヤバかった…。念の為、計画は変更すべきだろうか…?そう思ったが、一度疑われたのならあの男の警戒心は自分に向けられているだろう。だからこそ、少しくらい危険でも今日やるしかなかった。しばらくしてー。この出入り口付近に人影がなくなった。たぶん昼食だとか、交代の引き継ぎとか、まぁ、色々とあるんだろう。いつもこんな感じだったから、陸はこのチャンスを逃す訳にはいかなかった。ここは、中からも暗証番号と職員カードの読み取りをしなければ開かないことになっている。陸は、暗証番号はここでぼーっとしているふりをして、入力する職員を見て覚えた。そしてあの協力者の彼女のカードを盗んでいたので、ここを突破するアイテムは手に入れていた。後は誰にも見られずに実行するだけ。陸は辺りをキョロキョロと見回して、サッと暗証番号を打
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「おい、お前ー」息を切らせてしゃがみ込んでいると、一人の男が声をかけてきた。陸は自分の身なりを見て、また物乞いと思われたのか?と不快感に眉を顰めた。「おい、聞こえないのか?」再び声をかけてくる男に「あっちに行け」と言うと、「はぁ?」と返された。「俺は物乞いじゃない」「……」そうきっぱりと言うと、男は口をへの字に曲げて陸を上から下までジロジロと見回した。そしてハッと嗤うと「ご立派な身分でもお持ちで?」とからかってきた。陸は男を無視して疲労に震える膝を叱咤し、立ち上がるとふい…と歩き出した。するとー「おい、待てって」男が慌てたように追いついて来て、陸の肩を馴れ馴れしく抱き込んだ。「怒るなよ。冗談じゃねーか」「……」キシシシ…と笑う男をジロリと睨んだ。「何か用か?」問うと、男は「いやいや」と手を振り、そして顔を寄せて耳元に囁いたのだった。「お前…逃亡犯か何か?」「っ……!」途端に陸の中で警報が鳴り響いた。バッと男の腕を振りほどき、距離をとる。男は、そんな風に急に警戒心をむき出しにした陸を見て、余裕の笑みを浮かべた。「ビンゴか〜。ま、心配すんなよ。お前みたいな奴、たま~に見かけんだよ。……なぁ…こっから出て行ける、て言ったらいくら出す?」「……」ニヤリと笑う男など、陸も普段ならまったく相手にしなかっただろう。いきなり人を逃亡犯扱いするような奴、胡散臭いにもほどがある。だが彼は、耳を傾けてしまった。切羽詰まっていたからだ。彼は施設を出たはいいが、どこに行けばいいのか迷っていたのだ。行き先は決めている。でもウロウロしていて捕まったら、それこそ連れ戻されて今度こそ逃げられないー。そう思うと、迂闊に方向を定められないのだった。「A国」陸がそう告げると、男は「ん?」と首を傾げた。「A国に行きたい」「ああ……」はっきり告げると、男はポリポリと顔を搔いて、そして言った。「いいぜ」…と。*信じられないかもしれないが、うまくいく時はいくもんだし、逆にいかない時は何をしてもいかないもんだー。陸は、そんなどこかの誰かがいつか言った言葉を思い返していた。そして自分は今、信じられないほど物事が上手く運んでいた。確かに船底は暗いし、揺れるし、いい環境じゃない。でも、パスポートも取り上げられてどうにもできない自分を、こ
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「どうした?」怜士は、不機嫌そうに通話を切った手塚に尋ねた。「いえ、なんでもありません」口ではそう言いながらも、彼の眉間にはくっきりとしたシワが寄っていた。「噛みつかれたのか?」怜士はそんな彼にフッと笑い、からかう様に言った。彼は戸部彰の研究施設内に、自分の配下の者を何名か置いていた。今回、宗方陸が戸部のもとに送られたと聞いて、その目的にうんざりした。また面倒なことを…。我が息子ながら気の長いことだ。そう思った。だが当主の座を譲った以上、准のやることにいちいち口を出すつもりもなく、彼は彼で、このA国での暮らしを満喫していた。そんな時、聖人たち一家が准には知らせずこちらにやってきたと報告が入り、家に来るのかと思いきや、田舎の方に引っ込んでそれなりに楽しくしていることを知り、さて、どうしたものか…と頭を悩ませていた。彼女たちがたまたま美月に見つかり、ここに来ることになったからよかったものの、もし、あのままあそこにいて、何かあったらどうするつもりだったのか。付けている護衛の数も少ないというのに…。怜士は考えるだけで頭が痛くなる思いだった。そしてしばらくして、部下から施設内に陸を同情的に見ている研究員がいることを聞き、どうやら陸もそれに気がついているようだと報告を受けた時、それならいっそ…と決めた。だいたい、実施したことのない研究結果を予想だけで安心して人任せにするなんて、愚かとしか言いようがない。実際、陸は最初の予想ほど精神を病みはしなかった。だから、隙を突かれたのだ。怜士は、施設内で警備を担当している部下に指示した。「2人の接触をなるべく邪魔されないよう、気をつけろ。宗方陸を脱走に導け。ここに連れて来い」と。彼は、准がそれほどこの男を始末したいと思いながらも生温い方法しか取れないなら、いっそ自分が手を下してやろうと決めた。親バカからではなく、彼への戒めとして。始末をするなら覚悟を持って、
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彼の心中は複雑だった。後ろをついて歩きながら、本田はやはり我慢ができずに問いかけた。「都合がよすぎませんか?」彼はずっと引っかかっていたのだ。宗方陸が施設を脱走したのも、その後、順調に船に乗れたのも、迷わずA国に来ることにしたのも。手引きをする者がいたとしか思えないスムーズさだった。そう疑問を呈すると、准は頷いた。「たぶん、父さんの部下がやったんだろうな」「…それは……」いいのか、それで?本田は首を捻った。だが准は自嘲するように嗤った。「いいんだ。確かに俺が甘かった。まだ子供だと思って舐めてたし、侮っていたことは事実だ」そう言いながら、胸の中が苛つくのも本当で、彼は父親が今回陸をどのように処分するのか、見てみたかった。「とりあえず、あの男はまだしばらくは来ないんだ。少し休もう」そう言って、彼は本田と共に近くのホテルに向かった。*翌日ー。朝からいい天気で、芽衣は今日のお出かけを楽しみにした。今日は尚と美月、それから怜士と一緒に郊外にある遊園地に行くのだ。リオンたちも誘いたいと言うと、「今日は家族でのお出かけだからまた今度」と言われた。「家族だけ…。准ちゃ…も来る…?」尋ねると、尚は苦笑して小さく首を振った。「なんだ…そっか」呟くと、急に胸の中のワクワクがなくなった気がした。だがお昼のお弁当を持って、いざ出発!と車に乗り込む時、何だか気になって辺りを見回した。「どうしたの?」尚が尋ねると、芽衣は首を捻りながら「ううん」と言い、いくぶんがっかりしながら乗り込んだ。何だか見られているような気がして、もしかして准が来たのでは?と期待したことは言わなかった。芽衣たちと護衛を乗せた車と、他の護衛を乗せた車の2台に別れて辿り
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船が港に入る前、陸は男に船底の荷物が積み込まれた部屋から出され、掃除用具など一式が入れられている小さな倉庫のような所に押し込まれた。その匂いに吐きそうになりながら何とか耐えていると、やがて男が迎えに来て言った。「今なら全員荷降ろしに行ってる。急いで降りるぞ」陸は始めの頃と違い、今はもう、全面的に彼を信用していた。「こっちだ」男の言う通り、コソコソと走ったり隠れたりしながら、やっとの思いで船を降りた。「ありがとう…助かったよ」金目の物は取られたが、こうして無事にここまで来れたことに礼を言うと、男は呆れたような顔でジロジロと陸を見た。「その格好じゃあ、どう見ても不審者だな」「……」そんなことはわかっている。でも、身なりを整える金などないのだ。「なんとかなる」そう言うと、男はガシガシと頭を掻きながら小さく息をつき、「仕方ねぇな…」と呟いた。「少し待ってろ」そう言われて待っていると、男はどこからか車を調達してきて、陸に乗るよう合図した。「どこに行くんだ?送ってやるよ」「……」陸には答えられなかった。そもそも芽衣がこの国のどこにいるのか、知らなかった。ただ研究施設で聞きかじった、彼女の噂話を信じてここまで来たにすぎない。その辺りを言い難そうにボソボソと告げると、男は天を見上げて掌で顔を覆った。そしてしばらく考えて、「ま、いいか」と言うと、陸に向かってニッと笑った。「とりあえず移動しようぜ。ここにいてもしょうがねぇ」そうして男と陸はそのまま港を出て、現在ひたすら中心部に向かって車を走らせているのだった。「なんで中心部なんだ?田舎の方に行った方が人も少なくて、見つからないんじゃないのか?」そう言うと、男はチラリと陸を見て口を開いた。「人が少ないからこそ、お前みたいな奴がいたら目立つんだよ。かえって大
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「逃げるなっ」咄嗟に腕を掴もうと伸ばした手は、空をきった。「このっ…」陸は一瞬にして怒りを上らせ、ナイフを持つ手を振り上げた。キャーッ!周りでは彼に気がついた大人たちが、我先にと自分の子供を連れて逃げ惑っていた。「芽衣!」騒ぎを聞きつけた尚が走り寄ってきた時には、彼女は陸に捕まり、羽交い締めにされていた。顎から頬にかけてナイフをあてられ、その感触に芽衣は震えた。「ママ!」青ざめた顔で尚に助けを求めるも、ナイフが気になって彼女も動けなかった。陸は芽衣を引きずるようにして威嚇し、その拍子に芽衣の頬に小さな傷がついた。芽衣は痛みにポロリと涙をこぼし、「准ちゃ…」とその名を呼んだ。陸は、自分の周りを包囲するように集まる屈強な男たちを見回して、ニヤリと嗤った。「おい、お前らっ。この子の護衛なんだろう?だったら、真田准を連れて来いっ」そう喚いた陸の言葉に、芽衣の身体がピクリと反応した。「だめ…。准ちゃ…呼んじゃ、だめ…っ」小さな声でそう言うのに、陸は苛立った。「呼ばなきゃ、彼女を殺すっ」「芽衣!」尚の必死の叫びに、だが芽衣は首を振った。途端にまた、彼女の頬が切れた。「芽衣っ、お願い、動かないでっ」「だめ…っ、准ちゃ…だめっ」尚の言葉が耳に入らないのか、芽衣はずっとそう言い続けた。*チッ!少し離れたところで、怜士は苛立たしげに舌打ちした。「なんで、あれがここにいるんだ?」それが自分への言葉ではないと分かっていたが、手塚もまた、腹の底から怒りが湧くのを必死に押さえつけていた。自宅付近で待てと言ったのに、なぜここに連れて来た?というより、なぜここに来た?なぜアイツはあんななりをしてる?手塚は、自分の面倒くさがり
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150

「!?」振り向くと、しゃがみ込んだ芽衣のすぐ側に、陸が倒れ伏していた。その奥には、銃を構えた護衛の男。地面に横ざまに倒れた陸の頭部の周りには、赤黒い血痕らしきものが見えた。「これは……」呆然と呟く手塚に、拘束の僅かに緩んだウサギが「あ~あ」と言った。もともと宗方陸はもう始末するつもりだった。だが、こんな風に…?手塚が怜士の様子を窺うと、彼は黙って撃った護衛を見つめていた。やがて、彼は諦めたようにはぁ…とため息をつくと、手塚を振り返り、クイッと顎で泥に塗れたウサギを連れて行くよう指示したのだった。*芽衣は頬の痛みに泣いたが、陸が准を呼べと言った時、胸がとても痛かった。なんで?なんで准ちゃん、呼ぶの?芽衣のせい?芽衣が、陸くん怒らせたの?なんで?…うう…っわかんないよっ……。彼女の口から准の名前がこぼれる度に、陸は彼女を拘束する腕の力が増した。「お前ら、早くしろよ!真田准だよ!お前らのご主人様だろうが!」嘲笑するような表情でそう怒鳴る陸は、腕の中の芽衣の顔色がどんどん悪くなっていっていることに、気がつかなかった。耳につくのは、グスグスという鼻水混じりの鬱陶しい泣き声だけ。なかでも殺したいほど憎らしい男の名前が彼女の口から出ると、それを耳にするだけで胸の中に憤怒の炎が燃えた。「うぇ…っ…准ちゃ…」「うるさい!」とうとう我慢ができなくて怒鳴りつけると、細い身体がビクッと強張った。「うぅ……ごめんねぇ…」「……は…?」一瞬、何を言われたのか分からなかった。謝った…?俺に…?そう思った時、自然と手の力が緩み、芽衣の頬にあてたナイフの刃が離れた。瞬間ー。
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