不思議と何故かこの時まで届けを出すっていうことに思いが及ばなかったけれど、取っといてよかったよ。 これで晴れて私はシングル。 誰と恋愛しようと結婚しようと自由なのだ。 夫が本気で離婚しようと思って私に離婚届を出したわけじゃないことは明白で──そのあとこの話を夫が持ち出すことはなかったし、私からもなかったのだから。 ただの憂さ晴らしに夫が書いた離婚届。 ブラボ-! お陰でスムーズに独身になれたわよ? そして私は離婚届けを出したことを溝口さんと母に報告し、それから6ヵ月と少し過ぎた頃、私は溝口果歩になった。 ◇ ◇ ◇ ◇ そして十数年後、私は某スーパーとダイキのある駐車場で元夫と遭遇したのだった。 私には信頼のおける溝口啓太という愛すべき夫と、ずっと私を支えてきてくれた愛する母がいる。 そして碧が。 元夫も頑固一徹で、人の気持ちに添えない父親も、もうちっとも怖くないし、障壁でもない。 Come on! そんな気持ちで何やらしゃべり倒している元夫を、私は見ていたのである。 あんなに趣味のように浮気しまくっていた目の前の男は、着古した上着を着て、顔色の余り良くない風貌をしている。 そんな男は、何気なくすれ違っただけなら元夫とは気がつかなかったかもしれない。 今の夫が駆け寄って来た時、ふたりの差があまりに鮮明すぎて、元夫のことを思わず哀れんでしまったほど。 時は残酷なものなのだと思った。 こんなにもひとりの人間の風貌や雰囲気、生活感を変えてしまうものなのだと。 私は元夫にどんな風に映ったのだろう? 私もあの頃と比べたら老けているはずだから。 でも声をかけてきたってことは、全く別人とまでは変貌してないかな? 話合いの場を設けることになったけれど、さてさて──どんなことになるのやら、少しワクテカしている自分がいる。
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