二度も浮気した夫に我が子を渡す気はない! のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

23 チャプター

第11話

「おえっ!」宗谷の様子を見ていた周りの人々は、思わず吐き気を催した。「結城室長、なんで骨なんか食べてるんですか!」「どんなに悲しくても、やっていいことと悪いことがありますよ!」周囲の者たちは顔を背け、誰も直視しようとはしなかった。ただ一人、琴音だけが食い入るように結城の表情を見つめていた。本当に杏奈の子の骨かどうか、琴音も気になって仕方がないのだ。中身を口にした宗谷は、それが骨ではないことを即座に察した。「小麦粉だ!これは骨じゃない。ただの小麦粉だ!」宗谷は興奮気味に瓶を地面へ投げつけた。白い小麦粉が辺りに散らばる。周囲の人々も恐る恐る近づいて嗅いでみた。確かに、小麦粉だった。一同は胸をなでおろす。「もう、なんですか。全く人騒がせですね。本当にびっくりしました」「結城室長、また奥さんの冗談みたいですね。それにしても、自分の子供を使って、こんなことするなんて悪趣味ですよ」「それじゃあ、奥さんの子供は無事ってことですよね?じゃあこの食事会は予定通り続けますか?」子供を抱えた琴音は、心の中で落胆していた。宗谷が自らの手で子供を亡き者にしてくれたと思ったのに、まさか生きているとは……「杏奈は俺を騙してた」宗谷は振り向いて、ボディガードを見た。「あいつが出ていくとき、子供は抱いていたか?」ボディガードは慌てて首を振る。「分かりません。でも、結城室長、この中身が小麦粉だなんてことは露知らず……」「分かった。今日の一件はこれでおしまいだ」宗谷は何事もなかったかのように招待客を中へと促し、食事会の準備を整えさせた。すると、ボディガードがポケットから離婚届受理証明書を取り出し、宗谷に渡した。「結城室長、奥様からこれも預かっていまして……」「離婚届受理証明書!」琴音は素早くそれを受け取る。本物であることを確認した彼女の顔から、笑みが溢れた。「これ、本物だよ!宗谷さん、やっと杏奈さんと別れられたのね。これで私たち、本当の家族になれる!」琴音が狂喜する一方で、宗谷の心は絶望のどん底へと突き落とされていた。もう1ヶ月も経っていたのか?離婚届受理証明書まで、発行されていたなんて。あと1ヶ月も待って、杏奈が出産した頃に籍を入れ直そうと思っていた。しかし、杏奈の子供はもう産まれてしまった
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第12話

駅。子供を抱いた杏奈は、電車に乗り込んだ。電車が動き出すと、東都のすべてが遠ざかっていく。馴染みの景色を眺めながら、胸で眠る赤ちゃんを見つめて、杏奈はふっと笑った。今頃、宗谷の元にはあの骨壺が届いているから、離婚届受理証明書も受け取っただろう。今日から自分と宗谷はもう他人だ。この子も、宗谷とは何の関係もない。これからは自分の旧姓である田中を名乗らせるし、名前も決めてある。田中莉子(たなか りこ)。この子の人生が幸せであればそれでいい。その他は何も望まない。電車が駅に着くと、改札の外には田中翼(たなか つばさ)と田中夏美(たなか なつみ)の姿があった。「お父さん!お母さん!」夏美は杏奈の顔を見て、涙を滲ませる。「杏奈、こんなに痩せちゃって……」翼も目を真っ赤にしていた。「宗谷の野郎、許さん。お前はもう心配するな。必ずお父さんがけじめをつけさせてやるからな!」「もう、その男の話はもうしないで」夏美がそう翼を制し、莉子の顔を覗き込んだ。「この子が私たちの孫なのね。本当にかわいい。これからは私たち家族4人で、一緒に暮らしていこう」「俺たちの最高に可愛い孫だ!目に入れたって痛くない!もし、杏奈が再婚しないなら、田中家の財産はすべてうちの孫に譲ろう!」「お父さん、お母さん……ありがとう」杏奈は夏美の胸で泣き崩れた。「会えて本当に良かった」「泣かないで。さあ、帰ろう」「うん、帰る」杏奈は涙を拭い、黒塗りの高級車に乗り込んだ。今日から新しい人生が始まる。宗谷なんて、もう忘れてしまおう。食事会が終わり、客を見送った宗谷は、すぐさま車を走らせた。琴音も子供を近所に預け、宗谷の車に乗り込む。琴音は杏奈が何を企んでいるのか、どうしても確かめたかったのだ。彼らの離婚はすでに成立しているのだから、遅かれ早かれ宗谷は自分と結婚してくれるはず。もう、杏奈なんか怖くもない。たとえ杏奈の子供が宗谷の元に戻ってきたとしても、絶対に生かしてはおかないつもりだ。二人はまず診療所へ向かった。宗谷は看護師を捕まえて聞いた。「すみません、杏奈がどこにいるか知っていますか?」「杏奈さん?」看護師は宗谷を意味ありげな目で見つめる。「あなた……結城室長ですか?」「そうです。妻はどこですか?昨晩、こ
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第13話

看護師はそれだけ言うと、振り返りもせずに立ち去った。それでも宗谷は信じず、病室を見て回ったが、杏奈の姿はどこにもなかった。宗谷は慌ててスマホを取り出し、杏奈に電話をかける。だが、一向に繋がらない。琴音は胸の高鳴りをなんとか抑え、声を潜めた。「もしかして、家に帰ったんじゃ?」そう聞くや否や、宗谷は気が狂ったように家へと車を飛ばした。だが、杏奈はいない。宗谷は階段を駆け上がり、一つのスーツケースを見つけた。中には杏奈が前々から準備していた私物が入っていた。赤ちゃんのために買った服も、杏奈自身が愛用していたお気に入りの服もあった。洗面用具まで全て揃っている。どうやら家出をしたのではないらしい。しかし、杏奈は戻らず、病院にもいない。一体どこへ行ったのか?宗谷は杏奈の身に何かあったのではないかと心配になり、ボディガードたちに捜索を命じる。その夜、宗谷は一睡もしなかった。宗谷がこれほどまで杏奈を気に掛ける様子を見て、琴音の腹の中で、怒りが燃えていく。だから琴音はわざと子供を泣かせ、宗谷の関心を引こうとした。ところが宗谷は苛立つだけで、琴音を怒鳴りつけた。「あやし方がわからないなら他の人に頼め。いつまでも泣かせておいて……鬱陶しいんだよ!」宗谷がまさか自分にこんな態度をとるとは思わず、琴音はすぐに泣き出した。「宗谷さん。杏奈さんがいなくなったからって、どうしてそんな風に私に当たるの?この子に罪はないでしょ?なんで私たちに八つ当たりするのよ!」自分の非を悟ったのか、宗谷の語気が少し和らぐ。「ごめん、俺はただ……」杏奈に会いたいだけなのだ。そのとき、ボディガードが近づいてきて、宗谷に声をかけた。「結城室長、外の赤く染まった池の水は、そろそろ入れ替えますか?」宗谷は顔を上げた。「何のことだ?」「裏の池ですよ。奥様が池の中で出血してしまいましたから、池が真っ赤になってまして……」ボディガードが言い終わるや否や、宗谷は外へ飛び出していた。池の畔まで走り、血で染まった水を確認する。水だけでなく、傍の草地にも血のあとが残っていた。あまりの衝撃に、宗谷は言葉を失う。「これ……全部、杏奈の血か?」ボディガードたちは互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。「はい」「なんで先に処理しておかなか
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第14話

宗谷は、差し出されたブレスレットを手に取る。それは先日、琴音がデパートで見ていたものだった。しかも宗谷は琴音が自分で赤子の腕につけるのを見ていた。なのに、なぜ池の中に落ちていたのだろう?「おい!」ボディガードがすぐさま駆け寄る。「結城室長、どうかされましたか?」「あの日、妻はお守りを池から見つけ出したか?」「いいえ、結城室長。奥様は結局探し出せませんでした」彼らの報告を聞き、宗谷の心にある疑念が湧いた。もし池にお守りがないのなら、杏奈は何を投げ入れたというのだ?いや、それ以前に……本当に何かを投げ入れたのだろうか?これらすべてが、琴音による杏奈への罠ではないのか?いくつもの出来事が頭を駆け巡り、宗谷は激しい頭痛に襲われた。琴音に限ってそんなことをするはずがない。だが、現実は……「宗谷さん、ご飯だよ。いつまでそこに立っているつもり?」ちょうど部屋から出てきた琴音に、宗谷は鋭い視線を投げた。「琴音、聞きたいことがあるんだ。あの日、杏奈は本当にお守りを投げ入れたのか?」その問いを聞いた瞬間、琴音の顔色がみるみる青ざめた。「本当だよ、宗谷さん。もしかして、私を疑ってるの?」「じゃあ、これは何だ?」宗谷は例のブレスレットを取り出し、琴音の目の前に突きつけた。「……」琴音の表情が凍りつく。池の水を抜けば、このブレスレットが出てくることを忘れていた……「うっかり落としちゃったんだと思う。宗谷さん、一体何が言いたいの?」「落としたんじゃない。お前がわざと投げ入れたんだろ!お守りだと嘘をついて、俺に杏奈を責めさせようとした」宗谷が詰め寄ると、琴音は後ずさった。「ち、違う!私じゃない!」琴音は怯えながら言葉を紡ぐ。「どうして私がそんなことを?それに、お守りだって本当にないんだよ?きっと誰かが拾ったのよ!手に入れるのが難しいお守りだから、拾った人がこっそり隠したに違いないわ!」「琴音!まだ嘘をつくのか!」宗谷は手に持っていたブレスレットを地面に叩きつけた。そのあまりの剣幕に、琴音は声を失う。「嘘なんてついてない!なんで急に私を問い詰めるの?宗谷さん、私をそんな女だと思ってたの?」「そうかどうかは、すぐに分かるさ」宗谷はボディガードに命じた。「すぐ琴音の部屋を調べろ。お守
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第15話

宗谷は琴音に心底失望していた。「琴音、なぜ俺を騙した!お前が嘘をついたせいで、俺は杏奈との間にできた自分の子供を失ってしまったんだぞ!」「それは……」言い逃れはできないと悟った琴音は、泣きながら言った。「わざとじゃないの。杏奈さんが先に挑発してきたの!だから、頭にきて、つい……本当にわざとじゃなかったの。宗谷さんなら、分かってくれるでしょ?私がそんな悪意のある人間じゃないって……こんなことになるなんて思いもしなかった」「思いもしなかったのだと?」宗谷は鼻で笑った。「杏奈が言っていたことは本当だったんだな。彼女は嘘なんかついていなかった」何かを思い出したのか、宗谷は琴音の方を向く。「聞くぞ。昨日の夜、お前は電話に出たか?」「出たわ」琴音は大きく息を吸い、平然と答えた。「あなたが赤ちゃんと楽しく過ごしていたから、邪魔されたくなかった。でも、あの電話が杏奈さんと関係があるなんて知らなかったの。もし知っていたら、絶対に出ていたし、切ったりなんてしなかったわよ!」「まだ言い訳をする気か!」宗谷の琴音への失望は極限に達し、もはや彼女の顔さえ見たくなかった。「子供を連れて部屋に行け。今は、お前の顔なんて見たくない!」「杏奈さんのために、こんな仕打ちをするの?私だって、あなたなんて見たくないから!」琴音は子供を抱き上げると、怒った様子で2階へ上がっていった。背中を見送った後、宗谷は力なくソファに倒れ込んだ。脳裏に杏奈の姿が浮かぶ。子供服を手に取り、笑っている杏奈。「宗谷、見て!赤ちゃんの服を買ったの。可愛いかな?」「ピンク色?もう女の子だって確信しているのか?」「分からないわ。だから、青色も用意してあるの」杏奈はもう一つの服を掲げてみせる。「女の子ならピンク、男の子なら青を着せようと思うの。どうかしら?」当時の杏奈の笑顔は明るく、とても幸せそうだった。体があまり強くなかった杏奈にとって、子供を授かるのはずっと待ち望んでいたことだったのに。9ヶ月もの時を過ごし、もう少しで生まれるはずだった命を亡くしてしまった。今、杏奈がどれほどの悲しみに暮れているのか、宗谷には想像さえできない。苦悶の表情で顔を覆い、声を殺して泣いた。「杏奈……一体、どこにいるんだよ?」
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第16話

杏奈の実家、田中家にて。杏奈はベッドで横になり、莉子は隣のベビーベッドですやすやと眠っていた。我が子の愛らしい寝顔を見ていると、この数日の苦労も報われる気がした。ただ一つ心苦しいのは、完全な家庭を与えてあげられなかったこと。「杏奈、このスープを飲んで」実家に戻ってからというもの、両親はあれこれと栄養のある料理を作ってくれる。だからわずか半月で、杏奈の頬はふっくらとしてきた。「お母さん、夜食はもういいって言ったでしょ?お腹がすいていないし」「何を言ってる!しっかり食べないと、莉子ちゃんの世話ができないでしょ?」すると、莉子が泣き出したので、杏奈は抱き上げようとしたのだが、夏美が先に手を伸ばしてきた。「杏奈は寝ていなさい。抱っこしすぎると体に障るから」杏奈は苦笑した。「私の子だもん。泣いていたら心配で抱っこしたくなっちゃうよ」「あなただって私の子だよ。心配になるのは同じでしょ?」夏美のその言葉に、杏奈の瞳が途端に潤む。杏奈は唇を噛み締め、声を震わせた。「お母さん……」「いいからスープを飲みなさい。冷めるとおいしくないから」夏美はそう微笑むと、莉子に顔を寄せた。「おやおや、うちのかわいい莉子ちゃんはどうして泣いているのかな?あら、オムツが気持ち悪いのかな?おばあちゃんがきれいに替えてあげるから、スッキリして寝ようね」夏美がこれほどまでに莉子を愛してくれる姿を見て、杏奈の先ほどまでの心配は吹き飛んだ。父親がいなくても、莉子はきっと幸せに育つと確信できた。一睡もできなかった宗谷は、夜が明けるとすぐにボディガードへ電話をかけた。「どうだ?杏奈についての情報は何か入ったか?」「少しですが、手がかりをつかめました。結城室長、どうやら奥様は南の方へ向かったようです。具体的な場所については、まだ調査中です」「南?」宗谷はソファから勢いよく立ち上がった。「行き先には心当たりがある」てっきり少し意地を張っているだけか、どこか人知れぬ場所で傷を癒やしているだけだと思っていた。まさか南の方まで戻っているとは……杏奈が戻る場所といえば、一つしかないだろう。「こっちに杏奈の身寄りはない。もし頼るとしたら、実家に帰ったんだと思う」宗谷は迷うことなく支度を済ませ、駅へと急いだ。「宗谷さん、どこへ
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第17話

「ああ、そう。あなたの本性がようやくわかったわ」琴音は涙を流しながら首を横に振った。「後悔しているのね?私と一緒になったことを後悔しているんでしょ?杏奈さんとはもう二度も離婚してるのに、この6年間、私はずっとあなたのそばにいた。宗谷さん、私の誕生日の願いごとが何だか知ってる?私は、あなたと籍を入れたいだけ。堂々とあなたの妻だって言って、私の息子を結城家の戸籍に入れたいの。そのあとで離婚したとしても、もう何も言わない。すべては私たち二人の子供のため。このささやかな願いすら、叶えてくれないの?」「昨日までなら、お前と結婚していたかもしれない」宗谷は琴音を見つめ、一言ずつ静かに言った。「でも、お前のせいで杏奈との子供は死んだ。もし杏奈が一生俺を許さなかったら、俺はお前と絶対に結婚しない」宗谷は言葉を継いだ。「まあ、杏奈が許してくれたとしても、お前とは結婚しない。琴音、俺はお前に十分尽くしてきたと思う。中村の命に対する負い目も、もう清算したはずだ!」「宗谷さん!今、あなたがこの家から一歩でも出て行くっていうなら、私はここで死んでやる!」それでも宗谷が部屋を出ようとすると、琴音は狂ったようにナイフを振りかざして飛び出してきた。ボディガードたちはその光景を見て、呆然とした。「落ち着いてください。まずは話しましょう!」「そうです!結城室長も感情的になっているだけですから。まずは冷静になりましょう!」しかし琴音は聞く耳を持たず、ナイフを手首に向けた。「宗谷さん、忘れたの?私にはうつ病があるのよ?本当に行くっていうなら、ここで本当に死んでやるから!」「これで5回目だ」宗谷は琴音を睨みつけ、冷ややかに言った。「これまで5回も自殺を口実に俺を脅したな。そのたびにお前の言いなりになってきた。だが今回は、お前が本当に死んでも止めはしない。俺は杏奈のところへ行く!」そう言い捨てると、宗谷は振り返ることなく立ち去った。すると、琴音が躊躇うことなく、勢いよく手首にナイフを立てた。次の瞬間、血が飛び散る。真っ赤な血が、手首から床へと滴り落ちた。ボディガードたちが駆け寄り、琴音を止めようとする。「やめてください!結城室長の車はもう行ってしまいました。死んでも気づいてもらえませんよ?」琴音は血走った目で彼らを睨みつけ、低く唸った
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第18話

車内の宗谷はボディガードの言葉を聞き、表情を険しくした。目の前には駅が見え、発車時刻も迫っている。しかし琴音は死ぬだのなんだのと暴れていた。死ぬだけならまだしも、子供を道連れにするなんて、どうかしている……「どうしますか?結城室長。まだ駅へ向かいますか?」「琴音は狂ってる。もう何を仕出かすか分からない。今、俺が本当に行ったら、子供を道連れにしてしまうだろう」宗谷は駅から視線を外し、声を震わせて言った。「戻るぞ」「分かりました!」車が家に近づいた頃、ボディガードから連絡が入った。琴音は出血多量で病院へ運ばれたが、子供は無事だという。発車時刻は過ぎてしまった。宗谷は仕方なく病院へ向かう。病室の前に着いた途端、中から話し声が聞こえてきた。「琴音、正気なの?本当に自殺しようとするなんて」「そうだよ。危うく本当に死ぬところだったんだから」「結城室長のために、そこまでするの?うつ病だって嘘なのに……こんなになっちゃってさ」病室の外で宗谷は呆然と立ち尽くした。今聞こえてきたことは、本当か?琴音はうつ病じゃない?ずっと自分を騙していたというのか?「あの時はかっとなっちゃって余裕がなかったの。だって、宗谷さんがあの女のもとに行くのだけは、絶対に阻止したかったから」「だとしても、子供を連れて自殺なんて。子供に罪はないんだから」「罪がないって?」琴音は冷たく笑った。「この子がいなかったら、私もここまでしなかった!でもまあ、宗谷さんがこの子を自分の子だって信じてくれてよかったわ。もしそうでなかったら……」「琴音、どういうことだ?」琴音の言葉を言い終わらぬうちに、ドアが激しく蹴破られた。宗谷が現れたことで、琴音は顔を青ざめさせる。そこにいた友人たちもまずい空気を察して、慌てて逃げ出していった。病室は冷え切った空気に包まれる。琴音は息を呑み、それでも何もなかったふりをして言った。「宗谷さん……戻ってきてくれたのね。やっぱり私が死ぬのは耐えられないんでしょ?」「さっきの話、本当か?」ベッドの上の琴音を見つめる宗谷の目は、殺気に満ちていた。今の彼は、まるで地獄から這い出た悪魔のように恐ろしい。「さっき何て言ったんだよ!あの子供が俺の子じゃない?お前が産んだのは俺の子じゃないって言った
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第19話

「っは、はははっ……」宗谷は笑えてきた。全ては自分の自業自得だ。当然の報いだろう。「宗谷さん、私の話を聞いて。さっきのは聞き間違いだから!あの子は本当に私たちの子供だから!」琴音は勇気を振り絞って近寄り、宗谷に触れようとしたが、乱暴に振り払われた。「触るな、お前に触れられると汚れる!最後に一度だけ聞くぞ。あの子供は、本当に俺の子供なのか?DNA鑑定が出た時に後悔しても、もう遅いからな」「宗谷さん!」その言葉を聞き、琴音は床に崩れ落ちた。涙ながらに叫ぶ。「あれは間違いだったの。あなたがかまってくれなかったから、ヤケ酒を飲んで……そうしたら誰かと寝ていたの。その男が誰だったのかも知らないし、あれっきりだから!信じて。たとえ血が繋がっていなくても、あなたを『パパ』と呼ばせて、将来は面倒を見てもらえばいい。あなたに損なんてないでしょ?」「いい加減黙れ!」激しい怒りで震える宗谷は、思い切り琴音の頬を張り飛ばした。「とんでもない女だな!俺を散々弄びやがって!こんな女のために、俺は何度も杏奈を傷つけてきたなんて……」「私を殴ったの?」琴音は頬を押さえながら立ち上がった。「自業自得でしょ!私を断り切れなかったのは、そっちなんだから。遅かれ早かれ、杏奈さんはあなたのもとを去っていたと思うよ?まあ、もう全部教えてあげるよ。あの日、生まれたばかりの子供を、床に落としたのは杏奈さんじゃない、私が彼女を陥れるためにやった自作自演。それに、うつ病なんて嘘だし、今までの騒動も全部私の作り話。杏奈さんは悪くない、私が勝手に汚名を着せただけ!」「お前……!」激怒した宗谷は、琴音の首元に手をかけた。「殺してやりたいほど、お前が憎い!」「殺せばいいわ。私ももう生きていたくはないし、あなたと一緒に死ねるなら本望よ!」琴音は怯える様子もなく、逆に強気な態度で宗谷を見返した。こうなってしまった以上、もう何も望まない。この猫をかぶった生活も、いい加減御免だ。「お前みたいなやつは、殺す価値もない!おい!」「結城室長」とボディガードが即座に駆けつけた。「ご命令を」「あの日、杏奈はお前のために4時間も池の中にいた。お前にも同じ思いを味わわせてやる」宗谷は琴音を突き飛ばすと、嫌悪感に顔をゆがめ、ティッシュで何度も手を拭っ
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第20話

田中家。宗谷が着いたときには、もう午後になっていた。一日中電車に揺られていたため、疲労の色が滲んでいる。それでも宗谷は足を止めず、真っ先に田中家へと駆けつけた。3年前、宗谷はこの場所で杏奈と結婚の誓いを交わした。当時、彼は翼と夏美の前で、生涯杏奈を裏切らないと誓った。それなのにわずか3年で、また同じ間違いを犯した。それに、今回の失敗は、3年前よりもたちが悪い。杏奈に合わせる顔がないだけでなく、彼女の両親にも申し訳なくて顔向けができなかった。「どちら様でしょうか?」玄関でうろうろする宗谷を見つけた使用人が、警戒するように言った。「何も御用がないならお帰りください。警察を呼びますよ」新入りの使用人で、どうやら自分のことを知らないらしい。「杏奈の夫だ。彼女に会わせてくれ」「あなたが杏奈様の元夫さん?」杏奈の事情は、田中家の全員が知っていた。だから、宗谷を見た使用人は、不快感を露わにする。「申し訳ありませんが、杏奈様は療養中ですので、会える状態ではありません。すぐにお帰りください!」使用人はそう言い捨てると、家の中へ戻ってしまった。それでも宗谷は諦めず、杏奈の部屋が2階にあると察して大声で叫び出した。「杏奈!杏奈!俺だよ、宗谷だ!迎えに来たんだ。なあ、顔を見せてくれないか?俺が悪かった。目がくらんで、あんな女の嘘にまんまと騙されてしまったんだ!でも信じてくれ、もうあいつは結城家から追い出した。二度と会うことはない!杏奈、お願いだ。少しだけでいい、会ってくれ!数分でいいんだ。話がしたい!」家の中まで響くその叫び声に、翼は怒りで震えた。以前から準備していた棒を手に、「やつが来たら俺の手でやってやろうと、この棒を買っておいたんだ。どうやら今がその時らしいな……」と憤慨する。「落ち着いてよ。まずは杏奈の考えを聞かなきゃ」夏美がそう言って、翼を宥めた。窓辺に立った杏奈は、下で叫ぶ宗谷を冷ややかな目で見ていた。しかし、心の中は驚くほど、穏やかだった。「私は会いたくないの。お父さん、あんな男、放っておいていいから。あんな男に命をかける必要なんてないよ」「じゃあ、ずっと騒がせ続けるつもりか?」「警察に通報すればいいよ。不法侵入と迷惑行為で、連れて行ってもらおう」夏美も同意
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