私の視線が、サイドテーブルに置かれた小さな小包に向けられる。 茶色いクラフト紙で包まれ、麻紐で十字に縛られただけの、ひどく質素な包みだった。天野家が用意するような豪奢な包装とはまるで違う、生活の匂いが染み付いたような外観。 「……ありがとう。後で確認するわ。もう下がってちょうだい」 「それでは、失礼いたします。おやすみなさいませ」 千尋が深く一礼し、部屋から退室していく。 カチャリと扉が閉まる音を確認し、私はすぐにサイドテーブルへと歩み寄った。 麻紐に指をかける。 少し毛羽立った麻の繊維が、指先にザラリとした感触を残す。 佳乃。 彼女は父の後妻として水科の家に入ってきた女性だ。常に父の三歩後ろを歩き、決して自分の意見を主張せず、没落していく水科家の家計を無言でやり繰りしていた、冷たくて影の薄い継母。 私が天野家に差し出されることが決まった時も、彼女はただ黙って俯き、言葉一つかけてはくれなかった。 その彼女が、わざわざ私宛に「忘れ物」を送ってくるだろうか。 私が水科の家を出る時、自分の意志で持ってきたのは、前世の記憶を頼りに買った数冊の実用書や、あの革張りのメモ帳くらいだ。忘れ物など、存在するはずがない。 引き出しからペーパーナイフを取り出し、麻紐を切断する。 クラフト紙を開くと、埃と古いインクの匂いがほのかに鼻を突いた。 中に入っていたのは、一冊の分厚い本だった。 海外の古典文学のハードカバー。水科家の書庫の奥で埃を被っていたのを、私が暇つぶしに自室に持ち込んでいた本だ。だが、わざわざ本邸にまで送ってくるほどの思い入れはない。 本を持ち上げると、表紙とページの間から、三つ折りにされた何枚かの紙の束が滑り落ち、絨毯の上にバサリと散らばった。 私はペーパーナイフを置き、その紙の束を拾い上げた。 一目見た瞬間、私の脳内の「広報としての事務処理センサー」が、強烈に反応した。 それは、手紙ではない。 白いコピー用紙に黒いトナーで印字された、数枚の『請求書』と『契約書』の写しだった。 宛先は、『株式会社水科ホールディングス』。父・惣一郎が当主を務める、水科家の資産管理会社。 私はソファに腰を下ろし、一番上の請求書に視線を落とした。 発行元は、『天野アセットマネジメント株式会社』。
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