箏を弾いていると、やがて橘の香りが近付いてきた。「今夜、どなたがいらっしゃるの?」「中務省の少丞と聞いています」「下がってるじゃない!」 少納言は従五位上、少丞は従六位上。 五位と六位だから一つ違いに思えるかもしれないが四つ下である(間に三つありますのよ)。 何より五位以上(蔵人は六位以上)は昇殿を許されているが、六位以下は昇殿が許されていない地下人なのだ。 昇殿を許されている貴族を殿上人という(三位以上は公卿と呼ばれる上級貴族ですのよ)。 普通、中級貴族というのは殿上人、下級貴族は地下人である。「身分が気になりますか?」「妹の夫になる方はね。特に中の君の夫のことはお父様が出世の手伝いをして下さらないかもしれないのよ。だったら少しでも官位が高くないと」 官位で俸給(要はお給料ですわよ)が決まっているのだ。官位が高ければそれだけ多くなるし最終的に高い地位に就ける。 昔の下級官人が束帯(正装ですわ)を着ていないからと言う理由で仕事中に追い返されたことがあるのだが、その束帯も自分で用意しなければならないのだ。 金がなければ仕事にも行かれないのだから(その時は公式行事の準備中だったから正装でなければならなかったと言うのはあるにしても)俸給に影響する官位は大事に決まっている。「牛車に細工しますか? あるいは動物の死体を捨てるか……」 頼浮の問いに私は考え込んだ。 お母様達が、中の君が春宮に入内できない理由を『もう婿がいるから』ということにしたいのなら何度邪魔をしても送り込んでくるだろう。 婿がいても女官として出仕することは出来るが夫がいたら春宮の手が付こうが、なんなら懐妊して皇子を産もうが妃に格上げというのは無理だろう。 そもそも子供も春宮の子供とは認めてくれないかもしれないし。 春宮が認めると言ったところで公卿達が認
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