All Chapters of 最強のママチャリに乗って美少女と一緒に異世界をのんびりと旅する: Chapter 21 - Chapter 30

34 Chapters

魔法都市シャリア――2

「ねぇ、今、もしかしてこの乗り物がしゃべった? すごいわね、こんなに自然に喋らせる魔法が使えるんだ」 とこちらに来た運び屋の女性が言う。髪が赤毛で顔にそばかすのある女の子だった。「で、なにを運んでほしいの? あ、人もひとりまでなら乗せてあげられるわよ?」「いや、あたしたちは乗らない。この荷物をアリアナの宿屋まで運んでほしいんだけど」 と僕が手に持っている荷物の方へ、チャーリーが視線を向ける。「いいわよ、ちょっと待って。今、荷物を箒に括り付けるから」 と言って彼女は背負っていたバッグから丈夫そうなひもを取り出す。 その時だった。「おーい、ちょっとちょっと!」 と白い鎧をつけた騎士がこちらに駆けつけてくる。「君、さっき、法定速度を違反していたよ」「え、そ、そんな、久しぶりに、依頼が来て、ちょっと舞い上がっちゃって」「言い訳してもダメ、二点減点ね」「そんなぁー、免許の更新あと一か月後だったのに! アダマンタイトクラスの運び屋だったのにぃぃぃ、ミスリルクラスになっちゃうぅ!」 とその運び屋は頭を抱えていた。 それを見ていたチャーリーが僕に言う。「……違う人に頼みましょうか」「そうだな」「ちょっと、ちょっとーー! なんでよー!」 と抗議してくるが、僕たちは無視した。「あそこにいる人はどうだ?」「あれはダメよ、よく見なさい、箒にひよこマークを付けてるでしょ?」「ひよこマーク?」「運び屋になってから一年経ってない者はあれをつけないといけないのよ」 と僕たちが会話しているところに、先ほどの運び屋が割って入ってくる「ちょっと、話を聞きなさいよ、私でいいじゃないの私で―!」「でも、ミスリルクラスになったんだろ?」「まだアダマンタイトクラスよ、まだ!」 でも、一か月後はミスリルクラスになっているんだろ? とは思ったけど、言わないでおいた。 それからもしつこくその運び屋は自分をアピールしてくるので、結局その運び屋に運んでもらうことにした。 荷物を箒に括り付けた後、その運び屋は空を飛んでいった。 大丈夫かな……と思っていると、先ほど彼女を注意した騎士団の人が声をかけてきた。「見慣れない乗り物がありますけど、あなたは旅人ですか?」「ええ、そうですけど」「運び屋には気を付けてくださいね、最近、運び屋の起こす事故が増えているん
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チャーリーの前世――1

 チャーリーの前世の墓を見た後、僕たちは宿屋へ行き、客室に入った。 すると、チャーリーが話したいことがあるというので、僕は椅子に、クルシェはベッドに座って、聞く姿勢を取った。「いつかはあたしの前世について話さないといけないとは思っていたんだけど……これがいい機会ね、ちょっと長くなるかもしれないけど、聞いてほしい、あたしの前世、マグレガー・リガルディーの物語を」 そして、彼は語り出した――* * * あたしはすごい裕福ってわけではないけど、かといって貧乏では決してない、普通の家庭に生まれたわ。基本的に両親は優しかったし、生活するのに不便は特になかった。 だけど、あたしの母親には、少々困ったところがあった。「ねぇねぇ、これ、着てみてよ」 買い物から帰ってきたばかりの母が、リビングで袋から服を取り出す。 それは白いフリルがついたスカートだった。 あたしは男なのに……。 母は女の子が欲しかったらしくて、一人息子のあたしに、女の子用の服をよく着せようとした。「これ、女の子の服だよね、僕、男、なんだけど……」「あ、そう……やっぱり、嫌よね……」 と母が悲しそうな顔をするので、あたしは慌てて、「あ、着るよ、実はちょっと興味があったんだ」「そう、嬉しいわ」 それから、あたしは女の子の格好をするようになった。 母が喜ぶので、あたしは一人称も僕からあたしに変えて、口調も女の子っぽくした。 はじめはそれは単に母を喜ばせるためのものに過ぎなかった。だけど、だんだんそれがあたしの中で自然になって、いつのまにか自分は男であることに、違和感を持つようにすらなってしまった。 そんな女みたいな振る舞いをしているから、あたしはいじめられていた。「おい、なんでお前、そんなかっこしてんだよ」「お前、男だろ、話し方もなんでそんな女みたいなんだよ」「きめぇな」 公園で、殴る、蹴る、の暴行。一人で砂場で遊んでいたのに、近所の悪ガキ三人があたしを見つけると、攻撃をしに来た。「おい、見ろ、こいつ、パンツまで女のやつはいてるぜ」「いやぁ、やめてぇ」 スカートをめくられ、下着を晒される。 抵抗しようとするも、三人がかりで拘束され、抜け出せない。 あたしが泣き叫んでも、やめてくれない。 ぎゃはははとただ笑ってるだけ。 他の人たちに目で助けを求めるが、すっと視
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チャーリーの前世――2

 公国の魔法学院に入学するには生徒か先生にまず推薦されないといけない、その後、実技試験と筆記試験を受けることになる。 あの時、図書館で出会い、恋した彼――ライオットに、あたしは推薦されて、入学試験を受けることになった。 実技は初級の魔法が使えるかどうかのテスト。 使えさせすればよくて、どれだけ威力が低かったり、魔法の効果範囲が狭くても、魔法が出せれば基本的には合格点がもらえる。 筆記のテストは読解力と数的思考力のテスト。 魔法使いは頭が良くないとなれない。 魔法書は難解で、中級、上級と上がるにつれて、さらに内容が難しくなっていく。上級魔法について書かれた本は教授陣でさえ、理解している人は少ない。だから魔法書を読み解ける能力が必要なのだ。 また、魔法は使用するときに魔法式を計算しないといけない。しかも魔法を使うときはその計算を頭の中だけでやらないといけない。 だから魔法使いには数的思考力が必要なのだ。 受験した結果、あたしは実技も筆記も両方満点だった。 両方満点を取った生徒は、学費が全額免除される。 晴れて合格したあたしは、魔法学院のキャンパス内にある寮に入ることにした。公国の辺境の方に住んでいる人か他国から来た人が基本的には寮に住む。あたしは自宅から通える範囲だったけど、あれから両親とは少し気まずくなってしまったから、学院にお願いして寮に入れてもらえることになった。入試の成績が良く無かったら許されなかったと思う。 この学院は男子と女子で制服が分かれているのだけど、あたしは女子の制服を着ていた。これも学院側に特別に許可をいただいている。 ちっちゃいころはともかく、あたしはだいぶ成長して顔つきも体も男らしくなってきたので、見るからに男が女装している、とわかるような姿になってしまった。 そのため、あたしはやはりほとんどの人から良く思われていないようだった。 と言っても、子供の時みたいに、露骨にいじめられることはなくなったが。でも、こそこそと悪口を言われることはよくあった。 その日も、あたしは陰口を言われていた。 入学してから早半年。 一週間前に行われたテストの成績の上位50名が記載された紙が、本棟の一階にある学内掲示板に張り出されていた。 一位の欄にあたしの名前が書かれていた。 「おい、またあいつが一位なのか?」「本当に一位だ
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チャーリーの前世――3

 テトラに告白された次の日、あたしはライオットを夜の学園の中庭に呼び出した。 もうとっくにすべての講義が終わってる時間なので、ここにはあたしと彼以外誰もいなかった。 「話って、なんだよ」 ズボンのポケットに両手を突っ込んで、神妙な顔で彼は言う。 あたしは、なんて切り出そうか迷った。 十秒くらい迷った末に、もう単刀直入に言うことにした。「ライオット、あたしは、あなたが好き、なの……」 彼はそれを聞いて、目を閉じて、しばらく黙り込んだ後、ゆっくりと目を開いた。「なぁ、それは、友達として好き、ていうわけでは、ないんだよな」「ええ、恋愛の対象としての好きよ、同性同士だけど、でも、あたし、この気持ちを抑えられないの……」「そうか……」 そう言って、彼は空を見上げた。だけど、すぐに顔を元の位置に戻して、あたしを真っすぐに見つめた。「すまん、実は俺、フィオナと付き合っているんだ」「え……」 ガツン、と頭を鈍器か何かで殴られたような気がした。 断られることは予想していたけど、それは想定していなかった。「い、いつの、まに……」「お前との勉強会にフィオナを連れてきたことがあったよな。実はあの時にはもう、彼女と付き合っていたんだ」 そんな、あの時点で、付き合っていただなんて。「これは俺の落ち度だ。ほんとはもっと早く言っておくべきだった。でも、あの四人でつるむのは居心地が良くてさ、俺とフィオナが付き合っているって知られたら、今までの関係が壊れてしまうんじゃないかと思うと、怖くて言えなかった。でも、それは間違っていたな……」 あたしは、何も言えなかった。ただ、彼とフィオナがあたしの知らない間、ずっと付き合っていたということがショックで、それで頭がいっぱいだった。「そういうことだから、お前のことは、いい親友だとは思っているけど、恋愛対象としては、見ることができない……悪いな」 最後にそう言って、彼は気まずそうに、あたしの目を直視せず、去っていった。 あたしはしばらくその場を動けなかった……。 それから、あたしとライオットとフィオナとテトラの四人は、なんだかぎくしゃくしてしまった。あれほど仲良かったのに。 別に喧嘩するというわけではないが、依然と同じように皆会話ができなくて、どこかよそよそしくて、講義も以前はみんな近くの席で受けていたのに、ラ
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ゼフィールの廃屋敷

 チャーリーが語り終えた後、僕は言う。「それで、気づいたら、僕のママチャリに転生していたってわけか」「そうよ」「うう、ママにそんな過去があったんですね……」 とクルシェが涙をハンカチで拭っていた。「あなたたちに、お願いしたいことがあるの」 とチャーリーが真剣な声で言う。 僕は何となく背筋を伸ばした。 クルシェの方をちらっと見ると、彼女も居住まいを正していた。「あたし、あの廃屋敷のモンスターともう一度戦いたい、だから、あなたたちには関係のないことだけど、一緒に依頼を受けてほしいの。今のあたしじゃ、一人で依頼を受けようとしても断られるだろうから……」 まぁ、見た目がこんなだしなぁ……。 とチャーリーをまじまじと見る。「いや、よね、やっぱり……」 と落ち込んでいる感じの声を出すチャーリーに僕は言ってやる、「何言ってんだ、嫌じゃないよ。お前の前世の話を聞いてから、僕は元々一緒にそのモンスターを倒しに行くつもりだったよ、クルシェもそうだろ?」「はい、私もそのつもりでしたよ!」「テル、クルシェ……ありがとう」 彼は涙を流さないが、もし流せる姿だったら流していただろうな、と思わせる声を出していた。* * * 次の日、僕たちは冒険者ギルドに向かっていた。 街の中心部らへんにあるそこにたどり着き、中に入る。 奥の方に進むと受付があり、そこに行くまでの通り道の左右にテーブルと椅子がいくつか置かれていた。 椅子に座り、酒を飲んでいるらしい冒険者っぽい人たちがこちらに視線を向けている。 僕たちが受付の方へ向かうと、ひそひそと話し声が聞こえてきた。「見ない顔だな」「最近、この町に来た奴らか?」「弱そうだな」「なぁ、あれはなんだ、あのかごがついたやつ、何かの乗り物か?」「俺も気になってた、なんなんだろうな、あれ」 チャーリーは慣れているのか、泰然としていたが、クルシェが居心地悪そうにしていた。 カウンターの前まで来て、依頼を受けたいと言うと、まずは登録が必要だと言われた。 僕とクルシェはいろいろ書類を読んだり記入事項を書いたりして、20分くらいかけて登録を済ませた。 その後、カウンターの横にある、依頼が張られた掲示板へ行き、ゼフィールの廃屋敷にいる上級モンスター『タラスク』の討伐、と書かれた依頼に、僕は目を止めた。「チャーリー
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過去との別れ

 廃屋敷を出て、町へ戻り、ギルドに依頼達成の報告をした後、僕たちは酒場で祝勝会をした。「乾杯!」 とその場にいる全員が叫びながら杯をぶつけあう。 大きなテーブルに、左から順に、僕、クルシェ、フィオナさんが座っていて、その向かい側では左から順に、シェルダンさん、ライオットさん、テトラさんが座っている。 ちなみに、チャーリーは僕の近くに停めてある。「あなたたち、マグレガーとは親友だったのよね、いつ出会ったの?」 と、お酒をチビチビと飲んでいたテトラさんに言われる。 一瞬、どう答ええようか悩む。隣でクルシェはあわわわとあわてふためいていた。 彼女がなにか言う前に、僕は咄嗟に考えた作り話を言った。 「昔、町の近くでモンスターに襲われたとき、助けてもらったんです、そこから仲良くなって……」「へーそうなんだ……」 とテトラさんはどこか遠い目をして、言う。「マグレガー、あのとき、俺も一緒に廃屋敷に行っていたら……きっと死ぬことはなかったのに……」 少し赤い顔でライオットさんが言う。「私も、行っていれば……」 とフィオナさんも泣きそうな顔で言う。「お前たち、いつまで言っているんだ、それを。こいつら、マグレガーが死んでからずっとこんなかんじなんだ」 と言って、ぐびぐひとエールを飲むシェルダンさん。「あたしたちね、彼が亡くなってから仇を打つために、このパーティを結成したの。廃屋敷のタラスクを倒すために力をつけようと依頼をこなしていく打ちに、いつのまにか、公国最強の冒険者パーティと言われるようになっていたわ」 とテトラさんが飲み干した杯を見つめる。「ようやく、今日、倒すことができた、あなたたちのおかげよ」 とフィオナさんが、チャーリー、僕、クルシェの順に視線を向けた。「そんな、チャーリーはともかく僕はたいしたことは……」「そんなことねぇって、ほら、もっと飲め飲め」 とシェルダンさんが僕の空になった杯に酒を注いできた。 それからも皆で酒を飲みながら昔話に花を咲かせた。 次の日―― 僕とクルシェとチャーリーは冒険者パーティーである黒雲の人たちとマグレガーの墓参りに来ていた。「マグレガー、仇ようやく取れたよ、お前とはいろいろあったけど、今でも親友だって思ってる、お前はどう思っているか、わからないが……」 とライオットさんが言うと、フ
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眠らない人々の町――1

 2人乗りもすっかりなれてきたなあ、と思いながら自転車をこいでいると、新たな町が前方に見えてきた。「あそこは……眠らない人々の町と言われているわ」 とチャーリーが言うので、頭に浮かんだ疑問を口に出した。「眠らない人々? まさか一日に一睡もしないのか?」「さぁ、あたしも行ったことないから、わからないわ」「私、その町のこと、気になってきちゃいました。早く行きましょうよ」 クルシェがそう言うので、僕はペダルをこぐ足の回転を速めた。 そして数十分後、その眠らない人々の町に着いたわけだが……。「なんだか、騒々しい街ですね……」 とクルシェがぽかんとした顔で言う。 僕も同じ意見だった。 もうすでに空は暗くなっているのに、魔法で光っている街灯がたくさんあって、町は明るい。 レンガ造りの家々にはどこも花壇があって、色とりどりの花が咲いている。 露店があちこちにあって、その店主が大声で客に呼びかけている。 広場には歌を歌う人やダンスをする人がたくさんいる。 元気いっぱいな人たちばかりだ。「ははは、ここにきた旅人たちはみんな、そんな顔をしますよ」 と顎に立派なあごひげを生やした男がそう言って、前方からこちらに来た。「どうも、町長のヨルダンです、いい町でしょう、ここは、気に入っていただけましたか」「正直、面食らっていて、まだ感情に整理がついてないです」 と僕が言うと、彼は快活に笑った。「ははは、かまいませんよ、べつに。どうぞ楽しんでください、この町を。あ、気にいったのでしたら、ずっと住んでもらっても構いませんよ」「あはは、考えておきます」 そのつもりは今のところなかったが、そう答えておいた。「実際に、一年ほど前に、旅人がここの町民になっているんですよ。アラウチ、ホソグチ、ハスイケという名前の人たちなんですけどね」 え? その三人の名前、とても聞き覚えのある名前なんだが、まさか…… と思っていた時、こちらに見覚えのある顔の男がやってきた。「おい、お前、矢島だよな、俺、荒内だよ、久しぶり!」 そう叫びながら、彼は僕のもとに走ってきた。 どこからどう見ても、転移前、大学のサークルの仲間だった荒内だ。「荒内、もう会えないかと思っていたぞ」「俺の方こそ」「お二人は知り合いなんですか?」 と町長が言うと、荒内が頷いた。「ええ、大学
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眠らない人々の町――2

 クルシェと荒内の所に戻った後、蓮池さんといろいろなことを話した。 前の世界のことや、この異世界のことについて、様々なことを。 重要な話は何一つしていないが、久しぶりに前の世界のことを感じることができて、嬉しかった。 蓮池さんの休憩時間が終わると、彼女と荒内と別れた。 別れる際に、蓮池さんは僕にこう言ってきた。「私を選ばなかったこと、いつか後悔させてあげるから」 彼女は最後にそれだけ言って、それ以降はもう僕の方を一切見なかった。 何か言おうかと思ったけど、余計なことしか言わない気がしたから、結局、「さようなら」とだけその背中に向けて言い放った。 蓮池さんが僕のことがどうでもよくなるくらい、誰か他に好きな人が見つかればいいな、と思った。「なに、あんたたち、何かあったの?」 とチャーリーが訝しんだ声を出してきたが、「特に何も」と僕は答えておいた。「これからどうする?」 荒内と蓮池さんと別れた後、チャーリがそう言うと、クルシェが「せっかく来たんだし、もっとこの町を見て回りませんか?」と言うので、観光をすることにした。 屋台とかで買い食いをしながら街を回る。 途中、何度か陽気な連中と一緒に宇阿多を歌ったり、ダンスを踊ったりしながら、ぐるぐると街を見て回っていく。 「結構歩きましたね」 とクルシェが少し疲れを顔に滲ませて、言う。「他に行きたいところある? あたしはもうないけど」 チャーリーがそう言うので、僕は顔を左右に動かして周囲を窺う。 僕も特にもう行きたいところはなかった。べつにここは特に観光の名所のようなものはないっぽいし……。「お二人はもうないんですか? それなら、私、最後にあの時計塔に言ってみたいです」 と彼女が町の奥の方にある細長い建物を指差す。「ああ、そう言えば、あそこはまだ行ってなかったわね」「それじゃあ行ってみるか」 三十分くらい歩いて、時計塔の前に着くが、特に目を引くようなものはなかった。豪勢な作りと言うわけではないし、いたって普通の時計塔だ。「あ、この時計塔、中に入れるみたいですよ、ちょっと行ってみましょうよ」 と言って、クルシェが扉を開けて、時計塔の中に入っていく。 入って大丈夫なのかな、と思ったが、もう彼女は行ってしまったので、僕とチャーリーはついていくことにした。 中に入ると、人は誰もいな
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眠るのが好きな人々の町

 眠らない人々の町を出て、休憩しながら自転車をこぎ続けて、五日後、僕たちは眠るのが好きな人々の町というところに着いた。 が、しかし――「誰もいませんね」 とクルシェがぽつりと言う。 もう今は昼くらいの時間帯なのに、誰も見かけない。 どこの家も窓の奥が真っ暗だった。「ちゃんと、人は住んでいるんだよな……?」 と僕が疑問を口にすると、「そう聞いているけど」とチャーリーが自信なさげに言った。 人の気配がしない町の中を歩き回ること数十分、目の前にあった家の窓の奥が明るくなると、その家のドアから誰かが出てきた。「おや、旅人さんかな」 その人物が僕たちに近づいてくる。年齢はおそらく5,60歳くらいだが、若々しくて活力のある男性だった。「あなたは?」 と僕が訊くと、彼はよく通る声で、「私はここの町長のトルテスです、さぞやびっくりしたことでしょう、外に誰もいないから。まだほとんどの人が寝てるんですよ、ここの住民は皆一日に12時間は寝ていますからね」「12時間も?」「それ以上寝ている者もいるくらいですよ」「なんでそんなに寝ているんですか」「他の者は知りませんが、私は単純に好きだからですね、眠るのが。だって、朝、早起きせずにたくさん眠れるのって幸せじゃないですか?」 そう言われ、考えてみる。 前の世界では学校とかバイトとかで早起きしないといけないことが多かったから、休みの日に遅くまでぐっすりと眠れる時はたしかに幸せだったかも……。 それが毎日続くなると、さすがにそのありがたみが薄れそうだが。「どうですか、あなたたちも時間を気にせず、ゆっくり寝てみては」「そうですね、この町ではそうしようと思います、ところで、この町に中波と法村って人がいると思うんですけど、ご存じでしょうか」「ああ、知っているよ、知り合いなのかい? じゃあお二人の所に案内しよう、まずはここから近い、法村さんの方から行きましょうか」 町長はある家の前まで案内してくれると、二度寝すると言って去っていった。 まだ眠るつもりなのか……。   僕は法村の家の呼び鈴を鳴らした。  すると、すぐにドアが開かれ、男が出てきた。「どなたですか……て、矢島か?」「ああ、そうだ、久しぶりだな」「いや、ほんとそうだよ、元気してたか!」「うん、そっちは」「まぁ元気だよ、あ、どうぞ上
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白銀の町と喋る雪ダルマと人間嫌いの男――1

 僕たちは訪れた町の酒場などでキランの情報を収集しながら、旅を続けた。 一月以上経過した頃、白銀の町と言われているところで、キランがいるという情報を手に入れた。 僕たちはそこへ訪れることにした。 その町へ近づいていくにつれ、地面は雪道になっていき、 チャーリーは魔法で雪を溶かしながら前進した。 白銀の町へ着くと、入り口から少し先へ行ったところに、大きな雪ダルマがあった。「ようこそ、白銀の町へ」 雪ダルマがしゃべった!?「わぁ、かわいいですね」 とクルシェが目を輝かせている。 「魔法で喋っているのか?」「いえ、これはモンスターみたいね」 僕の問いにチャーリーが冷静に答える。 モンスターということなので、僕が短剣を鞘から抜いて、臨戦態勢をとると、雪ダルマが慌てた様子で、「ちょ、何もしないよ、僕は悪いモンスターじゃないよ」 と言うが、モンスターの言うことなので、僕は真に受けず、警戒を解かないでいると、一人の人物がこちらにやってきた。「安心してください、そのモンスターは本当に危害を加えたりはしませんよ」 やってきた人物がニコニコとした顔でそう言う。「あなたは?」「私は町長のビルモントです。その雪ダルマは私が物心ついた時からこの町にいる、穏やかな性格のモンスターですよ」 僕の疑問に町長はそう答えた。 周囲を見回すが、たしかにモンスターがいると言うのに、この町の人々は特に気にしているそぶりはなかった。 僕は短剣を鞘にしまい、警戒を解いた。 雪ダルマがほっと一息をつく。「僕が善良だとわかってくれたようでよかったよ、この町についてわからないことがあったら何でも言ってね」「じゃあ、訊きたいんだけど、この町に赤髪の美男子が来なかったか?」「赤髪の美男子……ああ、二日前にここに来たよ」「今はどこにいるかわかるか?」「ごめん、それはちょっと……」 としょぼんとした様子の雪だるま。「私もその赤髪の男を二日前に見かけましたが、今どこにいるかはわかりませんね、酒場にいけば、情報が手に入りやすいと思いますよ」 と町長が言うので、酒場の場所を教えてもらい、そこへ向かった。 店内に入ると、僕とクルシェがお酒を頼んで、届いたそれを飲みながら、キランのことについて聞き込みをすると、なんとほんの少し前までこの酒場にいたというのだ。 酒を一気
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