All Chapters of 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~: Chapter 21 - Chapter 29

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21:オフィスラブの難易度②

出勤途中で御園さんから、つわりで具合が悪く、申し訳ないけれど今日も休ませて欲しいと連絡があった。流されて休もうとしなくてよかった。廉が1日早く出張から帰って来たため、スケジュールの変更や、出張後の打ち合わせ、報告会などが立て続けに入り、連絡事項も多く忙しく時間が過ぎる。昼前に朱莉からランチに行けるかどうかの連絡が入っていた。今日は外に出るのは無理そうだ、と返すと、何か買って持っていく、と秒で返信がきた。「綾香、すごい噂になってるけど。水無瀬専務と」昼休み、カウンターの中で、買って来てもらったミネストローネを胸に詰まらせそうになった。「昨日、一緒に帰ったでしょ? 電車で。ビルから出て駅までの間でいちゃいちゃしてたって、朝から大騒ぎだよ」ハンカチで口を押えて、ゴホゴホと咳き込む背中を、朱莉がポンポンと叩く。「グッ‥‥大騒ぎって、そんな?」胸を叩きながら水を一口飲んで、ようやく落ち着く。「桐谷さんに見られてたみたいよ。まぁ、他にも総務の女子も見たって言ってたから」まぁ、時間と場所を考えればそれはそうか。ふぅと肩を落とす。「桐谷さんが、水無瀬専務は、社長の娘と付き合って、さらなる出世を狙ってるんだろうって、腕組みして言ってた」何時代の話だ、それは。桐谷さん、仕事の上では優秀なのに、つくづく残念な人だと思う。経営の権利は会社のものであって、たとえ社長であっても人事権は好き勝手にはできない。社会人ならだれでも知ってるだろうに。「まぁ、桐谷さんのラノベ的な妄想はいいとして、で、ホントのとこはどうなの?」水のペットボトルを口につけたまま、上目遣いで朱莉の顔を見る。「ちょっと‥‥よく、わからない」その返事に、朱莉が目を細めて、食べていたナシゴレンのカップをテーブルに置いた。「この間、菱本くんが、綾香は専務と食事行ってるって話してたのよ。だいたい、いつからそういうことなの? もしかして専任になる前?」「違う、違う。確かに幼馴染としてずっと知ってはいたし、えぇっと‥‥私は、子どもの頃から好きではあったんだけど‥‥向こうは、ほら、なんていうかエリートだから」「私から見れば、綾香もエリートでしかもセレブだけどね」セレブなのは親であって、私自身ではないのだが‥‥まぁ、恩恵が無いわけではない。「正直、とまどってる。男の人に言い寄られたことが人生でほとん
last updateLast Updated : 2026-07-17
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22:オフィスラブの難易度③

朱莉から夕飯を食べに行かないかと誘いがあったが、なんだか疲れて気分が乗らないので、また今度と返事を返す。エレベーターに乗り込むと、途中から桐谷秋穂らが乗り込んで来た。ヒソヒソと何かを話ながらこちらをわざとらしく見る、1階について降りようとすると、わざと聞こえるように、「お嬢様ってのも大変よね~いいように使われちゃって」という言葉が聞こえた。一瞬、眉間に皺が寄ったが、あえてにこやかに「桐谷先輩、お先に失礼します」と笑顔で先にエレベーターを降りた。『何?あれ。超強気』という声が背後から聞こえたが、強気じゃなかったら父親の会社で平社員として働いてませんから!と心の中で叫び返した。大学卒業を目前にして就職活動を始めた時に、いずれ廉が本社に戻って来るという話を聞いて、父の会社に入ることを決めた。そういえばあの頃も大学で、『いいわよね、コネのある人は人生ラクで』とコソコソと言われたっけ。今でも、こうした悪意のある言葉を投げられると、チクリと胸は痛むし、自分を卑下したい気分にもなる。とはいえ、好きな相手と同じ職場で働きたいと思うことの何が悪いのか、とも思うし、父親の会社で働くことはどちらかというと楽ではない、とも思う。自分の行動が父親の評価につながると思えば、周囲に気を遣うし、下手な仕事の仕方はできない。それに、今後転職をするにしても、次はなかなか見つけられないだろう。転職‥‥もし、廉と顔を合わせづらくなるようなことがあったら、このまま働き続けられるだろうか。エリカが廉に自分の気持ちを打ち明けたら、なんのとりえもない自分など到底勝てる気がしない。電車の窓から流れる夜景を見ながら、ため息が漏れた。 大好きなイランイランのバスオイルを入れた湯船にゆっくりと浸かる。甘い香りに包まれて、頭を悩ますいろいろなことはいったん脇に置くことにした。洗濯機を回しながら、ようやく週末を味わう。明日は寒くなるという予報だったので、今夜のうちに洗濯は終わらせておこう。回る洗濯機の上に置いた携帯の画面にメッセージが浮かぶ。『遅い時間にすまない。今、マンションの前にいる。部屋に行ってもいいかな』廉からだった。キッチンのカウンターの下に置いてある銀色のスーツケースが目に入る。出張に持って行ったスーツケースを取りに来るのだろう。返事をするとすぐにインターホンが鳴り、ほどなくして玄関
last updateLast Updated : 2026-07-17
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23:出会いと思い(廉サイド)①

幼い頃から自分が早熟な子どもだという自覚はあった。周りからよくできる子だとちやほやされていた、驕りもあったのかもしれない。歪な家庭に生まれたせいもあったのかもしれない。周囲の表情を伺い、常に優位に立たねば、すぐに足を引っ張られるという危機感があった。そうした環境での要領の良さも相まって、特に努力したというわけでもなく、ほんの少しコツを掴むだけでたいていのことは上手くできた。水無瀬の祖父母は、自分のことをいつでも自慢げに周囲に吹聴して回り、ともすれば息子を追いやって跡取りにしたい、と公言してはばからなかった。正直、孫の出来を自慢すること以外に誇れるものを持たない彼らが哀れでみっともなかった。孫である自分のことは、いいようにおだてて、自分たちを飾る宝飾品のようにちやほやと扱うくせに、見えない場所で弱い者をいたぶるこの人たちを心の底から軽蔑していたし、同じくらい自分も利用しようと思っていた。そして、彼らと同じくらい母のことも哀れで情けない人だと思っていた。母はいつも、人を見下すことでしか自分たちの地位を感じられない祖父母と、自分の思うようにいかない毎日に不満を抱える父親のサンドバックだった。酷い言葉で罵られ、時には身体的な暴力を受けても、ただただ謝ることしかしない母親のことがずっと嫌いだった。何もできず弱弱しくそこに居ることしかできない、意思をもたない弱い人間が自分の母親であることがたまらなく嫌だった。中学に入学して最初の夏休み。学校の特別講習から帰宅すると、手伝いの人がリビングに客が来ていると告げた。顔を合わせないように上階の自分の部屋へ行こうと、階段の手すりに手をかけた時、リビングの会話が耳に入って足が止まった。『―この家を出ましょう。私があなたを助けます―』女性のその声に、母は、それは無理だと答えた。『―離婚したら廉から離されてしまう。そんなの耐えられない―』リビングのドアに近づき中をうかがい見る。膝をついて泣いている母の肩に手をかけて、以前に何度か会ったことのある、母の習い事の先生、高辻さんという人が母に家を出るように促していた。水無瀬と同じ、ホテルグループを経営する会社の夫人だ。そして、その横に小さな女の子が立っていた。高辻さんは、泣いている母に静かに声をかけ続けている。その時、泣き崩れる母の横に少
last updateLast Updated : 2026-07-19
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24:出会いと思い(廉サイド)②

セルリアンホテルグループを大きくしてきた現社長の高辻健吾という人は、妻や子どもたちとは違い、実に合理的で、計算高いビジネスマンだ。高辻家の離れへと身を寄せて、生活を始めてしばらくして、離婚に至る調停が裁判へと移行する頃、幾度となく水無瀬の祖父母や、その息のかかった者が家の周りをうろつくようになった。それらを業界の中でうまく悪評として利用していたのは、彼だった。学費を賄えなくなることから、公立学校への転校を検討していた時、書斎に呼ばれ、今の学校を辞めるべきではない、絶対に続けるべきだと勧めてくれた。夫人や子どもたちは、優秀な自分のことを、父親が有望視しているのだ、と思っていただろうが、それは単純な親切などでは無かった。彼にとっては実に有用な投資だった。そして、自分にはそれが十分理解ができていたし、納得できていた。彼は、自分を囲うことで、いずれ事業の中核を担う人物を育てているのだと、明言した。「ねぇ、廉くん。僕はね、なるべく早い段階で経営から下りたいんだ。まだ、体力があって楽しめるうちに妻や子どもたちとプライベートを楽しみたい。かといって、せっかく育てた会社だ。できれば自分の収益もかねてもう少し成長させたいし、伸びしろもまだあると思う。だから、その為には事業を継承する優秀な人物を育てないとね」「それは、孝也くんですよね。僕は、力が及ぶ限り彼を支えますが‥‥」「ははは、孝也はこういった仕事にまったく向いていないよ。あの子は、千綾子にそっくりな本当に純粋な心の持ち主だからね。必要に駆られてだって、人を陥れたり、利益重視で動いたりはできない。僕は、可愛い息子にそんな苦しい将来は与えたくないよ」辣腕経営者として知られる彼だけに、ニコニコとしながらも腹の内が読めない。「別に廉くんに会社を継いで欲しいとかいう訳じゃないんだよ。でもね、まぁ、千綾子がお母さんにした手助けや、立て替えた学費、ここでの生活全般と釣り合いを取るには、少なからずうちで成果を上げて貰えるんじゃないかと期待しているんだ。もちろん。強制なんかじゃないよ」「高辻さんは、会社が家族の手元に残らなくてもいいんですか?」目の前の顔が、さらに嬉しそうに笑う。「それは、君がうちの会社を自分のものにするかも?ってことかな。全然構わないね。権利を買い取ってもらって、綺麗さっぱり足
last updateLast Updated : 2026-07-19
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25:いけない思い(廉サイド)①

孝也と綾香とは、まるで兄弟のように過ごした。夕飯を一緒に取ることも多かったし、離れに来て一緒に勉強をすることも日常的になっていたので、親密な関係になるのは当然だった。高辻の離れで生活するようになって2年ほどたった夏休みに、伊豆の別邸に2週間ほど滞在した。「廉くん、この道を下りていくとうちが持っているビーチがあるの。宮島さんと紫衣さんと私で、家の換気をするから、荷物をそこに置いたら孝也たちを連れて少し遊んで来て」木が覆いかぶさるように重なり、日陰を作っている小径を3人で海の方へ下って行く。「綾香、ここ滑るから気をつけて下りて」ぬかるんだ下り坂で綾香の小さな手を取る。細くて白い小さな手だった。着いた先は、両側を石の防波堤で区切られた砂浜だった。別荘地ごとに割り当てられているプライベートビーチだ。「久しぶりに来たら、砂浜が海藻まみれだ」孝也がそう言って、落ちている海藻や小枝、打ち上げられているゴミを拾って集めていく。「孝くん、お掃除が好きだね。廉くんも一緒に拾お」綾香がそう言って手を離して、孝也と同じように海藻を拾い始めた。小さな手が自分のもとを離れるのがふっと寂しく感じた。「昼間は暑いから、夕方になったら泳ぎに来ようね」しゃがんで海藻を拾っていた綾香がそう言って笑いかける。 「え、俺、昼ごはん食べたらすぐ泳ごうと思ってたけど。ま、いいや。綾香は家で涼んでれば?俺と廉くんは、海の男になるからさ」「孝也、俺は、別に海の男にならなくてもいいんだけど」 からかうように返すと、孝也が、俺は今年裏表がわからないくらい日に焼けて、裏表のない男っていうギャグを夏休み明けに言う予定にしてるんだよ、とくだらないことを言って笑わせた。昼食の後、綾香は夫人や母と一緒に夕飯の買い出しに行くと言って、近くのスーパーに出かけて行った。日中は孝也と海で遊び、疲れたら家に戻って涼しい部屋でのんびりと過ごした。水無瀬の家にいたときも、家を出てからもこんなに気の休まったことは無かった。夫人がこの場所に母と自分を誘ったのは、離婚裁判が長引き、最近になってますます水無瀬の祖父母が自分の生活に干渉するようになったからだ。そしてこの2週間の内に恐らく決着がつきそうなのだ。水無瀬家の跡取りとしてどうしても自分が欲しい祖父母は、母の実家の経済状況を持ち出して、他人の家に間借りをし
last updateLast Updated : 2026-07-19
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26:いけない思い(廉サイド)②

朝や夕方には海ではしゃぎ、昼間の陽ざしの強い時間は、3人で学校の課題をしたり、近くの水族館やショッピングセンターに出かけたりして過ごした。裏表のない日焼けを目指していた孝也は、初日に浮かれて日焼けしすぎて熱を出し、早々に昼間の海遊びを断念していた。滞在も残り2日という日の夕方、いつものように夕方の浜辺で3人で遊んでいる時、綾香が浜辺に流れて来た尖った流木の枝を踏んでしまった。「うわっ、綾香、足の裏エグイ‥‥」ざっくりと切れた足の裏を見て、孝也がうわぁ、という顔をする。「とりあえず、タオルで止血して家に戻ろう。俺は血が止まったら綾香を抱えて帰るから、孝也は、荷物持って先に戻って、消毒できるように準備しといてくれる?」わかった!と言って孝也が走って行く。随分と深く切ったようで、傷口が思いのほか大きい。それなのに、綾香は、眉間に皺を寄せながらも泣かずに痛みに耐えている。座った綾香の足を持ち上げて高い位置でタオルで押さえる。小さなフリルのついた水着の下の細くて白い足と筋張った内ももと足の付け根が目に入る。なぜか、自分の喉がゴクンと唾を飲み込むのがわかった。「ごめんね、廉くん」「謝ることじゃないよ。家に戻ったら傷口に何かが入りこんでないかよく見ないといけないね」持ってきたタオルを細く畳んで傷口に当てて、ギュッとしばる。「はい、乗って」背中を向けておぶさるように促すと、綾香が小さな声で、ありがとう、と言って首に手を回す。ペタンとした体が自分の背中に密着する。坂道を上る間、膨らみ始めた胸が薄い水着の布越しに感じられて、なぜだか体が熱くなった。翌日に病院で念のために診てもらったが、怪我は神経などに損傷を与えるものでは無かった。帰るまでの2日間、歩くのが困難になった綾香をお姫様抱っこすると、いつもその反応が恥ずかし気で、可愛らしかった。別荘から戻ると、社長の言った通り、離婚裁判は、うまく決着がついていた。親権の保持を争っている当事者である父が、息子の親権は望まない、と裁判所で発言したらしい。なおかつ、戸籍についても母の戸籍への変更ができ、水無瀬との関係を清算することができた。いつもと変りなく続く生活の中で、日に日に母が明るくなっていくのを感じると、あの日、水無瀬の家を出ようと決心したことが間違っていなかったと心から思えた。夏の別荘での日々以降、困
last updateLast Updated : 2026-07-19
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27:変わらぬ思い(廉サイド)

学生時代に孝也や母、千綾子夫人は自分を訪れてくれることがあった。特に孝也は高校に入学してから、頻繁にシェアハウスを訪れ、夏休みには長期に渡って滞在することも。 そして、そこで親しくなった医学生に刺激を受けて、『人を救う医者』になることを目指した。一方で、綾香がアメリカに遊びに来ることは一度も無かった。それとなく様子を聞くと、夏休みは高辻社長に連れられて、ヨーロッパへ行っているという。「健吾さんが、どうしても綾ちゃんとイタリアに行きたいって言ってね。今度新しく作るリゾート施設のモデルを見に行くんですって。で、若い女の子の興味を引くのは何か知りたいって。綾香はこっちに一緒に来たがっていたんだけどね。本当に残念」千綾子夫人が肩をすくめてため息をつく。春に帰国して会った時には、思春期らしい照れもあって、以前のように子どもらしいじゃれ方はしなくなっていた。しかし、彼女が子どもから大人になっていく姿を見ると、そこに感じる欲情に罪の意識を感じることがなくなり、正直ほっとした。大学を卒業して、当たり前のようにセルリアングループで働き始めた。帰国すればいつでも綾香に会えると思っていたが、帰国することなくアメリカ支社への赴任を命じられ、時折の帰国にも、綾香と会う機会は多くはなかった。もちろん、そこには高辻社長の意図も十分に含まれていただろう。生来の負けず嫌いが拍車をかけて、社長が想定するよりも上の成果を突きつけたいと思うようになり、次々とプロジェクトを出し、具体化していった。今まで、国内重視だったグループ内の活動をM&Aを重ねながら、海外へと大きく進めることもできた。そしてようやく、グループ全体の海外事業の総責任者として本社へと戻ってくることができたのだ。 一緒に台南の開発プロジェクトを進めていた藤堂課長から秘書課にいる恋人と近い将来結婚する予定だと聞いていた。だから、その彼女を自分の専任秘書として推薦したもらった。帰国後すぐに綾香を推薦するには、彼女が入社から間もないのと、社長から横やりが入ることが考えられたからだ。すべてが自分の思うように運び、専任秘書の御園さんの後任は綾香になった。久しぶりに身近に感じる綾香は、すっかり大人の女性になっていて、そして昔と同じように自分をどうしようもない気持ちにさせる存在だった。夕食を一緒に食べようと誘うために、自分が手
last updateLast Updated : 2026-07-19
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28:もう一歩前へ①

深く舌が入り込み絡まり合う。玄関の扉に背をつけるようにして廉の体に挟まれる。「んっ‥‥はぁ」唇が離れると、吐息が漏れた。廉が首筋に唇を押し当ててくぐもった声で囁く。「いい匂いがする」「ふふ、廉はちょっとお酒の匂いがする」「付き合い程度だから、酔ってはいないよ。はぁ、綾香の匂いは落ち着く」鼻を擦り付けながら、首筋に熱い息を落とす。「コーヒーでも淹れようか?」しばらくじっとした後、もう一度唇を合わせてから、廉が微笑んだ。「ありがとう。貰う」シャワーを借りたいというので、その間にコーヒーを淹れた。本当はすごくドキドキしている。だって、なんだか、恋人同士みたいだ。当たり前のように彼が家にやってきて、当たり前のようにシャワーを使って、当たり前のようにコーヒーを準備する。心の中は全然当たり前じゃないのに。髪を拭きながら廉が部屋に戻ってきた。シャワーを借りたということは、今夜もここに居るということだろうか。体のどこかが、疼くように何かを期待していて、耳が熱くなる。その時、テーブルに置いた携帯がブブブと着信を告げ、届いたメッセージが画面に浮く。『クリスマスのお泊り、大丈夫そう?』菱本からのメッセージだった。廉との噂も聞いているだろうし、朱莉から話を聞いて連絡をくれたのだろう。返事をしようと携帯に手を伸ばすと、その手を握られた。「どういうことか、聞いても大丈夫かな」廉の顔が険しい。一瞬なんのことかわからなかったが、はた、とメッセージのことだと気づいた。それはそうだ。菱本は男性なのだから、お泊りだなんて気になるに決まっている。険しい顔の廉を見つめながら、もしかして嫉妬しているの?と、少し嬉しくなった。「あ、クリスマスにね、朱莉‥‥秘書課の冬月さんと一緒にお泊り会をしようって予定してて‥‥」「なんで、そこに菱本が入るんだ」「え? 仲良しだから‥‥」菱本は、性自認が女性、性愛の対象が男性なのだが、彼が社内でカミングアウトし
last updateLast Updated : 2026-07-20
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29:もう一歩前へ②

「綾香、もう感じてるの?」そう囁かれると、その言葉だけで思わず吐息が出そうだった。「綾香、立って」言われるままに、とろんとした表情でよろよろと立ち上がる。抱き上げられて運ばれ、ゆっくりとベッドの上に下ろされた。「本当はもっとゆっくりするつもりだった。でも、綾香が可愛すぎて、ちょっともう無理だよ」いつの間にか着ていたものはすべてベッドの下に落ち、何一つ身につけずに横たわっている。廉の裸の胸が目に入る。その均整の取れた体に思わずため息が漏れた。「廉‥‥」廉の胸に手のひらを這わし、縋るようにその首に腕を回す。体が重なり、ツンと立った胸の頂が廉の熱い体に触れた。その刺激で思わず呻き声が漏れる。「んっ‥‥」深く口づけを繰り返し、舌を絡ませながら、廉の手は脇腹を通り下へと下りていく。すでに蜜をたたえた足の間に指が滑り込む。「もう、十分、濡れてるね」廉がそう囁きながら襞の間に指を這わせ、染み出た蜜を伸ばすように擦り付ける。 心地よさに思わず腰が動いてしまいどうしようもない。ゆるゆると動いていた指がツプリと隘路へ差し入れられる。「はっ、ん」思わず、ビクンと腰が跳ねあがった。漏れた声を拾うように廉の唇が綾香の唇に重なる。奥を探り中の良いところを見つけようと指が蠢いている。隘路の壁を押すようにして刺激され、綾香はその強い刺激に目を瞑って粗く息を繰り返す。「綾香、もう少し体の力を抜いて。こんなに絞めたら、少しも先に進めないよ」唇を綾香の頬につけて廉が囁く。「だ…って、んん、どうしたらいいの?」中で動く指の刺激で思わず腰が浮いてしまうし、指の触れるところがどこもかも気持ちよくて、体が反応してしまう。「大きく深呼吸して」「ふぅー、んん」大きく息を吐いた瞬間に、さらに入って来る指を感じた。「あっ、ん、廉、やっ、あぁん」中で指が動き、親指で襞の先端にある花芯が押されるように愛撫
last updateLast Updated : 2026-07-21
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