静かに開かれた扉から、御影綾香はゆっくりと外へ足を踏み出した。久しぶりに見る太陽が、目に痛いほどまぶしい。逮捕された日に着ていたワンピースは、もう季節外れだった。五年前には肌寒かった風が、今は蒸し暑い。(……迎えに来ていないのね)わかっていた。それでも、胸の奥が痛んだ。――五年間。婚約者である橘理央は、一度も面会に来なかった。手紙すらなかった。それでも綾香は、どこかで信じていたのだ。出所したら、彼が迎えに来てくれるかもしれないと。「……信じていたのに」ぽつりと零れた声と共に、涙が頬を伝った。出所の日に、母の死の真相を教えに来ると約束したのに。◇◆◇「美月の代わりに刑務所へ入ってくれ」父の葬儀が終わった翌日。理央は、何でもないことのようにそう言った。最初は意味がわからなかった。「……え?」聞き返した瞬間、頬に衝撃が走った。床へ倒れ込んだ綾香を、理央は冷たい目で見下ろしていた。「頷くまでやめない」何が起きているのかわからない。混乱したまま拒絶すると、理央は本当に殴るのをやめなかった。髪を掴まれ、何度も床へ叩きつけられる。痛い。怖い。理解できない。涙を流しながら、綾香は震える声で言った。「どうして……」「うるさい」腹を蹴られ、呼吸が止まる。「いいから頷け」何度も暴力を受け、ついに綾香が頷くと、理央はようやく手を止めた。そして何事もなかったように、優しく綾香を抱きしめた。「綾香、僕を愛しているよね?」耳元で囁く声は、昔と同じ優しい声音だった。「彼女の代わりに五年だけ刑務所へ入って。出てきたら結婚しよう」「彼女も君の友達だろう? 助けてあげてよ」「美月はまだ若いんだ。前科なんてついたら人生が終わる」その顔は、綾香が愛していた理央のままだった。だからこそ、余計に恐ろしかった。「嫌よ……」綾香は震えながら首を振った。「私は何もしてない……」「冷たい女だな」理央の表情が一変する。「美月は親友じゃないのか?」「親友よ……でも、だからって――」最後まで言えなかった。理央が綾香を突き飛ばしたからだ。倒れ込んだ綾香を、今度は容赦なく踏みつける。「やめて……痛い……!」「うるさい! 黙って言うことを聞け!」そこから始まったのは、地獄だった。綾香は監禁され、繰り返し暴力を受けた。
Last Updated : 2026-07-25 Read more