All Chapters of 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す: Chapter 11 - Chapter 14

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古い処方箋

 翌朝。 朝食の席には、今日もグレープフルーツが並んでいた。「綾香、食欲がないのか?」 父が心配そうに尋ねる。「そんなことないわ」 綾香は微笑み、パンを口に運ぶ。 父は何の疑いもなく、グレープフルーツを一切れ頬張った。 その様子を見ながら、綾香は胸の奥がざわつくのを感じる。 考えすぎかもしれない。 けれど、見過ごすこともできなかった。◇◇◇ 朝食を終え、自室へ戻ろうとした時だった。「お嬢様」 橘に呼び止められる。「午後から旦那様が病院へ向かわれます」「病院?」「定期検査でございます」 綾香は思わず足を止めた。 定期検査。 ちょうどいい。「そうだったの」「私は会社へ書類を届けなければなりませんので、本日は運転手がお供いたします」 橘は穏やかに微笑んだ。「いつもありがとうございます」「とんでもございません」 一礼すると、橘は仕事へ戻っていく。(今日……) 綾香は静かに考えた。 病院へ行く。 もしかしたら何か分かるかもしれない。◇◇◇ 午後。 父を乗せた車が屋敷を出ていく。 それを見送ると、綾香も自分の車へ乗り込んだ。「少し寄り道をお願い」「かしこまりました」 運転手は何も疑わず車を走らせる。 父の車とは別のルート。 十分ほど遅れて病院へ到着した。 受付の近くで父の姿を探す。 ほどなくして、診察室へ案内される父の後ろ姿が見えた。(間に合った……) 綾香は人目につかない場所から、その様子を見守る。 診察室の扉が閉まる。 数
last updateLast Updated : 2026-07-29
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処方箋の記憶

 病院から戻った父は、どこか安心したような表情だった。「異常なしだそうだ」 夕食の席でそう言うと、綾香へ笑いかける。「それなら安心したわ」「心配しすぎだよ」 父は苦笑しながら、ジャケットの内ポケットから一枚の紙を取り出した。「ああ、そうだ」「病院で処方箋を返されたんだった」 二つ折りの紙をテーブルへ置く。「薬局へ提出したと思っていたら、前回の処方箋が残っていたらしくてね」「年を取ると、こういうことも忘れてしまう」 父は笑いながら席を立った。「私は少し着替えてくる」 そう言ってリビングを出ていく。 テーブルの上には、処方箋だけが残された。 綾香は思わず、その紙へ目を向ける。(見ても……いいのかな) 父は隠す様子もなかった。 それでも少しためらう。 けれど、父を守るためだ。 そっと手に取り、目を通す。 処方日は今日。 薬の名前。 その下には、小さく前回の処方内容が記載されている。『前回処方 六か月継続』(やっぱり……) 半年前から。 薬は半年前に変更され、そのまま継続されている。 そこへ父が戻ってきた。「何か気になることでもあったか?」 綾香は驚いて顔を上げる。「あ、ごめんなさい」「勝手に見ちゃって……」 父は優しく笑った。「謝ることじゃない」「どうせ私の薬だ。隠すようなものでもない」 そう言って椅子へ腰を下ろす。「昔から心配性だったからな、綾香は」 その言葉に胸が締めつけられる。 違う。 心配しているのは病気じゃない。 この薬を巡る何か
last updateLast Updated : 2026-07-30
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もう少しだけ

 一週間後。 父の定期受診の日がやってきた。「行ってくるよ」「いってらっしゃい、お父様」 綾香は玄関で父を見送った。 父を乗せた車が門を出ていく。 その姿が見えなくなってから、小さく息を吐いた。(今日なら……) 父が診察を受けている間なら、遥臣と話ができる。 そう思い、綾香も少し時間を空けて病院へ向かった。◇◇◇ 病院へ着くと、父はすでに診察室へ入っていた。 綾香は待合室で静かに待つ。 しばらくして診察室の扉が開き、遥臣が姿を現した。「綾香?」「先生」 遥臣は少し驚いたように目を細める。「どうした」「少しだけ、お時間いただける?」「ああ」 遥臣は時計へ目をやった。「五分くらいなら大丈夫だ」 二人は空いている診察室へ入った。 扉が閉まる。 遥臣は椅子を勧めた。「座って」「ありがとう」 綾香が腰を下ろすと、遥臣は少しだけ口元を緩めた。「今日は猫の相談か?」 綾香は苦笑する。「……そうなの」 その返事に、遥臣は何も言わなかった。 猫ではないことくらい分かっている。 それでも、その嘘を暴くつもりはない。「それで?」 綾香は膝の上で指を組む。「前に先生が、薬を変えたばかりなら様子を見ることがあるって言ってたでしょう?」「ああ」「もし、その猫が半年前に薬を変えていたとしたら……」「今でも定期的に病院へ通っていても、おかしくないの?」 遥臣は少し考えてから頷いた。「おかしくはない」「薬にもよるが、血圧の薬なら数値を確認するために定期
last updateLast Updated : 2026-07-30
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信じたい人

 夕食の時間。 父はいつものように穏やかな笑顔で席についた。「今日は検査も問題なかったよ」「それなら安心したわ」 綾香も自然と笑みを浮かべる。 橘が料理を運び、最後に父の前へグレープフルーツを置いた。「ありがとうございます」 父は礼を言い、嬉しそうに皿へ手を伸ばす。 その様子を見ながら、綾香は何気ない口調で尋ねた。「そういえば、お父様」「ん?」「今日、病院でお薬のお話もあったの?」「薬?」「ええ。飲み方とか、食べちゃいけないものとか」 父は少し考えてから首を横に振った。「特にはなかったな」 綾香の胸が小さくざわつく。「そうなの?」「薬を変えた時も、『今までどおりで大丈夫ですよ』と言われたくらいかな」「そうだったのね」 それ以上は聞かなかった。 聞けば聞くほど、不自然になる。 父はグレープフルーツを一口食べ、満足そうに頷く。「今日は当たりだな」「酸味がちょうどいい」 橘は静かに微笑んだ。「お気に召していただけて何よりでございます」 穏やかな空気が流れる。 いつもと何も変わらない、朝倉家の夕食だった。(本当に……何もないのかしら) 橘の表情からは、何も読み取れない。 父に長年仕え、この家を支え続けてきた執事。 綾香にとっても、幼い頃から家族のような存在だった。 だからこそ、信じたい。 けれど、前世の記憶が胸をよぎるたび、不安は消えてくれなかった。 夕食を終え、父は書斎へ向かう。 綾香も自室へ戻ろうとした、その時だった。「綾香」 理央が声をかけてきた。「少し話せる?」「ええ」 二人は廊下の窓際で
last updateLast Updated : 2026-07-30
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