偽りの仮面を捨て、私らしく咲く
悠々たる魚切ない恋ひいき/自己中妻を取り戻す修羅場不倫
「彩葉、お久しぶり。身代わりサービスを終了したい。一ヶ月以内に、光希の目の前から綺麗さっぱり消えてちょうだい」
長谷川彩葉(はせがわ いろは)が身代わりを務めて七年目、ついに雇用主である神崎美月(かんざき みづき)が帰国した。
折しもその日、結城光希(ゆうき こうき)は彩葉の前に片膝をつき、プロポーズをしてきたのだ。
血の通った人間である以上、七年もの歳月を共に過ごしてきて、どうして惹かれずにいられようか。
彩葉は莫大な違約金のことすら忘れ、思わず一歩を踏み出した。だがその矢先、プロポーズの場に突然、美月からの着信音が鳴り響いた。
「光希、帰国したわ」
次の瞬間、光希は弾かれたように立ち上がり、血相を変えて空港へと走り去ってしまった。
地面に転がり落ちた、まばゆいダイヤの指輪。彩葉が拾い上げると、そこにはイニシャルが刻まれていた。
他でもない、雇用主である美月のイニシャルだ。
彩葉は自嘲の笑みを漏らした。所詮、身代わりはいつまで経っても身代わりでしかないのだ。
本物が帰ってきた以上、身代わりの自分は当然ながら徹底的に消えるべきなのだ。