恩師の娘を妊娠させた彼とは、もう終わりにする
誰もが知っていた——桐嶋聡雅(きりしまとしまさ)は、私を心の底から愛していると。
けれど、結婚して五年目のある日。
彼は、かつての恩師の娘に、子どもを授けてしまった。
涙に濡れた目で聡雅の手を掴みながら、香坂潤音(こうさかうるね)は言った。
「聡雅さん……紬音さんには、絶対に言わないから」
聡雅は冷たい眼差しを向け、静かに告げた。
「言わない方がいい。俺が君を助けたのは、ただ先生への恩返し。それ以上の意味なんてない。勘違いするな」
そして私の誕生日の日、潤音は聡雅の子どもを産んだ。
その赤ん坊を見つめる彼の目には、確かに——あの人にしか見せたことのない、優しい光があった。
まるで勝者のような笑みを浮かべて、潤音からメッセージが届いた。
【紬音さん、そろそろ……私の子にも、ちゃんとしたお父さんが必要なんじゃありませんか?】
私は、静かに離婚届にサインした。
そして、A市行きの便に乗り込んだ——振り返ることはなかった。