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第3話

Penulis: 大江
付き合って何年たっても、私は何度も、普通の恋人みたいに怜司と映画を観に行きたいと言った。そのたびに怜司は私の頭を軽く撫で、決まってこう言った。

「今の俺は芸能人だ。一緒にいるところを撮られたら、仕事に響くだけじゃない。お前までネットで特定されるかもしれない。

そんな目に遭わせたくないんだ」

けれど売れてからの怜司は、共演女優との親密ぶりをアピールしたかと思えば、今度は別の女性歌手と海外のリゾートへ出かけていた。

そのたびに聞かされた言葉が今になって耳の奥によみがえり、信じ続けた自分がひどく滑稽に思えた。

映画の途中、沙耶が甘えるように怜司の耳元へ顔を寄せた。

「怜司さん、映画館の外、記者でいっぱいです。少し早めに出ませんか?」

「俺たちは先に出る。お前は少ししてから出てきてくれ」

怜司は私の返事も待たず、沙耶を連れて先に出ていった。

私はそのまま席に残り、エンドロールが終わるまで静かに映画を観た。

もう、私を愛していない男のことで、苦しんだり不安になったりはしない。

これからは、残された時間を自分のために使い、怜司に注いできた気持ちも自分に向けよう。

久しぶりに最後まで映画を楽しみ、そのあと病院へ向かった。

胃がんの痛みでまともに眠れず、楽になるには病院で痛み止めの点滴を受けるしかなかった。

鼻をつく消毒液の匂いの中、テレビに流れる芸能ニュースをぼんやり眺めていた。

【人気俳優と注目の若手女優が映画館デート。街中で熱いキス……】

ニュースを眺めているうちに、いつの間にか眠っていた。浅い眠りの中、胸元に置いたスマホが何度も震えているのだけは、ぼんやりわかった。

家に戻ったのは、深夜になってからだった。

家の前まで来ると、玄関先に背の高い人影が立っているのが見えた。

怜司だった。

これまでは、怜司が外で酔いつぶれたり、撮影が深夜まで長引いたりするたび、酔い覚ましのお茶や胃にやさしいおかゆを手に、バーや撮影所の前で夜遅くまで待つのはいつも私だった。

けれど、怜司はそんな私の気遣いをいつも煙たがっていた。

私が心配を口実に彼を見張り、私生活にまで口を出していると思っていたのだ。

まさか、その怜司が私の帰りを待つ日が来るなんて思わなかった。

私を見つけるなり、怜司は駆け寄ってきて、強く抱きしめた。

「映画はとっくに終わってるだろ。どこに行ってた?どうしてこんな時間まで帰ってこなかったんだ。俺がどれだけ心配したと思ってる。

今日出てるニュースは気にするな。そう見えるように撮られて、勝手に騒がれてるだけだ。本当じゃない」

一瞬何の話かわからなかったが、少し考えて、ようやく映画館のニュースを指しているのだと気づいた。

「平気。ああいうのには、もう慣れたから」

私の反応があまりに薄かったからか、怜司はこれまで自分がしてきたことを思い出したらしい。珍しく、ばつの悪そうな顔をした。

やがて怜司は小さな箱を取り出し、私に差し出した。

中には、大粒のダイヤが輝く指輪が入っていた。

私は思わず、その指輪を見つめた。

何度も夢に見た光景だった。

怜司が自分の手で私の指に指輪をはめ、これから先も一緒にいると誓ってくれる日を、ずっと待ち続けていた。

けれど今は、目の前の指輪を見ても、胸は少しも高鳴らなかった。

私は何でもないもののように、指輪の箱を玄関の靴箱の上に置いた。

その反応に怜司は顔色を変え、眉をひそめたまま私のあとを追って部屋に入ってきた。

「美月、お前、本当に変わったな。前なら、もっと……」

怜司が言いたいことはわかっていた。

怜司は、指輪を見せれば私が泣いて喜び、そのまま抱きついて、これまでのことを全部忘れると思っていたのだろう。

そう思うと、口元がわずかにゆがんだ。私はわざと明るい声を出した。

「わあ、ダイヤの指輪。すごく大きいね」

「気に入ったか?」

怜司は返事を待つように、じっと私を見た。

私は笑ったまま答えた。

「まあ、気に入ったかな」

以前の私なら、たとえ怜司が手作りしてくれた安いシルバーリングでも、宝物みたいに毎日欠かさずつけていた。

これだけ大きなダイヤなら、気に入らないはずがない。

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