LOGIN「呼びたい知り合いがいるんだが、いいか?」 ポルティアがそう切り出したのが、新入り二人が町に馴染んできた二日後だった。「知り合い? どんな人?」「スピティと繋がりのあるファヤンスの町に住んでるんだが」「ファヤンス?」 次の陶器をどう作ろうかと考えていたポトリーが反応した。「知ってるのか? ファヤンスを」「知ってるも何も。おれの出身はそこ。陶器の町、Dランク、違う?」「いや、合ってる。ポトリーはスキル「陶器作り」だろう? なんでこんなところに?」「レベル低いって追い出されたんだよ。上限は1000だから低上限でもない。伸びしろがないって言われて、追放ー」 ポトリーは冗談めかしてパッと手を開いた。「だけど、デレカートに詫びの飾り皿を送ったって聞いたぞ。それはポトリー作だろう? 低いって言われるレベルが作って納得する男じゃないぞデレカートは」「シエルが絵の指導してくれたんだよ。クレー町長も陶土の崖を作ってくれた。同じ皿だったらいい陶土で綺麗な絵が焼き付けられている方が値は上がる。で、ファヤンスの誰かさんがどうして移住したいと?」「町のスキル第一主義に合わないんだと」「スキル第一主義って……ほとんどの町がそうだろう」 エアヴァクセンをはじめとして、ほとんどの町が町民をスキルで決めている以上、スキル第一主義になってしまうのも仕方ない。で、そこから弾き飛ばされる人間も少なくない。シエルのような別の才能を持っている人間、ぼくのようなレベルで測れないスキルがそうやって取りこぼされ、グランディールに集まっている。「あいつはかなり才能のある料理人なんだが、スキルが「陶器絵付け」でな、しかも9000近いと来た。当然絵付けの仕事しかやらせてもらえない。絵じゃなくて料理をしたいといつもいつもそればかりだよ」「なんでポルティアがそんな奴のこと知ってんだ? 9000レベルだったらそもそも町から出してもらえないだろう」「デレカート氏の依頼を受けて、彼の執務机に飾る飾り皿を見て欲しいと頼まれてファヤンスに行ってな、その時知り合った。何か妙に気に入られてな、泊まってけって言われたんだ。その時に、手料理をごちそうしてくれてな……。それが非常に美味かったんで、料理のスキルも持ってるのかって聞いたらこっちは自分の趣味でつい夢中になって楽しくってって盛り上がって、……でも自
「じゃあ、水路が出来るようにと念じてくれ」「ああ、やっぱり」 ナーヤーはこの町の法則に気付いたらしく、すぐに目を閉じて集中する。「念じてくれと言われても」「この町にポルティアの家は出来ただろ?」「ああ……おっそろしく高級なのが」「「そんな家を持てればいい」って一度として思ったことはないって言える?」「言えない……無理だと諦めた夢だけど……」「それと同じ。この町に水路があるといいなって考えるんだ。あとはシエルのアイディアとぼくのスキルが完成させてくれる」「…………」 ポルティアはしばらく眉間にしわ寄せてこめかみを指で押さえていたけれど、目を閉じて集中の体勢に入った。 ヴァリエは最初から分かってます大丈夫な笑みで手を組んで念じている。 そして、ぼくも集中する。 シエルが空を見上げ、叫ぶ。「ヴァダー!」「おう!」 こればかりは「まちづくり」のスキルだけでは出来そうにないので、ヴァダーの「水操」と「合わせ」ることにした。 ばしゃばしゃっと水音が聞こえる。水音は遠くなったり近くなったりする。 本当、こういうことを考えるシエルと実行できるヴァダーがすごいよ。 空気の温度が少し下がった。 そして、上手く出来たという手ごたえが、ぼくに。「出来たぞ」 シエルが震える声で、終わりを告げた。 全員、ゆっくりと目を開ける。 そこには、前もって知らされていたぼくにも驚きの光景が広がっていた。 空を、水の道が蜘蛛の巣のように覆っている。 人の手に届くところから、ずっと高い場所まで。水汲み場の屋根から流れ出した水流は、八つの方向に分かれて町を万遍なく回って水汲み場へ戻ってくる。「……何だよ……何なんだよこれは……」 ポルティアが呟く。まあ知らされてなければびっくりの映像だよな。「さすがは町長」 ヴァリエが空を見上げて涙ぐんでいる。「このような奇跡を起こせるなんて……!」 奇跡じゃないです。ぼくとヴァダーのスキルを合わせてシエルが具体的にイメージした結果なんで。「すごーい! お水が空飛んでる!」「お家にも来てる!」 子供たちはワイワイと大喜び。「水遊びするのはいいけど、汚したらダメだぞ」 飲料水でもあるんだから。「遊んでいい場所はあるの?」「牧草地とかなら」 わーいと喜んで子供たちは牧草地へまっしぐら。
「ああ。俺はヴァダー・マニッジだ、よろしく……。で、この町の水は地下から取ってるんじゃないのは分かるよな」「……空飛ぶ町が地下水に頼るわけにはいかないよな」「今は町長のスキルで出来た水汲み場があって、湯処は湯を供給する設備が揃ってるけど、俺たちが普通に飲む水とか、家畜にやる水とか、畑に撒く水とかは水汲み場に頼るしかない。そして、この町は住人が増えると広がっていく。広がれば広がるほど水汲み場の往復が大変になる」「……その水汲み場の水は何処から出てきているか聞いていいか?」「誰も知らないから聞いても無駄」「無駄か……」 ポルティア、またまた沈没。「町民に水が必要だと思ったから出来たのね? でも、それだったら水汲み場を増やせば」「水汲み場だらけの町になるぞ……」 突っ伏したままのポルティアに、ヴァダーが頷く。「だから、水路を作ろうと思ったんだ。町をぐるっと回って水が流れていれば、そこから水も汲めるし家畜も飲めるし畑にも撒ける。という案を俺が出したら」「シエルが出てきたわけ?」「そりゃあ、この町に何かを作るんだったらシエルが出てこなきゃおかしいだろ」「確かに、こんなアイディア出すのはシエルしかいないよな……」「シエルって、家具のデザイナーか?」 頭だけをあげてポルティアが聞く。「うん。というか、町全体の何かを作る時は大体シエルが音頭取るから」「デザイナーのスキルなのか?」「いいや、スキルは「空画」だっけ?」「ああ。空中に絵を描くスキルだけど、描かされ続けて右腕壊してスキル使えないんなら用済みってエアヴァクセン追い出されたんだ」「……どうなってるんだエアヴァクセン……」「スキルが使えなければ追放。そんな感じ」「あと、町長の威厳をやらを傷つける人間も追放。俺は栄転でエアヴァクセンに決まったんだけど、式典に腹痛で行けなかったらそんな奴いらないってわけで盗賊に」「……グランディールがランクアップする前に自然消滅しないかエアヴァクセン」「それは困る」 ぼくは額を指先で叩きながら答える。「確実にグランディールがエアヴァクセンの上になるって証明してからじゃないと」 そこへ、ガチャリと扉の開く音。「うぉーいおはよう。水路はどうだ?」 欠伸しながらやってきたのはシエル。「おはよう。そろそろ呼ぼうかって話してたんだ。そ
ポルティアとナーヤーが、ぐたりと椅子に座り込む。「……あれ……本当に俺の家なのか……?」 もう何度目の確認になるだろう。うん、と頷くと、ポルティアが机に突っ伏して頭を抱えた。「あんな家、ピーラーに見せたら速攻奪われる……」「大丈夫、そもそもピーラーみたいなヤツは最初っから町に入れないから」 どうやら家の中の家具を全部「鑑定」してしまったらしく、それが全て最高級と判断され、どうしようもない状態というところ。 一方小さい頃から憧れの家、と言っていたナーヤーは比較的冷静さを取り戻してるっぽい。「あの家、住んでいいんですよね?」「うん。好きに使っていい」「じゃあ、好きに使わせてもらいます」 うん、うん、と頷くナーヤー。 やっぱり何か追い込まれた時強いのは女性の方なんだろうか。それともうちの町の女性陣、アナイナとかヴァリエとか奥さん陣にそういうのが揃っているのか。でもヴァリエはまだ町民じゃないから……でもそろそろ決めないとなあ……てかヴァリエ、家が新しく出来てたのを指摘してなかったなあ……。そういう町、って納得してるのかなあ……。「で?」 突っ伏した体勢のまま、視線だけがぼくに向く。「この町でやらなければならないことは、何だ?」「絶対やらなきゃいけないのは、家具づくり」「ああ、町の人間全員で作るのか。しかし俺のスキルは」「スキル関係ない。……ああでも出来た家具の平均価格を鑑定してくれると嬉しいけど」「待て、おい待て。俺は職人じゃないぞ」「うん。ていうか家具職人はこの町一人もいない」 ポルティアの顔面に疑問がたーくさん浮かんでるよ。「……ああ、分かりました」 ナーヤーが手をポン、と打つ。「私たちの家のように、望んだものが出来る、というわけですか?」「んなわけあるかっ」「あります」 一瞬浮上したポルティア、また撃沈。「個人の物は個人の望みで出来るけど、町で作る外に売り出す品は町民全員が望まないとちゃんとできないんだ。町の人間全員が「これが必要」って思うこと。それが必須条件。でも、それがあるから、スピティに持ってけるほどの家具が出来る」「デザイナーは」 ぼくがシートスを見ると、シートスは少し笑った。「今は家で大人しくしているわ。水路を作る時には起こしてくれって言ってたけど」「毎日寝てる?」「寝溜めするって言ったのを
「ちょちょ、ちょっと待て!」 家の中に入ったポルティアの声が裏返っている。「何だ、何なんだこの高級な家具の見本市は!」 出てきて開口一番これだ。「あれだ、これは俺の家じゃない、グランディール製の家具の見本市だ」「家具はグランディール製で間違いないけど、この家はポルティアので正しいよ」「だけど、あれ!」 ポルティアが指した先を見れば、それはまあ立派な家具の見本市。「ああ、そうか、家具を鑑定できるだけじゃなくて欲しかったのか」「いや、確かに俺の欲しい家具ばかりだけど! こんな高級な家具、家、適当に町外れにあっていいものじゃない!」「でも、それがポルティアの希望の家なんでしょ?」「希望過ぎて怖いわ! 俺の稼ぎで買えない!」「どの家も稼ぎでできたわけじゃないよ?」「は?」「ああ、あんたが新入りか」 畑の手伝いに行っていたらしいヴァダーが、汗を拭いながら戻ってきてポルティアの顔を見た。「あなたはこの町の町民か」「ああ。家がすごいんだろう?」「すごい? そんな言葉で形容できるか! ピーラーもこんな家に家具揃えてないぞ!」「町長の「まちづくり」のスキルのおかげだ」「は?」「町民の理想の家が出来る」「はあ?」「正確には、町民が理想、あるいは必要とするものを、町が具現化するんだ」「はああ?!」 何て見事な「は」の三段活用。「こいつ、何してた人だ?」「スピティの門番って言うか、フリーの家具鑑定師。だから見てるものはいいのばっかだと思う」「あー。高すぎて手に入らないけど欲しいのがいっぱい出てきたのか」 うんうんと頷くヴァダー。「なんだ、欲しいものが手に入ったなら素直に喜びゃいいのに」 マンジェが呆れたように言った。「高すぎて怖い! 俺の人生何回分で揃えられるのか……!」 ナーヤーは……。 入口に座り込んでいる。「大丈夫?」 シートスが声をかける。「わ、私が子供の頃に住みたかった家がそのまま出来てる……。嘘……」「うん、そうなの。思った家が出来るんだよ」「うらやましいです、わたくし、まだ町民として認められていないから、家がないから……」 アナイナとヴァリエも落ち着かせようとナーヤーに声をかけている。「ちょっと、ちょっと待て。この町の町スキルって……いや町長のスキルか……? 町に必要なものが生えて来るって、文
というわけで、湯処。 一応体が汚れている人が入る時はしっかり洗ってから、という決まりがあるので、ポルティアは洗い場でこすられてから湯に入った。「……こんな広い湯処、初めてだ」 湯の中に放り込まれたポルティアが、呆然と呟く。「……ちなみに、使用料は?」「使用料?」 考えてもなかった。「……まさか、タダ……?」「ていうか、今のとこ、この町でお金って使ったことも使われたこともない」「家具売って出来た金は?」「スピティで食糧とか買った」「その割り当ては?」「みんな平等のご飯になりました」「…………」 もはや言葉も出ない模様のポルティア。 そう言えばお金のことって考えなかったよなあ。町の施設もいるものも望めば生えてくるから……。ご飯とか野菜とか、外の物を手に入れる時くらいしか使わないなあ。「……エアヴァクセンを超える、か」 ぽつりと呟かれた言葉に、ぼくは頷いた。「それがぼくの目標。でも、最終目標は違う」 お湯で顔を洗って、ぼくは続けた。「最終目標は富める強国ディーウェスだけが持っていたSSSランク」「SSS……!」「無茶な夢って思うだろうけど、この町に住んでいるみんなは信じてる。こうやって町を大きくしていけば、いつかはその称号を手に入れられるだろうって」「…………」 ポルティアは天井を仰いだ。「とんでもないスキルと、途方もない夢、だな」「分かってる」 でも、とぼくは付け加えた。「ぼくのスキルは、そのためにあるんだと思ってる。エアヴァクセンのミアスト町長を見返して、最高の町を造るために」「そうか」 ポルティアは腕を伸ばした。「俺はポルティア・ポーター」「ん?」「スキルは「家具鑑定」。レベルは3000。正直スピティの門番って言うのは家具を見るから、単純に門番として役に立たないのは分かってる。それでもいいなら」「いいの?」「……いや、町長がそれでいいというんなら」「良かった」 ぼくはほっと息を吐いた。「そんなに俺みたいな役立たずでも嬉しいのか?」「半分はそれだけどもう半分は違う」「半分?」「町民になったから、着替えが出来る」「……は?」 脱いだ服は洗っておくから、ということで引き取ったのだけれど。「町民ってなったら、服も出来る」「服……出来る……?」「ああ。家も出来てるだろうな。
次にできたのは、シエルさんデザインのテーブル。 つやつやして木目のはっきりわかる木材で作られたテーブルは、思わず頬ずりしたくなるほど手触りもよかった。「オレの才能は空中だけじゃないのさ」「うん。すごい。このテーブル、欲しがる人いっぱいいると思う」「高すぎて買えない連中がわんさといるな。最初の内は」 マンジェさんが呟いて、チラリとサージュさんを見た。「こんなもんをぽんぽん作ると、価値も下がるし、たかられる。その辺のところは考えてあるのか?」 マンジェさんは皮肉っぽい言い方を好むけど、言葉は芯を突いている。確かに、最初は高級さと物珍しさから売れるだろうけど、同レベルの品物
「今は夢を語っても仕方ない。これから実験その二」 サージュさんはガリガリと紙に何か書きだした。「エアヴァクセンの生まれなら、字の読み書きはできるだろう?」 書いた紙をぼくに手渡す。「これは……」 設計図。文字と数字だけだったらどうしようと思ったけど、ちゃんと図解してあって助かった。タンスだ。細かく数値が描かれている。町の偉いさんのお宅に置いてあるような装飾が施されている。「これを作れるか?」「ん~。やってみます」 ん~……うまく把握できないというか想像できないというか……。 そもそもぼく、家具そのものを想像して作ったことないしなあ……。家についてきたものばかりだし……。突然
「物と人と金か」 やっと冷静に戻ったらしいサージュさんが腕を組んだ。「人はそれほど苦労はしないと思う。エアヴァクセンと、それに並ぼうとするSやAの町が優秀なスキルを手に入れるため低レベルや役に立たないスキルの持ち主を追い出していると聞く。街道や森を探せば来たいという人はいくらでも出てくる」「え、森の中に住んでたのになんでそんなに詳しいんですか」「「知識」で時々最近の情報に更新しているんだ。知識が古いとそれは知識じゃなくなるからね」 なるほど、「知識」は更新しないと使えなくなっちゃうわけだ。「それで、知らない情報を仕入れるわけなんですか」「そう。ファーレの「ものづくり」も、傍で見
「ああ……知りたい。スキル「まちづくり」……どこまでの町を造れるのか……どこまで広がるのか……どこまで……」 サージュさんの目が爛々と輝いている。怖い。「少なくともペテスタイは再現したぞ」「ペテスタイ!」 アパルさんに伝説の空飛ぶ町をあげられて、ピーンとサージュさんの背筋が伸びた。「そうか、空飛ぶ町……! 伝説ではあるけれど実在は確かだという町……その再現!」「ああ。町長は造った町全体を飛ばした。しかも、それを、目を閉じて祈るだけで実現させた。レベル1Maxも当然だと思えるじゃないか」「町が……実在していれば、再現できる……」 ああ……アパルさんにあおられてサー