Masuk「三流だと?! 小童が!」 デスポタが完全に頭に来ている。「人の町から人を奪わなければ町にもならない小童が!」「その小童に人を奪われたのはどなたです?」「なんだとぉ!」「それに、こちらは何も悪いことをしていません。そちらが引き渡す町民の重量分の陶土を引き渡す。印を押した契約も交わした。それの何処が問題です?」「町民をごっそり持って行った!」「何処に契約違反が?」「町の大多数を持って行っていいとは書いていない!」「私の記憶が確かなら、契約書には、自分の意思で町を出たいという町民を受け取る、というものでしたが? そしてこちらは町民の受取書を渡し、お約束の陶土もお渡しした。ファヤンスにいたくない町民がそんなにたくさんいたというのに、町長殿はお気付きにならなかったと?」 たっぷり、沈黙。 多分、激怒状態だな。怒りが暴走して頭が飛んで、何と言えば自分の感情を表現できるのか悩んでいる。「坊主、貴様が素直にデザイナーを差し出さなかったのが悪い。今からでも遅くない、貴様の町のデザイナーを俺様に寄越せば、此処から出してやる」「無駄だと思いますけどね」「無駄じゃない。貴様らは金を得る。俺様は素晴らしい専属デザイナーを得る。問題は……」「うちのデザイナーははっきり言いましたよ。金持ち一人の好みしか作れない専属デザイナーなんてお断りだって」 またも、沈黙。 多分、いつも注目されている俳優だから、ここまできっぱり断られるとは思わなかったんだろう。 あと、「小童」「坊主」扱いしてることから、誰も味方がいない状況で脅せば町民もデザイナーも簡単に手に入ると思っていたんだろう。「小童、ファヤンスを戻せ! でないと貴様をこの場で殺すぞ!」「……甘く見られたものだ」 確かにぼくは若いというか幼い。見た目が幼いので、なおさら舐められる。そのための無表情、そのためのアパルやサージュ。 でも、若かろうが幼かろうが、百人以上の町民の上に立つ町長だ。「私が守らなければならないのは私自身ではない。町民だ」 盗賊やってたことがばれたら大変なことになる人たちから、ファヤンスから逃げてきた人まで、守る責任が町長にあるんだ!「自分の益しか考えてない貴方に、町民を一人たりとも渡すわけにはいかない!」「な?!」「町長を舐めるな!」
さて、何処からともなく聞こえる口喧嘩で、大体の状況は分かった。喧嘩はまだまだ続くだろうけど好きにやっててくれ。長ければ長いだけありがたい。 後ろ頭は痛いけど、今すぐに考えなきゃいけないことはたくさんある。 まず、現在の状況。 ぼくは今、デスポタのスキルで、何処かに閉じ込められている。逃げ出すことも、スキルで発見することも出来ないらしい。 だけど、リューとアレは逃げることが出来た。 ぼくが拉致られたことは二人からグランディールに伝わるはず。 問題は、その時、ピーラーあるいはデスポタどちらかの顔を見ていたか。 見ていたなら、アレが逃げるのに「移動」を使ったとしても、そう時間もかからずに誰かがここを見つけ出す。 見て居なかったら……サージュやアパルが判断してくれるのを待つしかない。 グランディールに明らかに敵対というか恨みを持っていて町長を拉致するほどのことが出来るのは、ピーラーとデスポタだと判断してくれるだろうか。いや、アパルとサージュは頭がいいし、元ファヤンス町民の皆様だったら町長がそういうことをやりかねない男だと知っているだろう。これは期待してもいいと思う、うん。 そして、今ぼくのやれること。 それは、時間稼ぎ。 ひたすらこっちに集中させて、グランディール側が動いていることに勘付かれてはならない。 このまま気絶しているふりでもいいかもしれないけど、口論中の二人の頭がいつ冷えるかもわからない。二人とも頭が悪いように思えるけど、世界一の俳優と立派な町の町長だ。まだ他に打つ手があるかもしれない。 頭が冷えてろくでもないことを考え出す前に、こっちから仕掛けた方がいいかもしれない。 グランディールからすれば、町の存続に関わる事件に、とんだ足手まとい。 ここは、ぼくが何とかしなきゃ。 ……ぼくが勝手にやらかした失敗。 ぼくが取り戻さなくてどうするよ。 腹具合から考えて、ぼくが殴られて気絶してから恐らく二刻以上は経っている。予想だとそろそろ捜索隊が出されるか。 だとすれば、この空間から出なければならない。 にしても、町長のスキルが、人を真っ暗闇に閉じ込めるスキルだなんてなあ。そりゃあスキルと町長職は何の関わりもないけれど、クイネが言ったことを思い出すと、何とも。 ファヤンスで町長の陰口を叩いたり悪口を言っ
……痛い。 意識を取り戻して見れば、後ろ頭のズキズキと、気持ち悪い沼に引きずり込まれるような感覚。 異常事態。 一体、何が……。 落ち付け。 頭が痛いのは辛いけど、今は状況を把握しなきゃ。 アレとリューと一緒に町を降りて、ヴァローレの気がかりの元を探しに行って。 そして、後頭部に強い衝撃を感じた。 リューが目を見開いて、「町長危ない」と言っていた。つまり、後ろから誰かがぼくをぶん殴ったってことか。 そして、今の状況……。 ズキズキに耐えて、薄目を開ける。 真っ暗い場所。何処だろう。少なくとも場所はあそこから移動されている。 人の気配はない。 だけど、誰かが……。 誰かがこっちを見ている感覚。 まだ動かないほうがいい。まだ気を失ったままだと思わせたほうがいい。 後ろ頭がズキズキと痛むけど……。 痛い素振りを見せてはいけない。心の中で町長の仮面をつけて、気絶していると思わせる。 アレとリューの気配もない。上手く逃げたか、捕まって別の場所にいるのか。 一番理想的なパターンは、逃げたにしろ捕まったにしろ二人が同じ場所にいること。「場所特定」と「移動」があれば例え何処であっても逃げ出してぼくの居場所を特定して逃げられる。 最悪のパターンは……三人とも捕まって、別々の場所に囚われてるってとこだな。 その場合、グランディールからの助けを待たなければならなくなる。 町を出る時にアナイナに事情を話せたのは良かった。心配性のアナイナなら帰りが遅いと思ったらすぐにでも会議堂にすっ飛んでいく。そうすれば捜索隊が出るだろう。元ファヤンス町民の中にも探索系のスキルの持ち主はいた。ヴァリエと話したのは三日前、「追跡」は効くだろうか。 とにかく、現状を把握しなければ。 今転がされているのは木の板か? 土の上か? 石か? ……どれでもない。 とすると、誰かのスキルが関わっている? スキルで閉じ込められたんだったら話がもっとややこしくなる。スキルを「合わせ」るのではなく「ねじ伏せ」るのはそれこそレベル勝負になる。 とにかく、今のぼくに出来るのは時間稼ぎだ。 気絶したままなんだ。本当は痛くて頭抱えて転げ回りたいけれど、町長の仮面は弱みを外へ出さない。傍から見れば気絶して起きないように見えるだろう。「……まだ起きないのか」 声。 だけど、
でも、気になるなあ。 あのヴァローレがあそこまで気にしていた……本人は解決済みと言っているけれど、それでも町一番の「鑑定」使いが気にすることだ、町長としては放置できない。 とはいえ、ぼく一人じゃ何にもできないし……。 グランディール町長と呼ばれ、ある町では敵視され、ある町では警戒されているその正体は、「まちづくり」のスキルがなければ何もできない十五歳。シエルやクイネのようなスキルとは別の才能は……多分、ない。 ああ~このもやもやを抱えて湯処や食堂に行けない~! うろうろと門の辺りを歩き回っていると、ぽん、と後ろから肩を叩かれた。「アレ? リュー?」 旅姿から着替えてもいない二人が、真剣な顔で立っていた。「やっぱ気になるんすね、ヴァローレの気がかり」「きみらも?」「当然だろ。あのヴァローレが気にしたことで外れたことはほとんどないんだ。本人は珍しく疲労でそれ以上の追及を諦めたようだけど、あいつと長いこと一緒に行動してた人間としては、ちょっとな」 アレが眉間にしわを寄せている。「あいつのスキル以上に、あの勘でヤバイことから逃げられたことも多いんすよ。そんな俺たちがあいつのあの発言を見過ごせるはずないっす」 リューが熱弁する。「……確認したほうがいい、ってことか?」 うん、と二人が頷く。「スキルは様々っす。スキルで出来ないことはないとも言われてるっす、俺のように居場所を特定できるスキルもあれば、アレのように長距離を一瞬で移動するスキルもあるっす。特に俺みたいなスキルでレベルが高かったりしたら、空の上にあるグランディールに気付く可能性もあるっす」「そしてこの町を手に入れようと画策する、か」 頭が痛い。 本当はヴァローレについてきてもらいたいけど、あの疲れ様だと連れていくのは難しそうだ。 とはいえ、ぼくら三人だけと言うのも厳しいよなあ……。「不安なら、サージュに頼んでみるっすか?」 リューが、ぼくの顔色を見たんだろう、こう提案してきた。 サージュかあ……。 確かに、この町では一番スキル学に詳しくて、「知識」で正しい知識を手に入れられるサージュなら、付いてきてもらうにはもってこいだ。 でも……。「……ぼくら結構、サージュに頼ってるよな」「……そうっすね」「町の運営とか、動向とか、結構任せてるよな」「……ぼくらだけで、調
取引で得たお金と、次の注文を受け取って荷馬車へ戻る。待っていた三人は緊張と安心の入り混じった微妙な顔で出迎えてくれた。「近づいたり、何かしようとした人は?」「いないっす。時々ヴァローレに「鑑定」もしてもらったっすけど」 リューが答える。 ふー、と息を吐く。 今のところ仕掛けては来てないか。「じゃあ、さっさと帰ろう。今回は買う物もないし」 本当は伝令鳥を一羽欲しかったけど。 ちなみに、伝令鳥を買うか買わないか悩んだ頃に教えられたことがある。 伝令鳥はスキルを持った鳥なんだって。そのスキルで特定の人物の場所を突き止めて物を届け、戻ってくる。そして、そのスキルは他のスキルとは「合わせ」られない。伝令鳥の居場所を特定するスキルなどを伝令鳥や運ぶ荷に仕込んだり、追いかけたり、場所を特定しようとしたりすると、伝令鳥は目的の場所に荷を運べなくなる。宣伝鳥も同じく。だから伝令鳥で場所バレすることはないのがありがたい。 だから、直接「匂い」をつけられないよう自分たちが気を付けるしかないんだって。便利なのかそうでないのかよくわからない。 ◇ ◇ ◇「で? 何かいい情報は入ったんすか?」「いい情報と言うか……警告をもらった」 三人がこっちを見る。「スピティじゃグランディールの居場所に懸賞金をつけてるんだと」「げ」「うわ」「本気っすか」「デレカートが嘘を教えるとは思えない。懸賞がどれくらいかは分からないけど、尾行してくる奴はいるだろうね」「いるね」 金の瞳で幌から背後を見ているヴァローレが言う。「五人。明らかにこっちをつけている」「大物……強力なスキル持ちは来てない?」「まだ」「馬車に異常は」「ない」「じゃあ、さっさと消えるか」 ピーラー辺りはこっちにスキル移動の手段があることに気付いてるはず。そして移動手段があってそれを使っても誰にも文句言われる筋合いはない。「頼む」「OK」 グランディールはスピティの近くにはない。周りを探しても出てこない。そしてアレは低上限レベルの「移動」だ。ついてこれるもんならついてこい。「じゃあ、行っていいか?」「ああ。頼む」 まとめて~。 「移動」!「消えた?!」「まさか」「スキルか?」「おい、どうするよ」 五人の追手は、顔を見合わせた。「町の居場所突き止め
スピティに行く日。 ヒロント長老と他のみんなに町を頼んで、ファーレに馬車を作ってもらって、家畜売買のゾーオン・ジヴォートナイに馬を用意してもらって、今度こそちゃんと荷馬車で行ける! がたがた、かっぽかっぽと荷馬車は進む。 今回はぼく、アパル、サージュ、アレ、ヴァローレ、リューの六人。いざとなったら逃げだす準備満々のスキル準備。 だってなあ、ピーラーとデスポタ、どっちか一人だけでも厄介なのに、二人揃って待ってる可能性があるんだぞ。最悪の想像をすれば二人が手ェ組んで手ぐすね引いて待ってるかもしれないんだぞ。 気も重くなる。 ぼくとヴァローレが馬車の中、アレが御者台で、残りが御者台や幌から周りを警戒している。「今のところは?」「何もない」 後ろを見ているサージュの返事。「こっちも」 右を見るアパルの返事。「今ン所ないっす」 左を見るリュー。「まあ今は出てこないだろう」 サージュが呟く。「あっちもスピティともめ事を起こしたくないだろうからな。来るとしたら帰りだろう」「はあ~あ……」 吐く溜息までが重い。 人数が増えた今、お金なしで町をやっていくことは難しい。ちゃんと働いた人にはお給料を出さなきゃだし、町民が町の外と商売する時にも必要だし。 だから、サージュ曰く「外貨がいる」んだそうで。 町で勝手にお金を作ってやり取りするんじゃなくて、ちゃんと世界で通用するお金を町の中、外で流通させなければならない。そうじゃないと町と認められない。Cランクの理由は通貨が通用していないところにもあるらしい。 外貨を手に入れるためには外と物を売買することで、今のところ売れるのは家具だけ。そのうち陶器も売れるようになるだろうけど、ファヤンスとガチぶつかりになるのは今は避けたい。 は~、町って厄介厄介。 ミアストやデスポタがスキルで町民を使っていた理由も何となく分かってきた。 スキルは、本人のやる気の有無に関わらず、確実に評価できるものが作れる。だから、町長は町民をスキルで割り振る。確実に成果が出るからだ。 やらされてる方はたまったもんじゃないだろうけどね。 クイネやピェツのように嫌がっている人もいる。 ぼくはそんな人を出したくない。 やりたい仕事をやって、成果を上げて、みんなで喜べるような。 そういう町にしたいと思ったから。 だから
盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。 手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。「……えーと?」「飲もう!」「えーと」 シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」「そ……」「喜んで!」 ぼくより先にアナイナが返事した。「アナイナ……」「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお
正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。「これ……は……?」「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」 何だその威張り方は。「い、いや、塀だけが立
一瞬空気が凍り付き、動き出すのに数秒かかった。「簡単に言ってくれるなお嬢さん」 盗賊団、スキル「法律」のアパルさんが苦笑した。「町を造るには、色々なスキルの持ち主が大勢集まらなければならない。まずお嬢さんは未成年だからスキルもない。そして我々もそのようなスキルはない……」「一応食事には困らないけど、洞窟の中での生活があんたに耐えられるとは思えないけどね」 スキル「食獣」のマンジェさんが不愉快そうな顔をした。確かにそうだよな、家を建てるみたいなスキルがない限り、雨風をしのげるところなんて洞窟とかしかない。聞いた限り、反エアヴァクセン盗賊団の中に家を建てられるスキルはない。「お兄ち
「あのー。もしかして皆さん、エアヴァクセンの町長、知ってる? ミアスト・スタット町長」 まだもがもがやっているアナイナの口を塞いだまま、ぼくは聞いた。「知ってるも何も」 盗賊の一人が言う。「俺らを追放したのはあの野郎だからな」「え。もしかして……皆さん、元、エアヴァクセンの住人だったって、こと?」 一番若そうな盗賊が頷いた。「俺はな、Bランクの町から栄転でエアヴァクセンに来た。スキルは水を操る「水操」、レベルは50でレベル上限は3000だった」 そりゃすごい。水を自在に操る能力をレベル3000で持っていたら、十二分に町のために働けるだろう。「だけど、移転者歓迎







