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2. 違和感

last update publish date: 2026-06-02 19:09:12

 食堂に入ると予想通りリチャードがそこにいた。

「おはようございます、リチャード」

「っ、あ、ああ、おはよう」

 少し驚いた顔をしている彼が私の旦那様だ。

 かなりの小柄で丸顔の太った体。

 女性と比べてもさらに小さくて子どものような大きさ。

 本人はすごく気にしているけど私はかわいいと思っている。

 手にはコップを持っている。

 リチャードは朝食前に必ずミルクを飲むのでまだ朝食を済ませていないんだろう。

 一緒に食べることが出来ると思い椅子に座ろうとするとリチャードが私を抱きしめた。

「リタ……よかった……」

 そう言って背伸びして唇を合わせてくる。

 なんとなくいつもと唇の感触が違う。

 それにベタベタしたがるのはいつものことだけど今日は抱きしめる力が強い気がする。

「覚えてないかい? 君は馬車で事故にあったんだよ」

「え?」

「ほら、僕と一緒に買い物に出かけて」

 事故?

 そういえばリチャードと一緒に買い物に行ったんだ。

 いろいろ買ってそこから記憶がない。

「数日間目覚めなかったんだ」

 え……?

 全然そんな意識がなかった。

 普通に寝て起きただけだと思っていた。

「まだ怪我が治りきっていないから安静にしてないといけない」

「そうなのですね」

 体が重いのもそれが原因なのかもしれない。

 肩を回してみるとちょっと違和感がある。

「あああ、無理しちゃいけない」

「これくらい大丈夫ですよ、心配性ですね」

「だってまだ事故からそんなに経ってないから」

 相変わらず心配性な人。

 私が熱を出した時はずっと私のそばで手を握っていて自分に感染したら『リタから病気を奪えてよかった』というぐらい筋金入り。

 すごくかわいい。

「朝食は食べられそう?」

「あまり食欲がわきませんね」

「ならミルク粥にしてもらおうか」

 体調を崩した時は必ず作ってもらう私の大好物。

 リチャードがさっそく鈴を鳴らしたけど誰も来ない。

 そういえば屋敷の塗装で大勢駆り出されてるって言ってたな。

 それなら厨房まで行こうと思い立ち上がろうとしたらリチャードが慌てて駆け寄ってきた。

「僕が頼みにいくからいいよ」

「でもそれぐらいは私が」

「体調が戻ってないんだから旦那さんに任せなさい」

 普段甘えたがりなのにこういう時は年上っぽく振舞いたがる。

 後でいっぱい甘えさせてあげよう。

「ならお願いしますね」

「任せて」

 ドンと胸を叩いて良い返事が返ってきた。

 だけど胸をはってる姿はカッコよさよりかわいさの方が際立つかな。

・・・

 作ってもらったミルク粥は味が薄く感じた。

 体調がまだ戻っていないから舌もおかしくなっているのかも。

 安静にしたほうがいいかな。

「私は部屋に戻りますね」

「うん、安静にしてるんだよ」

 食事を終え部屋に戻る途中でイリーシャを見かけた。

 たくさんの小物類を壁に沿って並べているようだ。

「あら、イリーシャ」

「ひっ」

 声をかけると驚きと共に後ずさった。

 一歩間違えれば小物を蹴飛ばしそうな勢いだった。

「お、お、奥様?」

「驚かせてごめんなさい」

 屋敷が暗いのに後ろから声をかけたから驚かせてしまった。

 怖がりなのは知ってるのに失敗だったな。

「イリーシャは大掃除を担当しているの?」

「そうですね、いろいろ片づけています」

 今は小物類を拭いているらしい。

 結婚した時に持ってきた小物が懐かしい。

「改築と大掃除をまとめてなんて大変ね」

「『やるならまとめてがいい』と旦那様が」

 面倒なことはまとめてしようというリチャードの性格が出ている。

 その結果人手不足になっているのはご愛敬かな。

「廊下にある姿見までないのはびっくりしたわ」

「あ、えーと、『細かな傷が入っていたから研磨しなおす』そうです」

 へー、そんなに傷があったんだ。

 普段から見てるから気づかなかったのかな?

「そういえば全部の窓が塞がれているのね」

「あ、その、えーと『窓に塗料がつかないようにするため』です」

 ん? 何か違和感がある。

 普段のイリーシャはもっとはきはきと答える。

 でも今はまるで事前に想定された答えを読み上げているような感じがある。

「奥様、ここにいらっしゃいましたか」

 遠くから私を見つけたアナが駆け寄ってきた。

 何かあったのかな?

「食堂にいらっしゃいませんでしたので」

「部屋に戻る途中でイリーシャと話し込んじゃって」

「イリーシャ?」

 アナがイリーシャをにらんでいる。

 それは非常に珍しい光景でイリーシャは完全にすくみ上っている。

 もしかして仕事をさぼっていると思ったのかな?

 それなら否定しておかないと。

「私が話しかけただけでイリーシャは悪くないの」

「そうでしたか」

 私の反応を見て少しほっとした顔をするアナ。

 でもすぐ真顔に戻る。

「でもイリーシャ、··········言っておいたはずですね?」

「は、はい」

「ならすみやかに掃除に戻りなさい」

「はい、失礼します!!」

 なぜか目の前の小物類を置いてどこかに去っていった。

 掃除って小物類の掃除じゃないのかな?

「奥様もお体が万全ではないのですから立ち話は避けてください」

「そうね」

 たしかにちょっと体がふらつく感じもする。

 安静にしておいた方がよさそうだ。

 アナに手を引かれて寝室に向かう。

 部屋で休むより寝室のベッドで横になってる方が良いとアナから言われたためだ。

 ベッドで横になるとすぐに眠気が襲ってくる。

 嫌な夢を見なければいいんだけど……。

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    「あれ……、私?」「もう朝だよ」「え!?」 目が覚めるとリチャードがベッドの隣の椅子に座っていた。 どうもベッドで横になってそのまま寝入ってしまったらしい。「久々にリタの寝顔を堪能できたよ」 目じりを下げて満面の笑みを浮かべるリチャード。 普段は私の方がリチャードの寝顔を堪能するのに今日は堪能されてしまったらしい。 何か悔しいのでほっぺたをタプタプしておく。「おおお、やへるんだ(やめるんだ)」「恥ずかしい思いをしたからお返しです」 昔より贅肉が増えている気がする。 もう少し運動してもらわないと駄目ね。 ……そういえばしばらく夜の営みをしてないし、今日の夜に誘ってみよ

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