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3. リチャード

last update publish date: 2026-06-06 18:12:50

「あれ……、私?」

「もう朝だよ」

「え!?」

 目が覚めるとリチャードがベッドの隣の椅子に座っていた。

 どうもベッドで横になってそのまま寝入ってしまったらしい。

「久々にリタの寝顔を堪能できたよ」

 目じりを下げて満面の笑みを浮かべるリチャード。

 普段は私の方がリチャードの寝顔を堪能するのに今日は堪能されてしまったらしい。

 何か悔しいのでほっぺたをタプタプしておく。

「おおお、やへるんだ(やめるんだ)」

「恥ずかしい思いをしたからお返しです」

 昔より贅肉が増えている気がする。

 もう少し運動してもらわないと駄目ね。

 ……そういえばしばらく夜の営みをしてないし、今日の夜に誘ってみようかな。

 十分にほっぺたを堪能した後に離す。

「つらいなら無理して起きてこなくていいからね」

「大丈夫ですよ」

 そう言ってベッドから降りて立ち上がる。

 その瞬間、頭の血の気が引く感覚があった。

 あ、駄目、立ち眩みが……。

「ほら、危ない」

 でもリチャードが私を支えてくれた。

 まるで私が体勢を崩すのが分かっていたみたいだ。

「今日はずっとここで一緒にいようか」

「お仕事はいいのですか?」

「リタの看病より大事な仕事はないよ」

 穏やかに、でも強い意志で答えるリチャードを見て結婚が決まった時のことを思い出した。

------------------------------------------------------------------------------------------

「いきなり貴族の嫁になると言うのは大変でしょうが、必ず幸せにします」

 リチャードは私の家に来て結婚を申し込んだ。

 ただの平民の家にわざわざ貴族様がやってくるなんて普通ありえない。

 ましてや"申し込む"なんて考えられない。

 ほとんどは貴族の指示でやってきた部下が"金で買っていく"であり最悪の場合はお金すら支払われず攫われるだけ。

 でもリチャードは自分でやってきて私に選択肢を与えた。

「断っても不利益が生じることはない」

「受け入れれば家に対する十全な支援と君への幸せを約束する」

 普通なら喜んで受ける話だけど、母や姉は執拗に『断れ』と言ってきた。

 その理由は彼の容姿にあるのだと思う。

 小柄で丸顔で太った姿は貴族どころか大人にすら見えない。

 せめて童顔ならまだしも顔自体は年相応。

 母は『小さい大人って感じで気持ち悪い』と言っていたし、姉に至っては『人間じゃない化け物か何か』とまで言っていた。

 でも私はそうは思わなかった。

 見た目も顔もまん丸なのはむしろ愛嬌があって良い。

 ふっくらぷにぷにで触り心地よさそう。

 そう伝えたら母と姉に変な目で見られた。

 それに私を見つめる彼のまなざしはただ私に愛されたいと願っているように思えた。

 一生懸命私を選んだ理由を説明する彼の言葉は一言一言に魂がこもっている気がした。

 だから彼を信じて結婚を受け入れた。

------------------------------------------------------------------------------------------

 実際、結婚直後は大変だった。

 文化の違いや意識の違い、言葉遣い、礼儀作法、その他もろもろ。

 覚えること・理解することはたくさんあった。

 でもリチャードが助けてくれたおかげでなんとかなった。

 その代償としてリチャードが私に求めたのはただ一つ。

「リタ……」

「んっ」

 私にキスをしてきた。

 相変わらずの甘えん坊さん。

 私と目があったことで甘えたくなったのだろう。

 間髪を入れずまたキス。

 あれ?

 何度もする時は軽くするだけなのに今日はしっかりするんだな。

 それにしてもこうして近くで見るとリチャードも年を取ったなと思う。

 昔に比べて小じわが増えてる。

 あ、まつ毛に枝毛がある。

「どうしたんだい?」

「ううん、幸せだなと思いまして」

「っ!……僕もだよ」

 ちょっと苦しいぐらい力強くギュッと抱きしめられる。

 どうしたんだろう?

 まるで捕まえているみたいだ。

 私はどこにも行かないというのに。

「リタ、もう離さない」

「どこも行きませんよ」

 事故のせいで甘えん坊に拍車がかかってるみたい。

 まだ朝だけど少し気持ちを落ち着けてあげよう。

 そう思って服を脱ごうとしたらまだ普段着だった。

 これでは自分で脱げない。

「脱がすの手伝ってもらえますか?」

「いやリタの体調が悪いのにそんなことしないよ」

 そう言いながら私をベッドに寝かせる。

 でもその後リチャードも私の横に寝て抱きしめてきた。

「しないのではないのですか?」

 笑いながらそう言うと、少し拗ねたような表情をする。

「だって寂しいし隣で寝るぐらい良いよね……?」

「仕方ない旦那様ですね」

「愛してるよ」

 やけに『愛してる』が多い気がする。

 たしかに普段から多い人だけど今日は輪をかけて多い。

 私が死ぬかもしれないと思っていたから不安だったのかな?

「私も愛していますよ」

 そう言った瞬間、ベッドに押し倒された。

 する気になったのかと思ったけどそのまま抱きついている。

 まるで赤ちゃんのようだ。

 もう、こういう時は本当に大きい子どもなんだから。

 頭をなでていると段々眠くなってきた。

 たしかにまだ疲れているのかもしれない。

 でももう少しだけなでていたい……。

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