ログイン「私は自分が死者だと気づいていなかった」
「は? 何言ってる、彼に『私はもう死んだ』と言っていたじゃないか」
「『私はもう死んだ"と思って"諦めて』としか言っていない」
ちょっとした言い回しの違い、それは契約においては致命的な違いとなる。
でも魔術師はそれに気づいていない。
「その前にも鼻を触っていただろう? 存在しなくなった鼻を」
「そう、てっきり事故でなくなったんだと思ってた」
実際はそこで蘇生されたと気づいていた。
でもそれは客観的に証明できない。
だって私は何も言っていないから。
「死んだ"と思って諦めて"と言っている時点で死んでいるとは言っていない」
「は?」
「あなたが答えを教えたから気づいただけ、あなたの契約違反よ」
最初に私が死んだと言ったのは魔術師。
それは変えようのない事実。
「言い訳は聞き苦しいよ」
「でも今なら契約破棄してあげてもいい」
「なるほど、それが目的か」
少し納得した顔をしている魔術師。
契約違反の可能性はある、それは間違いない。
なら私に出来るのは、可能性の話を広げて契約破棄を迫るしかない。
「あなたの契約違反ならあなたに罰が下るわよ」
「腐った頭で一生懸命考えたようだけど無駄だよ」
強い口調。
魔術師的には確信があるようだ。
「貴方の動きはどう見ても死んだと気づいている動きだった」
「死者が動くのと大怪我で生き延びたと考えるのとどちらが常識的かしら?」
「目がないことに気づいたのに目が見えていることはどう思ったんだ?」
「その二つの関連性にまったく気づいてなかった」
これは本当。
あの時そういう発想はまったくなかった。
「都合の悪いことは聞いてません、知りません、が通るわけ無いだろう?」
「契約は契約よ」
「適当に誤魔化してるだけのくせに」
実際に気づいていたのは確かだから、変に無理やり理由付けると矛盾が出る。
口に出したことは絶対。
なら『知らない、分からない』で誤魔化すしかない。
魔術師がため息をついてこちらから視線を切る。
あ、駄目だ、会話が打ち切られた。
魔術師の懐から紙を出す。
「強制執行だ!!」
魔術師がそう言った瞬間、私の背後から恐ろしい気配を感じた。
慌てて振り向くとそこには鎌を持ち黒装束を着た骸骨が立っていた。
「こいつが出てきたってことは条件を満たしているってことだ」
魔術師が勝ち誇った顔をしている。
ああ、駄目だった……。
せめて契約破棄だけでもと思ったけど無理だった。
リチャードを残して逝くのが心残り。
あの人は私がいなくてもやっていけるだろうか。
一日一回は私に甘えないと気が済まない人なのに。
せめて一週間のうちに相手を探しておけばよかった。
あ、でも屋敷の外にはどうせ出られなかったから無理か。
骸骨が近づいていた。
痛いのかな?
出来れば痛みがないと良いな。
「リタは渡さない!!」
「リチャード!?」
気がついたら私の前にリチャードが立っていた。
とっさにリチャードを押しのけようとしたけど力強く踏ん張っていて動かない。
しかもさらに影が重なった。
「アナ!?」
「お二人をお守りするのがわたくしの役目です」
だめ、みんな死んじゃう!!
死ぬのは私だけで十分なのに!!
「……え?」
もう駄目だと思ったその時だった。
え? どういうこと?
骸骨が向かう先は魔術師の方だ。
「ん? 対象はあっちだぞ?」
魔術師は骸骨を手で追い払うような仕草をしている。
けど骸骨はまっすぐ魔術師の方に向かっている。
「は? 何でこっちに?」
骸骨が鎌を振り上げた。
暗闇の中で青白く光る刃は幻想的だった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ、俺はちg
骸骨が鎌を横なぎに振るった瞬間まるで糸が切れたかのように魔術師の動きが止まった。
骸骨の空いている手には白く光る玉のようなものが握られていた。
骸骨は無言でこちらに振り向いた後こちらに鎌を振り上げた。
私も含めて魔術師が攻撃されたことに気をとられていてまったく反応できない。
そのまま鎌を振り下ろされる。
契約を破った魔術師の次は契約通り私ということなんだろう。
ああ、さっきの魔術師みたいに一瞬で死ぬならいいか。
そう思って目をつぶる。
けど一向に痛みが来ない。
もしかして痛みもなしで天国に連れて行ってくれた?
そう思って目を開けてみるとそこは天国ではなく先ほどと同じ場所だった。
ただ目の前にいた骸骨の姿はない。
「リタ、大丈夫か!?」
リチャードが後ろから声をかけてきた。
やっぱりここは現実の世界……?
「そ、その姿は!?」
それから数年。 婚約の話は何度も来ていたが全て断っていた。 女性が財産目当てに媚びてくる姿があまりに悲しかったからだ。 ジョゼットは一度もそんな態度をしなかった。 お金ではなく僕の方を見てくれた。 もし結婚するならそんな相手であってほしい。 そして今度こそ自分が愛を与える側になりたい。 そんな相手を探していたある日のことだった。 その日は偶然が重なった。 たまたま馬車の幌が一部壊れていたこと、たまたま鳥の糞が落ちてきたこと、たまたまそれが幌の隙間を縫って落ちてきて僕の服についたこと。「運が悪いなぁ」「申し訳ございません、壊れた馬車に乗せたわたくしの責任です」 無表情に見えるけどよく見ると若干眉をひそめて下唇を噛んでいる。 よほど責任を感じているのだろう。「アナのせいじゃないし他の誰のせいでもないよ」「旦那様、ですが……」 こんなことで誰かを責めて何になるのか。 それに最終的に僕がいいと言ったのだから僕の責任だろう。「ちょうどそこに店があるし代わりを買おう」「……わかりました、すぐ交渉してまいります」 少しためらっていたけど承諾してくれた。 これでいい、そんなに気にすることじゃない。「貸し切りには出来ませんでしたがなんとか使えそうです」「よかった」 本当は貸し切りの方が迷惑にならないと思うけど店側がいいというなら構わない。 みんなを連れて店に入ると店員が怪訝な目で見てきた。 初めての店だから僕の姿に驚いているのだろう。 いつものことだ。「旦那様?」「いいよ、初めてのお店だし」 店員の怪訝な目にアナが気づいたけどたまたま通りがかった店に対してそこまでする必要もない。 貴族に慣れている店ならそういう反応を見せないものだけどここはあまり慣れていないんだろう。 建物の奥側に案内されて服を試着していく。 とりあえず家に帰るまで持てばいいのだからなんでもいいのだけど、アナ含めメイド達が『似合うものしか駄目です』と言っていた。 おかげで何着も試着している。 まあみんな楽しそうに選んでくれているのでいいか。「何あれ? 気持ち悪っ」「しっ、お貴族様だよ、下手なことを言うと首はねられるよ」「怖っ、え、聞こえてないよね?」 悪口と言うのは存外遠くまで聞こえるものだ。 かなり離れた入り口付近の店員が話している
お父さんとお母さんが長い旅に出かけてから少し経ったある日。「坊ちゃま、今日はわたくしの孫を紹介いたします」「アナスタシアです、よろしくお願いいたします」 すごくきれいでおとなしい女の人だ。 まごってばあやの家族ってことだよね? ええとこういう時はほめた方がいいってお父さんが言ってた。「ばあやのまごだからきれいだね」「おっほっほ、坊ちゃんはお世辞が上手ですね」 頭をなでてくれた。せいかいだったみたい。 あなすたしあさんもニコニコ笑ってる。 わらうとすごくびじんさんだ。 僕より大きく見えるけどいくつぐらいなんだろう?「あなすたしあさん?」「さんはいりませんのでアナとお呼びください」「え、僕よりお姉ちゃんじゃないの?」「主従関係はリチャード様の方が上になりますから」「ならぼくのことはリチャードって呼んでほしいよ」「それは……」「構いませんよ、アナスタシア。ただし家族の中だけです」 アナがちょっとこまっていたけど、ばあやからはおゆるしをもらえた。 せっかくともだちになるならあんまり気をつかってほしくない。「分かりました、リチャード」・・・ アナはぼくより5つ上で、なんでも知っていてこまった時はいつも助けてくれる。「アナー」「なんですか、リチャード」「ほんがとれない」「わかりました……、あら、この本は」「アナとおなじほんよみたかったんだ」 そう言うとうっすらと笑って頭をなでてくれた。 お姉ちゃんがいたらこんな感じなんだろうな。「アナスタシアは綺麗ね」「そうだよね」 こんやくしゃ?のジョゼットもほめている。 ちょっとうらやましそうな顔をしているけどジョゼットもとてもかわいいので気にしなくていいと思う。「リチャードも懐きすぎよ」「だって……」「ジョゼット様の言う通りでございます、わたくしよりジョゼット様と仲良くしてください」「大丈夫、アナもジョゼットも大好きだから」「何が大好きなのよ」 アナはジョゼットといっしょにいるといつもこうだ。 話しかけても全然相手してくれないし、いっしょにあそんでもくれない。 しょうらいジョゼットとふうふになったらずっとこんなかんじならいやだな。・・・数年後。 今日は婚約者のジョゼットが来ている。 両親がいたころに決めた相手で、そのころはとても仲が良かった。
「ここ、どこ?」 お父さんとお母さんと馬車にのっていて……。 なんかすごい音がして……。 あれ? 体が動かない。 何かが上にのってるみたいだ。 重たいからどけようとしたけどぜんぜん動かない。「ああー、駄目だ、頭が潰れると駄目なのか」 遠くでだれかが大きな声で話している。 でもまわりに誰もいないような。「失敗したなぁ、とりあえず使役しとけばいいだろうと思ったのに」 大きな何かをなげすてるとこちらに近づいてきた。 よかった、この人におねがいしたら動かしてもらえるかもしれない。 助けて。 あれ? 声が出ない。 なんど声を出そうとしても声が出ない。 どうしたんだろう?「ん? そこにいるのは?」 こちらに近づいてきた。 変なかっこう。 なんかところどころ赤くなったマントなんてカッコわるい。 それになんかくさい。「やあやあやあ、坊ちゃまじゃないですか」 いきなり変な顔をして声をかけてきた。 だれ? 見たことない人だと思うんだけど。「計画変更といこう、ガキに恩を売って援助をもらうか」 何か小さな声でひとりでしゃべってまたはなれていった。 ああ、どっかいっちゃった。 声が出ないから呼び止めることも出来ない。 どうしよう、頭が動かせないからまわりがあんまり見えない。 ぼくの体の上にいったいなにがのっているのかな?「やあやあ、坊ちゃま、こいつが今回の事件の主犯です」 さっきの人がとつぜん目の前に出てきた。 となりには、なわでしばられた男の人がいる。 じけん? しゅはん? ってなんだろう? それに目の前にいるこの人もだれなんだろう?「もう声が出るはずですよ」「え?」 あ、ほんとだ。声が出た。 さっきまでのはなんだったんだろう?「あなたは誰?」「俺は魔術師ですよ、貴方を助けに来たんです」 助けに来た? よく分からないけど助けてもらったならおれいをいわないと。「ありがとうございます」 そう伝えたらまじゅつしさんがスッと目をほそめた。 ちょっとこわかったけどすぐふつうの目に戻ってやさしく声をかけてくれた。「子どもには早いので少し目を閉じてくださいねー」 言われたとおり目をとじる。 すると体にのっていた重いものが動かされた。 ようやく苦しいのが楽になった。「まだまだ目を開けないで下さいね」
「そ、その姿は!?」「え?」「奥様!!」 リチャードとアナが私に抱き着いてきた。 アナの抱きしめる力が強すぎて潰れそう。「戻ってるんだ、君の姿が!!」「え!?」 とっさに鼻に手を当てる。 ……存在する。それに肌に傷もないし弾力も違う。「奥様が骸骨の鎌に切られた瞬間、一瞬で元のお姿に」「よかった、よかったよ」 そう言うとリチャードが大泣きし始めた。 あまりの大声で人が集まってきてしまったのでアナと二人で寝室まで連れ帰る。 しばらくしてようやく落ち着いた後、リチャードが話し始めた。「おそらくリタの言った通りだったんだと思う」「魔術師の契約違反ですか?」「そう、気づくより先に教えてしまったことで契約違反となったんだ」「でもどうして強制執行するだけで魔術師は死ぬことになったのでしょうか?」 そこがいまいちわからない。 強制執行なら生き返らせて終わりのはず。 魔術師が死ぬ理由がない。「おそらく完全な死者蘇生には代償が必要だったのかと」「代償?」「人の命、か」「はい、代償が準備されていなかったので魔術師自身が代償になったのだと思います」 もしそうならたとえ契約を成功させていても代償は自分で用意しろと言われたんじゃないだろうか。 ……リチャードにそんなことをさせなくて本当によかった。 一通り話し終えた所で、リチャードがチラチラとこちらを伺っている。 それを見たアナがため息をつく。「二人とも入浴をお願いします」 リチャードは一人で、私はアナに連れられて入浴させられた。 その時アナが体を見て『よかった……』とつぶやいていたけど、よっぽどひどい状態だったんだろうな。 寝室に戻るとリチャードが飛びついてきた。 まだアナがいるというのにキスを始める。 それを見たアナがまたため息をついて出ていった。「リタ、リタ、リタ」 ついばむように何度もキスする合間に私の名前を呼ぶ。「傷一つない……本当によかった」 泣きながらキスしてくるのは反則ね。 どうすればいいか困ってしまう。「キスした時に気づかれるかと思って普段しないキスにしてたんだ」「そんなに気を遣うならしなければよかったのですよ」「それは嫌だった」 まるで駄々っ子のようなことを言ってキスしてくる。 でもあの時の私は化け物のような顔だった。 そんな私とする
「私は自分が死者だと気づいていなかった」「は? 何言ってる、彼に『私はもう死んだ』と言っていたじゃないか」「『私はもう死んだ"と思って"諦めて』としか言っていない」 ちょっとした言い回しの違い、それは契約においては致命的な違いとなる。 でも魔術師はそれに気づいていない。「その前にも鼻を触っていただろう? 存在しなくなった鼻を」「そう、てっきり事故でなくなったんだと思ってた」 実際はそこで蘇生されたと気づいていた。 でもそれは客観的に証明できない。 だって私は何も言っていないから。「死んだ"と思って諦めて"と言っている時点で死んでいるとは言っていない」「は?」「あなたが答えを教えたから気づいただけ、あなたの契約違反よ」 最初に私が死んだと言ったのは魔術師。 それは変えようのない事実。「言い訳は聞き苦しいよ」「でも今なら契約破棄してあげてもいい」「なるほど、それが目的か」 少し納得した顔をしている魔術師。 契約違反の可能性はある、それは間違いない。 なら私に出来るのは、可能性の話を広げて契約破棄を迫るしかない。「あなたの契約違反ならあなたに罰が下るわよ」「腐った頭で一生懸命考えたようだけど無駄だよ」 強い口調。 魔術師的には確信があるようだ。「貴方の動きはどう見ても死んだと気づいている動きだった」「死者が動くのと大怪我で生き延びたと考えるのとどちらが常識的かしら?」「目がないことに気づいたのに目が見えていることはどう思ったんだ?」「その二つの関連性にまったく気づいてなかった」 これは本当。 あの時そういう発想はまったくなかった。「都合の悪いことは聞いてません、知りません、が通るわけ無いだろう?」「契約は契約よ」「適当に誤魔化してるだけのくせに」 実際に気づいていたのは確かだから、変に無理やり理由付けると矛盾が出る。 口に出したことは絶対。 なら『知らない、分からない』で誤魔化すしかない。 魔術師がため息をついてこちらから視線を切る。 あ、駄目だ、会話が打ち切られた。 魔術師の懐から紙を出す。「強制執行だ!!」 魔術師がそう言った瞬間、私の背後から恐ろしい気配を感じた。 慌てて振り向くとそこには鎌を持ち黒装束を着た骸骨が立っていた。「こいつが出てきたってことは条件を満たしているってこと
事故後に初めて食堂に言った時、リチャードが「事故にあった」「よかった」と言っていた。 あの時のリチャードには驚きと喜びがあった。 私の顔の変化に対する驚きと私が生きていた喜びと考えれば辻褄が合う。 でもこれだけの怪我をしているのに、私に痛みはないのはなぜだろうか? 体を見せない、突然の改築、全身のだるさ、食欲のなさ。 軽く手をつねってみる。 まったく痛みを感じない。 総合的に考えて導き出される結論は……。 そうか、私は事故で死んだのか。 そして何らかの方法で生き返らされた。 ……死者蘇生。 魔術師と呼ばれる存在が使うことが出来る秘術。 死んだものを生き返らせて使役する。 そうやって研究を進める召使いとする。 伝説上の話だと思っていたけどもし私が死んで死者蘇生を受けたのだとしたら……。「リタ、こんな所にいたのかい!?」「奥様!!」 焦った顔をしたリチャードとアナが駆け寄ろうとしてくる。「近寄らないで!!」 顔を隠してしゃがみ込む。 こんな醜い姿を見られたくない。 それに誰かに操られているかもしれない。 もしそれでリチャードを傷つけることになったら後悔してもしきれない。「もう私は昔の私じゃない、あなたに愛される資格なんてない」 あなたの好きだった私はもういない。 このまま誰の目にも触れずに消えてしまいたい。「私はもう死んだと思って諦めて」 そう言った瞬間だった。「はい、その通りーーー」 突然目の前から声がした。 目を開けてそちらを見ると男が立っている。 通路から来た気配も窓から入った気配もなかった。 まるで無から現れたような……。「魔術師殿!?」「やあやあ、一週間ぶりかな、リチャードくん」 リチャードの知り合いのようだ。 でも魔術師? 彼らは深い地下の奥底で研究に勤しんでいることがほとんどで、地上に姿を現すことは少ないと言われている。 ましてや私たちのような小貴族に会いに来るなんてありえない。「契約の条件未達ということで回収に来たんだよ」「待って下さい、まだ」「もう貴方は気づいているよね、貴方は死んだんですよ」 目の前に鏡が現れる。 そこに映ってたのは。「ひっ!?」「それが貴方の姿、周りが隠していた醜い姿」 映る姿が自分だと信じたくなかった。 肌には大きな傷が
「奥様、朝でございますよ」「ううーん」 いつものように頭のある辺りに手を伸ばすと、その手は空を切った。 目を開けて見てみるとそこには誰もいなかった。「あれ? リチャードは?」「旦那様はもう起きて仕事しておられます」 珍しいこともあるものだ。 私と一緒に寝る時はいつも私に抱き着いたまま起こされるのに。 寝顔を見ながら頭をなでるちょっとした楽しみが出来なくて残念。「あ、服着替えないと」「もう着替えは終わっております」 言われて服を見てみるとたしかに寝る前と変わっている。 リチャードが起きた時にアナに伝えてくれたのかな? ただ何か全体的に動きづらく感じる。 いつも着慣れて
「あれ……、私?」「もう朝だよ」「え!?」 目が覚めるとリチャードがベッドの隣の椅子に座っていた。 どうもベッドで横になってそのまま寝入ってしまったらしい。「久々にリタの寝顔を堪能できたよ」 目じりを下げて満面の笑みを浮かべるリチャード。 普段は私の方がリチャードの寝顔を堪能するのに今日は堪能されてしまったらしい。 何か悔しいのでほっぺたをタプタプしておく。「おおお、やへるんだ(やめるんだ)」「恥ずかしい思いをしたからお返しです」 昔より贅肉が増えている気がする。 もう少し運動してもらわないと駄目ね。 ……そういえばしばらく夜の営みをしてないし、今日の夜に誘ってみよ
食堂に入ると予想通りリチャードがそこにいた。「おはようございます、リチャード」「っ、あ、ああ、おはよう」 少し驚いた顔をしている彼が私の旦那様だ。 かなりの小柄で丸顔の太った体。 女性と比べてもさらに小さくて子どものような大きさ。 本人はすごく気にしているけど私はかわいいと思っている。 手にはコップを持っている。 リチャードは朝食前に必ずミルクを飲むのでまだ朝食を済ませていないんだろう。 一緒に食べることが出来ると思い椅子に座ろうとするとリチャードが私を抱きしめた。「リタ……よかった……」 そう言って背伸びして唇を合わせてくる。 なんとなくいつもと唇の感触が違う。
「奥様、もうお時間ですよ」 メイド長のアナスタシアの声で目が覚める。 嫌な夢だった。 体がばらばらに引き裂かれる夢。 手足がちぎれていく感覚はものすごく生々しくて、起きた今でも思い出せる。 思わず体を身震いさせてしまう。「どうされましたか?」「なんでもないの、アナが起こしに来るなんて珍しいわね」「ちょっと事情がございまして」 少し困った表情をしているので何かあったのだろう。 普段ならスフィーナやイリーシャが起こしに来るはずで、わざわざアナが起こしに来る必要なんてない。「それにどうしてこんなに真っ暗なの?」 あまりの暗さで夜かと思ってしまった。 窓を見ると外側から何か







