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6. 逆転

last update 公開日: 2026-06-18 18:03:37

「私は自分が死者だと気づいていなかった」

「は? 何言ってる、彼に『私はもう死んだ』と言っていたじゃないか」

「『私はもう死んだ"と思って"諦めて』としか言っていない」

 ちょっとした言い回しの違い、それは契約においては致命的な違いとなる。

 でも魔術師はそれに気づいていない。

「その前にも鼻を触っていただろう? 存在しなくなった鼻を」

「そう、てっきり事故でなくなったんだと思ってた」

 実際はそこで蘇生されたと気づいていた。

 でもそれは客観的に証明できない。

 だって私は何も言っていないから。

「死んだ"と思って諦めて"と言っている時点で死んでいるとは言っていない」

「は?」

「あなたが答えを教えたから気づいただけ、あなたの契約違反よ」

 最初に私が死んだと言ったのは魔術師。

 それは変えようのない事実。

「言い訳は聞き苦しいよ」

「でも今なら契約破棄してあげてもいい」

「なるほど、それが目的か」

 少し納得した顔をしている魔術師。

 契約違反の可能性はある、それは間違いない。

 なら私に出来るのは、可能性の話を広げて契約破棄を迫るしかない。

「あなたの契約違反ならあなたに罰が下るわよ」

「腐った頭で一生懸命考えたようだけど無駄だよ」

 強い口調。

 魔術師的には確信があるようだ。

「貴方の動きはどう見ても死んだと気づいている動きだった」

「死者が動くのと大怪我で生き延びたと考えるのとどちらが常識的かしら?」

「目がないことに気づいたのに目が見えていることはどう思ったんだ?」

「その二つの関連性にまったく気づいてなかった」

 これは本当。

 あの時そういう発想はまったくなかった。

「都合の悪いことは聞いてません、知りません、が通るわけ無いだろう?」

「契約は契約よ」

「適当に誤魔化してるだけのくせに」

 実際に気づいていたのは確かだから、変に無理やり理由付けると矛盾が出る。

 口に出したことは絶対。

 なら『知らない、分からない』で誤魔化すしかない。

 魔術師がため息をついてこちらから視線を切る。

 あ、駄目だ、会話が打ち切られた。

 魔術師の懐から紙を出す。

「強制執行だ!!」

 魔術師がそう言った瞬間、私の背後から恐ろしい気配を感じた。

 慌てて振り向くとそこには鎌を持ち黒装束を着た骸骨が立っていた。

「こいつが出てきたってことは条件を満たしているってことだ」

 魔術師が勝ち誇った顔をしている。

 ああ、駄目だった……。

 せめて契約破棄だけでもと思ったけど無理だった。

 リチャードを残して逝くのが心残り。

 あの人は私がいなくてもやっていけるだろうか。

 一日一回は私に甘えないと気が済まない人なのに。

 せめて一週間のうちに相手を探しておけばよかった。

 あ、でも屋敷の外にはどうせ出られなかったから無理か。

 骸骨が近づいていた。

 痛いのかな?

 出来れば痛みがないと良いな。

「リタは渡さない!!」

「リチャード!?」

 気がついたら私の前にリチャードが立っていた。

 とっさにリチャードを押しのけようとしたけど力強く踏ん張っていて動かない。

 しかもさらに影が重なった。

「アナ!?」

「お二人をお守りするのがわたくしの役目です」

 だめ、みんな死んじゃう!!

 死ぬのは私だけで十分なのに!!

「……え?」

 もう駄目だと思ったその時だった。

 ················

 え? どういうこと?

 骸骨が向かう先は魔術師の方だ。

「ん? 対象はあっちだぞ?」

 魔術師は骸骨を手で追い払うような仕草をしている。

 けど骸骨はまっすぐ魔術師の方に向かっている。

「は? 何でこっちに?」

 骸骨が鎌を振り上げた。

 暗闇の中で青白く光る刃は幻想的だった。

「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ、俺はちg

 骸骨が鎌を横なぎに振るった瞬間まるで糸が切れたかのように魔術師の動きが止まった。

 骸骨の空いている手には白く光る玉のようなものが握られていた。

 骸骨は無言でこちらに振り向いた後こちらに鎌を振り上げた。

 私も含めて魔術師が攻撃されたことに気をとられていてまったく反応できない。

 そのまま鎌を振り下ろされる。

 契約を破った魔術師の次は契約通り私ということなんだろう。

 ああ、さっきの魔術師みたいに一瞬で死ぬならいいか。

 そう思って目をつぶる。

 けど一向に痛みが来ない。

 もしかして痛みもなしで天国に連れて行ってくれた?

 そう思って目を開けてみるとそこは天国ではなく先ほどと同じ場所だった。

 ただ目の前にいた骸骨の姿はない。

「リタ、大丈夫か!?」

 リチャードが後ろから声をかけてきた。

 やっぱりここは現実の世界……?

「そ、その姿は!?」

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  • どんな姿であっても愛しています   5. 契約

     事故後に初めて食堂に言った時、リチャードが「事故にあった」「よかった」と言っていた。 あの時のリチャードには驚きと喜びがあった。 私の顔の変化に対する驚きと私が生きていた喜びと考えれば辻褄が合う。 でもこれだけの怪我をしているのに、私に痛みはないのはなぜだろうか? 体を見せない、突然の改築、全身のだるさ、食欲のなさ。 軽く手をつねってみる。 まったく痛みを感じない。 総合的に考えて導き出される結論は……。 そうか、私は事故で死んだのか。 そして何らかの方法で生き返らされた。 ……死者蘇生。 魔術師と呼ばれる存在が使うことが出来る秘術。 死んだものを生き返らせて使役する。 そうやって研究を進める召使いとする。 伝説上の話だと思っていたけどもし私が死んで死者蘇生を受けたのだとしたら……。「リタ、こんな所にいたのかい!?」「奥様!!」 焦った顔をしたリチャードとアナが駆け寄ろうとしてくる。「近寄らないで!!」 顔を隠してしゃがみ込む。 こんな醜い姿を見られたくない。 それに誰かに操られているかもしれない。 もしそれでリチャードを傷つけることになったら後悔してもしきれない。「もう私は昔の私じゃない、あなたに愛される資格なんてない」 あなたの好きだった私はもういない。 このまま誰の目にも触れずに消えてしまいたい。「私はもう死んだと思って諦めて」 そう言った瞬間だった。「はい、その通りーーー」 突然目の前から声がした。 目を開けてそちらを見ると男が立っている。 通路から来た気配も窓から入った気配もなかった。 まるで無から現れたような……。「魔術師殿!?」「やあやあ、一週間ぶりかな、リチャードくん」 リチャードの知り合いのようだ。 でも魔術師? 彼らは深い地下の奥底で研究に勤しんでいることがほとんどで、地上に姿を現すことは少ないと言われている。 ましてや私たちのような小貴族に会いに来るなんてありえない。「契約の条件未達ということで回収に来たんだよ」「待って下さい、まだ」「もう貴方は気づいているよね、貴方は死んだんですよ」 目の前に鏡が現れる。 そこに映ってたのは。「ひっ!?」「それが貴方の姿、周りが隠していた醜い姿」 映る姿が自分だと信じたくなかった。 肌には大きな傷が

  • どんな姿であっても愛しています   4. 真実

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  • どんな姿であっても愛しています   3. リチャード

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