LOGIN「愛しているのは君じゃない」 冷たい瞳で、冷たい顔で、冷たい声ではっきりと私に向かってそう告げたのは、将来結婚すると思っていた、私の婚約者である御影 直寛(みかげ なおひろ)。 彼は、お祖父様からの命令で私との交際、婚約に嫌々応じたのだ。 けれど彼の心の中にはずっと初恋の人、速水涼子(はやみ りょうこ)がいた。 それでも、私はいつか直寛が私自身を見てくれると思っていた。 けど、彼からはいつも冷たい態度を取られるばかり…。 そんな日々を送っていた時、彼は私とパーティーに参加していたのに私を置き去りに、涼子の元へ走った。 絶望した私は、お酒を飲み、気づいたら見知らぬ男性と朝を迎えてしまった。 慌てて逃げた私だったけど、その男性がまさか小鳥遊グループの息子だったとは夢にも思わなかった。 その後。 直寛は自分の過ちに気づき、私に許しを乞う。 けれど、私はもう直寛への気持ちは捨て去った。 土下座されても。 愛を伝えられても。 もう私は直寛よりも愛しい人ができたから、あなたはもういらない。
View More外から、言い合うような騒がしい音が聞こえてくる。 「藤堂様、今から侵入者が入ってきます。絶対に近付かないでくださいね」 「……分かりました。……聞こえてくる声は、女性、ですね……若い女性ですか?」 言い争うような騒がしい声が、外から聞こえる。 男の人の声は、警備会社の人だろう。 そして、叫んでいる声は女性──。 だけど、何て喋っているのか、そこまでは私の耳には分からなかった。 私の問いに、警備会社の人は不思議そうにしつつ、口を開く。 「──いえ、侵入者は若い女性ではなく」 その瞬間、玄関が開いて侵入者を捕らえた警備員が入ってきた。 「40代ほどの、中年の女性でした」 「離しなさい、離しなさいよ……!私を捕まえて、どうなるか分かっているの!?」 警備員の人が答えるのと、捕らえられた女性が入ってきたのは同時だった──。 うちに侵入した中年の女性。 その女性には、ある女性の面影がある──。 私には、その女性に見覚えがあった。 お祖父様の書斎にあった、形見。 藤堂の歴史が書かれた日記。 それらに、書かれていた「速水家」の言葉。 やっぱり、藤堂と速水の間には昔何かあったのだ、と分かった。 だから、今の速水家の事を調べたのだ。 現当主、そして涼子の母親。 速水 朱美(はやみ あけみ)の事は、写真を見たから知っている。 だから、うちに侵入した女性が速水家の写真に映っていた「速水 朱美」だと、私はすぐに気が付いた。 「──どうして、速水家の当主夫人が……っ」 私が呟くと、隣にいた苓さんがさっと顔色を変えた。 「──速水、速水と今言いましたか、茉莉花?」 「え、ええ……。写真とは少し……その、容貌が変わっていますが……間違いありません、速水 朱美さんです」 写真に映っていた女性は、柔らかく微笑んでいて若々しかった。 40代後半にしては若々しく、驚いた覚えがある。 だけど今、目の前にいる女性はとてもじゃないけど写真に映っていた女性と同一人物とは思えない。 それほど、やつれて肌はボロボロになり、髪の毛は艶を失っていた──。 だから、苓さんは目の前にいる女性が速水 朱美だと気が付かなかったのかもしれない。 だけど、涼子の面影がある。 だからこそ、私はこの女性が速水 朱美だと分かったのだ。 「──速水、ですか?」 警
「藤堂様」 「──!どうでしたか?」 私の質問に、警備会社の人は表情を緩め、頷いてくれる。 「セキュリティはしっかり作動していますし、施錠もちゃんとされています。母屋より、この家に居た方が暫くは安全でしょう」 「──それは良かったです」 私がほっとして胸を押さえると、苓さんが警備会社の人に話しかける。 「侵入者を検知したとの事でしたが、家の中に入って行くのが分かったのですか?」 苓さんの質問に、警備会社の人は体の向きを変え、苓さんに向き直ると頷いて答えた。 「はい。弊社は防犯カメラを多数設置させていただいております。もちろん裏門にも設置させていただいていて……裏門を乗り越え、藤堂様の母屋に侵入して行く人物を目視で確認しております」 「侵入者は1人、ですか?」 「はい。我々が現場に急行するため、社を出る時までは1人のみです。それ以降、連絡はないので単独犯だと思われます」 「……裕福な家を狙った強盗……、でしょうか?」 苓さんの質問に、警備会社の人は若干言葉に迷いながら答える。 「──いえ、どうもそうは見えなかったのです」 その答えに、私も苓さんも「え?」と疑問の声を上げる。 すると、私たちの疑問に答えてくれた。 「強盗目的ならば、貴金属などを入れる袋や箱を手に持っているはずですし、これほどの敷地に強盗に入るとするなら、単独犯だと考えにくいです」 「なら……我が家に他の目的がある、と考える方が自然ですか?」 「──ええ。それに、侵入者の影は小柄で……恐らく女性だと思います、ので……」 「──!?」 女性、と聞いた私は目を見開く。 苓さんも私と同じ考えに至ったのか、私に顔を向けた。 「茉莉花、もしかしてその侵入者って……!」 「……ええ、もしかしたら速水 涼子、その人かもしれません」 「お2人は、侵入した人物に思い至る人間が?」 警備会社の人に、私が涼子が起こした事件の事を説明しようとした時──。 警備会社の人が持っている無線に知らせが届いた。 「──すみません、少しお待ちください」 手を上げてそう断ると、無線に対応する。 〈侵入者を捕まえた。そちらに連れて行く〉 「分かりました、鍵を開けて待っています」 侵入者捕まった──!? 私と苓さんは勢い良く警備会社の人を見る。 彼はこくり、と頷いてから通信を切
サイレントモードにしているスマホに、通知が届く。 パッ、と一瞬画面が明るくなり、周囲を明るく照らした。 その光が向こう側にいる警備会社の人間にも見えたのだろう。 極力足音を立てないように気をつけながらこちらにやってくる気配がした。 私は素早く通知を確認する。 警備会社の人から、メールが届いていたのだ。 侵入者がいるかもしれない中で、電話をして着信音が流れてしまったら大変な事になる。 それを危惧して、メールでの連絡に切り替えてくれているのだ。 私は素早くメールを打つと、返信した。 メールを送信し終えると、私は苓さんを見上げて話しかける。 「苓さん、警備会社の人がこの家の入口に回ってきてくれるそうです。私たちも鍵を開けて外に出ましょう」 「分かりました」 こくり、と頷いた苓さんと手を繋ぎながら、私たちは家屋の玄関に向かう。 鍵を開けて、外に不審者がいないかしっかり確認してから外に出る。 そして、私と苓さんが外に出てすぐ。 裏手から回ってきた警備会社の人が姿を現した。 「──藤堂様」 「……お世話になっております」 警備会社の人は、3人。 腰には警棒と、催涙スプレーやスタンガンを装備している。 警備会社の人は声を潜め、私に挨拶をすると状況を報告してくれた。 「弊社の警備システムが、侵入者を検知して作動しました。お屋敷の裏門を乗り越えた人物がいるようです」 「裏門を、ですか……?」 「ええ。そのため、我々は今からご自宅内を見回ります。1人護衛のためここに置いて行きますので、この日本家屋から出ないよう、お願いします」 警備会社の人の説明に分かりました、と返事をする。 すると、警備会社の2名は警棒を構え、慎重に歩き出した。 「さあ、藤堂様。中に入ってください。施錠もしっかりとしてくださいね」 「ええ、分かりました」 こくり、と頷き私たちの護衛のために残ってくれた人に促され、私たちは家の中に戻る。 玄関を施錠し、警備会社の人は警棒を手に構え、室内を見回していた。 「こちらの家屋の侵入経路を確認して参ります、ここから動かないでください。何かあれば大声を」 「分かりました」 私が頷いた事を見て、警備会社の人はその場を離れて行く。 出入り出来るような場所を確認しに行くのだろう。 私と苓さんはその場に留まったまま、周
警報音が鳴り響き、私と苓さんはバチリと目を開いた。 「──この音、侵入者に対する警報音ですよね?」 「え、ええ……、そうです……!」 「茉莉花、服を」 ぱっ、と苓さんに服を渡され、私は急いで下着と服を身につけていく。 私が全ての衣服を身につけた時には、既に苓さんは服を着終えていて。 周囲を警戒するように見回していた。 「──この場所は、本邸から死角になっていて、見え辛いはずです。灯りも付けていないので、私と苓さんがここに居る事は誰にもバレていないはず」 「……警備会社の人が来るのに、どれくらいかかりますか?」 「恐らく、10分もかからないと思います」 苓さんの手を私が取ると、ぎゅっと強く握り返してくれる。 私は苓さんに身を寄せ、同じように周囲を警戒する。 幸い、今日は灯りを付けていない。 だから侵入者からも私たちの姿は見えていないだろう。 「……お母様が辛い時に不謹慎ですけど、お母様が入院していて良かったです」 「……確かに。家の中にいたら危険だったかもしれませんね」 私の言葉に、苓さんも頷いてくれる。 お母様は病院にいて、身の安全は保障されている。 お父様も今は出張中だから、この家にはいない。 使用人も最低限の人数しかいない。 それに、今日家にいる使用人は、自分の身は自分で守る事は出来るくらい格闘の腕がある。 この警戒音に気付いて、今は周囲を警戒してくれているだろう。 「茉莉花、俺から絶対に離れないでくださいね」 「分かりました……!」 ひそひそ、と声を落として会話をする私たち。 下手に動いて、物音を立てるより警備会社の人が来るまでの間、ここでじっとしていた方がいいだろう。 私は苓さんに抱き寄せられ、彼の腕に収まりながら周囲を確認する。 縁側があるここは、高い柵に視界を遮られていて、外から中の様子は見えにくい。 それに、外からこちら側に近付くなら、砂利道を踏みしめる足音だって聞こえるだろう。 私が庭側を警戒しているのとは逆に、苓さんは建物側をしっかりと見張ってくれている。 誰か人が入ってくるなら、建物の出入口だ。 私たちは今日、縁側の方面から入ってきたから建物の出入口は施錠されたまま。 鍵だって、私が持っている。 だから開けられ
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