LOGIN久しぶりに付き合った彼氏が、突然消えてしまう。SNSだけでなく、存在ごと消えてしまった。連絡先はネット上のみ。遠距離恋愛をしていた理桜(りお)と彼氏の伊都(いと)の間にはいったい何があったのか。 そのことをひたすら小説として書いていく。頭を整理したくて、今までの行動や言動を振り返っていく。散々迷惑をかけておいて彼氏を見つけるとか……あまりにも自分勝手なんじゃないか、と考えてしまうが、もう既に書く手は止まらない。
View Moreとある春の日、私はパソコンの前でひたすら文章を打ち込んでいた。仕事だからというのもあるけど、好きな小説を書き続けるために向き合っている。
すると、私がいる喫茶店に同じ小説家仲間の先輩、
「
私の向かい側の椅子に座ると、雪菜は嫌にニヤついている。雪菜のウザ絡みにため息をつきながら、文章を打ち込む手は止めない。
「そりゃあ、仕事ですもの。書かないと生活ができないんですよ?」
「それはそうか。ふふ、頑張ってね、先生」
「先生って……恥ずかしいなぁ。まだ違うから。頼むからその呼び方やめて?」
「はいはい」
ニヤニヤしている雪菜を置いておいて、私は気にしないふりを続けた。
私が小説を書くようになったのは、彼氏である伊都が消えてしまったことがきっかけだった。その話をひたすら書いている最中である。
当時は悲しかったけど、今は吹っ切れた……と思いたい。こうして小説にして、言葉にしないとどうにかなりそうな気持ちを発散してる。
「理桜ちゃん」
雪菜の声に、私は顔を上げた。途端に雪菜は、指で涙をぬぐってくれた。
「泣いてると、私、心配になっちゃうよ」
「ごめん。いつもお世話になっちゃってるね」
「そんなことないよ。深くは聞かないけど、今書いてる物語でどうにか発散しようとしてるんだよね?」
「……うん」
「分かるよ、読めば。苦労してるんだなってわかる」
雪菜らしくない真剣な表情に、私の喉がヒュッとなった。緊張が走ったという表現が正しいのかもしれない。
そういえば最近、雪菜が私専用の編集者になると、上に掛け合っているらしい。その事情も、私が今書いている小説の内容に直結しているのだ。あまりにも一人で作業をさせていると可哀想だというのだ。
──そんなことないのに。大袈裟だなぁ。
私は周りの人たちに迷惑をかけまいと生きてきた。でも、それは不可能で。気が付いたら私を応援する人がいたり、非難する人がいたり。その言葉たちに喜んだり、泣いたりして忙しい。
いったいどうすれば迷惑をかけずに生きれるのかを考えるけど、死ぬことしか解決しないんじゃないかと思うこともしばしば。
思わず涙がホロホロと流れて出てくる。雪菜は私の頭を優しく撫でてくれる。
「ごめんね。ちゃんと力になるから」
「謝らないでください。私がその、悪いんですから」
「そんなことないって」
言い合って、泣いて、私たちは親友となった。
だから今、好きなだけ甘えられるんだと思う。歳は関係ないんだなって思った。
私たちが出会ったのは、そう──SNS上だった。私たちが同じアニメ界隈を好きになっていなければ、出会っていないともいえる。それだけ貴重な出会いだったと、今も思う。 気が付いたら彼を追ってて、一緒に通話をする仲になって、楽しくて──。 また話したいなっていう気持ちが溢れては消えていった。それを伝えるのはなかなか難しかったけど、通話に誘うと来てくれるのが嬉しかった。 だからSNSは、私たちにとって出会いの場だった。私は消したくなかったから残してたけど、彼は消えてしまった。遠くに行ってしまった。話せない。もう話せないんだ。 それがどれだけ悲しくたって我慢しなきゃ。だって、彼を見つけても本アカじゃなくて、息抜きの為のアカウントであれば見れるかもしれない。って思ったんだけど、全然見つからない。 本当に消えてしまったんだ。どうしよう。 雪菜さんに連絡して、そして、そして……。ええっと、どうすれば? 息をするのも苦しくなってきた。何度も何度も呼吸を整えながら、私は雪菜さんにメッセージを送る。『いないです。全部消えてました』『本当に? あの子が使いそうなアカウントも?』『無かったです』『マジかぁ』 残念そうな言葉に、私も胸の中にぽかんと穴が開いているような感じがした。本当にいなくなってしまったんだと、私は強く後悔した。 もっと楽しく会話していたらよかったのかな。でも、喧嘩ばっかしていたから、仲直りどころじゃなかったんだもん。どうすればいいんだろう。本当に。『じゃあ、携帯会社に連絡してみるとか……』『でも、営業時間は過ぎてたし』『営業時間が過ぎてるタイミングで出ていったんですか?』『そういうこと』『ええ……? じゃあ、本当にどこに行ったのか分からないじゃないですか』『そうなんだよねぇ。困った弟だよ』 本当に困っているようなのか、即座に連絡が入る。それが心地いい。 伊都とは違う。でも、伊都がいなくなったから雪菜さんと連絡が取れるんだ。複雑だなぁ。 すると、突然、着信音が鳴った。相手は雪菜さんからだ。『もしもし、理桜ちゃん?』「雪菜さん、その、そちらのお母さんとお父さんは……?」『ああ、こっちは全然だよ。それより、理桜ちゃんと一緒に来てほしいところがあったのよ』「来てほしいところ?」『そう』 雪菜さんは一息ついてから、話を続ける。
【理桜Side】 新幹線に乗ると、涙をこらえていた。ひたすら窓の外を眺めながら、意識を風景へと移そうとするが、どうしても伊都のことが頭から離れない。『なんでいるんだよ』 その言葉に、胸がチクリと痛む。どうして……伊都はあんなことを言ったんだろう……? 嫌いになったのかな、好きって言ったのも嘘なのかな……って何度も考えてしまう。恋愛に向いてないなぁ、私。 悲しくなっていると、通知がピコンッと鳴った。 慌ててLINEを開くと、メッセージの相手は伊都だった。何の用だろうか。『理桜に酷いことを言った』『謝らせてほしい。本当にごめん』 伊都が本気で謝ろうとしてる? でも、信用できるだろうか。さっき言った言葉が嘘になると、私はいったい何を信じればいいか分からない。 正直な言葉をそのまま綴ることにした。そして、送信ボタンを押す。『怒るかどうかも心配だったけど、あわよくば喜んでくれると思ってた。でも、なんでいるんだよっていう言葉は傷ついた』『でも、何で伊都も駅にいたの?』 すると、すぐに既読が付いて、返事が返ってきた。『俺も会いに行こうと思ってた。毎日通っていたんだよ、駅に』『たまたま時間が合ったんだよ』 そう言ってくれたから、ほっとした自分がいた。 自分に会いに来てくれると思ってくれているだけでも、だいぶ嬉しいのに。なのに、あんな言い方……。喜んでくれると思ってたのに、ショックだった。 まあ、何も言わずに会いに来た私も悪いけど、なんか、ごめんね?って感じちゃうのが罪悪感に苛《さいな》まれてしまう。『そっか。でも、言い方には気を付けて。私だって傷ついたから』 正直な言葉を、あなたに──。 そしたら、伊都から素直な言葉が返ってきた。『うん、ごめん。分かった、気を付ける』 伊都の言葉に、私は胸を撫でおろした。気を付けるだけでも、私は満足である。 スマホの画面を閉じて、高速で流れていく外の景色を眺める。会いに行くときとは気分は変わっていた。とても穏やかな気持ちになっている。 私はもう伊都から逃れられない。囚われているとも言えるかもしれない。 それでも彼の──元気そうに過ごしている姿を見れただけでも嬉しい。単純な女で本当に申し訳ないんだけどね。これも本音だもの。 嫌なことを言われても、私は強く生きる。そう決めた。 その時だった。「
ただただ立ち尽くしていた私には、誰も声をかけてくれる人はいなくて。だから私はもう帰るしかないのかなって思った。 俯きながら人々の間を通り過ぎようとしたとき、誰かが私の腕を引いた。「ごめんっ」 その声は、雪菜さん? と思って、振り返る。「うちの弟、ちょっとだけ気が立ってて……もしよければ、私と連絡を取らない? 伊都のことで悩んでいると思うから、話くらいは聞けると思うし」「でも、雪菜さんもご両親のことで悩んでいるんじゃないんですか?」「ま、まあ、そうなんだけど、パパとママは……なんていうか、私には興味がないから」 寂し気で空っぽな声でポツポツとつぶやいた雪菜さん。 どんな過去を抱えているのか、とても気になったけど、今はそんなことを聞けるような状況じゃないことは、彼女の表情を見るだけで十分だった。「いっつもパパとママは、伊都の事ばかり心配するの。私には興味が無くて、雑に扱ってくるから……。本当に嫌になるのよ。本当に嫌」「そ、そうなんですね」「うん。ごめんね、私ばっか話しちゃって。それじゃあ、LINE交換しようよ」「いいですよ。私で良ければ、ぜひ」 口角が緩むことなく、私の表情は固くなってたと思う。LINE交換をしていた私にも、雪菜さんは優しく接してくれた。 それでも、なんだか、一気に疲れがやってきた。私はただ伊都に会いたかっただけなのに、雑な態度で避けられた。なにが悪かったの? ねえ、伊都……。「じゃあ、これで」「はい」「また連絡してね。私、あなたの味方だから。出会って早々、何言ってるのか分からないと思うけど……」「大丈夫です。すごく助かります」「そう? じゃあ、またね」「はい、また」 そう言って、私は改札を通ることにした。 伊都からの言葉に、少しだけ涙を流しながら──。【伊都Side】 俺は理桜が改札を通っていくのを、遠目で見ていた。 すると、姉貴が俺の頭を軽く殴る。背が高い姉貴は、俺と同じくらいの172センチ。デカ女なんて言った先には、キレ散らかしてしまう。「アンタの彼女の理桜ちゃん、最後に泣いてたよ」「……」「何したの、あの子に」 正直に言うしかない。姉貴が俺に詰め寄るってことは、理桜から何かを察したからだろう。俺は目をそらして、俯きながら呟く。「既読無視、してただけ」「本当にそれだけ?」 姉貴の鋭
「いない……のは、当たり前か。っていうのも変だけど」 いきなり会いに来たのは悪かったかな。でも、返事がないからどうしようもないじゃんか。もう私ったら嫌な女。 私は周りを見渡しながら、足を進める。ちょうど改札を通り過ぎるまで、一人で歩みを進めていく。それでも誰も私の名前を呼ぶ声は聞こえない。「伊都っ」 ぼそっ、と零れた言葉ですら、届かない。 突然会いに来たことで怒るかな。それとも喜んでくれるのかな。「会いたいなぁ」 突然あふれてきた涙を隠そうと、思わずしゃがみこんだ。 私は一体伊都のなにを見てきたんだろうか。ただ『好き』っていう気持ちだけで暴れる心に収拾がつかなくなったのも事実だ。情けない女だ、私は。「……あれ、理桜?」 その声に驚いて、顔を上げる。ずっと聞きたかった声。大好きな声──。「伊都?」「なんでいるんだよ」「え?」 冷たい言葉を投げられた。その言葉の刃に、私の心がズタズタにされていく。 しかも、伊都の隣には知らない女性。手は繋いでいないけど、女性の目が少し怖かった。なにかを探っているかのような目だ。 すると、パァッと表情を明るくした女性が「アンタの彼女じゃない?」と言ってきた。「ねえ、そうでしょ? 伊都の彼女さん!」「名前は理桜、だから」「理桜ちゃんかぁ! 可愛い名前!」「やめろって姉貴」 ん? 姉貴? きょとんとしている私に、女性はニコニコと笑っている。「私はね、雪菜。伊都の実の姉!」「そゆこと。よろしくな、理桜」 勝手に話を進めていくのは、姉弟だからか。それはいいとして、どうにも話が見えない。伊都が連絡をしてこない理由と繋がってるってこと? 分からない。「待って、話が追い付かないんですが……」「アンタ、説明してないの?」 厳しい目でにらむ雪菜さんに、伊都は目をそらしながら「悪かったって」って言った。何が起きてるんだ? と私は、ひたすら呆然としていた。 伊都はスマホを取り出して、とある記録を見せてくれた。どうやら音声記録らしい。『やめてって何度も言った! 何で伊都はそんなことばかりするの!』 甲高くて痛々しい声が聞こえてきた。これは雪菜さんかな?『俺に指示するな! じゃなきゃ父さんと母さんは、捕まるんだぞ』『私は平気。あの人たちがしたことなんて、最低じゃん』『そうだけど、俺には大切な人が
「俺の事、どう思ってる?」 最初に聞かれた質問は、伊都自身のことだった。 付き合い始めて、まだ半年。お互いに社会人だからか、会える時間は限られている。数時間だけ、ちょっとだけっていうのもある。 電車で何時間もかけて会うことは、いつもの日課だった。 そんな時、彼からの突然の質問に、私は少し首を傾げて、えーっとねと一言加えながら返事をする。「大好きだよ」「そうじゃなくて」「え?」 真剣な眼差しを向けられると、伊都になんていう言葉をかければいいか分からなくなった。「俺の事、本当の意味でどう思ってる?」「本当の意味で?」「うん」 難しい質問をするなぁ。うーん、どうだ
とある春の日、私はパソコンの前でひたすら文章を打ち込んでいた。仕事だからというのもあるけど、好きな小説を書き続けるために向き合っている。 すると、私がいる喫茶店に同じ小説家仲間の先輩、雪菜が入ってきた。私を見つけるなり、カウンターにいる店員に「あの子と同じもの、頼むよ」と言った。その声がある程度まで大きいことは、何となく察してもらうこととして……。「理桜ちゃん、今日もやってんねえ」 私の向かい側の椅子に座ると、雪菜は嫌にニヤついている。雪菜のウザ絡みにため息をつきながら、文章を打ち込む手は止めない。「そりゃあ、仕事ですもの。書かないと生活ができないんですよ?」
会う約束をしようと思い、自分から連絡を入れる。 連絡してねと言っても、彼から連絡が来ることは殆どないからだ。 忙しいからっていう理由もあるんだろうけど、少しくらいは連絡をよこしたっていいじゃん、なんて考えてしまう。 すると、彼から連絡が入った。今度、会う予定のものだ。『ごめん、その日は忙しくて』 ワクワクしていた気持ちが一気に崩れた音がした。『じゃあ、休みの日は? 合わせるよ』『それは分からなくて……ごめん』『大丈夫だよ。分からないなら、しょうがないね』 どういう事なのかと、考え込んだ。 私が悪いことでもしたのかなって思った。それとも浮気? 早くない? だってねぇ、伊
目が覚めて、一度鏡を見る。目の下には隈ができていて、髪はボサボサ。人前に見せられるようなものではないことは確かである。 仕方なく化粧用品を広げて、メイクをする。できるだけナチュラルに、隈がバレないように。その為にも、人気なメイク動画はよく見るし、参考にするようにしている。 まあ、実際に参考にできているかは、さておいて。 メイクが終わると、今度は朝食の準備。一人暮らしだから誰かに作ってもらうこともなければ、誰かが待ってることもない。だからか、適当なものになる。今日は目玉焼きとベーコンで十分か、と思い、朝食を完成させる。「いいねぇ、十分美味しそう」 誰にも届かない言葉。ニコニコして作