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不器用な言葉たちへ
不器用な言葉たちへ
Author: 青芭伊鶴

プロローグ

Author: 青芭伊鶴
last update publish date: 2026-06-22 17:15:21

 とある春の日、私はパソコンの前でひたすら文章を打ち込んでいた。仕事だからというのもあるけど、好きな小説を書き続けるために向き合っている。

 すると、私がいる喫茶店に同じ小説家仲間の先輩、雪菜ゆきなが入ってきた。私を見つけるなり、カウンターにいる店員に「あの子と同じもの、頼むよ」と言った。その声がある程度まで大きいことは、何となく察してもらうこととして……

理桜りおちゃん、今日もやってんねえ」

 私の向かい側の椅子に座ると、雪菜は嫌にニヤついている。雪菜のウザ絡みにため息をつきながら、文章を打ち込む手は止めない。

「そりゃあ、仕事ですもの。書かないと生活ができないんですよ?」

「それはそうか。ふふ、頑張ってね、先生」

「先生って……恥ずかしいなぁ。まだ違うから。頼むからその呼び方やめて?」

「はいはい」

 ニヤニヤしている雪菜を置いておいて、私は気にしないふりを続けた。

 私が小説を書くようになったのは、彼氏である伊都が消えてしまったことがきっかけだった。その話をひたすら書いている最中である。

 当時は悲しかったけど、今は吹っ切れた……と思いたい。こうして小説にして、言葉にしないとどうにかなりそうな気持ちを発散してる。

「理桜ちゃん」

 雪菜の声に、私は顔を上げた。途端に雪菜は、指で涙をぬぐってくれた。

「泣いてると、私、心配になっちゃうよ」

「ごめん。いつもお世話になっちゃってるね」

「そんなことないよ。深くは聞かないけど、今書いてる物語でどうにか発散しようとしてるんだよね?」

……うん」

「分かるよ、読めば。苦労してるんだなってわかる」

 雪菜らしくない真剣な表情に、私の喉がヒュッとなった。緊張が走ったという表現が正しいのかもしれない。

 そういえば最近、雪菜が私専用の編集者になると、上に掛け合っているらしい。その事情も、私が今書いている小説の内容に直結しているのだ。あまりにも一人で作業をさせていると可哀想だというのだ。

 ──そんなことないのに。大袈裟だなぁ。

 私は周りの人たちに迷惑をかけまいと生きてきた。でも、それは不可能で。気が付いたら私を応援する人がいたり、非難する人がいたり。その言葉たちに喜んだり、泣いたりして忙しい。

 いったいどうすれば迷惑をかけずに生きれるのかを考えるけど、死ぬことしか解決しないんじゃないかと思うこともしばしば。

 思わず涙がホロホロと流れて出てくる。雪菜は私の頭を優しく撫でてくれる。

「ごめんね。ちゃんと力になるから」

「謝らないでください。私がその、悪いんですから」

「そんなことないって」

 言い合って、泣いて、私たちは親友となった。

 だから今、好きなだけ甘えられるんだと思う。歳は関係ないんだなって思った。

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  • 不器用な言葉たちへ   第5話-① 記憶を書き起こす

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  • 不器用な言葉たちへ   第3話-② 会えるまで

    「いない……のは、当たり前か。っていうのも変だけど」 いきなり会いに来たのは悪かったかな。でも、返事がないからどうしようもないじゃんか。もう私ったら嫌な女。 私は周りを見渡しながら、足を進める。ちょうど改札を通り過ぎるまで、一人で歩みを進めていく。それでも誰も私の名前を呼ぶ声は聞こえない。「伊都っ」 ぼそっ、と零れた言葉ですら、届かない。 突然会いに来たことで怒るかな。それとも喜んでくれるのかな。「会いたいなぁ」 突然あふれてきた涙を隠そうと、思わずしゃがみこんだ。 私は一体伊都のなにを見てきたんだろうか。ただ『好き』っていう気持ちだけで暴れる心に収拾がつかなくなったのも事実だ。情けない女だ、私は。「……あれ、理桜?」 その声に驚いて、顔を上げる。ずっと聞きたかった声。大好きな声──。「伊都?」「なんでいるんだよ」「え?」 冷たい言葉を投げられた。その言葉の刃に、私の心がズタズタにされていく。 しかも、伊都の隣には知らない女性。手は繋いでいないけど、女性の目が少し怖かった。なにかを探っているかのような目だ。 すると、パァッと表情を明るくした女性が「アンタの彼女じゃない?」と言ってきた。「ねえ、そうでしょ? 伊都の彼女さん!」「名前は理桜、だから」「理桜ちゃんかぁ! 可愛い名前!」「やめろって姉貴」 ん? 姉貴? きょとんとしている私に、女性はニコニコと笑っている。「私はね、雪菜。伊都の実の姉!」「そゆこと。よろしくな、理桜」 勝手に話を進めていくのは、姉弟だからか。それはいいとして、どうにも話が見えない。伊都が連絡をしてこない理由と繋がってるってこと? 分からない。「待って、話が追い付かないんですが……」「アンタ、説明してないの?」 厳しい目でにらむ雪菜さんに、伊都は目をそらしながら「悪かったって」って言った。何が起きてるんだ? と私は、ひたすら呆然としていた。 伊都はスマホを取り出して、とある記録を見せてくれた。どうやら音声記録らしい。『やめてって何度も言った! 何で伊都はそんなことばかりするの!』 甲高くて痛々しい声が聞こえてきた。これは雪菜さんかな?『俺に指示するな! じゃなきゃ父さんと母さんは、捕まるんだぞ』『私は平気。あの人たちがしたことなんて、最低じゃん』『そうだけど、俺には大切な人が

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  • 不器用な言葉たちへ   第2話-① 慣れない感情

     付き合って三日目。 不安が一気に押し寄せてきた。私なんかでいいのかと頭の中が支配されてしまって、どうしようもない。 伊都、伊都、伊都。と、頭の中が好きな人のことばかりになっていた。 声聞きたいという口実で、自分の寂しさを他人で埋めようとしていたのかもしれない。 今思えば、ここから全てが始まっていたのかもしれない。「ごめんね、時間を作らせちゃって」『うん、いいよ。俺もちょうど声聞きたいなって思ってたから』「よかった」 こんな些細な会話。私たちの会話は小さなもので終わってしまう。 会話を広げる努力すらしてこなかったから、どうすればいいかわからなくて。伊都が本当に私なんかを好き

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