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第4話

Author: 春のそよ風
目を丸くして驚く両親。

「うん。海外に行ってくる」

僕は落ち着いた声で、もう一度繰り返した。

「向こうの手配も全部済んでるから。

実は、最先端農業バイオテクノロジー研究所で働けることになったんだ。

待遇も今の職場とは比べものにならないほどいい」

「でも……私たちはもういい歳だし、言葉も分からないわ。

海外なんて見知らぬ土地へ行って、あなたの足手まといにならないかしら?」

母はまだ混乱しているようで、未知の場所に対する不安と心配を露わにしている。

「それに、向こうで住むところは?私たちは何もできない……」

「母さん、その辺はもう考えてあるから」

僕は母に優しく説明した。

「研究所からマンションを提供してもらえるし、みんなで住むのにも十分な広さだよ。

もうリフォームも始めてるから心配しないで。

それに僕たちの国の出身の人もいっぱいいるエリアだから、ゆっくり慣れていけば大丈夫だよ。

だから、言葉で困ることはないと思う」

それでも、バックミラー越しに依然として険しい父の表情が見えた。

父がもっと現実的な問題を心配しているのは、僕も分かっている。

「智樹、海外に行くなんてそんな簡単に決められることじゃないし、お前の仕事も良さそうで、親として喜ばしい限りだ。

だが、母さんも父さんもずっとこの国で暮らしてきて、持ち家だってある。

なのにそんなすぐに行くってなったら、この生活をどうしろと言うんだ?

向こうでは職にもつけないだろうし、お前に頼り切りになってしまう」

「父さん、そのことについても手はずは整えてあるから」

僕は続けた。

「それに、僕の給料で十分すぎるほどの生活が送れる。

だから二人は、ただ少し早めに退職したと思って、のんびり余生を楽しんでくれればいい。経済的な心配はいらないから。

もし帰りたくなったら、いつでも一緒に帰国すればいいしね」

「智樹……もしかしてずいぶんと前から準備していた?」と母が聞いた。

「うん、最初は浩介のビジネスが軌道に乗るまで、配合飼料を提供しようかと思っていたんだけど……

でも、もうその必要もないから」

僕は淡々と答えた。

すると、父が背もたれに深く寄りかかり、溜息をついた。

「分かった」ゆっくりと口を開く父。

「行こう。この老体に鞭打って、海外の暮らしとやらを見てやろうじゃないか!

うちの息子には才覚も賢い頭もある。それ以上に芯の強さがあるからな!

俺たち家族が一緒なら、どこへ行ったってやっていけるさ。智樹、全てお前に任せるぞ」

母も覚悟を決めた父を見やり、それから僕の横顔を見て、最後にはゆっくりと深く頷いた。

「ええ。智樹の言う通りにするわ。

家族一緒に平穏に暮らせるのなら、それが一番の幸せだもんね」

翌日、僕は吉川畜産へ行かなかった。

飼料の補充も途絶えたまま。

吉川畜産では朝から大パニックになっていた。

今までの飼料に慣れきった家畜たちが、通常の餌をまるで受け付けず、全く口にしない。

異変を感じ取り、暴れ始める家畜もいたほどだった。

それでも従業員は右往左往するだけで、手の打ちようがない。

健二は血眼になって智樹の携帯を鳴らしたが、その電話は一向に繋がらなかった。

結局、健二は浩介に泣きついた。

当初、家畜が一時的に不機嫌なだけだろうと楽観視していた浩介は、自信満々に自ら様子を見に行ったが、結局何ひとつ解決策を見いだせなかった。

そこで初めて焦った浩介は、智樹に電話をかけたのだが、やはりその電話が繋がることはない。

暴れる家畜がどんどん増えていき、従業員たちの間にも不穏な空気が渦巻き始める。

さらには納品期限のプレッシャーや、顧客からの催促の電話に、浩介は追い詰められていった。

……

その結果、僕の両親の携帯まで電話が鳴り響くようになった。

里香も探りを入れるように母へ電話をかけてきた。

僕の体調が悪いのか、なぜ様子を見に来ないのか、などと尋ねてくるらしい。

だから、母はあらかじめ僕と打ち合わせた通り、体調不良だ、と伝える。

それからすぐに、宗介からも怒りの電話が母にかかってきた。

「姉さん!智樹くんはどういうつもりなんだよ?俺たちの吉川畜産には、彼がいなきゃ駄目なんだよ!

無責任すぎる!早く智樹くんを仕事に行かせてくれ!」

母は怯むことなく答えた。

「智樹は体調が優れないから、少し休ませるわ。

それに、吉川畜産の社長は浩介くんなんだから、彼が自分で解決すべき問題じゃないの?

智樹はあくまで研究を頼まれていただけで、浩介くんに雇われた従業員じゃない。だから、会社に行く義務なんてないのよ」

電話越しに激昂する宗介をよそに、母は静かに電話を切った。

僕が書斎で渡航の手続きをしている間、携帯は絶え間なく震えていた。

だから僕は、しぶしぶ電話に出ることにした。

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