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5-2

Author: 琉斗六
last update publish date: 2026-06-17 21:00:48

 神谷は、陽翔が企画の提案を出してこないことを、疑問に感じていた。

(救急車の一件で、周囲の目が厳しくなったからな……。よほど力を入れた企画を練ってるんだろうか……?)

 今まで、企画を却下されて、陽翔が折れたことは一度も無い。

 新卒のアルファや、中堅のベータも、陽翔にするような指摘をすれば、たちまち卑屈になるのを、散々見ている。

「神谷くん。朝礼中、失礼するよ」

 朝のミーティングを兼ねた朝礼の途中、課長がオフィスに顔を出す。

「なんでしょう?」

 課長は皆を集めたまま、神谷の隣に立った。

 そして、なぜか陽翔に目配せをし、それに従うように陽翔も前へと進み出る。

「突然だが、今月いっぱいでこちらの小泉陽翔くんが退職することになった」

 神谷にとって、それは青天の霹靂だった。

 だが、課長は神谷の様子に気付きもせずに、言葉を続ける。

「引き継ぎは既に、あ〜&hellip

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  • 呼吸が出来る場所   11-2

     リノベーションを依頼された家は、郊外にある平屋建ての古風な家屋だった。「うわ、立派な家だなぁ」「アルファなら、これぐらいのお家が建てられるお年頃のカップルだからね」「そうなんですか?」「定年退職を期にリノベーションって言ったでしょ? 経済が活性化して、働けばお金になる時代に働き盛りだった人だよ。ちょっと目端の利くアルファなら、そんな時代が長く続かないことを見越して、ちゃんと人生計画してたんじゃない?」 インターホンを押すと、小柄な男性が出迎えに出てくる。 首に巻かれたチョーカーに、オメガだと気付いた。(アルファオメガのつがいカップルだったんだ! てっきりベータのご夫妻だと思ってた……) 陽翔は驚きを隠すように、深々とお辞儀をして誤魔化す。「お待ちしておりました、どうぞ」 どやどやと入っていく金山たちを通し、陽翔は大和の裾を引いた。「あの、つがいカップルのかただったんですか?」「片山茂さんと、隆志さんってお名前だったでしょ? 見なかった?」「あ……、苗字しか確認してなかった……」「ふふ、気をつけてね」 笑って、大和は先に行ってしまう。 慌てて陽翔は、後を追った。 実際に家具を運び出す金山たちは、アルファの茂氏に案内され── 方向性を話し合う陽翔と大和は、庭の見える和室へと通された。「あの、パートナーの方はご一緒されなくて良いんですか?」「大丈夫です。リノベーションの決定権は、僕にありますから」 相応の年輪が刻まれているが、隆志は上品で綺麗なオメガ男性だ。「綺麗なお庭ですね」「どうしても実のなる木が植えたいと言って、りんごにしたんです」「りんごの花って、白くて綺麗ですよね。……えっと、このお部屋。今は客間のようですが、お客様が多いんですか?」「うちの亭主が現役だった頃は、頻繁に部下を連れ帰ったりしましたけど。今後は

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  • 呼吸が出来る場所   9-2

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     手の中の封筒を、陽翔はぽいとデスクの引き出しの中に放り込んだ。(自分のほうが給料がいいからって、弁償しますってか?) 立ち上がったパソコンの画面を見ると、あの晩にたたき台の形になった草案が表示された。(休んでる間に、この企画は進んじゃったんだよな。くそ、また一から考え直しか……) 陽翔はファイルをゴミ箱に入れた。 なにもかもがリセットされてしまったが、ここでくじけては神谷どころか、周囲の同僚からの蔑みは消えないのだ。 心の中の雑念を払い、新たなファイルを作る。

  • 呼吸が出来る場所   3-1

     神谷の予想通り、社屋に救急車が横付けされた件は、すぐにも社内で噂になった。 あの警備員が喋ったとは思わないが、残業をしていた者は神谷と陽翔だけではない。 オメガがヒートを起こせば、気付かないアルファなどいないだろう。 残っていた者の中には、体調不良を訴えた者もいる。 即座に上から〝オメガに無理な残業をさせないこと〟と命が下り、救急車騒ぎを知らない社員まで、ヒート事案が発生したことを知った。 さらに、陽翔が数日休んだことで、ヒートを起こしたオメガが誰かは、言わずもがなで皆の知るところとなった。「おはようござい

  • 呼吸が出来る場所   2-2

     警備員と共に救急車を見送ったあと、神谷は身支度を整えて帰宅の途に付いた。 残業をしていたのは、仕事があったから……ではない。 陽翔が残っているのに気付いたからだ。 神谷が初めて陽翔に会ったのは、入社前の面接時だった。 可愛らしい面立ちと、小柄な体格。 なにより、うなじをガードするために巻かれたチョーカーを見れば、陽翔がオメガであることは一目瞭然だった。 同期にオメガがいたことに驚きもあったが、その時はさほど気に留めてはいなかった。(オメガとつがえないアルファは、数多にいるものだしな) 人口比率として、それは当たり前の話だ。 そもそも合理主義の神谷は、〝本能に引きずられる〟

  • 呼吸が出来る場所   2-1

     セーフエリアを出た神谷は、洗面所に行って頭から水を被った。 オメガのフェロモンの香りに、目の奥底がガンガンするほど本能が揺すられている。「大丈夫ですか……?」 洗面所を出たところで、警備室にいた警備員が声を掛けてきた。「ええ、大丈夫です」「今、救急車を呼んだので、すぐに来ると思いますよ」「えっ?!」「オメガ性の方が突発ヒートを起こした時の手順です。セーフエリアの確保、避難後にセーフエリアの施錠と、救急車を呼ぶまでがセットですから」 警備員は、マニュアル通りに動いた。 それは間違っていない。 だが、ここで救急車を呼ばれては、陽翔の体裁は傷つく。「タオル、お貸ししましょう

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