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3-2

Author: 琉斗六
last update publish date: 2026-06-13 21:00:36

 手の中の封筒を、陽翔はぽいとデスクの引き出しの中に放り込んだ。

(自分のほうが給料がいいからって、弁償しますってか?)

 立ち上がったパソコンの画面を見ると、あの晩にたたき台の形になった草案が表示された。

(休んでる間に、この企画は進んじゃったんだよな。くそ、また一から考え直しか……)

 陽翔はファイルをゴミ箱に入れた。

 なにもかもがリセットされてしまったが、ここでくじけては神谷どころか、周囲の同僚からの蔑みは消えないのだ。

 心の中の雑念を払い、新たなファイルを作る。

(なんでオメガには、ヒートなんて面倒なものがあるんだろう)

 病院のベッドで、理性が戻ったのは二日も経ったあとだった。

 のぼせてはいてもなんとか家に帰れる程度になったところで、退院の手続きをした。

 ヒート中のオメガは、否応なしに個室にされるから、入院費用が必要以上に嵩む。

(休めていいねなんて言われる筋合い、こっちには毛の筋ほどもないんだぞ……)

 神谷のデスクから自席に戻った時から、ヒソヒソと後ろ指をさされているのは知っている。

 差し出された封筒を受け取ったことを揶揄する声や、拒否した態度が失礼だと批難する声。

(全部、聞こえてるつーの。てか、当てこすりかよ……)

 同僚たちを無視して、陽翔は画面に集中した。

「おい、小泉」

 声を掛けられ、陽翔は振り返った。

 そこには、帰り支度を済ませた神谷が立っている。

(えっ、もうそんな時間?)

 ぎょっとなったが、時計を見るまでもなく、窓の外は夕暮れだ。

「なんですか?」

「今日も残業か?」

「そちらはお帰りですか。お疲れ様」

 陽翔は視線をパソコン画面に戻した。

 背後で、ふうっと聞こえよがしの溜息が聞こえる。

「さっさと帰れ」

「ちゃんと就業規則内に収めてますが、なにか?」

「また突発ヒート起こすなよ」

 カチンと来て、一言言い返そうと振り返った時には、神谷は既にオフィスの外に出ていったあとだった。

(ふざけんな傲慢アルファ野郎! おまえが僕のストレス源だ!)

 ようやく払った雑念が、割増しで戻ってくる。

 陽翔は気分転換をするために、席を立った。

「なあ、あいつ、今日も残業?」

 自販機が置かれた休憩スペースには、鉢植えなどが置かれている。

 まだ顔が見えない位置で、聞き覚えのある同僚の声が聞こえた。

 思わず、陽翔は足を止める。

「わざわざ神谷さんが声掛けまでしてたのに、帰らないとかさ」

「残業して、ヒートして一週間休むんじゃ、しわ寄せもたまんないって。そう思いません? 長野さん」

「本人だって、したくてヒートしたわけじゃないでしょ?」

「どーですかねぇ? 神谷さんも残業してたんでしょう? 存外、狙ってやったんじゃないんですか?」

「なんで選りに選って、ウチにいるかなぁ……」

「仕方ないよ。会社もオメガ雇ってると、優遇措置あるらしいじゃん」

「大した仕事もしないで、給料泥棒だよなぁ……」

「さっさとつがって、子作りでもすりゃいいのに」

 陽翔は、オフィスに戻った。

 自分のデスクに駆け寄り、パソコンをシャットダウンして、帰り支度をする。

 なにかを、反論する気力も起きなかった。

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