Masuk心から無条件に味方されること、大切にされることを、嫌だと思う人間がいるだろうか。星の心がじんと温かくなり、無意識に仁志の手を握り返した。八時間後、飛行機はX国の空港に着陸した。二人は一緒に宿泊先のホテルへ向かった。部屋はオーシャンビュースイート。窓を開ければ海が見える。この上なくロマンチックだった。ホテルに着くと、星は窓を開けた。海から吹き込む風が頬を撫で、心地よかった。星は窓辺に立ち、目を閉じて海風を全身に浴びていた。突然、背後から抱きしめられた。続いて、仁志がそっとキスを落とした。星は目を開け、左右に顔をよけながら注意した。「変なことしないで。今夜はナイトマーケットに行くんだから」仁志の声は低くかすれ、どこか艶っぽい響きを帯びていた。「ああ、しないよ」口ではそう言いながら、手は一向に止まらない。星がどれだけ身をよじって逃げ、何度警告しても、彼女を隅々まで味わう気の男に敵うはずがなかった。……夜もすっかり更け、星が目を覚ました時には、もうかなり遅い時間になっていた。星ははっと思い出し、がばっと起き上がった。携帯で時間を確認すると、ナイトマーケットに行く時間はとっくに過ぎていた。グラスに入ったフルーツジュースが差し出された。星は顔を上げてちらりと見たが、顔を背けて受け取ろうとしなかった。ナイトマーケットに行けなかっただけならまだしも、仁志は彼女の体中にいくつものキスマークまで残していた。X国のような海沿いの都市は気候が暑いのに、これでは半袖すら着られない。仁志を気遣うあまり、星は何度も譲歩してきた。その結果、仁志はまったく自制しなくなった。星は言った。「この数日は別の部屋で寝て。私と一緒に寝るのは禁止よ」仁志はジュースをテーブルに置き、低い声で言った。「お前は毎晩俺を抱いてないと眠れないだろう。俺が別の部屋で寝て、お前が眠れなくなったらどうする?」星は顔を背けた。「あなたがそばにいて、よく眠れたことがあった?」仁志は笑い、低い声にどこか艶っぽい響きを滲ませた。「星、今のは俺を誘ってるのか?」星は反射的に言った。「誘うまでもないでしょう。チャンスさえあれば、あなたは勝手に……」笑みを宿した仁志の深い瞳と目が合い、星は失言に気づいて口を閉じた。
「放せ……早く放せ……」堅真は痛みで声が裏返っていた。仁志は堅真の手首を掴んだまま、その頬に容赦なく平手打ちを数発叩き込んだ。手を放した後、仁志は傍らのウェットティッシュを取り、ゆっくりと自分の手を拭いた。堅真は顔を青ざめさせ、手首を何度か回した。痛みが少し引くと、堅真は顔を上げた。狼のように凶悪な眼差しを仁志に据えた。その瞳の奥で、不気味な光が揺れていた。仁志は淡々と言った。「彼女を侮辱する言葉をもう一言でも吐いたら、平手打ちでは済まない」新婚間もない二人だ。ハネムーン初日に血を見たくはなかった。旅の気分を台無しにしたくない。しかし、これほどの屈辱を受けた堅真の目には、冷酷で恐ろしい光が閃いていた。次の瞬間、堅真はどこからともなくナイフを取り出し、星に突き刺そうとした。星の隣にいる男は厄介だと、堅真はすでに気づいていた。どうせ狙うなら、弱そうな相手からだ。まずこの女を痛い目に遭わせ、思い知らせてやる。しかし、間合いに入る前に、仁志が堅真の手首を掴んだ。堅真の顔に怒りが走り、矛先を仁志に変えようとした瞬間――手首の骨が乾いた音を立てた。何が起きたのか理解する間もなく、手から完全に力が抜け、手首が不自然な角度に曲がっていた。ナイフが手から滑り落ち、清潔なカーペットの上に転がった。鋭い刃が、きらりと光を反射した。周囲が一瞬で静まり返った。星は仁志を見た。「仁志、大丈夫?」仁志は淡々と答えた。「大丈夫だ」星は少し心配で、仁志の手を引き寄せて念入りに確認した。本当に怪我がないと分かってから、ようやく安堵した。その時、物音を聞きつけた客室乗務員が駆けつけた。「何かお困りですか?」星は冷たく堅真を一瞥した。「この男は機内にナイフを持ち込み、人を刺そうとしました」客室乗務員が振り返ると、確かに床にナイフが転がっていた。堅真は機内の保安要員に連行された。美夕も一緒に、事情聴取のため連れて行かれた。堅真がいなくなり、ファーストクラスにようやく静寂が戻った。星と仁志はこれまで数え切れないほどの苦難を乗り越えてきた。この程度のことは取るに足らない。だが、さっきあの男が仁志を嘲笑していた言葉を思い出すと、やはり胸が詰まった。仁志の傷痕は、実際かなり薄くなっていた。だが薬の
しかし今、さっきまでおとなしそうだった星が豹変した。その目には恐ろしいほどの怒気が宿り、全身から凛とした気迫が放たれている。人の上に立つ者の威厳が、自然と滲み出ていた。美夕は本能的に堅真の背後に隠れた。「堅真、あの人すごく怖い……」堅真は一瞬呆気に取られたが、すぐに我に返り、美夕を自分の後ろに引いて、目に険しい光を宿した。「クソ女、誰に向かって口きいてんだ!」星は怖じる様子など微塵もない。「口が悪いなら舌を切ればいい。耳が悪いなら病院で診てもらいなさい」堅真はこんなに堂々とした女に会ったことがなかった。「テメェ、ぶっ飛ばされてぇのか!」星の目が冷たく光った。「あなたとあなたの彼女が、今すぐこの人に謝れば、この件は終わりにしてあげる。もし謝らないなら……」堅真は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。「謝らなかったらどうするってんだ?」パンッ!言い終わる間もなく、平手打ちが堅真の頬に叩きつけられた。堅真も美夕も固まった。まさか星が一言の予告もなく、いきなり手を上げるとは。堅真は激怒し、星を指差して罵った。「このアマ、よくも俺を殴りやがったな!」星は冷笑した。「殴られて当然のクズを殴っただけ」体格のいい男の前に立つ星は、とても小柄に見えた。しかし、その顔に退きの色はなく、凛とした気迫で堅真を完全に圧倒していた。平手打ちを食らった堅真が黙っているはずがない。数歩踏み出し、拳を振り上げて星を殴ろうとした。冗談じゃない。男の自分が、こんな女一人に怯むわけがない。彼の価値観に、女に手を出さないという概念はない。女だろうが、自分に手を出したなら容赦なく殴る。星は男の拳が迫るのを見ても、顔色ひとつ変えなかった。今の彼女の実力なら、この程度のチンピラは問題ない。しかし、星が動くより先に、堅真の腕は振り下ろされる途中で掴まれた。星はわずかに眉を動かし、傍らに目を向けた。すらりと背の高い端整な男が彼女の前に立ちはだかり、堅真の手首を掴んでいた。堅真は一瞬呆然とした。ずっと黙っていたヘタレ男か。堅真は仁志ほど背が高くないが、体格はがっしりしていて、見るからに屈強だ。対して仁志は長身で細身なため、どこか華奢にすら見えた。以前、他人と揉めた時も、この体格で相手を威圧して追い払ってきた。
美夕は口を覆った。「もし本当にそうだとしたら……元はどれだけ醜いの?」「あの手を見たか?整形する前の顔も、あの手と同じような状態だったってことだ。怖くないか?」「きゃっ!」女が悲鳴を上げた。「それって相当気持ち悪くない?さっき見たけど、手の傷痕がミミズみたいで……」男は前方を指した。「首の後ろにもあるぞ……」美夕は目を見開いた。「本当?」「嘘だと思うなら見てみろよ」「うわ、本当だ……ひどい傷痕。あの顔と並ぶと……確かに違和感があるよね。想像もできない。もし顔まであの傷痕と同じだったら、見た人はみんな腰を抜かしちゃうんじゃない?そう考えると、整形したのはいいことかもね。じゃないと、見た人がショックで倒れちゃうもの」「ああいう人は正直、家にいたほうがいいよ。わざわざ出歩くことないだろ?人を驚かせたら責任取れるのか?」後ろのカップルはあれこれ言い合い、時に驚きの声を上げ、時にくすくす笑う。星はそれを聞いて、目の奥に嫌悪の色が浮かんだ。仁志は表情ひとつ変えず、将棋盤を見つめていた。整った顔には何の感情も浮かばず、まつげひとつ動かさない。まるで何も聞こえていないかのようだった。しかし、この二人はどんどんエスカレートしていった。「堅真、さっき言ってた……あの傷痕は火傷でできたの?」「ああ、ああいう傷痕は見たことがある」「なんで火傷したんだろう?もしかして顔も焼けて醜く変わったから、今の顔に整形したとか?元はどんな顔だったのかな」「ろくな顔じゃないだろ」男が馬鹿にしたように笑った。「しかも考えてみろよ……何もしていないのに、あんなひどい火傷を負うと思うか?俺の推測だと……何か悪いことをしてバチが当たったんじゃないか」「きゃっ!」美夕がまた声を上げた。「もしかしてテレビに出てくるような殺人犯とか?だったら私たち、殺人犯と同じ飛行機に乗ってるってこと……?」「まさか。殺人犯だったらとっくに警察に捕まってるだろ」「じゃあ、火傷を負ったのは……何か悪いことをしたから?」「そうだよ。神様は公平だからな。悪い奴には報いがある。考えてみろ、お前も火傷してない、俺も火傷してない。なのにあいつだけ焼けてる……おかしいだろ?俺に言わせりゃ、あいつが焼けたのは当然の報い、自業自得――」ゴンッ!何かが前方から飛んでき
「中にはさ、見た目だけは立派でも、服の下がどれだけひどいか分からない人間もいるんだよ」男は美夕に目配せした。美夕は堅真の視線を追った。ぱっと目を見開き、小さく息を呑んだ。ようやく仁志の体の火傷痕に気づいたのだ。男はそれを見て、得意そうな表情を浮かべた。「美夕、人は見た目だけで判断しちゃいけないんだよ。一見まともな顔でも、整形で作ったものかもしれない。今は技術が進んでるから、どんな醜い男だって王子様みたいな顔に変えられるんだぞ」さっきまでうっとりしていた美夕も、たちまち怯えた表情を浮かべた。「そう言われると……本当に怖いかも」「美夕、この世界はお前が思ってるほど綺麗じゃないんだよ。お前は純粋すぎて、世の中はみんないい人だと思ってる」「やだぁ、堅真、もうやめてよ。十分怖いんだから」男はすかさず女を腕に抱いて慰めた。「はいはい、大丈夫、俺がいるだろ」「うん、堅真がいてくれてよかった」二人の会話を聞いて、星の眉間にかすかな皺が寄った。星の感情を察したのか、仁志は彼女の手を握った。「あいつらの言葉なんか気にしないし、怒りもしない。この世界で、俺を嫌う人間はあいつらが最初でもなければ、最後でもない。こんな些細なことでいちいち怒っていたら、俺に恨みを持つ連中は他に何もする必要がない。毎日人を雇って俺の前で悪口を言わせるだけで、俺を怒らせて発狂させられることになる」星は視線を戻し、何も言わなかった。普段なら、他人に何を言われようと気にしない。だが仁志のことをこんなふうに言われると、聞いていて不快だった。特に、彼の火傷を持ち出していることが、たまらなく不快だった。ハネムーンなのだから、あんな不快な二人のせいで気分を損ないたくなかった。駒を持ち、将棋を続けた。しかし、まだ数手も指さないうちに、後ろの男女の声がまた聞こえてきた。「えっ、堅真、じゃあ……あの人って、実はすごく醜いってこと?」男は言った。「俺の勝手な推測じゃない。さっきお前も見ただろ?手の甲にも首にも傷痕があっただろ……夏でも肌を出せないだろうな」「傷痕があるのは、ほんの一部だけかもしれないじゃない?」「そんなわけあるか?俺が思うに……手の傷まではまだ消しきれてなくて、それでバレたんだよ。もし全身をすっかりきれいに
彩香を見送った後、星と仁志は民間旅客機でハネムーンに出発した。ここ数年、星が旅行に出かけることはあまりなかった。仁志も以前は色々な場所に行ったことがあるが、観光したことはほとんどない。今回、二人の最初の目的地はX国に決めた。X国は観光業の盛んな国で、星たちと同じ言葉を話す人も多い。街も清潔で美しく、ハネムーンにはぴったりだった。荷物を預けた後、星と仁志は一緒に機内へ乗り込んだ。プライベートジェットではないが、静かに過ごしたいので、ファーストクラスのチケットを取っていた。星と仁志の後ろの席にも、カップルが座っていた。搭乗してからずっとイチャイチャしている。やがて後ろの女が甘えた声でトイレに行きたいと言い、男がすぐに立ち上がって付き添った。仁志の横を通りかかった時、機体が気流に巻き込まれ、突然大きく揺れた。女は不意を突かれ、仁志の方へ倒れかけた。仁志はさっと手を伸ばし、彼女を支えた。他人にぶつかりそうになり、女も少し気まずそうだった。慌てて礼を言う。「さっきはありがとうございます……」しかし、仁志の顔を見た瞬間、女は一瞬固まり、思わず見惚れた。なんて端整な男性だろう。雰囲気まで気品に溢れている。星は女の表情をちらりと見て、淡々と視線を戻した。仁志を見た女性たちのこうした反応には、星ももう慣れていた。仁志がまだボディガードだった頃から、大金を積んで囲おうとする富裕層の女性は少なくなかった。中には、体の関係はなくても、そばに置けるだけでいいとまで条件を下げる者もいた。この時、女の隣の男も体勢を立て直し、慌てて尋ねた。「美夕、大丈夫?」「う、うん……」白河美夕(しらかわ みゆ)と呼ばれた若い女は、男に返事をしながらも、目は仁志に釘付けだった。隣の男がそれに気づき、振り返って仁志を一瞥した。男の目に冷たい敵意が走り、仁志を見る目つきが険しくなった。仁志は星と将棋を指しており、二人を相手にする気もなく、振り返って星に言った。「星、お前の番だ」星は我に返った。「うん」そう言って、彼女ももう二人のことは気にしなかった。男は彼女の手を引いた。「美夕、トイレ行くんじゃなかったのか?」女はようやく名残惜しそうに離れ、歩きながら言った。「さっきの男の人、すごくかっこよかった







