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مؤلف: 酔夫人
last update تاريخ النشر: 2025-11-20 19:00:46

「瘴気がまだこんなに残っているなんて」

アレックスの体にはったガーゼをレティーシャが慎重にはがすと、黒く染まったガーゼに付着していた腐った血肉がどろりと滴った。

ガーゼから、アレックスから剥がされたため次の宿主を探すように立ちのぼる瘴気。

黒い瘴気は、ガーゼをもつレティーシャの華奢な手にまとわりつく。

その不気味な光景に騎士団長は眉を顰めたが、レティーシャは冷静にそれを観察する。

(呪われた、ですか)

アレックスのこの状況を、ラシャータが「呪われた」と言ったことをレティーシャは理解した。

アレックスがいまもこうして床に伏している原因は、魔物の“瘴気”であって“呪い”ではない。

しかし瘴気の禍々しさ、しつこくて粘着的なこれは、確かに呪いのように見える。

(やはり、瘴気に意思があるように見える。まるで、魔物の怨念のようだわ)

通常の瘴気は、宿主とした魔物が死ぬと体内から出てきて、自然の循環システムに従って魔素へと分解される。

しかし、アレックスの体から出てきた瘴気は循環システムに抗い、レティーシャの腕に絡まり、レティーシャの体内に入り込もうとする。

その侵食してくるような動きに、レティーシャは気味の悪さを感じるけれど、慣れてもきた。

「ぐううっ」

アレックスが呻き、アレックスの肌に水疱が現れ始める。

アレックスの体の中で、アレックスの火魔法が暴発している症状。

「……え?」

レティーシャが治癒力を強めた瞬間、レティーシャが持っていたガーゼから瘴気が勢いよく吹き出てレティーシャに向かっていった。

「ラシャータ様っ!」

レティーシャは浄化魔法を起動して、瘴気を浄化した。

「大丈夫ですかっ?」

「ええ……でも、急に、なぜ……」

(治癒力を使っただけ……治癒力……魔法?)

「騎士団長様、ガーゼを持っていてくださいますか?」

「え、ええ……」

レティーシャは治癒力を使う。

騎士団長が持っていたガーゼが揺れて、瘴気がレティーシャのほうに向かおうとした。

(では、浄化魔法なら?)

レティーシャが浄化魔法を使うと、また瘴気がレティーシャのほうに向かおうとした。

何度か、確認をする。

「これは、一体……」

ガーゼを持っている騎士団長には、瘴気は向かっていない。

「騎士団長様、魔法は使えますか?」

「水魔法でしたら」

「使ってみていただけますか? そこの盥に水を入れてみてください」

「はい、分かりました」

「その際、瘴気が向かっていくと思われますのでご注意ください」

「……分かりました」

レティーシャの予想通り、騎士団長が水魔法を起動すると同時に瘴気がそちらに向かった。

「魔力に、反応しているのでしょうか」

「そう、かもしれませんね」

(治癒力が、うまく巡らない感じは……もしかして、瘴気かしら)

巡らそうとしたとき、その力が何かに阻まれることには気づいていた。

(それなら……)

レティーシャはいつも、最も肌が焼けてしまっているアレックスの胸に手を当てて治癒魔法を使っていたが、今回は肩に手を触れて治癒魔法を使ってみる。

そして、いつも通り、また胸に手を当てて治癒魔法を使ってみる。

いつもは阻害場所は同じだったのに、今回は僅かにその位置がずれた。

そして……。

(ズルズルとこちらに近づく感じ……まるで、虫みたい……“虫”)

今まで、伯爵家の裏山にある山小屋に住んでいたレティーシャ。

虫が出てくるのは、日常茶飯事。

レティーシャにとって虫の退治は、“踏み潰す”か“叩き潰す”の二択。

攻撃手段が手か足かの違いで、やることは“潰す”。

「騎士団長様、閣下の体内に瘴気が塊のようなものがあり、虫のように閣下の体内で動いています」

「なんと!」

「なので、引っ張り出して叩き潰そうと思います」

「“引っ張り出す”……意外と物理的な方法ですね」

「治癒の力は、治すに特化しているため、攻撃はできませんもの」

騎士団長は、自分の腰にさした剣を見た。

「分かりました。引っ張り出されたあとは、私がこの剣で叩き伏せましょう」

虫のようになっているだけで、“虫”ではない。

しかし、一度ついた“虫”のイメージのまま騎士団長は宣言した。

「閣下の枕元に、新聞紙を細く丸めたものでも置いておいてくだされば、私が叩き潰しますわ」

そして、レティーシャの、虫も殺さぬ見た目は、見た目だけだった。

「……いや、落ち着きましょう。虫ではないのですよね」

「そうですね、瘴気です。魔力に反応して、虫のように動いているだけです」

「瘴気が、動く……」

騎士団長が聞いたことのない現象だが、その現象は先ほど見た。

見た以上、否定はできない。

「団長様は『魔物はこうして生まれる(第三版)』をお読みになりましたか?」

レティーシャの言葉に、騎士団長は怪訝な顔をする。

「ずいぶんと古い版をお読みになりましたね。私が子どものときで、すでに第八版でしたよ」

レティーシャは、ラシャータのように教師をつけてもらえなかった。

独学で身に着けろと言わんばかりの父伯爵から、出入りを許された古びた書庫。

そこにある書物や歴代の当主や聖女たちの手記をレティーシャは読み、治癒力を身につけた。

「あれはずいぶんと古い本だったのですね……どうしましょう……」

「基本的な情報は変わらないでしょうから、気づいたことを教えてください」

騎士団長の励ましに、レティーシャは頷く。

「このままでは、閣下は魔物になるかもしれませんわ」

「そうですか。閣下が魔物に……はああ!?」

仰天する騎士団長に、レティーシャは冷静に頷く。

「閣下が魔物になるだけでも問題なのに……上級……」

そうなったら王都は火の海。

いや、王都だけですめば御の字で、下手をしたら……それを想像した騎士団長の顔が青くなった。

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