Se connecter研究室に入ってきた後輩が、大事な実験用のサンプルをダメにしてしまった。 そのせいで私は論文の提出ができなくなり、留学のチャンスもなくなった。 3年間頑張ってきたのに、全部水の泡。もう何も残ってない。 腹が立って、警察を呼んでやろうかと思った。 なのに私の婚約者は、その後輩をかばって私を責めたんだ。 「たかが実験くらいで、そんなにいちいち気にするなよ」 私はうなずいて言った。 「ええ、そうね。あなたの全身性エリテマトーデスを治せるかもしれなかったサンプルってだけだもん。確かに気にすることじゃないわよね」 彼は、その場で凍りついた。
Voir plus何度か手術をしたものの、智也の容態は日に日に悪化していった。彼は私に会いたがって、何度か電話をかけてきたけれど、私は出なかった。ついに智也の母親まで訪ねてきて、泣きながら私にお願いしたから、私はやっと彼の病室へ向かった。ベッドに横たわる智也は、以前より随分やつれているように見えた。それでも、私を見た瞬間、彼の目にぱっと光が差した。「由理恵、お前が助けに来てくれるって、信じてた。一度あの実験を成功させたんだ。だから、もう一度できるよな……俺はまだ、助かるんだよな……」智也の目をまっすぐ見て、本当は言いたくなかったけど、私は事実を告げた。「もう二度と成功しないわ。智也、あなたと離れた後にも、私はあの実験を何度も試したわ。でも、一度だって成功しなかった。何万回と繰り返したのに、成功したのは本当にあの時だけ。どうしてなのかは、私にも分からないの。後から思ったの。きっと、あの頃の私があなたを愛する気持ちが、神様に届いたんだって。だから神様が力を貸してくれて、あの一度だけ、成功させてくれたのよ。でも残念ね。あなたは私の愛にふさわしくなかった。それに、情け深い神様に、見捨てられても仕方ない人だったわ」そう言い放つと、智也の目から光が消えていくのが見えた。彼は途方に暮れて、絶望しているようだった。智也が亡くなったのは、それから3日後のことだった。そのとき私は、海外研修へ向かうため、空港にいた。大輔も一緒について来ると言って、自分の分の航空券まで購入した。私が甘えん坊だねと笑うと、彼は真面目に言った。「せっかくできた彼女なんだからさ。ちゃんとそばにいないと、どっかに行っちゃうだろ」私はふふっと笑った。ある言葉を、ふと思い出した。運命じゃない人は、あなたの未来を壊してしまう。でも、運命の人は、あなたの未来の先で、あなたを待っていてくれる。(終わり)
あらあら、いつの間に私に彼氏ができたのかしら。でも、まあいいか。大輔がいてくれれば、智也も私に付き纏いにくくなるだろうし。私は研究を続け、雄太のもとで、より専門的な分野に取り組むようになっていった。その間、智也は何度も私に会いに来た。最初は復縁を迫ってきたけど、最後には、私の研究成果を金で買おうとした。でも、その行為は雄太に叱られて、追い返された。雄太にとって研究は、病気で苦しむすべての患者のためのもので、お金儲けの道具じゃなかった。彼とのことはこれで終わりだと思っていた。しかしある日、仕事の帰り道で、突然一台の車が私に向かって突っ込んできたのだ。一瞬、何が起きたのかわからなかった。でも、運転していたのが凪だとすぐに気づいた。彼女は狂ったように、私に向かって叫んでいた。「あなたのせいで、私は横山家から追い出されて!赤ちゃんを失って!すべてを無くしたのよ!智也があんなに私を憎むようになったのも、全部あなたのせい!あなたさえいなければ――」もう間に合わないと思った瞬間、大輔が現れて、私を突き飛ばした。彼は腕を骨折したけれど、庇われた私の方はかすり傷一つなかった。そして、凪は殺人未遂の容疑で、その場で逮捕された。その時、私は初めて知った。智也は、昔の私の実験が本当に成功していたと知って、その悔しさと憎しみをすべて凪にぶつけていたことを。智也は、自分が治るたった一つのチャンスを凪に潰されたことを憎んで、彼女をひどく痛めつけたんだ。暴力を振るって罵り、横山家から追い出した。それどころか、男たちに好き放題にさせるような、最低な場所に売り飛ばしたらしい。それで凪は精神的におかしくなってしまって、私を車でひき殺そうとしたのだった。大輔はすぐに手を回して、凪が二度と刑務所から出られないようにした。そして、この一件で彼は智也をもっと嫌うようになって、横山家を潰すために動き出した。横山家はここ数年、ほとんどの財産を全身性エリテマトーデスの研究につぎ込んでいたから、家業の方がおろそかになっていた。昔のような勢いは、とっくに失っていたんだ。だから、大輔が動き出すと、あっという間に横山家が乗っ取られてしまった。そして、ちょうどその時、智也の病気が再び重くなり、命が危ない状態になった。
私たちの研究発表が、満場一致で認められた。研究所のみんなでお祝いをすることになって、雄太の息子である吉田大輔(よしだ だいすけ)も来てくれた。大輔は高級車に乗って店に辿りつくと、私たちの会計をしながら呆れた顔で言った。「父さん、研究所の費用を俺が全部出してるのはまあいいよ。でも、なんで研究室のみんなの食事代まで、俺が払わなきゃいけないんだ?」雄太はお茶目な人で、大輔の言葉を聞いてにこにこと笑った。「まあまあ、そんな細かいこと言うなよ、大輔、ただで払わせるわけじゃないんだから」「じゃあ、借用書でも書く?」「君に、彼女を紹介してやるのはどうだ?」借用書を書きたくない雄太は、くるっと向きを変えると、いきなり私の背中を押して、自信満々に言った。「渡辺はうちの研究所で一番美人で、将来有望な子なんだぞ。君に紹介してやるんだから、文句ないだろう?」大輔は、その綺麗な目を少し細めると、私の顔をじっと見つめて、口の端を上げた。「へえ。儲け話だな」私はわけがわからないまま、借金のカタにされてしまった。本当なら文句の一つでも言いたかったけど、今日は嬉しいことがいっぱいあったから、まあいいかと思った。それで、大輔に家まで送ってもらうことにした。しかし、家の前に着いたら、智也がいた。まるで気がおかしくなったみたいにドアの前で座り込んでいて、周りにはお酒の空き瓶やタバコの吸い殻が散らかっていた。すごく、不気味な光景だった。智也は私に気づくと、ゆっくり立ち上がって近づいてきた。「由理恵……俺が悪かった。あんなふうにお前を陥れて……凪にお前の研究をめちゃくちゃにさせるなんて、間違ってた……お前のことが愛おしすぎて、失うのが怖かったんだ。お前が海外に行ったら、俺と別れるんじゃないかって……本当に、俺が悪かった……」彼は充血した目で、私をじっと見つめた。「なあ、やり直そう?お前もまだ、俺のこと好きなんだろ!防犯カメラを見たんだ。実験が成功した時、お前は研究室で嬉しくて泣いてたんだろ。その後すぐに海外の研究所に電話していたのは、実験結果の可能性について確認していたのも分かった。全てが、俺の病気のためだったなんて……」その通りだ。凪は、私は研究の成功を海外の研究所に報告して留学をするのだと智也に言った。でも本当は、
雄太はスライドを映し出すと、そこにいる全員の前で、私たちの研究所が最近行った様々な研究について説明を始めた。免疫システムの疾患に大きな進展があったと、雄太が説明した時、智也は明らかに動揺した。彼は興奮した面持ちで、雄太を食い入るように見つめた。雄太の発表が終わってすぐ、智也は駆け寄ってきて言った。「吉田先生、その免疫システムの研究を担当されたのはどなたでしたか?免疫システムの研究が進んだということは、つまり、全身性エリテマトーデスも――」「全身性エリテマトーデスの研究なら、半年も前に私が成功させていたよ」私は智也の言葉を遮って、はっきりと言い放った。智也は眉をひそめて、私を馬鹿にするように言った。「何を適当なこと言っている。半年前、お前は俺が出資した研究所にいただろ。それにお前の実験のサンプルは、もう――」彼はそこで、何かに気づいたように、言葉を止めて隣にいる凪を見た。凪もまた、慌てて説明し出した。「智也、だ、だまされないで。彼女は嘘をついているに決まってるわ!もし本当に実験が成功していたのなら、どうして誰にも言わなかったっていうの?」「データをまとめて、皆に伝える前に、あなたにメチャクチャにされたからよ」私は凪をじっと見つめてから、智也に視線を移した。「智也、あなたも医者なら、さっきの吉田先生の話が理解できたはず。もし私が半年前に行ったあの実験の初期のデータがなければ、今回の研究は成功していなかった。あの時、私は他の研究テーマを持たなかった。あなたの病気を治すことだけを考えていたの。何千回、何万回と実験を繰り返して、成功したのはたったの一度だけ。でも、その一度の成功で手に入ったサンプルさえ残っていれば、あなたを治すことは不可能じゃなかったのに。でも残念ね。あなたの大事な可愛い後輩が、あなたが完治できるたった一つのチャンスを潰してしまったのよ」「ありえない!嘘だ!」智也は目を真っ赤にして、息も荒くなった。明らかにこの事実を受け入れられないようだった。そばにいた凪もすっかり焦り出し、さっきまでの得意げな態度が消えて、智也にすがりついた。「智也、彼女のデタラメを信じないで、絶対に嘘よ――」パシッ!激怒している智也は、凪の頬を強く打ち、怒りに満ちた目で彼女を睨みつけた。
私はすぐに、智也に別れを告げた。智也からもらったプレゼントはすべてそのまま残して、自分の荷物をまとめて同棲していた部屋を出た。とにかく一日でも早く、彼との縁を切りたかったのだ。しかし智也は、私がふざけているだけだと思っていた。しつこく連絡してきては、文句ばかり言ってくる。「ただの実験のひとつで、別れるなんて言い出すか、普通?プロポーズしようと思って、ダイヤモンドの指輪まで用意してたんだぞ。こんなことで騒いで、俺の気持ちをなんだと思ってるんだ?」その言葉を聞いて、私はつい可笑しくなった。私が台無しにされたあの実験が、智也の病気を治せる唯一の希望だったと知っても……それでも
私はその場に、立ち尽くしてしまった。智也は、愛おしそうに凪を抱きしめた。それから、彼女の涙をそっと拭って、優しく声をかけた。「大丈夫だ。俺がいるから、誰もお前に手出しはさせないよ。由理恵、謝れ」智也は冷たい目で私を見た。何を言われたのかのを理解した瞬間、全身から血の気が引いた。凪は勝ち誇ったように、私のことを見ながらにやりと笑った。私は強く拳を握りしめた。彼の態度を、信じたくなかった。「いま――なんて?」「謝れって言ったんだ」智也の声は、イラついていた。「たかが実験ひとつで、そんなに騒ぐのか?この子だって、悪気があってやったわけじゃないんだ。お前は人
私の行動に、周りの同僚たちは息を呑んだ。私が凪に掴みかかるなんて、誰も思っていなかったのだ。凪は最初、可哀そうに泣きじゃくっていた。しかし、私が彼女の顔をゴミ箱に捨てられたガラスの破片にそのまま押し付けようとした瞬間、ついに化けの皮が剥がれた。凪は金切り声をあげて、私を罵倒した。「気でも狂ったの?私の顔を傷つけるつもり?」私は彼女を突き飛ばして、冷たく笑いながら見下ろした。「あら、可哀そうなフリはもうおしまい?どうして泣き止んじゃったの?」凪は込み上げてくる憎しみをぐっと堪えた。そして再び顔を上げた時には、罪悪感に満ちた表情に変わっていた。「本当にごめんなさい……先
新人の後輩、遠藤凪(えんどう なぎ)が研究室の掃除を手伝ってくれた。しかし掃除の途中で、私、渡辺由理恵(わたなべ ゆりえ)の一番大事な実験サンプルを全部ゴミ箱に捨ててしまったのだ。そのことを聞いて慌てて駆けつけたけれど、ゴミ箱の中はすでにぐちゃぐちゃになっていた。私のサンプルはどこにも見当たらなかった。「私の――サンプルが!」あまりのショックで、私はその場にへたり込んでしまった。震える手で必死にゴミ箱を漁ったけれど、何も見つからなかった。あのサンプルは、3年近く研究して、ようやく手に入れたものだった。何日も徹夜して、数えきれないほど実験を重ねて、やっと形になったものだった。
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